『え?』
「もし私が会おうと言えばあなたは私と会いますか?そう訊きました」
『あの….でも….』
「ええ。分かっています。私はあなたとこうして電話を始めたとき会おうとは決して言わないと言いました。ですが今の私はあなたと会いたいと思っています」
と司はきっぱりと言ったが、牧野つくしは短い無言を挟み、やや沈んだ口調で言った。
『あの。…..どうしてですか?どうして私と会いたいんですか?』
「長谷川さん。先ほどもお話ししたように私も初めはそのつもりは全くありませんでした。でもあなたとこうして話をするうちに、あなたのことがもっと知りたくなりました。だから会ってみたいと思うようになったんです」
実を言うと私は杉村ではなく道明寺だ。
そう言ったとすればどうするのか。牧野つくしが杉村に対して抱いている親しみや気持ちといったものは無意味なものに変わってしまうのか。
だがしかし確実に言えるのは、夜の電話の男の正体が司であると言えば、それを隠していたことに驚くことだけは目に見えていた。
『でも私たちは会わないはずでしたよね』
「そうです。ですが心の中に目を向けた時、あなたに会うべきだと思ったんです」
司のその言葉に電話の向こうは沈黙した。だから司が言葉を継いだ。
「私は周りの人間によく言われるんです。お前は女性に対してシビアだと。相手の心の裡を全く見ようとしないとね」
『………….』
「プライドが高いとも言われます。だからと言ってナルシシズムが強いとは思っていません」
『………….』
「それに決して軽い気持ちであなたに会いたいと言っているのではありません」
司は牧野つくしが言葉を返してこないことから、これまで以上に自分のことを話すことに決め話しかけたが、会うつもりがないと言われた男から会いたいと言われたことは、予想外だったのか。そして電話だけで繋がっている相手に会うことに用心をすることは当たり前であり、今のその態度は臆病ということではない。
そして沈黙が返されるのは、どうすればいいのか断わりの言葉を探しているはずだ。
『あの……杉村さん。私と会ってもあなたは何も感じないと思います。私はあなたが感心するような人間ではありません。会っても時間を持て余してしまうはずです』
と、返された言葉は思った通り直接的ではないが断りの言葉であり会いたいという言葉ではなかった。
『それに電話ならこうして話せても実際に会った私は楽しい人間ではないと思われるはずです。以前お伝えしたと思いますが、私は教育関係の仕事をしています。はっきり言って自分自身を固い人間だと思っています。だからつまらない人間と思われるはずです』
司は、牧野つくしが言う楽しい人間ではない。つまらない人間だの意味が顔かたちや外見といったものを指しているのか。それとも自分の性格のことを指しているのか。
どちらにしても人は目の前にいない人間に対して抱くイメージは、声と話の内容から判断することになるが、司は牧野つくしを知っている。けれど、牧野つくしは杉村と名乗る男がどんな人間なのかを知らない。だが二人の間には、少しずつだが築いて来た親密さの基盤というものがあるはずだ。しかしそれは司の身体が丈夫ではない。新しい人間関係を築くチャンスがない。だから話し相手になって欲しいという嘘から始まったことであり、二人の関係は嘘の基盤の上に築かれたもの。だがその基盤を一度壊してもいいから牧野つくしに司と会うと言わせたかった。
そして司は今まで女を懐柔することなど必要がなかった。
けれど今はその必要に駆られ言葉を途切れさせることをしなかった。
「長谷川さん。あなたは自分が楽しい人間ではない。つまらない人間だと言うが、それは違うはずだ。あなたの話は面白い。それにつまらない人間なら私はあなたと話をしたいと思いもしなかったはずだ」
とは言え、電話の関係を始めたのは、牧野つくしの本性を知るためであり、電話がかかってこなければそれまでのことだと思っていた。
『あの杉村さん…..でもはっきり言って私は男性が関心を持つような容姿ではありません。つまり外見上魅力的ではないということです』
司はその言葉が自分の足にある傷跡のことを言っているのだと思った。
『だから会って話をする時間が無駄に思えると思います』
と、牧野つくしは言ったが、今まで付き合った女で未練が残るような女にはひとりも出会ったことがなかった。
