Valentine's Day Story 2019
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丸くて重いもの。
その中は透明な液体で満たされ、小さな人形や建物が置かれ、雪に見立てた白いものがキラキラと舞っていた。
見る者に夢を与えるその形は球体。
日本ではスノードームと呼ばれ、海外ではスノーグローブと呼ばれる置物は、スノーと名が付く通り冬になるとよく見かけるようになるが、何も冬の風物詩といった訳ではない。
それは南の島が再現されたものや、桜の木がピンクの花びらを散らすものもあったりするのだが、男が手に取った球体には雪景色の中に男女の人形が幸せそうに微笑んでいる姿があった。
男は女を抱きしめ、抱きしめられた女は幸せそうな微笑みを浮かべている。
そして二人は今にも口づけを交そうとしているが、それは二人だけの完成された世界で永遠に変わることがない瞬間。球体を揺らせば雪に見立てたものがふわりと舞い二人の頭上に降り注ぎ、見る景色は人生にはラメが舞う瞬間がいつか訪れると約束されていた。
このスノードームは遠く離れた場所に住む恋人からの贈り物。
何でも持っている男に手作りのスノードームを贈ることを思い付いた女はクリスマスのプレゼントよと言ってニューヨークに住む男に送って来た。
だがそれはもう何年も前の話。胸の中で指を折り数えた年数は7年。
司が大学を卒業し重役として道明寺の経営に携わり始めた頃のこと。
そしてそれは長い間記憶の奥にしまったままでいた遠い日の想い出。
執務室のデスクの引き出しの奥深くに仕舞われ、長い間手を触れずにいたスノードームと同じで触れたくもあり触れずにいたいと思った記憶。
何故ならあの後、二人は別れることになったからだ。
司がその年のクリスマスプレゼントに恋人に贈ったのは革の手袋。
高価なジュエリーやバッグは要らないという恋人が喜んで身に着けてくれるものは何かと考えた時、頭に浮かんだのが革の手袋だった。
だが気に入った手袋はニューヨークの街にはなかった。
司が欲しいのは柔らかな革の手袋。デザインは飾りなどなくシンプルなもの。色は不自然に色が付けられたものではなくごく自然な色合い。そしてそれを手に入れたのは仕事で訪れたイタリアのローマ。小さな店で手に入れた革の手袋は、マホガニー色をしていて内側にはシルクが張られていた。
『いつか一緒にローマの街を歩こう。美味いジェラートの店を見つけた。』
そう言葉を添え贈った手袋。
だがその翌年の冬、二人は別れた。
理由は司自身の問題だった。それは実社会に出て間もない若者なら誰でも思うことだが、ビジネスだけに集中したい。それを成功させたい。
そんな思いが口を突いた。だがそれは二人の未来のため果たさなければならなかった母親であり社長との約束。
だが言葉を重ねれば重ねるだけ彼女を傷つけることを言ったはずだ。
そして電話口で言われたのは、「私がいると邪魔になる?」の言葉。
好きで好きでたまらなかった人の口からその言葉を言わせた自分は愚かだったとしか言えなかった。
離れた場所にいる彼女が邪魔になることなどなかった。
それなのにそう言わせてしまったのは、彼女が司の心の裡を察したと言える。
そして司はその時こう答えた。
「お前のせいじゃない。これは俺自身の問題だ」
それがこの世の中で一番大切に思っていた人と交わした最後の言葉だった。
そして彼女は大学を卒業し大手の出版社に就職した。今では月刊女性雑誌の副編集長をしているが、その雑誌から取材の申し込みが来た。
司は今まで女性雑誌のインタビューに応じたことはなかったが、今回は受けることにした。
それはかつてないことであり、彼の記事が載れば売れることは間違いなかった。
だが受けるに当たり条件を付けた。
インタビューは副編集長である牧野つくしがすること。
そして司は7年振りに牧野つくしに会うことを心待ちにしていた。

