研究室の窓の向こうは雨が降っていた。
1月の雨は南岸低気圧によってもたらされたもので明け方には雪に変わると言われていたが、朝起きた時雪ではなく雨だった。
東京は雪に弱いと言われる街で、ひとたび雪が降れば車はスリップして道を塞ぎ電車は止まり交通機関は麻痺して機能を果たさなくなってしまうことが多い。だから雪が降ることがなくて助かったというのが正直な気持ちだ。
そして大学は、この季節になると慌ただしさを感じさせる。
それは入試のシーズンに突入するからだが、センター試験が始まり一般入試を経て3月の後期二次試験。そして3月下旬に合格発表がされるまでは落ち着かない気持ちにさせられる。それはひとりでも多くの学生が自分の望む大学に進学して欲しいという思いからだが、定員が決まっている以上、希望者全てが合格できるのではない。だから、せめて天気だけでもベストな状況で受験が出来ることを祈っていた。
そんな中で、つくしは卒業していく学生たちの開くゼミの打ち上げに参加していた。
「牧野先生。遠慮しないで飲んで下さいね」
女子学生からそう言われ「うん。ありがとう。じゃあ頂くわね」と言って目の前に置かれたワインの入ったグラスを手に取った。すると、「ええ。じゃんじゃん頂いて下さい。先生には本当にお世話になりました。ではみなさん乾杯をしましょう!」と言われ乾杯するとグラスを口に運んだ。
つくしのゼミは圧倒的に男子学生が多いことから、普段学生たちとの食事会と言えば居酒屋が多いが、今夜は卒業する学生のゼミの打ち上げということもあり、ちょっとリッチにいくことにしましたと言われ幹事の女子学生が手配したのはホテルメープルでの会食だった。
そしてその席に着いている学生たちは、スーツやワンピースといったホテルのレストランに相応しい服装をしていて大人びた風貌の学生もいた。
間もなく卒業する彼らは、学んだことを生かして環境ソリューション分野の会社へ就職する者もいれば、学んだこととは全く関係のない銀行やサービス業に就職を決めた者もいた。だがそれは海洋生物学という専門的なことを学んだ学生にはよくあることであり、必ずしも学んだことを生かせる仕事につけるとは限らないことを示していた。
そして中には道明寺グループの企業に就職が決まった男子学生もいた。
「俺さ。道明寺に就職が決まったけど海には全然関係ない仕事だろ?けど牧野先生のゼミで勉強したことはいい経験だと思ってる。中でも何が面白かったって言えば、初めての駿河湾での調査だな。あの時サクラエビ漁の漁師が深海から引き上げた生きた化石と呼ばれるラブカには感動した。身体を触ってみたらつるつるしてて気持ちが良かったのも以外過ぎて感動した。それからラブカが妊娠期間が最も長い動物だってことにも驚いたな。何しろ3年以上妊娠してるってんだからメスは大変だよな」
ラブカは3億5千年前にも生きていたと言われるサメ。
大きさが最大2メートル前後で外観はサメというよりもウナギに似ていて、ウナギのように身体を波打たせて泳ぐ。だから別名ウナギザメと呼ばれていた。
そして陸上の哺乳類で妊娠期間が一番長いと言われるゾウの妊娠期間は2年から2年半あるがラブカはそれよりも長い3年半あった。
「そうよね。私もラブカの妊娠期間が3年半だって知って驚いたわ」
女子学生は男子学生の隣で出されたコース料理の前菜を口に運びながら答え、ワイングラスを口元へ運んだ。
「だろ?ゾウの妊娠期間が2年くらいでそれでも長いって思うのに、3年以上ってどんだけ長いんだよな?」
と答えた男子学生も同じようにワインを口にした。
未成年でない彼らは堂々と酒が飲めるが、その態度はすでに社会人といってもおかしくないほど場慣れしていた。それはここが一流と呼ばれるホテルのひとつだというのに、臆することがないからだ。つまりそれは彼らが社交性に富んでいてこういった場所で食事をすることにも慣れているということなのか。だとすれば、つくしの学生時代とは大きな違いだった。
そしてこれからの彼らには、どんな未来が待っているのか。
どちらにしても彼らは色々な可能性を持っているはずだ。
「それにしてもラブカは出産する時だけ沿岸に近づいてくるっていうんだから、ウナギがマリアナ海溝まで行って産卵するのと同じってことよね?でも人間に置き換えて考えてみたら人間が3年半も妊娠してたら大変よ?」
「そうだよな。3年半も妊娠した状態でいたら大変だろうな。家事なんかどうすんだよ?掃除洗濯買い物。3年半も大きな腹でやるんだぞ?」
