「もしもし?杉村さんですか?あの長谷川です。今いいですか?」
「ええ。もちろんいいですよ」
夜10時の電話は、暫くかかって来ることはなかったが、司が心待ちしていた電話。
だが牧野つくしは、わざと電話をするのを控えていたのではない。何しろ彼女は捻挫をし、松葉杖を使うという馴れない生活をしているからだ。
毎朝大学まで司の車で送り、帰りはボディガード兼運転手の田中から状況を聞いているが、買い物は三条桜子がしていることは知っていて、杖を着いて買い物にいく必要はない。
だから自宅に戻る以外行き先を言われたことがない。
そして司は、自分が彼女が親しみを抱いている杉村だということを告げるべきか。それとも告げないままでいくのかを考えていたが、告げるなら電話ではなく、直接会って話すことが望ましいはずだ。
だが告げずにいるなら、二人の関係はこのまま終わらせる方がいい。決して会うことはないと始めた電話だけの関係なのだから。それにこの関係を止めるのは簡単だ。それは電話がかかってきても出なければいいだけの話。そうすればこの関係は終わる。
だが司が杉村を装っている以上、彼女の心の動きを知ることが出来る。何しろ今までも、司という男をどう感じているかを杉村に対しては話しているからだ。
つまり今の彼女の心を開かせることが出来るのは、杉村という男であり司ではないということ。
だが今思えば、彼女が杉村に対して自分の思いを正直に言えるのは、会わないと言ったからで、それは人の心理として匿名や顔を出さないことで喋りやすくなるということだが、牧野つくしが杉村に対し感じている親しみやすさも、そういった感情から来ていると言ってもいいはずだ。
『……杉村さん?聞こえてますか?』
「ええ。聞こえてます。足を捻挫したそうですね?大丈夫ですか?」
『はい。暗がりで着ていたコートを何かにひっかけてしまったようで、倒れてしまったんですが、そこで右足を捻ったんです』
「それは大変でしたね?かなり痛いのでは?」
『はい。まだ痛くて今は足に負担を与えないように松葉杖の生活をしています』
「そうですか。松葉杖を使うなら、かなり不便な生活をされているということですね?」
『そうなんです。でも2週間経てば杖は要らないと言われています。だからあと10日もすれば杖なしで歩けるようになるはずです』
そこまでは司も知っていて、怪我をした状況も知っていた。
それは鍵が掛けられた図書館の中の書庫での出来事。あの状況は閉じ込められたとしか言えなかったが、それが故意なのか偶然なのか。調べたところ、あの時図書館にいた人間は誰も4階にある書庫を開けた覚えはなかった。
だが杉村はそのことを知らない。だから心配そうに訊ねた。
「そうでしたか。それは良かった。あなたはインフルエンザから回復したばかりですよね?それなのに今度は捻挫ですか。それで電話がかけられなかったということですね?」
『ええ。そうなんです。本当はもっと早くかけたかったんですが、怪我をしたことで不便を心配した友人が泊まりに来ていたので電話が出来ませんでした』
「でも良かったですね?今回はインフルエンザの時とは違いお友達が世話をして下さっているなら安心だ」
二人の関係が進展したのは、司がインフルエンザに罹った女にメープルから中華料理を配達させてからだ。
その時杉村と名前を決め、牧野つくしは長谷川という名前になった。
だがやはり偽名でいる限り二人の関係は進展しない。
司はたった今決めた。これから1ヶ月以内に司が杉村だと話すことを。
だがどう切り出すか。杉村は精神的レベルで牧野つくしから求められているが、司は求められてはおらず、向けられるその態度は私に構わないでという態度。
それは、かつて付き合っていた男に植え付けられた男という生き物は女の外見を気にする。そして傷跡がある女は男に受け入れられないという思いがそうさせている。
司は傷跡について触れることはなかったが、司が何も言わないのは足の傷を気付かないふりをしたのではない。白い足に刻まれた傷跡がどんなものだとしても、気にしていないことを伝えたかった。
そして数分もたたないうちに、二人は打ち解けた話を始めたが、それは松葉杖を使うのは初めてで意外と難しいという話。家の中では杖を使うことは殆どなく、片足でぴょんぴょん飛び跳ねることがあるということ。だがこの前、ソファから立ち上がろうとしてバランスを崩し、転びそうになったことを訊かされれば心配した。
「大丈夫ですか?今度は転んで骨折でもしたら大変ですよ?」
『ええ。気を付けます。でも今ここで骨折をして助けを呼ぶとすれば杉村さんになりますね?』
今まで二人の会話の中に相手に会うという言葉はなかった。だが牧野つくしの口から漏れた助けを呼ぶとすれば杉村という言葉は、杉村に会いたいという思いなのか。
それなら司が、いや杉村が会おうと言えば、強く言い含めれば会うというのか。
「長谷川さん。もし私が会おうと言えばあなたは私と会いますか?」