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丸くて重いもの。
その中は透明な液体で満たされ、小さな人形や建物が置かれ、雪に見立てた白いものがキラキラと舞っていた。
見る者に夢を与えるその形は球体。
日本ではスノードームと呼ばれ、海外ではスノーグローブと呼ばれる置物は、スノーと名が付く通り冬になるとよく見かけるようになるが、何も冬の風物詩といった訳ではない。
それは南の島が再現されたものや、桜の木がピンクの花びらを散らすものもあったりするのだが、男が手に取った球体には雪景色の中に男女の人形が幸せそうに微笑んでいる姿があった。
男は女を抱きしめ、抱きしめられた女は幸せそうな微笑みを浮かべている。
そして二人は今にも口づけを交そうとしているが、それは二人だけの完成された世界で永遠に変わることがない瞬間。球体を揺らせば雪に見立てたものがふわりと舞い二人の頭上に降り注ぎ、見る景色は人生にはラメが舞う瞬間がいつか訪れると約束されていた。
このスノードームは遠く離れた場所に住む恋人からの贈り物。
何でも持っている男に手作りのスノードームを贈ることを思い付いた女はクリスマスのプレゼントよと言ってニューヨークに住む男に送って来た。
だがそれはもう何年も前の話。胸の中で指を折り数えた年数は7年。
司が大学を卒業し重役として道明寺の経営に携わり始めた頃のこと。
そしてそれは長い間記憶の奥にしまったままでいた遠い日の想い出。
執務室のデスクの引き出しの奥深くに仕舞われ、長い間手を触れずにいたスノードームと同じで触れたくもあり触れずにいたいと思った記憶。
何故ならあの後、二人は別れることになったからだ。
司がその年のクリスマスプレゼントに恋人に贈ったのは革の手袋。
高価なジュエリーやバッグは要らないという恋人が喜んで身に着けてくれるものは何かと考えた時、頭に浮かんだのが革の手袋だった。
だが気に入った手袋はニューヨークの街にはなかった。
司が欲しいのは柔らかな革の手袋。デザインは飾りなどなくシンプルなもの。色は不自然に色が付けられたものではなくごく自然な色合い。そしてそれを手に入れたのは仕事で訪れたイタリアのローマ。小さな店で手に入れた革の手袋は、マホガニー色をしていて内側にはシルクが張られていた。
『いつか一緒にローマの街を歩こう。美味いジェラートの店を見つけた。』
そう言葉を添え贈った手袋。
だがその翌年の冬、二人は別れた。
理由は司自身の問題だった。それは実社会に出て間もない若者なら誰でも思うことだが、ビジネスだけに集中したい。それを成功させたい。
そんな思いが口を突いた。だがそれは二人の未来のため果たさなければならなかった母親であり社長との約束。
だが言葉を重ねれば重ねるだけ彼女を傷つけることを言ったはずだ。
そして電話口で言われたのは、「私がいると邪魔になる?」の言葉。
好きで好きでたまらなかった人の口からその言葉を言わせた自分は愚かだったとしか言えなかった。
離れた場所にいる彼女が邪魔になることなどなかった。
それなのにそう言わせてしまったのは、彼女が司の心の裡を察したと言える。
そして司はその時こう答えた。
「お前のせいじゃない。これは俺自身の問題だ」
それがこの世の中で一番大切に思っていた人と交わした最後の言葉だった。
そして彼女は大学を卒業し大手の出版社に就職した。今では月刊女性雑誌の副編集長をしているが、その雑誌から取材の申し込みが来た。
司は今まで女性雑誌のインタビューに応じたことはなかったが、今回は受けることにした。
それはかつてないことであり、彼の記事が載れば売れることは間違いなかった。
だが受けるに当たり条件を付けた。
インタビューは副編集長である牧野つくしがすること。
そして司は7年振りに牧野つくしに会うことを心待ちにしていた。

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Comment:4
コメント
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司*****E様
おはようございます^^
お嬢様!VD私には無関係!(≧▽≦)
チョコを渡すというのは、商業的なことから始まったと言われますが、最近は義理チョコを配ることを止める女性が多いと訊きます。またそういったことを禁止するという企業もありますからねぇ。
さてこちらの二人はなかなかすんなりとは行かなかったようですが、7年振りの再会で何かが起こるのでしょうか?
幸せになる二人の姿が早く読みたいですか?(笑)
こちらのつくしは、どんな態度を見せるのでしょうねぇ。え?バリバリのキャリアウーマン?(笑)
どうでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
お嬢様!VD私には無関係!(≧▽≦)
チョコを渡すというのは、商業的なことから始まったと言われますが、最近は義理チョコを配ることを止める女性が多いと訊きます。またそういったことを禁止するという企業もありますからねぇ。
さてこちらの二人はなかなかすんなりとは行かなかったようですが、7年振りの再会で何かが起こるのでしょうか?
幸せになる二人の姿が早く読みたいですか?(笑)
こちらのつくしは、どんな態度を見せるのでしょうねぇ。え?バリバリのキャリアウーマン?(笑)
どうでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.15 22:26 | 編集

イ**マ様
>二人の別れには免疫がつかない。
そうですよね~。原作でも最後はこの先があるといった終わり方でしたので、二次で幸せを感じて頂ければいいのですが、こんな話になってしまいました。
別れと出会いを繰り返すような二人ではないと思うのですが、それでも別れてしまった二人。
7年振りの再会は運命なのでしょうか。それとも....。
コメント有難うございました^^
>二人の別れには免疫がつかない。
そうですよね~。原作でも最後はこの先があるといった終わり方でしたので、二次で幸せを感じて頂ければいいのですが、こんな話になってしまいました。
別れと出会いを繰り返すような二人ではないと思うのですが、それでも別れてしまった二人。
7年振りの再会は運命なのでしょうか。それとも....。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.15 22:34 | 編集
