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2019
01.22

理想の恋の見つけ方 64

司はあの夫婦がどんな措置を講じるか見ものだと思った。
だが結果は既に見えている。
粉飾は犯罪であり、高森開発が無傷でいることは無理だ。

司が高森隆三と面会してから数日後。週刊誌が高森開発と大臣との蜜月ぶりを取り上げた。
書かれている内容は高森から大臣への金の流れだが、そこから粉飾決算が発覚すると、テレビや新聞が大きく取り上げ騒ぎになった。
やがて週刊誌は、高森真理子についての記事を載せた。それは二回り以上年下の妻が、社内の人事に口を出し、気に入った男性社員を自分専用の運転手に配置転換をすると、誘惑しているという話を面白おかしく書き立てた。

司は、記事が出るより前に高森開発の駅前再開発事業に対して融資を決めていた銀行へ粉飾の情報は流していたが、その銀行の頭取とは、かねてから昵懇(じっこん)の間柄であり直接電話が出来る関係だった。

『道明寺副社長。先日は情報をありがとうございました。粉飾決算ともなれば、いったいどれほどの金額が本来の赤字としてあるのかということになりますが、まさか監査法人を巻き込んでいたとは。それにしても提出された決算書類が嘘だとは、さすがに我々もそこまで考えたことはありませんでしたが、週刊誌の記事やら何やらを考えれば、もしかするとあの監査法人は何か弱みでも握られていると考えてもおかしくはないですな』

頭取が言っているのは妻の真理子の記事についてであり、真理子の人事への口出しが社内では反感を買っていた。そして、こうなった今だからと社員の中には証言する者もいて、その中には司の耳に入っていなかったことが書かれた記事もあった。それは公認会計士のひとりが真理子と愛人関係にあったということだ。

『どちらにしてもあの会社は経営陣の退陣はもちろん、社長の資産の提供も必要になるでしょう。それからその後のことになりますが、つまり再建のスキーム準備となるわけですが、御社がお引き受けになる。つまり買収されるということですね?』

銀行は経営危機に陥った企業には冷たい。
景気の良い時は押し付けるように金を借りてくれと言い、返済についてはいつでもいいと約束する。だが、金貸しからいくら言質を取ったところで何の意味もなさないのと同じで、貸し剥がしは当たり前のように行われ全てを惜しみなく奪う。
つまり、いつ何時手のひらを返し金を返せというか分かったものではない。だから銀行を相手にするなら油断をするなと言うことだ。だから企業はなるべく銀行と付き合うことは避けるべきだ。

そして高森開発の株式を持つ銀行は、所有する株式が紙くず同然になるよりは、司の会社が高森を買い取り、再建を図る方が有益であると分かっている。
つまり銀行は絶対に自分が損をすることがないように動く。
そして道明寺の財務体力なら赤字を抱えている高森を抱えても、問題ないと知っているからこそ司の返事を早く訊きたがっていた。

「ええ。そのつもりです。あの会社は潰すにはもったいない。ですからうちで買い取りますよ。それから貴行に迷惑がかかるようなことにならないようにしたいと思いますのでご安心下さい」

『そうですか。道明寺副社長にそう言っていただけると安心です。何しろあの会社には、今までも随分と融資をしています。回収できないとなると当行の株主が文句を言います。それにしても高森開発が粉飾をしているとなると、今後調べて行けば会社資金の私的流用も考えられるということですな』

会社資金の私的流用。そうなれば会社に損害を与えたということから特別背任の罪に問われる。
会社というものは、一経営者の判断で繁栄もすれば破滅も招くが、高森夫妻はカマドの下の灰まで自分のもの。つまり会社のもの全てが自分の物であるという意識が強く働いていたということになる。それは小さな不動産屋ならまだしも、一部上場企業になればガバナンスが働くのが当然だが、それが欠如していたということだ。
そして司に言わせれば、調べてみれば高森開発はとっくの昔に破滅していたとしてもおかしくはなかった会社だ。

「頭取。高森についてはうちの不動産部門が吸収することになります。高森が開発しようとしていた駅前の土地は、うちで開発しますので楽しみにして頂ければと思います」

『ええ。どんな建物が立つか楽しみにしておりますよ、道明寺副社長。私の孫娘はあなたの従弟と結婚している。言わば私たちは親戚関係だ。ですから御社にはさらに発展していただければと望みます』

半年前。頭取の孫は道明寺グループの海運会社に勤務する司の従弟と結婚した。
つまり銀行と道明寺の関係は、浅からぬ縁が生じたことになり、頭取として直接的に道明寺に肩入れすることは出来なくても、気に掛けずにはいられない会社となった。
そして頭取は、全面的に司を信頼していることから語調は終始穏やかだった。





