牧野つくしが副編集長を務める女性雑誌のバレンタイン特集。
その記事の中に道明寺司のインタビュー記事が載る。
それは今までどこの雑誌も成し得ることが出来なかったこと。だから多くの女性が雑誌の発売日を待った。そして月に25万部を売る雑誌の売り上げはどれくらいになるのか。
出版社としては数字が読めない訳ではなかった。だがそれは読者が心待ちにしていたものとは遥かにかけ離れた内容のものであり、果たしてどれくらい売れるのか全く予想がつかなかった。
そして発売された雑誌の表紙を飾った文字。
それは『道明寺ホールディングス副社長道明寺司氏結婚!7年半の時を経て初恋の人と結ばれる』
そんな見出しで綴られたストーリーは当雑誌の副編集長である牧野つくしとの恋について書かれていて、記事の写真はローマで過ごす二人の写真がふんだんに使われていた。
『胸を焦がすような思いは彼女に出会うまで経験したことがなかった。そしてそれが恋だと知った時、心は彼女だけに向けられていた』
今まで自分の私生活について語ることがなかった男のその言葉は多くの女性の心を打った。
そして向けられた視線はカメラではなく妻となった女性を見つめていたが、その瞳は経済誌では見たことがない優しさを湛えていた。
ボルゲーゼ公園近くにあり、スペイン広場・階段までも近いホテルは道明寺グループのホテルメープル。そこで撮影された写真はタキシードにウエディングドレスを着た二人の姿。
スペイン広場からスペイン階段を登った場所にあるトリニタ・ディ・モンティ教会の前に佇む二人の姿はセピア色で撮られていて、それはまるで映画『ローマの休日』のような雰囲気があった。
夕暮れ時、テヴェレ川右岸にあるサンタンジェロ城をバックに橋の上で撮られた写真は、手を繋いだ後ろ姿だったが、それだけで絵になった。
トレビの泉の前でジェラートを食べる二人は、その甘さを確かめるよりも互いの唇の甘さの方を求めていた。
そして芸術の神と呼ばれるミケランジェロが作った十字架から降ろされた我が子の遺体を抱く母の彫像の前にいる二人は、祈りを捧げていた。
シャッターが切られるたび変わる表情。
雑誌に載ったどの写真も見ている方が照れるような顔をした男が写っているが、その男は世間からの称賛を求めているのではない。
そこにあるのは地位や名誉や美貌といったものは関係ない。経営者でもなければ世界有数の資産家でもない。ただ妻となった女性を見つめるひとりの男の姿だけがあった。
そしてサン・ピエトロ大聖堂のクーポラと呼ばれる円いドーム状の天井の下での二人の姿。
ドームの中央から降り注ぐ冬の光は神の慈愛のように柔らかな光で夫妻となった男女を祝福していた。
二人がローマの街で式を挙げたのは、
『いつか一緒にローマの街を歩こう。美味いジェラートの店を見つけた。』
そう言葉を添え贈った手袋があったからで、その手袋があったおかげで司は彼女がまだ自分のことを思っていてくれたことを知った。
そして共にこの街を訪れたが、今度は彼女が『T.D』とイニシャルが入った黒い革の手袋をプレゼントしてくれた。
だから司も妻に新しい手袋をプレゼントしたが、そこでひと言言われたのは、
「あの手袋まだ使えるのに。もったいない」
司の妻になった女の職業はファッションが売りの女性雑誌の副編集長。
だが高価なブランド物をとっかえひっかえする女ではない。
それよりも、愛着のある物を長く使いたいという女。
だから司は言った。
「分かってる。物を大切にするお前にしてみれば、まだ使える手袋があるのに新しい手袋は必要ねえってことだろうが俺は新しいイニシャルが入った手袋をお前に贈りたいんだ」
世界中のどんな高級な物も買える男が拘る手袋のイニシャル。
だがそれは誰が見るというものではない。それでも司は妻となった女に新しいイニシャルが入った手袋を使って欲しかった。
何故なら彼女のイニシャルも司と同じ『T.D』となったから。
そしてそれが男の独占欲の表れだと分かっている妻は笑って言った。
「分かったわよ。新しい手袋を使うから。でもこの手袋は捨てないからね?」
そんな女を後ろからつつみ込むように抱く男の写真には、特別な言葉が添えられていた。
『こんな素敵な日は世界が美しい。だが人生は美しいものではないかもしれない。楽しいものではないかもしれない。それでもどうすれば楽しく生きることが出来るか。彼女に再会して考える事が出来た』
今までの二人の人生は間違いではない。
彼女のためならどんなことでも出来るというあの頃の思いは嘘じゃない。
だが約束の未来というのは無いかもしれない。
明日は今日の延長ではなく、何が起こるか分からないのが人生だからだ。
けれど、二人がこれから一緒に過ごす時間は永遠であることを願いたい。
そして男の言葉に込められているのは、あの頃にときめいていた心は変わらないということ。
「ねえ。司」
「なんだ?」
「司のこと。愛してる」
ローマの街では、いたるところでキスをする男女を見かける。
だから二人がキスをしても、男が女を抱きしめても、誰も気に留めることはない。
だがグローブショップの店員は、真新しい指輪を嵌めた二人が買った手袋を、微笑みを浮かべながら丁寧に包んでいた。
< 完 > *こんな素敵な日は世界が美しい*