「何言ってるのよ?何も奥さんだけが全部するなんてことないでしょ?そんなの夫が手伝うのが当然でしょ?それに料理だって夫が作ってもいいのよ?いい?高橋君。そんな何でも女性にしてもらおうなんて甘いわよ。そんなんじゃ結婚してくれる人いないわよ?今の世の中、夫も妻を手伝うのが当たり前なんだからね?」
女子学生にそう言われた高橋は、「分かったって。そんなに言うなよ。俺だって掃除や洗濯くらい出来るぞ。それに料理だって男の料理なら作ってやれる」と言った。
「ふーん。でも高橋君の料理ってインスタントラーメンでしょ?それじゃあねぇ」
「別にいいだろ。喰えるんだから」
「あのね、妊娠した妻にインスタントラーメンを食べさせるなんて、どう考えてもおかしいわよ。お腹には大事な子供がいるのに、もっと栄養がある物を食べなきゃダメでしょ?」
栄養のあるものを食べなきゃダメ。
つくしは教え子たちの会話を訊きながら、その言葉を反芻していた。
インフルエンザから回復し食料を調達するためコンビニへ出かけようとした時かかってきた電話のことを。
あの日。これから食べ物を買いに行くと言った時、病み上がりで寒い中、外へ出るのは控えた方がいいと言われたが、まともに食べれる物が無い。それこそラーメンも無いと言った。
そしていつも出前を頼む中華料理屋は正月休みだと言われたと答えると、「ああ。私の電話番号と間違えたあの中華料理屋ですか」と言って笑うと驚くような事を口にした。
「あなたは中華料理がお好きなようですので次の番号に電話をすればいい。そこは私が懇意にしている中華料理店ですが、そこなら料理を配達してくれる。私はあなたの名前は知りませんが、あなたのことを長谷川という名前で話をつけておきます。それから私の名前は『杉村』ということにしておきます。だからあなたは電話で、長谷川だが杉村の件でと言えばいい。それで相手はわかる。外は寒い。病み上がりのあなたがわざわざ外へ出ていく必要なない。これは私からのお見舞いだと思ってください。私がご馳走します」
そう言って教えてられた番号はメープルの中にある東京で一番美味しいと言われる老舗中華料理店。迷ったがつくしは感謝の気持を持ちながら電話をすることに決めた。
それはその人のことを知りたいと思ったからだ。電話の男性はつくしが中華料理店に電話をしたことで、つくしの住所を知ることになるのか。だがそれなら逆につくしがその男性の何かを知ることが出来るはずだと思った。だが電話を受けた店の人間は、当店がお伺いしたお客様の情報はどなた様にもお知らせすることはありませんと言われた。
つまり顧客情報の管理は徹底していると言うことだ。
そして『長谷川様』にお届けする料理は、と言われ「髪菜(はっさい)と海鮮、フカヒレのスープ」「牛ヒレ肉とピーマンの細切り炒め」「トリュフの香りのきのこチャーハン」「北京ダックと点心盛り合わせ」「季節の果物」となっておりますが他にご希望があればなんなりとお伺いいたしますと言われた。
そして1時間後には夢のような料理がつくしの手元に届けられた。
「そう言えば俺の友達で高森開発に就職が決まってるのがいるんだけど、あんなことになっただろ?あんな風に会社がゴタゴタしてるから就職大丈夫かって心配してるぜ」
「そうよね。まさか高森開発があんなことになるなんて」
「だろ?でも道明寺が買うって話がある。けどまだ噂だからどうなるか分かんねぇよな」
つくしは学生たちの話に高森開発が出たことで、あの日のことを思い出していた。
それは道明寺副社長のパートナーとしてパーティーに出席したが、そこで高森真理子に化粧室の前で声をかけられ、道明寺副社長の恋人だと言われたことを。
だがつい先日テレビで見たのは、真理子の夫である社長の高森隆三が釈明をする姿であり、記者たちに向かって深々と頭を下げる姿だった。
「__牧野先生?牧野先生?」
「え?」
「そう言えば牧野先生は道明寺副社長のブレーンになったじゃないですか?いつだったか道明寺副社長が大学のカフェテリアに居たって話を訊きましたけど、先生は道明寺副社長に興味は無いんですか?私は本人を見たことがありませんけど、その時見かけた学生は凄くかっこよかったって自慢してたんですよ?それを訊いて凄い羨ましかったんですから」
