「先輩大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「何がって、あの週刊誌の記事のことです。やっぱりまだ気にしてるんですよね?」
「そんなことないわよ。どうして私が気にしなきゃならないのよ?」
「だって先輩道明寺副社長に騙されてたんですよね?本当に酷い話です。私は道明寺副社長が正直でストレートに自分を押し出してくることに、好きな女性のためならどんなことでもする人だと思ったんです。だから怪我をした先輩のことを気遣ってくれた道明寺副社長のことを贔屓目に見ていました。だけど今はもうそんな目で見れません。先輩のことを好きだって言っておきながら、裏で別の人間を装って電話の関係を続けていたんですから見損ないました。それにいくらお金持ちで外見がいいからって自惚れるのもいい加減にしろって言いたいですよ!」
騙されていた。
その言葉が胸の奥を締め付けた。
だから日曜日の昼間。都心の一等地にあるホテルメープルで男性を平手打ちにしてグラスの中に残っていた氷をぶっかけた。
それはこれまでの人生の中で初めての経験だったが、待ち合わせの相手が道明寺司だったことは、無防備な状態でいたところに落とされた爆弾と言えた。
つくしは桜子に道明寺司のことを全て話した。
それは間違い電話から始まった週に一度電話で話をしていた男性と会う約束をして二人は会ったが、待ち合わせの場所に現れたが道明寺司で彼は別の人間を装い、つくしと電話をしていたこと。そして恐らくだが、つくしの研究に寄付を決めたのは、間違い電話の相手が自分の財団の研究助成事業に応募してきた女と同じである偶然を別の形に変えて楽しむことに決めたということ。だがそれは臆測でしかなかったが、それ以外のことが頭に浮かぶことはなかった。
そして何故桜子に全てを話すことに決めたのか。
それは二人が会った日曜の翌日、つまり月曜日に道明寺副社長から研究室に電話がかかり、伝言を預かっていると言われたから。そしてそれは、つくしの自宅や携帯に電話をかけたところで彼女が出るつもりがないことを見越して大学にかけて来たということだが、その時つくしは研究室におらず、桜子にどんな伝言なのか訊いた。
「道明寺副社長からの伝言ですか?足の具合はどうですかって。心配して下さってるようですよ?」
と、嬉しそうに言ったが、それは桜子がつくしを気に掛け、道明寺司を気に掛け二人の関係が深まることが良いことだと考えているからだ。
だから日曜日に起こったことを話し、正当な理由がない限り、それは5千万の寄付を受けていることから、仕事上必要となることがあれば対応するが、それ以外道明寺司と関わりたくないことを伝えた。
「それにしてもまさか先輩が電話で知り合った男性に会おうという気になるとは思いもしませんでした。だって相手はどこの誰だが分からないんですよ?危険の方が大きいことは理解していたんですよね?でも待ち合わせがメープルのラウンジならひと目も多いですし、何かあったとしても大丈夫という安心感があったから会いに行ったんでしょうけど、それにしても先輩にしてみれば随分と勇気がある行動を取りましたね?」
勇気ある行動。
あの時、心に浮かんだのは自分を変えたいという思いと杉村という男性に会いたいという思いだけ。その思いがつくしの足をメープルへ運ばせた。
そしてそこに現れたのは杉村ではなく道明寺司。人を操り人形のように操れるとでも思ったのか。自分が嘘をついていたことを認め謝罪すれば許されるとでも思ったのか。堂々とした態度で現れた。だからその態度に腹が立った。
だが誰もが認める世界的企業の副社長は平手打ちをされても当然のことだといった態度だった。それにしても、普段落ち着いていると言われる自分が男性を平手打ちにしたことは、信じられない思いがしたが、つまりそれは余程腹が立ったということだ。
そして翌朝の月曜日。目覚めは最悪でまるでフルマラソンを完走すればこんな気分なのかというほど疲れていた。
そして週末の金曜日。
長いと感じた一週間がやっと終わり、今夜はこれから桜子と食事に行くことになっていて帰り支度をしていた。
「ねぇ、桜子」
「何ですか?」
「学問の世界は広いって言われてるけど、私は狭い世界に生きる方が向いているのかもしれないわね」
