「あら。目が覚めたようね?」
黒のパンツに黒のレザージャケットを身に着けた女性につくしは見覚えがあった。
一度だけだが会ったその人は、強い印象を残していたからだ。
それは女性の夫の誕生パーティーへ道明寺司のパートナーとして同行した時、化粧室を出たところで呼び止められ、二人の関係について問われたからだ。
そして、それから後に女性の夫の会社は、道明寺ホールディングスに吸収されることになったが、それはいい方向とは言えない状況で女性は全てを失った。
だが何故その女性がここにいるのか。それに、どうして自分が縛られているのか。自分が置かれている状況を理解するには、目の前にいる女性と話をしなければならないと思った。
「どうやらその様子だと私のことを覚えているようね?」
つくしは喉がカラカラに乾いていたが、その人の名前を口にした。
「あなたは高森真理子さんですよね?」
「ええ。そうよ。でも今は夫と離婚して川上真理子よ」
手足を縛られベッドに横たわったつくしは文字通り手も足も出ない状況で近づいて来る真理子を見ていたが、どうして自分がこんな目に合っているのか訊きたかった。
だから当惑の表情を浮かべ言った。
「あの。これはいったい_」
「いったいどうしてこんな目に?そう言いたいのね?」
真理子はそう言うと、つくしを見下ろすようにベッドの傍に立った。
「あなたは道明寺司の恋人でしょ?だからよ。あの男は私の持ってるものを全て奪ったわ。だから私はあの男が持ってるものを奪うことに決めたの。だってそうしなければ不公平だと思わない?それに今の私にあるのは持たざる者の矜持よ」
真理子は自分のことを持たざる者と言い道明寺司の持っているものを奪うと言ったが、この女性は道明寺司に復讐したいというのか。だがつくしはあの男の恋人ではない。
それに恋人どころか関わりたくないと思っている。
だからつくしは、真理子が勘違いしていることを言わなければと口を開いた。
「あの。違います。私はあの人の恋人じゃありません。あなたは何か誤解をされています。私があなたのご主人の誕生パーティーに行ったのは、あくまでも仕事上の関係で恋人としてではありません。私は単なる同行者として__」
最後まで言わせてもらえなかったのは、顔を近づけて来た真理子に頬を叩かれたからだ。
「何が単なる同行者よ。笑わせないでちょうだい。男が本気かそうでないかくらい私には分かるのよ。どんな男も本気の女に見せる態度ってものがあるの。道明寺司は昔もそうだったけど今も女にも興味はないって顔をしてたわ。だけどあの時あなたを見る目は違った。あなたに興味があることは間違いなかったわ」
確かに道明寺司に惚れたと言われた。
だが少なくともあの頃はそんなことはなかったはずだ。
それは夜の電話の男と道明寺司という二人の男としてつくしを見ていて、この女は自分に対してどんな態度を取るのか。それを見極めようとしていただけだ。
そして真理子は昔もそうだったと言ったが、二人は過去に会ったことがあるのか。
そんな思いが伝わったのか。真理子は上からつくしを見下ろしながら言った。
「私は大学生の頃、銀座のクラブでアルバイトをしていたの。そこに道明寺司が客として来たわ。でも客と言っても接待で連れてこられただけ。あの男は女と遊ぶために銀座に来る必要はないわ。だって女の方から近づいて来るんですもの。そんな男があなたを見る目は違ったの」
「あの高森さん…」
つくしは言いかけたが、その言葉は冷たく遮られた。
「その呼び方は止めてちょうだい。私は高森じゃないわ。川上よ。でもお店では理恵って呼ばれてるけど。そうよ。夫と離婚してから銀座に戻ったわ。でもいつまでもホステスとして働くつもりはないわ。いずれママになるつもりよ。それにママと言っても雇われママじゃなくてオーナー兼ママよ」
真理子はそこまで言うと鼻で笑うそぶりを見せた。
「それにしてもあの道明寺司があなたみたいな女を恋人に選ぶなんて。あの当時もたいして美人でもない田舎から出て来たばかりの女を隣の席に座らせたけど、あなたみたいな女だったわ。だから思ったの。人の好みって案外変わらないものだってね。それに私はその女が気に入らなかったわ。でも今はそんなことはどうでもいいわ」と言うと、「あはっ」と笑い「それにしてもあなたサメの研究をしているらしいけど、もっと近づきたいんじゃない?そのサメに」
レストランの裏口から車に乗った司は、すぐにその足で道明寺ビルの屋上からヘリに乗ったが、そこで待っていたのは西田だ。
「レストランの裏を通った車の中にレンタカーがありました。そのレンタカーを借りたのは石田章夫。免許証の住所は大分県大分市です。その男が運転する車がNシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)に写っているのが確認されました。向かった先は神奈川方面で車は横浜横須賀道路を下っています。地元の警察はこの車を手配車両として探しています。それから何を於いても牧野つくし様の安全を第一に考えるようにと伝えております」
西田が思慮深い表情で最後に当然のことを口にすると、ヘリは屋上から飛び立った。

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黒のパンツに黒のレザージャケットを身に着けた女性につくしは見覚えがあった。
一度だけだが会ったその人は、強い印象を残していたからだ。
それは女性の夫の誕生パーティーへ道明寺司のパートナーとして同行した時、化粧室を出たところで呼び止められ、二人の関係について問われたからだ。
そして、それから後に女性の夫の会社は、道明寺ホールディングスに吸収されることになったが、それはいい方向とは言えない状況で女性は全てを失った。