つくしが彼女たちと同じ年だった頃、一回り以上も年が離れた男性を恋愛対象と見たことはなかったが、果たして教え子はどうなのか。まだ若いから人の本質よりも他の部分を見ているのか。だとしたら褒められたものではないが、それは今ここで言うことではない。
今夜はゼミの打ち上げであり、学生たちにとっては楽しい場であるのだから。
だからつくしは明るく答えた。
「やあねぇ。興味なんて無いわよ」
「そうなんですか?それ凄く勿体ない話ですよ。本当に興味がないんですか?道明寺ホールディングスの次期社長ですよ?凄いお金持ちでかっこいい男性ですよ?そんな人の傍に近寄ることが出来る女性なんてこの世の中に何人もいないんですよ?それなのに興味が無いんですか?」
「無いわよ。大体考えてみて。そんなにお金持ちの男性が大学で教えている女に興味を持つと思う?」
「え~。だって先生可愛いじゃないですか。年だって….そりゃ30代ですけど私たちと見た目はそんなに変わりませんから」
一回りも年下の学生からそう言われても本気にはしなかった。
そしてやはりさっきは言うまいと思っていたことを口にしていた。
「いい?あなたち。これから社会に出ても外見だけで人を判断してはダメよ。それから自分に自信を持って生きてね。あなたたちの未来はこれからよ。今からが人生のスタートよ!」
宣言するような言い方で道明寺司のことは食事の話題から外したが、女子学生からは、
「あ~あ。道明寺副社長のこと訊きたかったのに!」と残念そうに言われた。

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1月の雨は南岸低気圧によってもたらされたもので明け方には雪に変わると言われていたが、朝起きた時雪ではなく雨だった。
東京は雪に弱いと言われる街で、ひとたび雪が降れば車はスリップして道を塞ぎ電車は止まり交通機関は麻痺して機能を果たさなくなってしまうことが多い。だから雪が降ることがなくて助かったというのが正直な気持ちだ。
そして大学は、この季節になると慌ただしさを感じさせる。
それは入試のシーズンに突入するからだが、センター試験が始まり一般入試を経て3月の後期二次試験。そして3月下旬に合格発表がされるまでは落ち着かない気持ちにさせられる。それはひとりでも多くの学生が自分の望む大学に進学して欲しいという思いからだが、定員が決まっている以上、希望者全てが合格できるのではない。だから、せめて天気だけでもベストな状況で受験が出来ることを祈っていた。
そんな中で、つくしは卒業していく学生たちの開くゼミの打ち上げに参加していた。
「牧野先生。遠慮しないで飲んで下さいね」
女子学生からそう言われ「うん。ありがとう。じゃあ頂くわね」と言って目の前に置かれたワインの入ったグラスを手に取った。すると、「ええ。じゃんじゃん頂いて下さい。先生には本当にお世話になりました。ではみなさん乾杯をしましょう!」と言われ乾杯するとグラスを口に運んだ。
つくしのゼミは圧倒的に男子学生が多いことから、普段学生たちとの食事会と言えば居酒屋が多いが、今夜は卒業する学生のゼミの打ち上げということもあり、ちょっとリッチにいくことにしましたと言われ幹事の女子学生が手配したのはホテルメープルでの会食だった。
そしてその席に着いている学生たちは、スーツやワンピースといったホテルのレストランに相応しい服装をしていて大人びた風貌の学生もいた。
間もなく卒業する彼らは、学んだことを生かして環境ソリューション分野の会社へ就職する者もいれば、学んだこととは全く関係のない銀行やサービス業に就職を決めた者もいた。だがそれは海洋生物学という専門的なことを学んだ学生にはよくあることであり、必ずしも学んだことを生かせる仕事につけるとは限らないことを示していた。
そして中には道明寺グループの企業に就職が決まった男子学生もいた。
「俺さ。道明寺に就職が決まったけど海には全然関係ない仕事だろ?けど牧野先生のゼミで勉強したことはいい経験だと思ってる。中でも何が面白かったって言えば、初めての駿河湾での調査だな。あの時サクラエビ漁の漁師が深海から引き上げた生きた化石と呼ばれるラブカには感動した。身体を触ってみたらつるつるしてて気持ちが良かったのも以外過ぎて感動した。それからラブカが妊娠期間が最も長い動物だってことにも驚いたな。何しろ3年以上妊娠してるってんだからメスは大変だよな」
ラブカは3億5千年前にも生きていたと言われるサメ。