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「ええ。もちろんいいですよ」
夜10時の電話は、暫くかかって来ることはなかったが、司が心待ちしていた電話。
だが牧野つくしは、わざと電話をするのを控えていたのではない。何しろ彼女は捻挫をし、松葉杖を使うという馴れない生活をしているからだ。
毎朝大学まで司の車で送り、帰りはボディガード兼運転手の田中から状況を聞いているが、買い物は三条桜子がしていることは知っていて、杖を着いて買い物にいく必要はない。
だから自宅に戻る以外行き先を言われたことがない。
そして司は、自分が彼女が親しみを抱いている杉村だということを告げるべきか。それとも告げないままでいくのかを考えていたが、告げるなら電話ではなく、直接会って話すことが望ましいはずだ。
だが告げずにいるなら、二人の関係はこのまま終わらせる方がいい。決して会うことはないと始めた電話だけの関係なのだから。それにこの関係を止めるのは簡単だ。それは電話がかかってきても出なければいいだけの話。そうすればこの関係は終わる。
だが司が杉村を装っている以上、彼女の心の動きを知ることが出来る。何しろ今までも、司という男をどう感じているかを杉村に対しては話しているからだ。
つまり今の彼女の心を開かせることが出来るのは、杉村という男であり司ではないということ。
だが今思えば、彼女が杉村に対して自分の思いを正直に言えるのは、会わないと言ったからで、それは人の心理として匿名や顔を出さないことで喋りやすくなるということだが、牧野つくしが杉村に対し感じている親しみやすさも、そういった感情から来ていると言ってもいいはずだ。
『……杉村さん?聞こえてますか?』
「ええ。聞こえてます。足を捻挫したそうですね?大丈夫ですか?」
『はい。暗がりで着ていたコートを何かにひっかけてしまったようで、倒れてしまったんですが、そこで右足を捻ったんです』
「それは大変でしたね?かなり痛いのでは?」
『はい。まだ痛くて今は足に負担を与えないように松葉杖の生活をしています』
「そうですか。松葉杖を使うなら、かなり不便な生活をされているということですね?」
『そうなんです。でも2週間経てば杖は要らないと言われています。だからあと10日もすれば杖なしで歩けるようになるはずです』
そこまでは司も知っていて、怪我をした状況も知っていた。
それは鍵が掛けられた図書館の中の書庫での出来事。あの状況は閉じ込められたとしか言えなかったが、それが故意なのか偶然なのか。調べたところ、あの時図書館にいた人間は誰も4階にある書庫を開けた覚えはなかった。
だが杉村はそのことを知らない。だから心配そうに訊ねた。
「そうでしたか。それは良かった。あなたはインフルエンザから回復したばかりですよね?それなのに今度は捻挫ですか。それで電話がかけられなかったということですね?」
『ええ。そうなんです。本当はもっと早くかけたかったんですが、怪我をしたことで不便を心配した友人が泊まりに来ていたので電話が出来ませんでした』
「でも良かったですね?今回はインフルエンザの時とは違いお友達が世話をして下さっているなら安心だ」
二人の関係が進展したのは、司がインフルエンザに罹った女にメープルから中華料理を配達させてからだ。
その時杉村と名前を決め、牧野つくしは長谷川という名前になった。
だがやはり偽名でいる限り二人の関係は進展しない。
司はたった今決めた。これから1ヶ月以内に司が杉村だと話すことを。
だがどう切り出すか。杉村は精神的レベルで牧野つくしから求められているが、司は求められてはおらず、向けられるその態度は私に構わないでという態度。
それは、かつて付き合っていた男に植え付けられた男という生き物は女の外見を気にする。そして傷跡がある女は男に受け入れられないという思いがそうさせている。
司は傷跡について触れることはなかったが、司が何も言わないのは足の傷を気付かないふりをしたのではない。白い足に刻まれた傷跡がどんなものだとしても、気にしていないことを伝えたかった。
そして数分もたたないうちに、二人は打ち解けた話を始めたが、それは松葉杖を使うのは初めてで意外と難しいという話。家の中では杖を使うことは殆どなく、片足でぴょんぴょん飛び跳ねることがあるということ。だがこの前、ソファから立ち上がろうとしてバランスを崩し、転びそうになったことを訊かされれば心配した。
「大丈夫ですか?今度は転んで骨折でもしたら大変ですよ?」
『ええ。気を付けます。でも今ここで骨折をして助けを呼ぶとすれば杉村さんになりますね?』
今まで二人の会話の中に相手に会うという言葉はなかった。だが牧野つくしの口から漏れた助けを呼ぶとすれば杉村という言葉は、杉村に会いたいという思いなのか。
それなら司が、いや杉村が会おうと言えば、強く言い含めれば会うというのか。
「長谷川さん。もし私が会おうと言えばあなたは私と会いますか?」

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司*****E様
おはようございます^^
杉村は道明寺司。それをカミングアウトすることにした男がいますが、果たしてつくしは会いたいと言うのでしょうか。
やはり電話だけの関係で....と思うのでしょうか。
恋という感情を抱いた男の行動は吉と出るか凶と出るか。
どうなんでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
杉村は道明寺司。それをカミングアウトすることにした男がいますが、果たしてつくしは会いたいと言うのでしょうか。
やはり電話だけの関係で....と思うのでしょうか。
恋という感情を抱いた男の行動は吉と出るか凶と出るか。
どうなんでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.23 22:19 | 編集

童*様
>つくしに起きている幾つかの案件。
書庫に閉じ込められた事や高森真理子や若林和彦のこと。
司が調べる時は徹底的に調べるはずです。
ビジネスはビジネス。私情は挟まないと言われる男ですが、そこは状況次第かと思われます。
コメント有難うございました^^
>つくしに起きている幾つかの案件。
書庫に閉じ込められた事や高森真理子や若林和彦のこと。
司が調べる時は徹底的に調べるはずです。
ビジネスはビジネス。私情は挟まないと言われる男ですが、そこは状況次第かと思われます。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.23 22:27 | 編集