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その記事の中に道明寺司のインタビュー記事が載る。
それは今までどこの雑誌も成し得ることが出来なかったこと。だから多くの女性が雑誌の発売日を待った。そして月に25万部を売る雑誌の売り上げはどれくらいになるのか。
出版社としては数字が読めない訳ではなかった。だがそれは読者が心待ちにしていたものとは遥かにかけ離れた内容のものであり、果たしてどれくらい売れるのか全く予想がつかなかった。
そして発売された雑誌の表紙を飾った文字。
それは『道明寺ホールディングス副社長道明寺司氏結婚!7年半の時を経て初恋の人と結ばれる』
そんな見出しで綴られたストーリーは当雑誌の副編集長である牧野つくしとの恋について書かれていて、記事の写真はローマで過ごす二人の写真がふんだんに使われていた。
『胸を焦がすような思いは彼女に出会うまで経験したことがなかった。そしてそれが恋だと知った時、心は彼女だけに向けられていた』
今まで自分の私生活について語ることがなかった男のその言葉は多くの女性の心を打った。
そして向けられた視線はカメラではなく妻となった女性を見つめていたが、その瞳は経済誌では見たことがない優しさを湛えていた。
ボルゲーゼ公園近くにあり、スペイン広場・階段までも近いホテルは道明寺グループのホテルメープル。そこで撮影された写真はタキシードにウエディングドレスを着た二人の姿。
スペイン広場からスペイン階段を登った場所にあるトリニタ・ディ・モンティ教会の前に佇む二人の姿はセピア色で撮られていて、それはまるで映画『ローマの休日』のような雰囲気があった。
夕暮れ時、テヴェレ川右岸にあるサンタンジェロ城をバックに橋の上で撮られた写真は、手を繋いだ後ろ姿だったが、それだけで絵になった。
トレビの泉の前でジェラートを食べる二人は、その甘さを確かめるよりも互いの唇の甘さの方を求めていた。
そして芸術の神と呼ばれるミケランジェロが作った十字架から降ろされた我が子の遺体を抱く母の彫像の前にいる二人は、祈りを捧げていた。
シャッターが切られるたび変わる表情。
雑誌に載ったどの写真も見ている方が照れるような顔をした男が写っているが、その男は世間からの称賛を求めているのではない。
そこにあるのは地位や名誉や美貌といったものは関係ない。経営者でもなければ世界有数の資産家でもない。ただ妻となった女性を見つめるひとりの男の姿だけがあった。
そしてサン・ピエトロ大聖堂のクーポラと呼ばれる円いドーム状の天井の下での二人の姿。
ドームの中央から降り注ぐ冬の光は神の慈愛のように柔らかな光で夫妻となった男女を祝福していた。
二人がローマの街で式を挙げたのは、
『いつか一緒にローマの街を歩こう。美味いジェラートの店を見つけた。』
そう言葉を添え贈った手袋があったからで、その手袋があったおかげで司は彼女がまだ自分のことを思っていてくれたことを知った。
そして共にこの街を訪れたが、今度は彼女が『T.D』とイニシャルが入った黒い革の手袋をプレゼントしてくれた。
だから司も妻に新しい手袋をプレゼントしたが、そこでひと言言われたのは、
「あの手袋まだ使えるのに。もったいない」
司の妻になった女の職業はファッションが売りの女性雑誌の副編集長。
だが高価なブランド物をとっかえひっかえする女ではない。
それよりも、愛着のある物を長く使いたいという女。
だから司は言った。
「分かってる。物を大切にするお前にしてみれば、まだ使える手袋があるのに新しい手袋は必要ねえってことだろうが俺は新しいイニシャルが入った手袋をお前に贈りたいんだ」
世界中のどんな高級な物も買える男が拘る手袋のイニシャル。
だがそれは誰が見るというものではない。それでも司は妻となった女に新しいイニシャルが入った手袋を使って欲しかった。
何故なら彼女のイニシャルも司と同じ『T.D』となったから。
そしてそれが男の独占欲の表れだと分かっている妻は笑って言った。
「分かったわよ。新しい手袋を使うから。でもこの手袋は捨てないからね?」
そんな女を後ろからつつみ込むように抱く男の写真には、特別な言葉が添えられていた。
『こんな素敵な日は世界が美しい。だが人生は美しいものではないかもしれない。楽しいものではないかもしれない。それでもどうすれば楽しく生きることが出来るか。彼女に再会して考える事が出来た』
今までの二人の人生は間違いではない。
彼女のためならどんなことでも出来るというあの頃の思いは嘘じゃない。
だが約束の未来というのは無いかもしれない。
明日は今日の延長ではなく、何が起こるか分からないのが人生だからだ。
けれど、二人がこれから一緒に過ごす時間は永遠であることを願いたい。
そして男の言葉に込められているのは、あの頃にときめいていた心は変わらないということ。
「ねえ。司」
「なんだ?」
「司のこと。愛してる」
ローマの街では、いたるところでキスをする男女を見かける。
だから二人がキスをしても、男が女を抱きしめても、誰も気に留めることはない。
だがグローブショップの店員は、真新しい指輪を嵌めた二人が買った手袋を、微笑みを浮かべながら丁寧に包んでいた。
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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
結婚した道明寺司の特集記事が載った雑誌は売れたのか?
きっと売れたはずです。
ローマで式を挙げ、ハネムーンもローマ。
約束通りジェラートを食べた二人は共に新しい手袋を揃えましたが、同じイニシャルが入った革手袋は、これからもずっと使い続けられることでしょう^^
二人ともお幸せに!
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
結婚した道明寺司の特集記事が載った雑誌は売れたのか?
きっと売れたはずです。
ローマで式を挙げ、ハネムーンもローマ。
約束通りジェラートを食べた二人は共に新しい手袋を揃えましたが、同じイニシャルが入った革手袋は、これからもずっと使い続けられることでしょう^^
二人ともお幸せに!
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.19 22:37 | 編集