司は電話を切ると煙草に火を点けた。
週に一度。夜の電話の男にかかってくるはずの電話は、前回の電話から10日以上過ぎたが、かかってはこなかった。
あの日。大学のカフェテリアで誰とも付き合う気はないと司を拒否した女は、電話の男も拒否することに決めたのか。
それなら自分から電話をかけるか。
そして男性と親しくすることは勇気がいるの意味を訊くか。
だが夜の電話の男は、自分からはかけることはないと言った。
だからかけるとすれば口実が必要なはずだが何を口実にすればいい?
それにしても、まさか自分から女に電話をかける。そして女に電話をかける口実を探すとは思いもしなかった。






***






暮れから正月にかけて、大学が休みに入れば実家に顔を出すのが例年の行事だった。
だが今年の正月はひとり家で寝ていた。
それは、年末インフルエンザに罹ったことからむやみに出歩かない。外出すべきではないという結論に落ち着いたからだ。

冷凍庫にはいくらでも食料はあった。
だから食べるに困ることはない。
だが冷凍庫の中を見て思った。いったいいつ冷凍したのか分からない食品は冷凍焼けしていて、氷詰めの標本状態で酸化していて明らかでパサパサだった。と、なるとまともな食料は無いということになる。

「牡蠣ならあるけどフライにして食べる訳にはいかないしね….」

冬休みに入る前、広島にいるかつての教え子から研究室に送られて来た殻付きの牡蠣を桜子の家で鍋に入れて食べたが、あざやかな手つきで殻を開ける桜子から「これ。持って帰って下さい。フライにして食べたら美味しいですから」と言われ持ち帰った牡蠣は、冷凍保存されていて、それはまだ新しいことから新鮮さが感じられた。
牡蠣は海のミルクと言われ栄養が豊富だ。だが病み上がりの今、牡蠣を食べたいとは思わなかった。それなら近くの中華料理屋丸源に出前を頼めばいいと思い電話したが、年末ギリギリまで営業した店は、正月休みだと声が流れて来た。

「休みかぁ….」

1月の初旬は12月の温かさが嘘のように冷え込んでいた。
まさに空気が凍り付いたと言ってもいい冷え込みで小雪が舞っていた。だから外に出たくはなかったが、食べる物がない。

「はぁ……こんな日に外に出たくないけど仕方がないわよね。まともに食べれるものがないんだもの」

一番近くのコンビニまで信号待ちを含め片道10分はかかる。
元気な時ならなんとも思わないその時間も往復すれば20分。病み上がり寒風に晒されることを考えただけで背中が凍り付きそうになった。

そして手にしている携帯電話を眺めながら思った。
週に一度電話をかけると約束した男性に暫くかけてないが、クリスマスから年末という時期は、慌ただしい季節であり男性も忙しいはずだと電話を控えた。だから年が明けてかけようと思ったが、インフルエンザになって声が出し辛かった。
自分からはかけないと言った男性はつくしからの電話を待っているだろうか。電話がかかってこないことを気にしているだろうか。
その時、手の中の小さな機械が鳴った。




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コメント
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dot 2019.01.22 06:10 | 編集
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dot 2019.01.22 12:36 | 編集
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dot 2019.01.22 12:36 | 編集
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dot 2019.01.22 22:27 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
高森開発は道明寺に買収されるようです。
それにしても高森夫妻については調べれば調べるほど色々と出てくるような気がします。
ビジネスモードの司ですが、一段落つけば頭を過るのは牧野つくしのことでした。
そしてつくしはインフルエンザで買い物に行くことが出来ませんでしたが、まともに食べるものがないとなれば、とりあえずコンビニに行くことに決めたようです。
病み上がりは外出したくない(笑)出来れば寝ていたいですよね?でも一人暮らしとなれば自分でしなければ!
よし。出かけるとするか。という所に電話が!
つくし、ちゃんと電話に出てね!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.23 22:16 | 編集
と*****ン様
さて。動くのでしょうか?
でもどちらがどう動くのでしょうねぇ。
司は牧野准教授の心を動かすことができるのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.23 22:19 | 編集
童*様
世間に叩かれている高森夫妻...。
その場面は容易に想像することができます。
カメラのフラッシュが焚かれる中で謝罪をする高森隆三。
週刊誌の記者に追いかけられる真理子。
その頃つくしはインフルエンザで寝込んでいましたが、回復したようです。
そしてそんな女に電話をしてきたのはあの人?(笑)
司も気になってますからねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.23 22:35 | 編集
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