だが何故その女性がここにいるのか。それに、どうして自分が縛られているのか。自分が置かれている状況を理解するには、目の前にいる女性と話をしなければならないと思った。
「どうやらその様子だと私のことを覚えているようね?」
つくしは喉がカラカラに乾いていたが、その人の名前を口にした。
「あなたは高森真理子さんですよね?」
「ええ。そうよ。でも今は夫と離婚して川上真理子よ」
手足を縛られベッドに横たわったつくしは文字通り手も足も出ない状況で近づいて来る真理子を見ていたが、どうして自分がこんな目に合っているのか訊きたかった。
だから当惑の表情を浮かべ言った。
「あの。これはいったい_」
「いったいどうしてこんな目に?そう言いたいのね?」
真理子はそう言うと、つくしを見下ろすようにベッドの傍に立った。
「あなたは道明寺司の恋人でしょ?だからよ。あの男は私の持ってるものを全て奪ったわ。だから私はあの男が持ってるものを奪うことに決めたの。だってそうしなければ不公平だと思わない?それに今の私にあるのは持たざる者の矜持よ」
真理子は自分のことを持たざる者と言い道明寺司の持っているものを奪うと言ったが、この女性は道明寺司に復讐したいというのか。だがつくしはあの男の恋人ではない。
それに恋人どころか関わりたくないと思っている。
だからつくしは、真理子が勘違いしていることを言わなければと口を開いた。
「あの。違います。私はあの人の恋人じゃありません。あなたは何か誤解をされています。私があなたのご主人の誕生パーティーに行ったのは、あくまでも仕事上の関係で恋人としてではありません。私は単なる同行者として__」
最後まで言わせてもらえなかったのは、顔を近づけて来た真理子に頬を叩かれたからだ。
「何が単なる同行者よ。笑わせないでちょうだい。男が本気かそうでないかくらい私には分かるのよ。どんな男も本気の女に見せる態度ってものがあるの。道明寺司は昔もそうだったけど今も女にも興味はないって顔をしてたわ。だけどあの時あなたを見る目は違った。あなたに興味があることは間違いなかったわ」
確かに道明寺司に惚れたと言われた。
だが少なくともあの頃はそんなことはなかったはずだ。
それは夜の電話の男と道明寺司という二人の男としてつくしを見ていて、この女は自分に対してどんな態度を取るのか。それを見極めようとしていただけだ。
そして真理子は昔もそうだったと言ったが、二人は過去に会ったことがあるのか。
そんな思いが伝わったのか。真理子は上からつくしを見下ろしながら言った。
「私は大学生の頃、銀座のクラブでアルバイトをしていたの。そこに道明寺司が客として来たわ。でも客と言っても接待で連れてこられただけ。あの男は女と遊ぶために銀座に来る必要はないわ。だって女の方から近づいて来るんですもの。そんな男があなたを見る目は違ったの」
「あの高森さん…」
つくしは言いかけたが、その言葉は冷たく遮られた。
「その呼び方は止めてちょうだい。私は高森じゃないわ。川上よ。でもお店では理恵って呼ばれてるけど。そうよ。夫と離婚してから銀座に戻ったわ。でもいつまでもホステスとして働くつもりはないわ。いずれママになるつもりよ。それにママと言っても雇われママじゃなくてオーナー兼ママよ」
真理子はそこまで言うと鼻で笑うそぶりを見せた。
「それにしてもあの道明寺司があなたみたいな女を恋人に選ぶなんて。あの当時もたいして美人でもない田舎から出て来たばかりの女を隣の席に座らせたけど、あなたみたいな女だったわ。だから思ったの。人の好みって案外変わらないものだってね。それに私はその女が気に入らなかったわ。でも今はそんなことはどうでもいいわ」と言うと、「あはっ」と笑い「それにしてもあなたサメの研究をしているらしいけど、もっと近づきたいんじゃない?そのサメに」
レストランの裏口から車に乗った司は、すぐにその足で道明寺ビルの屋上からヘリに乗ったが、そこで待っていたのは西田だ。
「レストランの裏を通った車の中にレンタカーがありました。そのレンタカーを借りたのは石田章夫。免許証の住所は大分県大分市です。その男が運転する車がNシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)に写っているのが確認されました。向かった先は神奈川方面で車は横浜横須賀道路を下っています。地元の警察はこの車を手配車両として探しています。それから何を於いても牧野つくし様の安全を第一に考えるようにと伝えております」
西田が思慮深い表情で最後に当然のことを口にすると、ヘリは屋上から飛び立った。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
真理子さん。色々と思い込みが激しいような気がしますが、色恋に関しては男を見る目は確かなのでしょうかねぇ。
サメに近づきたいでしょ?意味深ですね~。
そして場所が特定されつつあります。
司の力をもってすれば、すぐに居場所が分かるような気もするのですが果たして?
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
真理子さん。色々と思い込みが激しいような気がしますが、色恋に関しては男を見る目は確かなのでしょうかねぇ。
サメに近づきたいでしょ?意味深ですね~。
そして場所が特定されつつあります。
司の力をもってすれば、すぐに居場所が分かるような気もするのですが果たして?
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.03.20 22:19 | 編集