「…..先輩。先輩を騙していた道明寺副社長は最低ですけど、先輩は狭い世界には生きていません。先輩は世界中に研究仲間がいるじゃありませんか。学ぶ海。学海(がっかい)という言葉がありますけど、学問の世界は海の様に広いという意味です。その言葉は海が研究のフィールドの先輩に相応しい言葉じゃないですか。先輩は決して狭い世界に生きているんじゃありません。先輩の世界は広いです。だから道明寺副社長みたいな男がいても気にする必要はありません。好きな女に平気で嘘がつける男は先輩には必要ありません。無防備な女心を弄ぶような男は女の敵です!」
と桜子は言うと、「私は自分に見る目がなかったことが悔しいです」と呟いた。
そして今度は声高らかに、「道明寺副社長のわら人形でも作って釘を打ちつけてやりましょうか!嘘をついた男の口に釘を打ってやりましょうよ!」
と言ったが、その時研究室の扉をノックする音がした。

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「え?何が?」
「何がって、あの週刊誌の記事のことです。やっぱりまだ気にしてるんですよね?」
「そんなことないわよ。どうして私が気にしなきゃならないのよ?」
「だって先輩道明寺副社長に騙されてたんですよね?本当に酷い話です。私は道明寺副社長が正直でストレートに自分を押し出してくることに、好きな女性のためならどんなことでもする人だと思ったんです。だから怪我をした先輩のことを気遣ってくれた道明寺副社長のことを贔屓目に見ていました。だけど今はもうそんな目で見れません。先輩のことを好きだって言っておきながら、裏で別の人間を装って電話の関係を続けていたんですから見損ないました。それにいくらお金持ちで外見がいいからって自惚れるのもいい加減にしろって言いたいですよ!」
騙されていた。
その言葉が胸の奥を締め付けた。
だから日曜日の昼間。都心の一等地にあるホテルメープルで男性を平手打ちにしてグラスの中に残っていた氷をぶっかけた。
それはこれまでの人生の中で初めての経験だったが、待ち合わせの相手が道明寺司だったことは、無防備な状態でいたところに落とされた爆弾と言えた。
つくしは桜子に道明寺司のことを全て話した。
それは間違い電話から始まった週に一度電話で話をしていた男性と会う約束をして二人は会ったが、待ち合わせの場所に現れたが道明寺司で彼は別の人間を装い、つくしと電話をしていたこと。そして恐らくだが、つくしの研究に寄付を決めたのは、間違い電話の相手が自分の財団の研究助成事業に応募してきた女と同じである偶然を別の形に変えて楽しむことに決めたということ。だがそれは臆測でしかなかったが、それ以外のことが頭に浮かぶことはなかった。
そして何故桜子に全てを話すことに決めたのか。
それは二人が会った日曜の翌日、つまり月曜日に道明寺副社長から研究室に電話がかかり、伝言を預かっていると言われたから。そしてそれは、つくしの自宅や携帯に電話をかけたところで彼女が出るつもりがないことを見越して大学にかけて来たということだが、その時つくしは研究室におらず、桜子にどんな伝言なのか訊いた。
「道明寺副社長からの伝言ですか?足の具合はどうですかって。心配して下さってるようですよ?」
と、嬉しそうに言ったが、それは桜子がつくしを気に掛け、道明寺司を気に掛け二人の関係が深まることが良いことだと考えているからだ。
だから日曜日に起こったことを話し、正当な理由がない限り、それは5千万の寄付を受けていることから、仕事上必要となることがあれば対応するが、それ以外道明寺司と関わりたくないことを伝えた。
「それにしてもまさか先輩が電話で知り合った男性に会おうという気になるとは思いもしませんでした。だって相手はどこの誰だが分からないんですよ?危険の方が大きいことは理解していたんですよね?でも待ち合わせがメープルのラウンジならひと目も多いですし、何かあったとしても大丈夫という安心感があったから会いに行ったんでしょうけど、それにしても先輩にしてみれば随分と勇気がある行動を取りましたね?」
勇気ある行動。
あの時、心に浮かんだのは自分を変えたいという思いと杉村という男性に会いたいという思いだけ。その思いがつくしの足をメープルへ運ばせた。
