静寂が広がる暗闇というのは怖い。何も見えないことで不安が募る。
人によっては吐き気や震え感じ思考が不明瞭になりパニックを起こす。
だが幸いつくしは暗所恐怖症ではない。
それは水深計を付けて潜る海の暗さを知っているからだ。
そこは切りたった岩場が深々と落ち込んでいる場所。
深々と落ち込んだ海の水は重く紺青の闇が広がり、魚の姿を見ることは出来ない。
そしてその先に棲むのは深海ザメであり、彼らは暗闇の中で生きている。今の自分がそのサメと同じだと思えばこの暗闇を怖がる必要はない。だが足首の痛さは暗闇の恐怖以上のものを与えていた。
もしかすると右足首が折れているかもしれない。
足首はズキズキと傷み立ち上がることは出来なかった。
正確に言えば痛むのは足首より少し上まであるショートブーツの中でだが、骨折だとすればこのままの状況でいいはずがない。
そして今は扉まで行くこと以外のことは頭になかった。早くここから出て誰か人を呼ばなければと思った。そして病院に行かなければと思った。
立ち上って歩くことが出来るなら部屋の入口へは数秒で行けるはずだ。
けれど暗闇の中、書架伝いに恐らくこちらがそうだと思える方向へ這って向かっているが、背の高い書架が倒れてくるのではないかという気にさせられるのは、ここが海ではないからだ。もし今この状況で地震が起これば書架が倒れ、古い本が頭の上にバサバサと降り注ぎ身体は本に埋もれてしまうのか。そして明日の朝まで誰にも気づかれずここにいることになるのか。
もしかすると明日の朝になっても誰もここを訪れることはなく、何日間も書庫の床に横たわったまま誰にも気づかれることはなく息絶えてしまうのだろうか。
ふと、そんな光景が頭を過ったが直ぐに打ち消すように言った。
「そんなことある訳ないじゃない。….でも地震はいつ起こってもおかしくないわよね…」
言った先から直ぐに自分の言葉を否定したが、それはあり得ない話ではないから。
けれど、そんな事を考えるよりも手を動かし前進するしかない。それにこうして少しずつでも移動できるだけでもいい。そして扉の外に出て誰かを呼ぶことをしなければ。だが今日は6時で閉館したのなら事務室に人が居ない可能性が考えられる。と、なると図書館の中には誰もいないということだ。だがなんとかなる。なるはずだ。今までだって何かあってもなんとかしてきたのだから。
***
「閉館?おかしいですね?21時まで開いているはずですが」
傘をさした司はそう言った秘書の隣に立ち、入口に閉館の札が掛けられた建物を見ていた。
羽田に着いた時はみぞれ交じりの雨だったが、今は小雨に変わっていた。
図書館は改修中で足場が組まれ防音シートで囲まれていることから窓を見ることは出来ず、明かり灯っていたとしても外からは見えなかった。
そして入口のガラス扉の奥は暗く、見えるのは緑の非常口誘導灯の明かりだけで、どう見ても人がいるようには思えなかった。
「本当に図書館に行くって言ったのか?」
司の問いかけに秘書は、「はい。施設管理棟に書類を届けたその足で図書館に行くと言っていました」と言って司の顔を見た。
「携帯は持ってないのか?」
「先輩は常に携帯がないと不安だという人間ではありません。どちらかと言えば携帯は持ち歩きたくないという人間です。それに図書館で携帯は必要ありませんから」と言ったが、「でも私は携帯はいつも持ち歩いて下さいとお願いしているんです。大学は広いですし急ぎの用があっても連絡が取りやすいですから」と言葉を継いだ。
司はその言葉に先日訪問した時、秘書がわざわざカフェテリアにいる牧野つくしを呼びに行くと言ったのは、そう言うことだったのかと納得した。
だがそう納得しながらも、牧野つくしは我が身を守る警報器を自ら手放していることを知った。
「この状況はおかしですよね。先輩は確かに図書館に行くと言ったんです。でも閉館しているなら研究室に戻って来てもいいはずです。それに夜です。荷物を置いてどこに行くって言うんですか?」
秘書はそう言って司の顔を見たが、その表情は研究室で司を見据えたものとは明らかに違い不安の色が浮かんでいた。
「ここの鍵は?」
「え?」
「牧野つくしはここに来ると言ったなら、ここから調べた方がいい。ここの鍵はどこで保管してる?」
「施設管理棟にあります。棟の中に警備室があります。夜は警備員が構内を見回り巡回をします。夜はそこで各建物の鍵を管理してます」
司は後ろに控える男たちに頷いた。
どこに行くにも影のように付いて来る男たちは司の身の安全を守り、命令に従うのが仕事だ。
そして秘書は、「私が鍵を借りて来ます。警備員は私のことを知っています」と言って司に「これ、すみません」と言って牧野つくしの荷物を預けると背を向け駆け出していた。

