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2019
01.18

理想の恋の見つけ方 62

誰かと付き合うつもりは無い。
ひとりがいいと言う女。
例え駆け引きがあったとしても、簡単に女が靡くと思っていた。
だが惚れたのは司の方だが女はそれを望まないという。
男を頑なに拒否する姿勢は、過去に何かあったとしか考えられない。
だがそうだとしても、司や和彦のような男に求められれば嫌な気はしないはずだ。
そして女に手慣れた司がその唇の感触を思い出した牧野つくしは、口先だけの甘い嘘をつく男に騙され痛い目にあったか。
そんな女が心からキスをした男はどんな男だったのか。
司が今まで付き合った女の過去を気に留めたことはない。だが今はそれが知りたくてたまらなかった。
そして過去の女たちのように司を夢中にさせようとするキスではなく、心から望んでキスをされることを望んでいた。

だが今考えなければならないのは、高森開発が持つ駅前の土地を手に入れること。
そこへ超高層ビルを建てることが事業として纏まっていた。
だが高森開発が自社で開発をしたいと売り渋る土地をどうやって手に入れるか。
不動産開発部門の責任者が何度か交渉したが埒が明かず、ニューヨークにいる楓からの命令で、副社長である司が高森隆三の誕生パーティーに顔を出すことにした。
そこで妻の真理子が念入りに化粧をした顔で現れ流し目をくれた。
性的に衰えた夫の代わりを探している女のキツイ香水の匂いと、わざとらしく甘ったるい作り声は癇に障ったが、高森隆三社長夫人のモラルは無視した。

そして車は交渉をするため高森開発本社へ向かっているが、後部座席の隣に座っている秘書が先ほど入手したと手渡して来た書類に書かれていたのは、高森開発が借用書なしで国土交通大臣に4億円の金を貸し付けているということ。
いわゆる建設族議員と呼ばれる現職の大臣への貸し付けは、用途不明で借用書もなければ1年以上返済の実態はない。つまりそれは貸し付けではなく違法な寄付ということになる。

政治家の金の流れについては厳しく規制されていて、収支報告書に記載をしなければ法に触れる。その金を個人的に借りたというには金額が大きすぎ、金が渡った時期からして明らかに選挙資金として使われている。つまり大臣は公職選挙法違反に問われることになる。
そして高森開発がここ10年で急激に業績が伸びたのは、大臣の「配慮」があった。
親会社を持たず中堅の不動産屋だった高森不動産が高森開発と名前を変え、のし上がったのは政治献金の結果ということだ。



「西田。話の出どころは?これはどこから出た情報だ?」

「こちらの情報は以前高森開発の経理を担当していた男から手に入れました。当然ですが銀行からの振り込みですと記録が残りますので金は現金で手渡されています。その金を運んだのもその男です」

「4億か。手提げ紙袋に4つというところか?」

「はい。受け渡しは『岩下』だったそうです」

西田が口にした『岩下』は政治家が好んで利用することで有名な料亭だった。

「そうか。それでその男はこの話を週刊誌に売るつもりはないのか?」

出どころを秘匿にすることを条件にネタを売る話はよくあることだが、秘書の西田の人脈は経済関係を主としたビジネス雑誌からタブロイド紙まで幅広く、政治家の金銭スキャンダルのリーク先として最適な雑誌を選び徹底的に叩くように仕向けることができ、マスコミの利用方法が的確だ。だからもしその男がこの話を売りたいというなら手配するのは簡単だ。

「ええ。そういったことは考えたことはなかったそうですが、事と次第によっては….ということではないでしょうか。そこのことについては過去に一度社内で怪文書が出回ったことがあるそうです。それから経理を担当していた男が会社を辞めた理由ですが、社長夫人が彼に興味を持ったからだそうです」

あきらから訊かされていた高森真理子の性癖は、暇を持て余した社長夫人が独裁体制でオーナー社長である夫の会社の社員に手を出しているということなら、それを容認している夫も夫だ。

「それからどうやら夫人の人事に対しての口出しといったものがあるようで社内では女帝と呼ばれ反感を買っている。そんな話があるそうです」








司が乗った車は、20分後には高森開発本社の玄関前に横付けされ入口には高森隆三の秘書が1人待機していた。

「道明寺副社長。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

案内された社長室は、自宅で開かれた誕生パーティーで見た絵と同じような抽象的な絵画が飾られていて、サイドボードの上に派手な色絵の大皿が飾られていたが、色使いは隆三の趣味なのか。だが装飾品としては一流とは言えなかった。
そしてそこにいたのは、高森隆三ではなくつい先ほどまで話題に上っていた妻の真理子だ。
だが何故ビジネスの場に真理子がいるのか。濃い紫のスーツ姿の女はソファから立ち上がって微笑みを浮かべた。

「道明寺さん。ようこそ。せっかくお越しいただきましたのにお迎えしたのが主人でなくてごめんなさい。主人は今化粧室ですの。私と一緒に昼食を食べたんですけど、どうもお腹の調子がよくなくて。でもすぐ戻って来ますわ。ですからそれまで私がお相手しますわ」

いったいどんな相手をすると言うのか。
人事に介入するという話もだが、司がここに来ることを知っていて社長室にいたとすれば、高森隆三夫人は司のことを待っていたということになるが、派手な匂いを纏った女の姿はマウンティングされることを待つ雌の虎といった様子で、とてもではないが牧野つくしと同じ年には思えなかった。

「どうぞお構いなく。時間を潰すのは得意ですから」

司はそう言ってソファに腰を下ろし脚を組み黙ったが、主人が化粧室というのが果たして本当なのか。
わざと席を外し、妻が気晴らしをするのを見ようとしているのではないか。
だがもしそうだとしても、蔑視の対象としか思えない女が顔色を変える姿を見るのも一興だと思った。
ビジネスの取引相手でなければ相手にする必要のない女だったが、夫である高森隆三の会社が持つ土地を手にいれるまでは、それも出来なかった。だが西田がもたらした情報により遠慮する必要はなくなった。
しかしそれを知らない高森真理子は、「道明寺副社長に時間を潰させるなんて、そんなこと出来ませんわ」と言って司の隣に座った。




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コメント
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dot 2019.01.18 06:27 | 編集
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dot 2019.01.18 08:56 | 編集
童*様
この夫婦には他にも何かありそうですか?(笑)
そしてそんな夫婦に対峙する司は彼らをどうするのでしょうね?
つくしのことも考えつつ、ビジネスもこなさなければなりません。
果たして司の仕事ぶりは?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.18 21:35 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司はつくしのことも気になるが、仕事もしなければなりません。
高森社長に会うために社長室を訪れましたが、そこで待っていたのは真理子でした。
さてこれからどんな会話が交わされるのでしょうねぇ。
仕事ぶりを拝見しましょうか(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.18 21:55 | 編集
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