明るい青年だと思っていた和彦から初めて訊く暗い声。
だがつくしが戸惑う余裕もないうちに、その声は笑い声に変わり「冗談です」という言葉に変わった。そして無言で和彦を見つめるつくしに「それから僕のことを弟だと思うなら弟として接して下さって構いません」と言った。
だがその後も黙ったまま和彦を見つめ続けるつくしに、
「やだな。そんな驚いた顔をしないで下さい。僕は何もストーカーをしようとか思ってませんから。それに嫌がる女性に何かするような男じゃありません。だから安心して下さい。ただ困ったことがある。力になって欲しいことがあれば遠慮なく言って下さい。それからこの前食事に誘った時、明日の準備があるからと断られましたけど、それは僕の思いを受け取れないという意志表示だったことは薄々感じていました。でも今度食事に誘ったら恋愛感情はありませんから、その時は付き合って下さいね。何しろ男にとって初恋の人って本当に大切な想い出なんです。だから牧野さんに対しては純粋な頃の自分を思い出すと言ったら笑われるかもしれませんが、そういうことなんです。僕にとって牧野さんはそういう女性だったんです。思春期の淡い想い出です」と言ったが、その声は真面目で嘘はないと思えた。
だからつくしは、和彦の言葉を信じた。
そして「まいったな。牧野さんの大きな眼でそうやって見つめられると僕の心が揺らぐじゃないですか。前言撤回したくなるじゃありませんか」と言ったが、和彦は全部冗談ですの眼になって笑っていた。
「ど、道明寺副社長?牧野先生ですよね?申し訳ございません。今お客様がお見えでこちらにはいないんです。すぐ戻ってくると思いますので少しお待ちいただいてもよろしいですか?….いえ。お忙しいですよね?これから私が迎えに行っていきますので少しだけお待ちいただいてもよろしいですか?」
司は牧野つくしに会うため大学を訪れたが秘書に来客中だと言われ待とうと思った。
だが迎えに行くという言葉に、いや。自分の方から出向くと言えば、構内のカフェテリアにいると言われそこへ向かった。そしてそこに若林和彦がいることを知り、なおかつ牧野つくしと向き合っている和彦が笑っている姿を見た。
若林和彦から好きだと告白を受けた牧野つくしは、和彦の気持に応えるつもりはないと言った。それなら今ここで笑っている和彦は、まだ女から思いを告げられてはいないということなのか。それとも会話の成り行きで笑っているのか。
カフェテリアの奥にいるふたりは近づいていく司に気付いていなかったが、少しすると和彦が気付いた。そして牧野つくしの微笑している横顔が見て取れる場所まで来たとき、女が顔をこちらに向けた。
「道明寺副社長?!」
その口調は突然現れた男に驚いたことを表していた。
そして司は和彦へ視線を移すと彼は立ち上って「これは道明寺副社長。まさかここでお会いするとは思いもしませんでした」と言い、司はそれに対し「ああ、そうだな」と挨拶を返したが、それは冷たい響きだったはずだ。
「道明寺副社長。あの….何か御用でしょうか?」
牧野つくしは司に訊いたが、彼はすぐには返事をせず、焦点を絞るように女を見た。
「ああ。この前会社に来た時、忘れてっただろ?」
そう言って背広の内側に手をやった男から手渡されたのはペンだったが、それはつくしが見たことがない銀色のペンであり、自分のペンではなかった。
「いえ。これは私のペンでは…..」
と言ったが、「そうか?てっきりお前のものだと思ったが違ったか?俺たちがキスをした時落としたと思ったが違ったか?」と司は言葉を返した。
今のこの状況は大学構内のカフェテリアの片隅に男がふたりと女がひとり。
だがこの3人の誰もが学生ではなく、そのうちの男ふたりは大学の関係者でもない。
そんな男ふたりの間に漂う張りつめた静寂は、動物のオスが別のオスを牽制し値踏みする姿に見えたとしてもおかしくはない。
そして若林和彦の笑っていない眼というのは、成熟した大人の眼だが、司の眼は鋭く暗く翳りを持って和彦を見ていた。そんな静かすぎる眼差しと、鉄か石のように硬い眼差しが交わされる中、視線を外しつくしを見たのは和彦の方だ。
「牧野さん。僕はこれで失礼します。どうやら道明寺副社長の方があなたに対しての優先権をお持ちのようだから」
突然つくしの前に現れた司の発言は、まるでつくしが好んでキスをしたように取れたはずだ。つまり牧野つくしには道明寺司が恋の対象として存在しているのだと言ったようなものだ。
そしてその言葉が、司にとっては彼が和彦を前に願ったとおりの結果を示していた。
「え?ちょっと待って和彦君?あのね、誤解しないで私と道明寺副社長は_」
と、つくしがあせり気味に言いかけたところで、和彦はどこか納得したように言葉を継いだ。
「そうか….牧野さんには好きな人がいたんですね?それから牧野さん。僕のことは和彦じゃなくて名字で呼んだ方がいいような気がしますよ?」