そしてそこに現れたのは杉村ではなく道明寺司。人を操り人形のように操れるとでも思ったのか。自分が嘘をついていたことを認め謝罪すれば許されるとでも思ったのか。堂々とした態度で現れた。だからその態度に腹が立った。
だが誰もが認める世界的企業の副社長は平手打ちをされても当然のことだといった態度だった。それにしても、普段落ち着いていると言われる自分が男性を平手打ちにしたことは、信じられない思いがしたが、つまりそれは余程腹が立ったということだ。
そして翌朝の月曜日。目覚めは最悪でまるでフルマラソンを完走すればこんな気分なのかというほど疲れていた。
そして週末の金曜日。
長いと感じた一週間がやっと終わり、今夜はこれから桜子と食事に行くことになっていて帰り支度をしていた。
「ねぇ、桜子」
「何ですか?」
「学問の世界は広いって言われてるけど、私は狭い世界に生きる方が向いているのかもしれないわね」
「…..先輩。先輩を騙していた道明寺副社長は最低ですけど、先輩は狭い世界には生きていません。先輩は世界中に研究仲間がいるじゃありませんか。学ぶ海。学海(がっかい)という言葉がありますけど、学問の世界は海の様に広いという意味です。その言葉は海が研究のフィールドの先輩に相応しい言葉じゃないですか。先輩は決して狭い世界に生きているんじゃありません。先輩の世界は広いです。だから道明寺副社長みたいな男がいても気にする必要はありません。好きな女に平気で嘘がつける男は先輩には必要ありません。無防備な女心を弄ぶような男は女の敵です!」
と桜子は言うと、「私は自分に見る目がなかったことが悔しいです」と呟いた。
そして今度は声高らかに、「道明寺副社長のわら人形でも作って釘を打ちつけてやりましょうか!嘘をついた男の口に釘を打ってやりましょうよ!」
と言ったが、その時研究室の扉をノックする音がした。

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司*****E様
桜子!かなり怒っていますね?
司のことを真っ直ぐな男だ。彼ならつくしを任せられると思ったんですから、それはもう怒り心頭。
わら人形を持ち出す勢いです(笑)
そうですね。司は杉村のことは黙っていれば、彼が杉村だとつくしに知られることは無いはずですが、そこは好きな女に嘘をついていることが嫌だから正直に言ったのですが、話を聞いては貰えませんでした。
そして、二人が帰ろうとしたところに現れたのは、彼でした(笑)
桜子!かなり怒っていますね?
司のことを真っ直ぐな男だ。彼ならつくしを任せられると思ったんですから、それはもう怒り心頭。
わら人形を持ち出す勢いです(笑)
そうですね。司は杉村のことは黙っていれば、彼が杉村だとつくしに知られることは無いはずですが、そこは好きな女に嘘をついていることが嫌だから正直に言ったのですが、話を聞いては貰えませんでした。
そして、二人が帰ろうとしたところに現れたのは、彼でした(笑)
アカシア
2019.03.09 20:37 | 編集

う****ち様
桜子、司を女の敵と決定しました。
そして、ワラ人形道明寺司に釘を打つ!と言いました(笑)怖いですが、確かに桜子なら丑三つ参りの装束が似合いそうです。
シーラカンスは深海に戻る。そして学海で生きることにするのでしょうか。
サメはイルカ杉村ではなく、自分を見て欲しかったからカミングアウトをしましたが、足に傷跡を持つ女は騙されたと思っています。
さあサメ!シーラカンスを振り向かせることが出来るのでしょうか?
そして現れたのは、2番の年下の男の子でした!(笑)
桜子、司を女の敵と決定しました。
そして、ワラ人形道明寺司に釘を打つ!と言いました(笑)怖いですが、確かに桜子なら丑三つ参りの装束が似合いそうです。
シーラカンスは深海に戻る。そして学海で生きることにするのでしょうか。
サメはイルカ杉村ではなく、自分を見て欲しかったからカミングアウトをしましたが、足に傷跡を持つ女は騙されたと思っています。
さあサメ!シーラカンスを振り向かせることが出来るのでしょうか?
そして現れたのは、2番の年下の男の子でした!(笑)
アカシア
2019.03.09 20:52 | 編集