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人によっては吐き気や震え感じ思考が不明瞭になりパニックを起こす。
だが幸いつくしは暗所恐怖症ではない。
それは水深計を付けて潜る海の暗さを知っているからだ。
そこは切りたった岩場が深々と落ち込んでいる場所。
深々と落ち込んだ海の水は重く紺青の闇が広がり、魚の姿を見ることは出来ない。
そしてその先に棲むのは深海ザメであり、彼らは暗闇の中で生きている。今の自分がそのサメと同じだと思えばこの暗闇を怖がる必要はない。だが足首の痛さは暗闇の恐怖以上のものを与えていた。
もしかすると右足首が折れているかもしれない。
足首はズキズキと傷み立ち上がることは出来なかった。
正確に言えば痛むのは足首より少し上まであるショートブーツの中でだが、骨折だとすればこのままの状況でいいはずがない。
そして今は扉まで行くこと以外のことは頭になかった。早くここから出て誰か人を呼ばなければと思った。そして病院に行かなければと思った。
立ち上って歩くことが出来るなら部屋の入口へは数秒で行けるはずだ。
けれど暗闇の中、書架伝いに恐らくこちらがそうだと思える方向へ這って向かっているが、背の高い書架が倒れてくるのではないかという気にさせられるのは、ここが海ではないからだ。もし今この状況で地震が起これば書架が倒れ、古い本が頭の上にバサバサと降り注ぎ身体は本に埋もれてしまうのか。そして明日の朝まで誰にも気づかれずここにいることになるのか。
もしかすると明日の朝になっても誰もここを訪れることはなく、何日間も書庫の床に横たわったまま誰にも気づかれることはなく息絶えてしまうのだろうか。
ふと、そんな光景が頭を過ったが直ぐに打ち消すように言った。
「そんなことある訳ないじゃない。….でも地震はいつ起こってもおかしくないわよね…」
言った先から直ぐに自分の言葉を否定したが、それはあり得ない話ではないから。
けれど、そんな事を考えるよりも手を動かし前進するしかない。それにこうして少しずつでも移動できるだけでもいい。そして扉の外に出て誰かを呼ぶことをしなければ。だが今日は6時で閉館したのなら事務室に人が居ない可能性が考えられる。と、なると図書館の中には誰もいないということだ。だがなんとかなる。なるはずだ。今までだって何かあってもなんとかしてきたのだから。
***
「閉館?おかしいですね?21時まで開いているはずですが」
傘をさした司はそう言った秘書の隣に立ち、入口に閉館の札が掛けられた建物を見ていた。
羽田に着いた時はみぞれ交じりの雨だったが、今は小雨に変わっていた。
図書館は改修中で足場が組まれ防音シートで囲まれていることから窓を見ることは出来ず、明かり灯っていたとしても外からは見えなかった。
そして入口のガラス扉の奥は暗く、見えるのは緑の非常口誘導灯の明かりだけで、どう見ても人がいるようには思えなかった。
「本当に図書館に行くって言ったのか?」
司の問いかけに秘書は、「はい。施設管理棟に書類を届けたその足で図書館に行くと言っていました」と言って司の顔を見た。
「携帯は持ってないのか?」
「先輩は常に携帯がないと不安だという人間ではありません。どちらかと言えば携帯は持ち歩きたくないという人間です。それに図書館で携帯は必要ありませんから」と言ったが、「でも私は携帯はいつも持ち歩いて下さいとお願いしているんです。大学は広いですし急ぎの用があっても連絡が取りやすいですから」と言葉を継いだ。
司はその言葉に先日訪問した時、秘書がわざわざカフェテリアにいる牧野つくしを呼びに行くと言ったのは、そう言うことだったのかと納得した。
だがそう納得しながらも、牧野つくしは我が身を守る警報器を自ら手放していることを知った。
「この状況はおかしですよね。先輩は確かに図書館に行くと言ったんです。でも閉館しているなら研究室に戻って来てもいいはずです。それに夜です。荷物を置いてどこに行くって言うんですか?」
秘書はそう言って司の顔を見たが、その表情は研究室で司を見据えたものとは明らかに違い不安の色が浮かんでいた。
「ここの鍵は?」
「え?」
「牧野つくしはここに来ると言ったなら、ここから調べた方がいい。ここの鍵はどこで保管してる?」
「施設管理棟にあります。棟の中に警備室があります。夜は警備員が構内を見回り巡回をします。夜はそこで各建物の鍵を管理してます」
司は後ろに控える男たちに頷いた。
どこに行くにも影のように付いて来る男たちは司の身の安全を守り、命令に従うのが仕事だ。
そして秘書は、「私が鍵を借りて来ます。警備員は私のことを知っています」と言って司に「これ、すみません」と言って牧野つくしの荷物を預けると背を向け駆け出していた。

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司*****E様
おはようございます^^
もうすぐ助けが来るはず。そうですよね。図書館の前まで来ています。あともう少し頑張れつくし!
図書館の18時閉館。それを不思議に思う桜子。
普段からよく利用しているなら気付いているはずですが気付かなかったつくし。う~ん。どうしてなのでしょう。
司のバースデー。彼はいったい幾つになったんでしょうね?(笑)
それに相応しいお話になっているかどうか分かりませんが明日は一応それらしいお話です。
楽しんでいただけるといいのですが...。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
もうすぐ助けが来るはず。そうですよね。図書館の前まで来ています。あともう少し頑張れつくし!
図書館の18時閉館。それを不思議に思う桜子。
普段からよく利用しているなら気付いているはずですが気付かなかったつくし。う~ん。どうしてなのでしょう。
司のバースデー。彼はいったい幾つになったんでしょうね?(笑)
それに相応しいお話になっているかどうか分かりませんが明日は一応それらしいお話です。
楽しんでいただけるといいのですが...。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.01.30 23:11 | 編集

と*****ン様
早く見つけたげて~。
そして暖めてあげて~。
OK‼という気持ちはあるんですよ(笑)
カキのアヒージョでパスタ!素敵!
食べたい~。そして二日酔い。ま!羨ましい!
今夜も炭酸水のアカシアです^^
コメント有難うございました^^
早く見つけたげて~。
そして暖めてあげて~。
OK‼という気持ちはあるんですよ(笑)
カキのアヒージョでパスタ!素敵!
食べたい~。そして二日酔い。ま!羨ましい!
今夜も炭酸水のアカシアです^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.01.30 23:16 | 編集
