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2019
02.14

理想の恋の見つけ方 81

松葉杖を着きながら部屋の中を歩く。
馴れたとはいえ、やはり不自由を強いられていることに変わりはないが、自分自身は随分と良くなったはずだといった思いから、シャワーを浴びると右足を上げ、ぴょんぴょんと片足飛びをしながら部屋に戻った。

そして今夜こそ杉村に電話をしようと思った。
少しずつだが互いのことを話すようになった。
だが少なくともつくし自身は、そうなることを望んでいたような気がしていた。
杉村と名乗った男性はつくしの姿を知らない。それはつくしが相手の姿を知らないのと同じだが、少なくとも相手の男性はつくしに表面的なことを求めてはいない。
間違い電話から始まった関係は話し相手としてのみであり、会おうとは言わないと言われた。だからロマンチックな話にはならなかった。

長い間男性と親密な関係を持つことが怖かった。
それは大学生の頃、当時付き合っていた恋人が放った言葉が今でも心に傷となっているからだ。だがそれを知ることは必要だと思った。
つくしは、事故のあと起こった出来事を思い出した。



『君のことを恥ずかしいと思っている訳じゃない』

つくしの右大腿部からふくらはぎにかけて残る傷跡。
人の眼に触れることがないようにロングスカートかパンツが定番になった。だから道明寺副社長にパーティーの同伴を求められた時、傷跡が誰かの目に触れるのではないかと思った。だが黒のストッキングにロングドレス姿にその心配は杞憂に終わった。

恥ずかしいと思っている訳じゃない。と言った男性は、ひとつ年上で四宮(しのみや)圭一と言い別の大学の学生だった。
出会ったのは、つくしが2年生で彼が3年生の時。合コンの数合わせに呼ばれた席で真向いに座っていたのが圭一だった。付き合わないかと言って来たのは圭一の方だったが、初めつくしはその言葉を真に受けてはいなかった。

それはどう考えてもその場にいた他の学生たちとつくしとでは、纏う空気が明らかに違ったからだ。それに急遽数合わせに参加した女の服装は、他の学生たちとはちがってしゃれっ気など全くと言っていいほどなかった。

四宮圭一のことで思い出すことと言えば痩せていて背が高いこと。
目鼻立ちはごく普通で年齢よりも年上に見えたこと。
桜子はカッコいい部類に入ると言ったが、つくしにとっては初めて付き合う男性であり、何を判断基準にすればいいか分からなかったが、美意識が高い親友の言葉は世間の評価に繋がるのだろうということは理解出来た。

当時のつくしはアルバイトをしながらの学生生活。
だが圭一の家は裕福だと訊いた。事実彼の大学はお金持ちの子弟が通うと言われる私立大学。幼稚舎から大学までエスカレーター式に進学できる有名私立大学に通う圭一が何故つくしと付き合うことにしたのか。今振り返ってみれば、物珍しさといったものがあったはずだ。自分の世界にはいない毛色が変わった少女に対して興味を持ったと言うのが正しいはずだ。



『傷跡を見るのが怖いんだ』

退院して少したって言われたその言葉で二人の関係が終ろうとしているのを直感した。
桜子はあの事故を自分のせいだとしきりと詫び、恋人と別れることになった女に詫びた。
だが今となってみれば別れて良かったと思えていた。
あの時、圭一に君の傷跡を見るのが怖いと言われたことは、つまり世の中の男性は醜い傷跡を持つ女との関係を望まないということ。そしてそのことを下手な弁解や口実を探して言われるよりも、はっきりと言われた方が楽だった。
それに今でもあの時のことを思えば辛い気持ちになれるのはいいことだ。
何故なら、もし誰かを好きになり親密な関係になった時、きっとその人も傷跡を見れば圭一と同じ反応を示すということを思い出すことが出来るからだ。

人間は誰しも出来れば傷付きたくないと思っている。
それはつくしも同じで例え自分で自分自身を受け入れているとしても、他人が同じように受け入れてくれるとは思っていない。
だから電話だけの関係を続けてくれる男性なら、つくしの足の傷など知ることのない男性なら構える必要はない。

それに牧野つくしという女は男性には受け入れられないとしても、少なくとも深海ザメ研究者の牧野准教授は学問の世界では受け入れられる。
准教授になった時、この道に生きると決めた。
だが心の片隅では、こんな女を受け入れてくれる人がいるのではという思いを抱かなかったと言えば嘘になる。
だが人生にひとつの区切りを付けた。だから研究に没頭した。そして研究費獲得のため道明寺財団の研究助成金事業に応募した。
そしてそこで出会った道明寺司という人物は、自分の思いだけを一方的に押し付けどんどん近づいて来る。
足の傷は全てを見られた訳ではないが、それでもどれだけの傷跡があるか知っているはずだ。それなのに何故そんな女のことを好きだと言えるのか。
好きだと言われたことは気まぐれだと思っていたが、好きになった女の世話を焼いて何が悪いと堂々と言われ、困りますとしか返す言葉が見つからなかった。

だが今はそれ以上に心の中を占めるのは、5回目のコール音で電話に出た男性だった。

「もしもし?杉村さんですか?あの長谷川です。今いいですか?」



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コメント
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dot 2019.02.14 08:49 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
つくしは若かりし頃を思い出したようですが、その時のことが生きる方向付けをした...そんな風に思っているようです。
そして今は研究に励む准教授となりましたが、心惹かれるのは夜の電話の男性杉村です。
でもその杉村は司なんですがねぇ。そんな女を司はどうするのでしょうねぇ.....。
いつかそのことを告げるのか。それともそのままなのか。
二人がどのような話をするのか。見守りましょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.02.14 22:36 | 編集
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