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2019
01.29

理想の恋の見つけ方 70

書庫の電気が突然消えた。

「きゃっ…..」

一瞬何が起こったのか分からなかったが、入口の扉がバタンと閉まる音が聞こえ、続いてガチャリと鍵が締まる音がした。

「ちょっと待って!ここに居ます!ここに人が居ます!あ、灯りを点けて!」

だが声が聞こえなかったのか。扉が開くこともなければ灯りが点くこともなかった。
この状況は、もしかしてここに人がいるとは思わない誰かが灯りを消し、扉を閉めたということか。だとすれば、つくしはここに閉じ込められたということになり慌てた。
書架に囲まれた暗闇の中だということもあるが、はじめて来た場所であり周囲の状況を把握していないことに方向感覚が失われた。そしてその中で伸ばした手が触れるのは本だけだ。
真っ暗闇の中、今はその本伝いに歩みを進めなければならなかった。

「どうしよう….」

声に出した言葉は、まさに心の中そのままの気持だ。
だがどうしようも、こうしようもここから出なければならなかった。
方向感覚が失われたとしても、回れ右をすれば入口へ向かうことは出来るはずだ。それに外から鍵が掛けられたとしても、部屋の鍵というものは内側からなら開けられるはずだ。
だから時間がかかったとしてもここから出ることは出来る。閉じ込められるということはない。

「大丈夫よ。別に窮地に陥った訳じゃないんだから」

と、思いを口にして後ろを向こうとした。
だがその時、コートが何かにひっかかり身体が前につんのめり、右足を強くひねり途中何かを掴むことも出来ず身体は床に投げ出されるように倒れた。
そして痛みというのは動きも言葉も封じ込め、ただ呻き声を上げるしか出来なかった。
だがなんとか身体を起こし座り込むような形になった。それから立ち上がろうとしたが鋭い痛みが右足首を貫き出来なかった。そしてその時やっと言葉が口をついた。

「痛い….」

右足首がどうなったのか。暗闇ではそれを目視で確かめることは出来ない。だから履いている長いスカートを捲り上げ触れたが激痛が走った。
それは今まで感じたことがない痛みであり、悪いことは考えたくはないが、もしかすると骨が折れたのではないか。

「まさか….」

歩くのが無理だとすれば、どうしたらいいのか。
だが考えを巡らせたところで良い答えが出るとは思えなかった。
それにインフルエンザからは回復したが、まだ体力は本調子とは言えず、この状況でじっとしている訳にはいかなかった。
暗闇の中コートを着ているとはいえ、冷たい空気に満たされた書庫で座り込んでいれば風邪をひく。だから立てないなら這ってでも部屋の入口へ向かわなければならなかった。
それに暗闇にひとりでいることは怖い。だから理性を保つため言葉に出して自分に言い聞かせた。

「大丈夫よ。大丈夫。落ち着いて。それに扉まで行けば大丈夫」

だが足首は折れているかもしれないと自覚した途端痛みが増していた。
寒い部屋にいるのにそこだけが熱を持っているように感じられ、暗闇の中ということもあり不安が募った。
それでもその不安を押し殺し部屋の入口まで這うことを始めた。







***







司が牧野つくしの所属する研究室に足を踏み入れたのは午後7時45分。
そこには教授秘書がひとりだけで牧野つくしの姿はなかった。
そして秘書は司の突然の訪問に驚いた顔をしたが、彼がここに来る理由はひとつしかないのだから何かを訊くことはなく、「牧野先生は図書館に行ってらっしゃいます」と言って口を閉じ少し黙ってから「うちの図書館は9時まで開いていますから先生は暫く戻ってこないと思います」と言葉を継ぎどこか意味ありげに彼を見た。そして言った。

「あの。道明寺副社長。大変失礼ですが副社長は牧野先生のことをどうお考えですか?」

司は秘書の言葉に片眉を上げた。
その問いかけはまるで司の想いを推し量るような言葉。だが何故秘書がそんなことを訊くのか。

「差し出がましい事を申し上げますが、もし道明寺副社長が牧野先生の事を遊びでどうかなる女と思っているならそれは違いますから」

司を見据えそう言った秘書は一体何が言いたいのか。

「私は牧野先生の友人です。だから先生の….いえ牧野先輩が、あの人が傷つくのを見る訳にはいかないんです」

司は牧野つくしの友人だと言う秘書が彼女の語りたがらない何かを知っているのではないかと思った。だから秘書の言葉に先を促した。

「どうして俺が牧野つくしを傷つけると?」

「最近の先輩は以前とは違う表情を浮かべることがあります。それは今までにない嬉しそうな顔です。だから先輩は好きな人がいるんじゃないですか。恋をしてるんじゃないですかって訊いたんです。相手は道明寺副社長ですか?それとも若林建設の専務ですかって。その答えは気になる人がいるとだけでした。それからその人のことはこれからだと言いました。先輩は恋愛に興味がなかった人です。それに今まで先輩の傍には男性の影は一切ありませんでした。そんな人がそんなことを言い出したんです。今先輩の身近にいる男性は道明寺副社長と若林建設の専務だけです。だからお二人のうちのどちらかと思ったんです」


秘書から司への問いかけは、私の言葉に何か言いたいことはありませんか?ということを言外に言っていたが司は何も答えなかった。
そして秘書は司が何も言わない事に、それ以上何かを言うことはなかった。

「それにしても戻って来るのが遅いですね。いくら9時まで図書館が開いているからと言ってもギリギリまでいることはないんです。教授もお帰りになりましたし、そろそろ研究室の戸締りをしようと思います。でも先輩の荷物はここにありますから図書館まで持って行きますが、先輩にご用がおありならご一緒しませんか?」

司はそう言われ、秘書が牧野つくしの荷物を手に研究室の扉に鍵をかけると、「どうぞこちらです」と言われ後に従った。




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コメント
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dot 2019.01.29 08:32 | 編集
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dot 2019.01.29 19:48 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
冬の夜。そして病み上がりの身体で寒い書庫に閉じ込められてしまいました。
つくしは大丈夫でしょうか。
そして桜子の司に対する態度。司が寄付を決めた頃は好意的でしたが、どうやらこれは何か違うと思い始めたようです(笑)
つくしの為なら経済界のサメにも臆することがない桜子。彼女の存在は大きいかもしれません。
え?早く図書館に駆け付けろ?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.29 22:41 | 編集
と*****ン様
いよいよ?え~(笑)
なかなか筆が進まず申し訳ないです。
勢いでシャンパン!(≧▽≦)いいですねぇ。
アカシア、只今炭酸水を飲んでおります!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.29 22:46 | 編集
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