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2015
11.17

まだ見ぬ恋人27

つくしは瞼を震わせながら目を開けた。
そして目の焦点を合わせようとした。
その目に映ったのは心配そうに自分を見下ろす司の姿だった。
「大丈夫か?」
「は、はい?」
つくしは自分のいる場所が一瞬どこにいるか分からなかったがどうやらホテルの自分の部屋のベッドのうえだと言うことが分かって安堵した。
つくしはもぞもぞと身をよじった。
そして思い出したように言った。
「道明寺!け、怪我は?」そう言ってベッドから飛び起きようとした。
「あ?怪我なんてしてねぇぞ?」
司は片眉を上げるとつくしの身体の前に腕を差し出し寝てろとばかりに制した。
「で、でも!」
「牧野、おまえが倒れてどうすんだよ?」
ビジネススーツがビシッと決まった司は声を明るく親しげにたもった。
「だ、だって!」
「俺のこと心配してくれたのか?」司はつくしにほほ笑んだ。
「い、いったい何があったの?」
司はつくしの髪の先に手を触れた。ただ触れたかったから触れた。
「ああ。うちが今度開発する鉱区があるだろ?あの鉱区の近くに国立公園があるんだよ。
何を根拠にしてんだか分かんねぇけど、うちの開発で土壌が流出して下流域にあたる川が汚染されるなんて言ういいがかりをつけてきやがったんだ」
「でも、なんでその人は・・」
つくしはさっきの場面を思い出したかのように一度目を閉じて開いた。
「俺を刺しにきたかってことか?」司が続けた。
「そりゃあ分かんねえ。あいつらは頭がおかしいからな」
司は今度はつくしの頬にそっと指を触れた。
さっきこいつ俺のこと道明寺って呼んだよな?
「牧野、しばらく休んでろ」
「すいません」とつくしは申し訳なさそうに言った。
「いいさ。今日は一日ゆっくりしてろ」
そう言うと司は少しおいて咳払いをした。
「・・なあ、牧野もし俺がくたばったら・・」

「お邪魔して申し訳ございません司様。そろそろ出かけませんと」
西田が生真面目な顔で言った。
司は部屋に入ってきた西田に振り返ると頷いてみせた。
「牧野、もし俺がくたばったら泣いてくれるか?」
司はつくしの傍でぐずぐずしていた。
「そ、そんな縁起でもない話し、やめて下さい!」
つくしは頬を赤くしながら言った。
「あの・・道明寺・・さんは大丈夫なんですか?」
司はつくしの顔に浮かぶ不安げな表情を取り去ってやりたかった。
「ああ、俺はなんともねぇぞ。相手は肋骨が折れてるらしい。ざまぁねえな」
「牧野、心配するな。ああいう連中はどこにでもいる。いちいち構っていたらきりがない。あいつらが俺に襲いかかってくるなんて、筋違いもいいところだ」
そう聞いたつくしの不安そうな顔がすこしだけやわらいだ。

****


「西田、帰国の予定を早めてくれないか?この後のスケジュールもさっさと終わらせて帰るぞ」
部屋を出た司は西田と廊下を歩きながら言った。
「はい。さっそくそのように手配いたします」
「牧野には心配するなって言ったけどよ、あの連中は何をしでかすか・・」
司は大切な人が傷ついたり、傷つく危険にさらされていることを感じていた。
「わたくしもそう思います」

「道明寺!・・・・し・支社長!」
司が振り向くとつくしが部屋を出て廊下を急いでこちらへと向かってくるのが見えた。
そして司の前まで駆け寄ってくると、少しよろめいた。
そんなつくしに司の手が支えるように伸びた。
「あ、あの・・き、気を付けて・・」
そう言ったつくしは少し気恥ずかしそうにしていた。
「ああ。行ってくるよ。牧野」
司はそういうと笑いながらつくしのおでこを軽く弾いてみせた。
「ちょ、ちょっと!道明寺っ!なにするんですか!」
つくしは自分のおでこに手をあてて叫んでいた。
よし。呼び名が道明寺に戻った。
「じゃあな」司はそれだけ言うと去って行った。
つくしは司が去ったあとも暫くその場にいたが、警備の人間に促されて部屋へと戻っていった。

****


司が今の立場でいられるのは、彼がビジネスについては優秀だからだ。
そして幼いころから護身術を習い、少年時代も喧嘩で負けたことがない。

今回の事件は未遂に終わったとはいえ、ひとつ間違えば命さえ奪われる危険があった。
自分の身は自分で守れる。が、愛する人の命までは危険にさらすことは出来ない。
安全面についてだが、今日以降帰国するまでは地元の警察も州政府も全面的に警護に協力してくれるはずだ。
だが、彼にはもうひとつの武器がある。
それはいま、車の中で彼の隣に座りタブレット端末を見ていた。
「なあ、西田」司の目は真剣になっていた。
「はい」
「やっぱり牧野だけひと足早く帰国させろ」
司の顔に警戒の色が浮かんでいた。
「わかりました。では早速そのように手配いたします」
西田が頷くと司は暫く沈黙をした。
「・・それから」司の唇が冷やかにカーブをえがいた。
そして情け容赦ない顔つきで言った。
「二度と奴らが妙なマネが出来ねぇように始末つけろ」
司の声は低く冷やかで感情がなかった。
西田は暫く無言だったが「わかりました」と答えた。
西田にとっては他の説明は一切必要がなかった。








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