大きさが最大2メートル前後で外観はサメというよりもウナギに似ていて、ウナギのように身体を波打たせて泳ぐ。だから別名ウナギザメと呼ばれていた。
そして陸上の哺乳類で妊娠期間が一番長いと言われるゾウの妊娠期間は2年から2年半あるがラブカはそれよりも長い3年半あった。
「そうよね。私もラブカの妊娠期間が3年半だって知って驚いたわ」
女子学生は男子学生の隣で出されたコース料理の前菜を口に運びながら答え、ワイングラスを口元へ運んだ。
「だろ?ゾウの妊娠期間が2年くらいでそれでも長いって思うのに、3年以上ってどんだけ長いんだよな?」
と答えた男子学生も同じようにワインを口にした。
未成年でない彼らは堂々と酒が飲めるが、その態度はすでに社会人といってもおかしくないほど場慣れしていた。それはここが一流と呼ばれるホテルのひとつだというのに、臆することがないからだ。つまりそれは彼らが社交性に富んでいてこういった場所で食事をすることにも慣れているということなのか。だとすれば、つくしの学生時代とは大きな違いだった。
そしてこれからの彼らには、どんな未来が待っているのか。
どちらにしても彼らは色々な可能性を持っているはずだ。
「それにしてもラブカは出産する時だけ沿岸に近づいてくるっていうんだから、ウナギがマリアナ海溝まで行って産卵するのと同じってことよね?でも人間に置き換えて考えてみたら人間が3年半も妊娠してたら大変よ?」
「そうだよな。3年半も妊娠した状態でいたら大変だろうな。家事なんかどうすんだよ?掃除洗濯買い物。3年半も大きな腹でやるんだぞ?」
「何言ってるのよ?何も奥さんだけが全部するなんてことないでしょ?そんなの夫が手伝うのが当然でしょ?それに料理だって夫が作ってもいいのよ?いい?高橋君。そんな何でも女性にしてもらおうなんて甘いわよ。そんなんじゃ結婚してくれる人いないわよ?今の世の中、夫も妻を手伝うのが当たり前なんだからね?」
女子学生にそう言われた高橋は、「分かったって。そんなに言うなよ。俺だって掃除や洗濯くらい出来るぞ。それに料理だって男の料理なら作ってやれる」と言った。
「ふーん。でも高橋君の料理ってインスタントラーメンでしょ?それじゃあねぇ」
「別にいいだろ。喰えるんだから」
「あのね、妊娠した妻にインスタントラーメンを食べさせるなんて、どう考えてもおかしいわよ。お腹には大事な子供がいるのに、もっと栄養がある物を食べなきゃダメでしょ?」
栄養のあるものを食べなきゃダメ。
つくしは教え子たちの会話を訊きながら、その言葉を反芻していた。
インフルエンザから回復し食料を調達するためコンビニへ出かけようとした時かかってきた電話のことを。
あの日。これから食べ物を買いに行くと言った時、病み上がりで寒い中、外へ出るのは控えた方がいいと言われたが、まともに食べれる物が無い。それこそラーメンも無いと言った。
そしていつも出前を頼む中華料理屋は正月休みだと言われたと答えると、「ああ。私の電話番号と間違えたあの中華料理屋ですか」と言って笑うと驚くような事を口にした。
「あなたは中華料理がお好きなようですので次の番号に電話をすればいい。そこは私が懇意にしている中華料理店ですが、そこなら料理を配達してくれる。私はあなたの名前は知りませんが、あなたのことを長谷川という名前で話をつけておきます。それから私の名前は『杉村』ということにしておきます。だからあなたは電話で、長谷川だが杉村の件でと言えばいい。それで相手はわかる。外は寒い。病み上がりのあなたがわざわざ外へ出ていく必要なない。これは私からのお見舞いだと思ってください。私がご馳走します」
そう言って教えてられた番号はメープルの中にある東京で一番美味しいと言われる老舗中華料理店。迷ったがつくしは感謝の気持を持ちながら電話をすることに決めた。
それはその人のことを知りたいと思ったからだ。電話の男性はつくしが中華料理店に電話をしたことで、つくしの住所を知ることになるのか。だがそれなら逆につくしがその男性の何かを知ることが出来るはずだと思った。だが電話を受けた店の人間は、当店がお伺いしたお客様の情報はどなた様にもお知らせすることはありませんと言われた。
つまり顧客情報の管理は徹底していると言うことだ。
そして『長谷川様』にお届けする料理は、と言われ「髪菜(はっさい)と海鮮、フカヒレのスープ」「牛ヒレ肉とピーマンの細切り炒め」「トリュフの香りのきのこチャーハン」「北京ダックと点心盛り合わせ」「季節の果物」となっておりますが他にご希望があればなんなりとお伺いいたしますと言われた。