だが今は違う。牧野つくしとかかわるまでは。
そして牧野つくしの足の傷跡を知る司は、敢えて訊いた。
「何かあったんですか?あなたと会って話をする時間が無駄だと言った男性がいたんですか?」
すると電話口の向こうの牧野つくしは黙り込んだが、司は言葉を継いだ。
「私はあなたと話すのが楽しい。だから会って話す時間が無駄だとは思わない。それにきっと直接会って話す方が楽しいに決まっている」
司はそこまで言って牧野つくしがどう答えるか賭けに出ることにした。
「長谷川さん。あなたの不安は分かります。何もすぐ会おうというのではありません。これから1ヶ月後に会う。そうしませんか。ですから考える時間はあります。もしどうしても会いたくないと思うならそれで結構です。でも考えてみてくれませんか」
本当はこれから1ヶ月以内に自分が道明寺司であると言うつもりでいたが、それが1ヶ月後というのなら日にちを決めることが出来る。だから司はその日を決めた。
「これから1ヶ月後の日曜日。時間は12時。場所はホテルメープルの1階にあるラウンジでいかがですか?」
言葉は返されることはなく無言が続いたが司は待った。
電話は相手の顔が見えない分、何を考えているか読み取ることは難しい。
けれど、暫くの沈黙後返事が返ってきた。
『わかりました。1ヶ月後の日曜日ですね?時間は12時。場所はホテルメープルの1階ラウンジですね?』

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「もし私が会おうと言えばあなたは私と会いますか?そう訊きました」
『あの….でも….』
「ええ。分かっています。私はあなたとこうして電話を始めたとき会おうとは決して言わないと言いました。ですが今の私はあなたと会いたいと思っています」
と司はきっぱりと言ったが、牧野つくしは短い無言を挟み、やや沈んだ口調で言った。
『あの。…..どうしてですか?どうして私と会いたいんですか?』
「長谷川さん。先ほどもお話ししたように私も初めはそのつもりは全くありませんでした。でもあなたとこうして話をするうちに、あなたのことがもっと知りたくなりました。だから会ってみたいと思うようになったんです」
実を言うと私は杉村ではなく道明寺だ。
そう言ったとすればどうするのか。牧野つくしが杉村に対して抱いている親しみや気持ちといったものは無意味なものに変わってしまうのか。
だがしかし確実に言えるのは、夜の電話の男の正体が司であると言えば、それを隠していたことに驚くことだけは目に見えていた。
『でも私たちは会わないはずでしたよね』
「そうです。ですが心の中に目を向けた時、あなたに会うべきだと思ったんです」
司のその言葉に電話の向こうは沈黙した。だから司が言葉を継いだ。
「私は周りの人間によく言われるんです。お前は女性に対してシビアだと。相手の心の裡を全く見ようとしないとね」
『………….』
「プライドが高いとも言われます。だからと言ってナルシシズムが強いとは思っていません」
『………….』
「それに決して軽い気持ちであなたに会いたいと言っているのではありません」
司は牧野つくしが言葉を返してこないことから、これまで以上に自分のことを話すことに決め話しかけたが、会うつもりがないと言われた男から会いたいと言われたことは、予想外だったのか。そして電話だけで繋がっている相手に会うことに用心をすることは当たり前であり、今のその態度は臆病ということではない。
そして沈黙が返されるのは、どうすればいいのか断わりの言葉を探しているはずだ。
『あの……杉村さん。私と会ってもあなたは何も感じないと思います。私はあなたが感心するような人間ではありません。会っても時間を持て余してしまうはずです』
と、返された言葉は思った通り直接的ではないが断りの言葉であり会いたいという言葉ではなかった。
『それに電話ならこうして話せても実際に会った私は楽しい人間ではないと思われるはずです。以前お伝えしたと思いますが、私は教育関係の仕事をしています。はっきり言って自分自身を固い人間だと思っています。だからつまらない人間と思われるはずです』
