司が脱がせたブーツは三条桜子が持ち、牧野つくしは司に抱きかかえられ階段を下りると、車に乗せられた。
書庫で確かめた限り骨が折れているとは思えなかった。つまり捻挫ということになるが、隣に座る牧野つくしの沈黙は足首の痛みのせいではない。
それは敬意を払わなかった司の態度のせいだ。
足の具合を確かめるからとブーツを脱がせようとして、止めて欲しいと言われたが止めなかった。それは本人の意思を無視した行為だが、そうしたのは心配だったからだ。
だが牧野つくしは右足のふくらはぎの大きな傷跡を見られたことに羞恥を感じていた。
そして傷跡は膝の裏側から上へ向かって伸びているのは分かったが、膝より上にスカートをたくし上げることはなく、その先がどうなっているのか。はっきりとは分からなかった。
ただ、その傷跡は深い傷を負ったための痕だということは、ひと目で分かった。
そして本人もその傷跡を酷く気にしているということは一目瞭然で司に見られたことで動転していた。触らないでと感情がこもらない冷たい声で言われ手を跳ね除けられた。
司はその傷がどうしてできたのか気になった。
それは好きになった女が誰とも付き合うつもりはないと言ったことに関係していると直感的に理解したからだ。
だが今ここでそれを訊いたところで答えるとは思えず、病院へ着くまでの間、彼女の自尊心を尊重し黙っていた。
***
病院は道明寺系列で患者が司の連れともなれば医師の対応は早かった。
すぐに車椅子でレントゲン室に連れて行かれると、看護師からこちらでお待ち下さいと言われ司は三条桜子と一緒に待合室にいた。
「あの傷はどうして出来た?」
友人なら知っているはずだと司は真正面に席を取った女に訊いた。
「あれだけ痕が残るならかなり深い傷だったはずだが何があったんだ?」
と、言葉を継いだが三条桜子は答えなかった。
だから思いつく事を口にした。
「交通事故にでも遭ったのか?」
「道明寺副社長。これは牧野先輩の個人的なことです。いくら道明寺副社長がお知りになりたいとおっしゃられても私の口からお話しするべきではないと思います」
それはもっともらしい言葉だ。
だが司はそれでも訊いた。
「三条さん。あんた俺に訊いたよな?牧野つくしのことをどう考えているかって。遊びでどうかなる女と思ってるならそれは違うとも言った。それからあの人が傷つくのを見る訳にはいかないとも言った。その意味はあの傷に関係あるってことか?」
司は三条桜子にしっかりと視線を絡ませ言った。だが何も答えない女に自分の思いを口にすることにした。
「あんたの勘は鋭いな。どうやら俺が牧野つくしに興味を持ったことを知っているってことか?そうだろ?」
ええ。とも、いいえ。とも言わない女は黙って司の方を見ていた。
「俺が牧野つくしをどう考えているのかだが俺は彼女に惚れた。だから気にしてる。まあ、初めはそうじゃなかった。一見して真面目な大学准教授も金や名誉が欲しいに決まってる。金に惹かれて男を誘惑するようになる。どんな女も裏表がある。だからいずれそんな本性を見せると思った。寄付を決めたのは牧野つくしという女が深海ザメの研究をしていることが面白いと感じたこともだが、この女の本性がどんなものか知りたいと思ったからだ」
司は正直に話をした。
それは三条桜子という人間が牧野つくしに対し強い思いを抱いているのを感じていたからだ。まさにそれは親友と呼ばれる人間だけが持つ感情。つまり心底その人間に惚れていて、相手に対し尊敬を持っていることが感じられたからだ。
だからこそ司に向けられた目は厳しく言葉は容赦なかった。
「先輩をテストしてたってことですか?どんな女も金に靡くはずだ。だからそれを真面目な牧野先輩でも試してみようと思ったということですね?」
桜子はきつい調子でそう言って司をじっと見た。そして言葉を継いだ。
「つまり道明寺副社長は先輩を女として見下そうとしていたんですね?もしそうなら先輩をバカにするのもいい加減にして下さい。あの人は心底真面目な人です。相手の立場で自分の態度を変えるような人じゃありません。それに外見がどうのとか。お金がどうのとか。そんなことは関係ないんです。ある意味学者バカですからサメの研究が出来ればそれでいいという人です」
桜子はそこで一旦言葉を切ったが、その先は自分を押さえるように言った。
「御覧の通り牧野先輩の脚には傷跡があります。あの傷は深いんです。深かったんです。それにあそこだけじゃないんです。かなり上まで傷があります。先ほども言いましたけど、本当はこんなことは私が話していいことではないんです。でもあの傷が出来たのは私のせいなんです。だから私は先輩を守らなければならないんです。あの傷以上に心が傷つかないように」
桜子はどうしてあの傷が出来たのかを司に話し始めた。

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書庫で確かめた限り骨が折れているとは思えなかった。つまり捻挫ということになるが、隣に座る牧野つくしの沈黙は足首の痛みのせいではない。
それは敬意を払わなかった司の態度のせいだ。
