司はつくしを部屋に残し出社した。
切羽詰まってないなんて嘘だ。
昨日、眠る牧野をベッドに運んだ俺はその身体に触れたくて仕方がなかった。
俺の妻になった女だ。
その女に触れる事が出来るのは俺以外いない。
いつでも触れたい、抱きたい時にそうすればいい。
実のところ、昨夜は眠れない夜を過ごした。鬱積した欲望のせいで眠ることが出来なかった。
下半身がどうしようもなく疼き、イライラが収まらない。
意味もなく秘書にあたる俺。
煙草をもみ消し、次の一本に火をつける。
暫くしてあの女につけた警護の人間から、姉ちゃんと買い物をしていると連絡が入った。
どうやらあの女と姉ちゃんは親しいらしい。
と、言うのも俺は女についての記憶が一切ない。だが西田が寄こした高校時代の俺たちについての報告書の中に、姉ちゃんとあいつの関係が書かれていたのは知っている。
牧野つくしの事を忘れた俺。それも9年も前の話。
今まで周囲の誰一人、あの女の話をする人間はいなかった。
ま、言われたところで記憶にない女にどうこうするなんて事は考えもしなかっただろうな。
いいんじゃねぇの?皆で寄ってたかって俺の失われた記憶を取り戻す事に決めたなら、俺はそれに乗っかってやるのも悪くはない。
牧野つくしの事を意識し始めた事を俺も認めよう。
あの女の何が俺を引き付けるのかは分かんねぇけど。
たいした意味も無く生きて来たんだ。こんなゲームも悪くはない。
艶やかな黒い髪に華奢な面立ちで、幼女のような真っ黒で大きな瞳をしていた。
「く、ククク・・」
おもしれぇ女だよな、アイツ。
司は今朝の出来事を思い出してひとり微笑みをもらしていた。
***
お姉さんと別れたあたしは以前ニューヨークに来た時に訪れたことがあるマンハッタンが一望出来るブルックリン橋のたもとに来ていた。
今は日没の時間帯で対岸のビルにポツポツと灯りが点り始めている。
あの時は一人で道明寺を追いかけて来て、そして道明寺に追い帰され、この橋のたもとで花沢類と出会った。あの頃は橋の向こう側には大きなツインタワーがそびえ立っていた。
今はそれも無いが、その部分だけが変わっただけで、あとは何も変わらない風景だった。ただ、会いたかったから来て、ただそれだけの想いでここまでやって来た。
あの時、花沢類はあたしがどこかで泣いている気がすると言ってここまで来てくれた。
でも、今はもう泣いてなんていないからね。
あたしはもう昔の私じゃない。
逃げずにアイツと一緒にいたい。
例えあたしの事を思い出さなくてもいいから傍にいる。傍にいさせて欲しい。
昔わざわざ橋を渡ることはないって言われた事がある。
でもあたしは橋を渡った。
このブルックリン橋の向こう側のようにきらびやかな風景。
あたしはそこに居る道明寺の傍にいたい。
お前じゃなきゃだめだ、お前のいない毎日なんて意味がない。
俺が幸せになりたい、俺がお前を幸せにしてやる。
あの時の道明寺の言葉が今も忘れられない。
その時に掴もうとしたアイツの手、それから何度も掴みたかったアイツの手。
掴もうとする度にあたしの指先をかすめるように離れていった。
そっと瞳を閉じれば、遠い日のあの風景が浮かんでくる。
きっと、いつの日か、またきっとあの日のアイツに逢えると信じ、あたしは前を向いて生きて行く。 道明寺と一緒に。

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切羽詰まってないなんて嘘だ。
昨日、眠る牧野をベッドに運んだ俺はその身体に触れたくて仕方がなかった。
俺の妻になった女だ。
その女に触れる事が出来るのは俺以外いない。
いつでも触れたい、抱きたい時にそうすればいい。
実のところ、昨夜は眠れない夜を過ごした。鬱積した欲望のせいで眠ることが出来なかった。
下半身がどうしようもなく疼き、イライラが収まらない。
意味もなく秘書にあたる俺。
煙草をもみ消し、次の一本に火をつける。
暫くしてあの女につけた警護の人間から、姉ちゃんと買い物をしていると連絡が入った。
どうやらあの女と姉ちゃんは親しいらしい。
と、言うのも俺は女についての記憶が一切ない。だが西田が寄こした高校時代の俺たちについての報告書の中に、姉ちゃんとあいつの関係が書かれていたのは知っている。
牧野つくしの事を忘れた俺。それも9年も前の話。
今まで周囲の誰一人、あの女の話をする人間はいなかった。
ま、言われたところで記憶にない女にどうこうするなんて事は考えもしなかっただろうな。
いいんじゃねぇの?皆で寄ってたかって俺の失われた記憶を取り戻す事に決めたなら、俺はそれに乗っかってやるのも悪くはない。
牧野つくしの事を意識し始めた事を俺も認めよう。
あの女の何が俺を引き付けるのかは分かんねぇけど。
たいした意味も無く生きて来たんだ。こんなゲームも悪くはない。
艶やかな黒い髪に華奢な面立ちで、幼女のような真っ黒で大きな瞳をしていた。
「く、ククク・・」
おもしれぇ女だよな、アイツ。
司は今朝の出来事を思い出してひとり微笑みをもらしていた。
***
お姉さんと別れたあたしは以前ニューヨークに来た時に訪れたことがあるマンハッタンが一望出来るブルックリン橋のたもとに来ていた。
今は日没の時間帯で対岸のビルにポツポツと灯りが点り始めている。
あの時は一人で道明寺を追いかけて来て、そして道明寺に追い帰され、この橋のたもとで花沢類と出会った。あの頃は橋の向こう側には大きなツインタワーがそびえ立っていた。
今はそれも無いが、その部分だけが変わっただけで、あとは何も変わらない風景だった。ただ、会いたかったから来て、ただそれだけの想いでここまでやって来た。
あの時、花沢類はあたしがどこかで泣いている気がすると言ってここまで来てくれた。
でも、今はもう泣いてなんていないからね。
あたしはもう昔の私じゃない。
逃げずにアイツと一緒にいたい。
例えあたしの事を思い出さなくてもいいから傍にいる。傍にいさせて欲しい。
昔わざわざ橋を渡ることはないって言われた事がある。
でもあたしは橋を渡った。
このブルックリン橋の向こう側のようにきらびやかな風景。
あたしはそこに居る道明寺の傍にいたい。
お前じゃなきゃだめだ、お前のいない毎日なんて意味がない。
俺が幸せになりたい、俺がお前を幸せにしてやる。
あの時の道明寺の言葉が今も忘れられない。
その時に掴もうとしたアイツの手、それから何度も掴みたかったアイツの手。
掴もうとする度にあたしの指先をかすめるように離れていった。
そっと瞳を閉じれば、遠い日のあの風景が浮かんでくる。
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