「理恵ちゃん!こっちこっち!ここに座って。ほらここだよ俺の隣だよ」
理恵と名前を呼ばれた女は、この店で働き始めてまだ日が浅い。
だが自分を呼んだ男の隣に座り、テーブルの上に置かれたアイスペールの氷をトングで掴むとグラスに入れ、そこに琥珀色の液体を注いだが、その手つきは馴れたものだった。
「石田さん。お久しぶりですわね?」
「やだな、理恵ちゃん。お久ぶりだなんてたった1週間だろ?」
「あら。そうだったかしら?」
「そうだよ。俺がここに来たのは1週間前でそのとき理恵ちゃんは着物姿だった。そうだ!茄子紺の着物だった」
「茄子紺のお着物だったら…..そうね加賀友禅かしら?」
「いや。俺は着物のことは詳しくないから分らないけど、加賀友禅って名前くらいなら知ってる。いい着物なんだろうな。それに理恵ちゃんによく似合ってたよ」
と言うと理恵が隣に座ったことが嬉しいのか男は相好を崩した。
男は石田と言い33歳の独身で地方の大きな建設会社の跡取りだが、たまに東京に出て来ては銀座で飲むのが好きだと言ったが飲み方も女の扱いも田舎者丸出しだった。
顔は見惚れてしまう顔とは程遠く、のっぺりとした顔で理恵の好みではなかった。だが石田には金がある。それは今の理恵にとって必要なもの。そして石田は理恵を指名すると、好きなボトルを入れていいよ、と言った。
この店では理恵と呼ばれる真理子が石田と知り合ったのは、夫である高森隆三と離婚し働き始めてから直ぐのこと。
夫の会社であり真理子が大株主を務めていた不動産投資とリースが専門の高森開発は、今はもう存在しない。そして真理子が持っていた株は価値を失い、自由に使えた金色のカードは意味を成さないものに変わり、手元に残ったのはダイヤで縁取られた悪趣味と言われる時計と大きなダイヤの指輪がいくつか。そして数枚の着物と数百万の現金だった。
だが真理子には他にも財産があった。
それは若い頃から変わらないと言われる美貌だ。
真理子は大学生の頃働いていた銀座に戻った。当時はアルバイトだったが、水商売は嫌いではなく、自分には客あしらいの才能があると思っている。
それに当時、店でナンバーワンを狙える立場にいて高森隆三の愛人だった。そして大学を卒業すると高森の会社に秘書として入り、それから秘書兼愛人として働き30歳で二回り以上離れた高森と結婚したが、妻として贅沢な暮らしが出来たのはたった4年。
全てを失った高森隆三に用はなく、別れは真理子の方から切り出した。
そしてこうなったのは道明寺司のせいだ。高森開発から現役大臣への金の流れを暴き、真理子が会社の人事に口を出し会社を私物化していると週刊誌に取り上げるように仕向けた。
あの男が、道明寺司が高森開発を潰し真理子の財産を奪った。
そして道明寺司は真理子がアルバイトをしていた銀座の店に来たことがあった。
まだ若かった道明寺司は傲慢で女に対し無関心に見えた。
だがあの時、隣に座った真理子を外し、まだ入店して間もない田舎から出て来た女を隣に座らせたが、売れっ子と呼ばれる真理子が外されたことに、店にいた他のホステスも黒服も驚いていた。
そして高森隆三の妻となって道明寺司に再会したが、連れていた女は准教授の牧野つくしという女。あのとき道明寺司の隣に座った女によく似ていた。
「それで、理恵ちゃんは加賀友禅の他にどんな着物が好きなの?」
「……あんな女のどこがいいのよ」
「え?理恵ちゃん何?あんな女って誰のこと?」
真理子は石田の話など聞いてなかった。
だが、自分がこうしてどうでもいい男の相手をしなければいけないことを思い出すと、唇の両端をキュッと持ち上げ笑顔を作って見せた。
「うんうん。ごめんなさい何でもないわ。ひとり言よ。それより私がどんな着物が好きなのかでしょ?そうね….加賀友禅も好きだけど京友禅も好きよ」
と、真理子は甘えた声で謝ると石田の手を取った。
そして石田の顔を見たが真理子に首ったけといった表情が彼女に余裕を与えた。
「ねえ石田さん。アフターもお付き合いして下さるかしら?」
ホステスがパトロンを持つことは当たり前だが、真理子がそう言うと石田は嬉しそうに真理子の手をギュッと握り返した。
人の顔をジロジロ見ることは失礼にあたる。
だが相手に話しかけている時だけは、堂々と相手の顔を見ることが出来る。
あきらは、取引先の接待で連れていかれたバーで遠目ながら見覚えがある女の姿を見かけた。
「あの女….高森真理子か?いやあの夫婦は離婚したはずだったな…..名前はなんて言ったか?……そうだ!川上だ。川上真理子だ」

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理恵と名前を呼ばれた女は、この店で働き始めてまだ日が浅い。
だが自分を呼んだ男の隣に座り、テーブルの上に置かれたアイスペールの氷をトングで掴むとグラスに入れ、そこに琥珀色の液体を注いだが、その手つきは馴れたものだった。
「石田さん。お久しぶりですわね?」
「やだな、理恵ちゃん。お久ぶりだなんてたった1週間だろ?」
「あら。そうだったかしら?」
「そうだよ。俺がここに来たのは1週間前でそのとき理恵ちゃんは着物姿だった。そうだ!茄子紺の着物だった」
「茄子紺のお着物だったら…..そうね加賀友禅かしら?」
「いや。俺は着物のことは詳しくないから分らないけど、加賀友禅って名前くらいなら知ってる。いい着物なんだろうな。それに理恵ちゃんによく似合ってたよ」
と言うと理恵が隣に座ったことが嬉しいのか男は相好を崩した。
男は石田と言い33歳の独身で地方の大きな建設会社の跡取りだが、たまに東京に出て来ては銀座で飲むのが好きだと言ったが飲み方も女の扱いも田舎者丸出しだった。