足の具合を確かめるからとブーツを脱がせようとして、止めて欲しいと言われたが止めなかった。それは本人の意思を無視した行為だが、そうしたのは心配だったからだ。
だが牧野つくしは右足のふくらはぎの大きな傷跡を見られたことに羞恥を感じていた。
そして傷跡は膝の裏側から上へ向かって伸びているのは分かったが、膝より上にスカートをたくし上げることはなく、その先がどうなっているのか。はっきりとは分からなかった。
ただ、その傷跡は深い傷を負ったための痕だということは、ひと目で分かった。
そして本人もその傷跡を酷く気にしているということは一目瞭然で司に見られたことで動転していた。触らないでと感情がこもらない冷たい声で言われ手を跳ね除けられた。
司はその傷がどうしてできたのか気になった。
それは好きになった女が誰とも付き合うつもりはないと言ったことに関係していると直感的に理解したからだ。
だが今ここでそれを訊いたところで答えるとは思えず、病院へ着くまでの間、彼女の自尊心を尊重し黙っていた。
***
病院は道明寺系列で患者が司の連れともなれば医師の対応は早かった。
すぐに車椅子でレントゲン室に連れて行かれると、看護師からこちらでお待ち下さいと言われ司は三条桜子と一緒に待合室にいた。
「あの傷はどうして出来た?」
友人なら知っているはずだと司は真正面に席を取った女に訊いた。
「あれだけ痕が残るならかなり深い傷だったはずだが何があったんだ?」
と、言葉を継いだが三条桜子は答えなかった。
だから思いつく事を口にした。
「交通事故にでも遭ったのか?」
「道明寺副社長。これは牧野先輩の個人的なことです。いくら道明寺副社長がお知りになりたいとおっしゃられても私の口からお話しするべきではないと思います」
それはもっともらしい言葉だ。
だが司はそれでも訊いた。
「三条さん。あんた俺に訊いたよな?牧野つくしのことをどう考えているかって。遊びでどうかなる女と思ってるならそれは違うとも言った。それからあの人が傷つくのを見る訳にはいかないとも言った。その意味はあの傷に関係あるってことか?」
司は三条桜子にしっかりと視線を絡ませ言った。だが何も答えない女に自分の思いを口にすることにした。
「あんたの勘は鋭いな。どうやら俺が牧野つくしに興味を持ったことを知っているってことか?そうだろ?」
ええ。とも、いいえ。とも言わない女は黙って司の方を見ていた。
「俺が牧野つくしをどう考えているのかだが俺は彼女に惚れた。だから気にしてる。まあ、初めはそうじゃなかった。一見して真面目な大学准教授も金や名誉が欲しいに決まってる。金に惹かれて男を誘惑するようになる。どんな女も裏表がある。だからいずれそんな本性を見せると思った。寄付を決めたのは牧野つくしという女が深海ザメの研究をしていることが面白いと感じたこともだが、この女の本性がどんなものか知りたいと思ったからだ」
司は正直に話をした。
それは三条桜子という人間が牧野つくしに対し強い思いを抱いているのを感じていたからだ。まさにそれは親友と呼ばれる人間だけが持つ感情。つまり心底その人間に惚れていて、相手に対し尊敬を持っていることが感じられたからだ。
だからこそ司に向けられた目は厳しく言葉は容赦なかった。
「先輩をテストしてたってことですか?どんな女も金に靡くはずだ。だからそれを真面目な牧野先輩でも試してみようと思ったということですね?」
桜子はきつい調子でそう言って司をじっと見た。そして言葉を継いだ。
「つまり道明寺副社長は先輩を女として見下そうとしていたんですね?もしそうなら先輩をバカにするのもいい加減にして下さい。あの人は心底真面目な人です。相手の立場で自分の態度を変えるような人じゃありません。それに外見がどうのとか。お金がどうのとか。そんなことは関係ないんです。ある意味学者バカですからサメの研究が出来ればそれでいいという人です」
桜子はそこで一旦言葉を切ったが、その先は自分を押さえるように言った。
「御覧の通り牧野先輩の脚には傷跡があります。あの傷は深いんです。深かったんです。それにあそこだけじゃないんです。かなり上まで傷があります。先ほども言いましたけど、本当はこんなことは私が話していいことではないんです。でもあの傷が出来たのは私のせいなんです。だから私は先輩を守らなければならないんです。あの傷以上に心が傷つかないように」
桜子はどうしてあの傷が出来たのかを司に話し始めた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
さて。つくしの傷ですが桜子は自分のせいだと言いいます。
彼女の口から何が語られるのでしょうねぇ。
そしてそれを訊く司は、そのことをどう考えるのでしょうね。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
さて。つくしの傷ですが桜子は自分のせいだと言いいます。
彼女の口から何が語られるのでしょうねぇ。
そしてそれを訊く司は、そのことをどう考えるのでしょうね。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.02.05 21:46 | 編集