そして1時間後には夢のような料理がつくしの手元に届けられた。
「そう言えば俺の友達で高森開発に就職が決まってるのがいるんだけど、あんなことになっただろ?あんな風に会社がゴタゴタしてるから就職大丈夫かって心配してるぜ」
「そうよね。まさか高森開発があんなことになるなんて」
「だろ?でも道明寺が買うって話がある。けどまだ噂だからどうなるか分かんねぇよな」
つくしは学生たちの話に高森開発が出たことで、あの日のことを思い出していた。
それは道明寺副社長のパートナーとしてパーティーに出席したが、そこで高森真理子に化粧室の前で声をかけられ、道明寺副社長の恋人だと言われたことを。
だがつい先日テレビで見たのは、真理子の夫である社長の高森隆三が釈明をする姿であり、記者たちに向かって深々と頭を下げる姿だった。
「__牧野先生?牧野先生?」
「え?」
「そう言えば牧野先生は道明寺副社長のブレーンになったじゃないですか?いつだったか道明寺副社長が大学のカフェテリアに居たって話を訊きましたけど、先生は道明寺副社長に興味は無いんですか?私は本人を見たことがありませんけど、その時見かけた学生は凄くかっこよかったって自慢してたんですよ?それを訊いて凄い羨ましかったんですから」
つくしが彼女たちと同じ年だった頃、一回り以上も年が離れた男性を恋愛対象と見たことはなかったが、果たして教え子はどうなのか。まだ若いから人の本質よりも他の部分を見ているのか。だとしたら褒められたものではないが、それは今ここで言うことではない。
今夜はゼミの打ち上げであり、学生たちにとっては楽しい場であるのだから。
だからつくしは明るく答えた。
「やあねぇ。興味なんて無いわよ」
「そうなんですか?それ凄く勿体ない話ですよ。本当に興味がないんですか?道明寺ホールディングスの次期社長ですよ?凄いお金持ちでかっこいい男性ですよ?そんな人の傍に近寄ることが出来る女性なんてこの世の中に何人もいないんですよ?それなのに興味が無いんですか?」
「無いわよ。大体考えてみて。そんなにお金持ちの男性が大学で教えている女に興味を持つと思う?」
「え~。だって先生可愛いじゃないですか。年だって….そりゃ30代ですけど私たちと見た目はそんなに変わりませんから」
一回りも年下の学生からそう言われても本気にはしなかった。
そしてやはりさっきは言うまいと思っていたことを口にしていた。
「いい?あなたち。これから社会に出ても外見だけで人を判断してはダメよ。それから自分に自信を持って生きてね。あなたたちの未来はこれからよ。今からが人生のスタートよ!」
宣言するような言い方で道明寺司のことは食事の話題から外したが、女子学生からは、
「あ~あ。道明寺副社長のこと訊きたかったのに!」と残念そうに言われた。

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司*****E様
おはようございます^^
ちょっとリッチなゼミの打ち上げにメープル。
女子学生。なかなかセンスがいいですね!
それにしても若いっていいですねぇ(笑)何でも遠慮なく口にすることが出来る。
その辺りが大人びて見えてまだ学生なんですよね?社会に出るとそうもいきませんからねぇ(笑)
そしてつくしは学生たちからの質問をかわしました。
今は司のことよりも夜の電話の男性です。でもいつかその人が司だと気付く日が来るんですよねぇ..
その日はいつ来るのか。そしてつくしが心に抱えているものは...
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ちょっとリッチなゼミの打ち上げにメープル。
女子学生。なかなかセンスがいいですね!
それにしても若いっていいですねぇ(笑)何でも遠慮なく口にすることが出来る。
その辺りが大人びて見えてまだ学生なんですよね?社会に出るとそうもいきませんからねぇ(笑)
そしてつくしは学生たちからの質問をかわしました。
今は司のことよりも夜の電話の男性です。でもいつかその人が司だと気付く日が来るんですよねぇ..
その日はいつ来るのか。そしてつくしが心に抱えているものは...
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.01.26 21:46 | 編集