顔は見惚れてしまう顔とは程遠く、のっぺりとした顔で理恵の好みではなかった。だが石田には金がある。それは今の理恵にとって必要なもの。そして石田は理恵を指名すると、好きなボトルを入れていいよ、と言った。
この店では理恵と呼ばれる真理子が石田と知り合ったのは、夫である高森隆三と離婚し働き始めてから直ぐのこと。
夫の会社であり真理子が大株主を務めていた不動産投資とリースが専門の高森開発は、今はもう存在しない。そして真理子が持っていた株は価値を失い、自由に使えた金色のカードは意味を成さないものに変わり、手元に残ったのはダイヤで縁取られた悪趣味と言われる時計と大きなダイヤの指輪がいくつか。そして数枚の着物と数百万の現金だった。
だが真理子には他にも財産があった。
それは若い頃から変わらないと言われる美貌だ。
真理子は大学生の頃働いていた銀座に戻った。当時はアルバイトだったが、水商売は嫌いではなく、自分には客あしらいの才能があると思っている。
それに当時、店でナンバーワンを狙える立場にいて高森隆三の愛人だった。そして大学を卒業すると高森の会社に秘書として入り、それから秘書兼愛人として働き30歳で二回り以上離れた高森と結婚したが、妻として贅沢な暮らしが出来たのはたった4年。
全てを失った高森隆三に用はなく、別れは真理子の方から切り出した。
そしてこうなったのは道明寺司のせいだ。高森開発から現役大臣への金の流れを暴き、真理子が会社の人事に口を出し会社を私物化していると週刊誌に取り上げるように仕向けた。
あの男が、道明寺司が高森開発を潰し真理子の財産を奪った。
そして道明寺司は真理子がアルバイトをしていた銀座の店に来たことがあった。
まだ若かった道明寺司は傲慢で女に対し無関心に見えた。
だがあの時、隣に座った真理子を外し、まだ入店して間もない田舎から出て来た女を隣に座らせたが、売れっ子と呼ばれる真理子が外されたことに、店にいた他のホステスも黒服も驚いていた。
そして高森隆三の妻となって道明寺司に再会したが、連れていた女は准教授の牧野つくしという女。あのとき道明寺司の隣に座った女によく似ていた。
「それで、理恵ちゃんは加賀友禅の他にどんな着物が好きなの?」
「……あんな女のどこがいいのよ」
「え?理恵ちゃん何?あんな女って誰のこと?」
真理子は石田の話など聞いてなかった。
だが、自分がこうしてどうでもいい男の相手をしなければいけないことを思い出すと、唇の両端をキュッと持ち上げ笑顔を作って見せた。
「うんうん。ごめんなさい何でもないわ。ひとり言よ。それより私がどんな着物が好きなのかでしょ?そうね….加賀友禅も好きだけど京友禅も好きよ」
と、真理子は甘えた声で謝ると石田の手を取った。
そして石田の顔を見たが真理子に首ったけといった表情が彼女に余裕を与えた。
「ねえ石田さん。アフターもお付き合いして下さるかしら?」
ホステスがパトロンを持つことは当たり前だが、真理子がそう言うと石田は嬉しそうに真理子の手をギュッと握り返した。
人の顔をジロジロ見ることは失礼にあたる。
だが相手に話しかけている時だけは、堂々と相手の顔を見ることが出来る。
あきらは、取引先の接待で連れていかれたバーで遠目ながら見覚えがある女の姿を見かけた。
「あの女….高森真理子か?いやあの夫婦は離婚したはずだったな…..名前はなんて言ったか?……そうだ!川上だ。川上真理子だ」

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童*様
真理子は自分のした悪事は棚上げして逆恨み。
嫌な女ですねぇ。そして美貌で男性を誘惑する自信があるようですが司には通用しませんでした。
それに大人になった司を本気で怒らせると怖いですよ~(笑)
コメント有難うございました^^
真理子は自分のした悪事は棚上げして逆恨み。
嫌な女ですねぇ。そして美貌で男性を誘惑する自信があるようですが司には通用しませんでした。
それに大人になった司を本気で怒らせると怖いですよ~(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.28 22:24 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
理恵=真理子。離婚した真理子は銀座のクラブのホステスへ。
そこで美貌を生かして活躍中(笑)と言いたいところですが、彼女。転んでもタダでは起きない女のようです。
そしてそんな真理子を偶然見かけたあきら。旧姓をスラリと思出せる男!流石人妻キラーだっただけのことはあります(笑)
おお!遅ればせながら、おめでとうございます!
そしてお嬢様から食べ物の贈り物が?!
いいですねぇ~。お嬢様。何をお買い求めになられたのでしょう(≧▽≦)
これからの一年が素敵な年になりますように(^^)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
理恵=真理子。離婚した真理子は銀座のクラブのホステスへ。
そこで美貌を生かして活躍中(笑)と言いたいところですが、彼女。転んでもタダでは起きない女のようです。
そしてそんな真理子を偶然見かけたあきら。旧姓をスラリと思出せる男!流石人妻キラーだっただけのことはあります(笑)
おお!遅ればせながら、おめでとうございます!
そしてお嬢様から食べ物の贈り物が?!
いいですねぇ~。お嬢様。何をお買い求めになられたのでしょう(≧▽≦)
これからの一年が素敵な年になりますように(^^)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.28 22:47 | 編集