切*椒様
『銀色の雪』の続編。楽しんでいただけて嬉しいです^^
某絵画のスノードームをお買い上げされたのですね?(≧▽≦)個性的な表情ですが、とても貴重なものだと思います。
スノードームも色々とありますので、また素敵なスノードームと巡り会えるといいですね!
コメント有難うございました^^
『銀色の雪』の続編。楽しんでいただけて嬉しいです^^
某絵画のスノードームをお買い上げされたのですね?(≧▽≦)個性的な表情ですが、とても貴重なものだと思います。
スノードームも色々とありますので、また素敵なスノードームと巡り会えるといいですね!
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.19 22:45 | 編集

s**p様
この雑誌お買い上げですか?ありがとうございますm(__)m
ローマで挙式。そしてハネムーンもローマで甘い時を過ごす二人。
いいですねぇ~。
そしてそこには甘いジェラートよりも甘い二人がいることでしょう!(≧▽≦)
拍手コメント有難うございました^^
この雑誌お買い上げですか?ありがとうございますm(__)m
ローマで挙式。そしてハネムーンもローマで甘い時を過ごす二人。
いいですねぇ~。
そしてそこには甘いジェラートよりも甘い二人がいることでしょう!(≧▽≦)
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.19 22:50 | 編集

ス***ン様
お久しぶりです^^
バレンタインストーリー。楽しんでいただけましたでしょうか?
スノードームと革手袋が離れていた二人を結びました。
ある意味身近にある物ですが、二人にとっては深い意味が込められていた物だったようです。
『妻になってくれないか』とスノードームを差し出す男にちょっぴりパンチの効いた言葉を返しましたが、嬉しかったようです。
わはは!(≧▽≦)続編。確かに司は「なんだ?」しか喋っていませんね?
たったそれだけで全てを持っていく男!そんな男に、ときめきを感じていただけて嬉しいです。
コメント有難うございました^^
お久しぶりです^^
バレンタインストーリー。楽しんでいただけましたでしょうか?
スノードームと革手袋が離れていた二人を結びました。
ある意味身近にある物ですが、二人にとっては深い意味が込められていた物だったようです。
『妻になってくれないか』とスノードームを差し出す男にちょっぴりパンチの効いた言葉を返しましたが、嬉しかったようです。
わはは!(≧▽≦)続編。確かに司は「なんだ?」しか喋っていませんね?
たったそれだけで全てを持っていく男!そんな男に、ときめきを感じていただけて嬉しいです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.19 23:03 | 編集

v***o様
夏のイタリア!いいですねぇ。
アカシアは冬のイタリアでしたので、人は少なかったです(笑)
そして寒かったんです。そんなイタリアは大理石が有名ですが、浴室が大理石で出来ていて、全然暖まらないという贅沢な経験をしました(笑)
サン・ピエトロ大聖堂のミケランジェロは感動です。
ローマは見所が沢山有り過ぎて迷うかもしれませんが、楽しんで来て下さいね!
拍手コメント有難うございました^^
夏のイタリア!いいですねぇ。
アカシアは冬のイタリアでしたので、人は少なかったです(笑)
そして寒かったんです。そんなイタリアは大理石が有名ですが、浴室が大理石で出来ていて、全然暖まらないという贅沢な経験をしました(笑)
サン・ピエトロ大聖堂のミケランジェロは感動です。
ローマは見所が沢山有り過ぎて迷うかもしれませんが、楽しんで来て下さいね!
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.20 22:57 | 編集