司は、牧野つくしが言う楽しい人間ではない。つまらない人間だの意味が顔かたちや外見といったものを指しているのか。それとも自分の性格のことを指しているのか。
どちらにしても人は目の前にいない人間に対して抱くイメージは、声と話の内容から判断することになるが、司は牧野つくしを知っている。けれど、牧野つくしは杉村と名乗る男がどんな人間なのかを知らない。だが二人の間には、少しずつだが築いて来た親密さの基盤というものがあるはずだ。しかしそれは司の身体が丈夫ではない。新しい人間関係を築くチャンスがない。だから話し相手になって欲しいという嘘から始まったことであり、二人の関係は嘘の基盤の上に築かれたもの。だがその基盤を一度壊してもいいから牧野つくしに司と会うと言わせたかった。
そして司は今まで女を懐柔することなど必要がなかった。
けれど今はその必要に駆られ言葉を途切れさせることをしなかった。
「長谷川さん。あなたは自分が楽しい人間ではない。つまらない人間だと言うが、それは違うはずだ。あなたの話は面白い。それにつまらない人間なら私はあなたと話をしたいと思いもしなかったはずだ」
とは言え、電話の関係を始めたのは、牧野つくしの本性を知るためであり、電話がかかってこなければそれまでのことだと思っていた。
『あの杉村さん…..でもはっきり言って私は男性が関心を持つような容姿ではありません。つまり外見上魅力的ではないということです』
司はその言葉が自分の足にある傷跡のことを言っているのだと思った。
『だから会って話をする時間が無駄に思えると思います』
と、牧野つくしは言ったが、今まで付き合った女で未練が残るような女にはひとりも出会ったことがなかった。
だが今は違う。牧野つくしとかかわるまでは。
そして牧野つくしの足の傷跡を知る司は、敢えて訊いた。
「何かあったんですか?あなたと会って話をする時間が無駄だと言った男性がいたんですか?」
すると電話口の向こうの牧野つくしは黙り込んだが、司は言葉を継いだ。
「私はあなたと話すのが楽しい。だから会って話す時間が無駄だとは思わない。それにきっと直接会って話す方が楽しいに決まっている」
司はそこまで言って牧野つくしがどう答えるか賭けに出ることにした。
「長谷川さん。あなたの不安は分かります。何もすぐ会おうというのではありません。これから1ヶ月後に会う。そうしませんか。ですから考える時間はあります。もしどうしても会いたくないと思うならそれで結構です。でも考えてみてくれませんか」
本当はこれから1ヶ月以内に自分が道明寺司であると言うつもりでいたが、それが1ヶ月後というのなら日にちを決めることが出来る。だから司はその日を決めた。
「これから1ヶ月後の日曜日。時間は12時。場所はホテルメープルの1階にあるラウンジでいかがですか?」
言葉は返されることはなく無言が続いたが司は待った。
電話は相手の顔が見えない分、何を考えているか読み取ることは難しい。
けれど、暫くの沈黙後返事が返ってきた。
『わかりました。1ヶ月後の日曜日ですね?時間は12時。場所はホテルメープルの1階ラウンジですね?』

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
会う事はないと言っていた電話の男性から会おうと言われ驚いたでしょうねぇ。
そして1か月後に会おうと決めた女。
やはり親しくなってくると会いたいと思うようになりますよね?
でも女性として男性に対して自信がありません。会う事に不安もあります。
それでも気持ちが動いたんですから、そこには「思い」があったということです。
その思いは果たして....。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
会う事はないと言っていた電話の男性から会おうと言われ驚いたでしょうねぇ。
そして1か月後に会おうと決めた女。
やはり親しくなってくると会いたいと思うようになりますよね?
でも女性として男性に対して自信がありません。会う事に不安もあります。
それでも気持ちが動いたんですから、そこには「思い」があったということです。
その思いは果たして....。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.25 22:09 | 編集