言葉を充分慎重に選び口にしなければならないのは、相手がビジネスに於いて自分よりも秀でているからだが、それが私生活に於いても同じ人間がいるとすれば、それが目の前にいる男だと和彦は分かっているから言葉を止めた。
そして二人を交互に眺めた後でつくしに向かって「じゃあ先程の話はそういうことで」と言ってふたりの前から去った。

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だがつくしが戸惑う余裕もないうちに、その声は笑い声に変わり「冗談です」という言葉に変わった。そして無言で和彦を見つめるつくしに「それから僕のことを弟だと思うなら弟として接して下さって構いません」と言った。
だがその後も黙ったまま和彦を見つめ続けるつくしに、
「やだな。そんな驚いた顔をしないで下さい。僕は何もストーカーをしようとか思ってませんから。それに嫌がる女性に何かするような男じゃありません。だから安心して下さい。ただ困ったことがある。力になって欲しいことがあれば遠慮なく言って下さい。それからこの前食事に誘った時、明日の準備があるからと断られましたけど、それは僕の思いを受け取れないという意志表示だったことは薄々感じていました。でも今度食事に誘ったら恋愛感情はありませんから、その時は付き合って下さいね。何しろ男にとって初恋の人って本当に大切な想い出なんです。だから牧野さんに対しては純粋な頃の自分を思い出すと言ったら笑われるかもしれませんが、そういうことなんです。僕にとって牧野さんはそういう女性だったんです。思春期の淡い想い出です」と言ったが、その声は真面目で嘘はないと思えた。
だからつくしは、和彦の言葉を信じた。
そして「まいったな。牧野さんの大きな眼でそうやって見つめられると僕の心が揺らぐじゃないですか。前言撤回したくなるじゃありませんか」と言ったが、和彦は全部冗談ですの眼になって笑っていた。
「ど、道明寺副社長?牧野先生ですよね?申し訳ございません。今お客様がお見えでこちらにはいないんです。すぐ戻ってくると思いますので少しお待ちいただいてもよろしいですか?….いえ。お忙しいですよね?これから私が迎えに行っていきますので少しだけお待ちいただいてもよろしいですか?」
司は牧野つくしに会うため大学を訪れたが秘書に来客中だと言われ待とうと思った。
だが迎えに行くという言葉に、いや。自分の方から出向くと言えば、構内のカフェテリアにいると言われそこへ向かった。そしてそこに若林和彦がいることを知り、なおかつ牧野つくしと向き合っている和彦が笑っている姿を見た。
若林和彦から好きだと告白を受けた牧野つくしは、和彦の気持に応えるつもりはないと言った。それなら今ここで笑っている和彦は、まだ女から思いを告げられてはいないということなのか。それとも会話の成り行きで笑っているのか。
カフェテリアの奥にいるふたりは近づいていく司に気付いていなかったが、少しすると和彦が気付いた。そして牧野つくしの微笑している横顔が見て取れる場所まで来たとき、女が顔をこちらに向けた。
「道明寺副社長?!」
その口調は突然現れた男に驚いたことを表していた。
そして司は和彦へ視線を移すと彼は立ち上って「これは道明寺副社長。まさかここでお会いするとは思いもしませんでした」と言い、司はそれに対し「ああ、そうだな」と挨拶を返したが、それは冷たい響きだったはずだ。
「道明寺副社長。あの….何か御用でしょうか?」
牧野つくしは司に訊いたが、彼はすぐには返事をせず、焦点を絞るように女を見た。
「ああ。この前会社に来た時、忘れてっただろ?」
そう言って背広の内側に手をやった男から手渡されたのはペンだったが、それはつくしが見たことがない銀色のペンであり、自分のペンではなかった。
「いえ。これは私のペンでは…..」
と言ったが、「そうか?てっきりお前のものだと思ったが違ったか?俺たちがキスをした時落としたと思ったが違ったか?」と司は言葉を返した。
今のこの状況は大学構内のカフェテリアの片隅に男がふたりと女がひとり。
だがこの3人の誰もが学生ではなく、そのうちの男ふたりは大学の関係者でもない。
そんな男ふたりの間に漂う張りつめた静寂は、動物のオスが別のオスを牽制し値踏みする姿に見えたとしてもおかしくはない。
そして若林和彦の笑っていない眼というのは、成熟した大人の眼だが、司の眼は鋭く暗く翳りを持って和彦を見ていた。そんな静かすぎる眼差しと、鉄か石のように硬い眼差しが交わされる中、視線を外しつくしを見たのは和彦の方だ。
「牧野さん。僕はこれで失礼します。どうやら道明寺副社長の方があなたに対しての優先権をお持ちのようだから」
突然つくしの前に現れた司の発言は、まるでつくしが好んでキスをしたように取れたはずだ。つまり牧野つくしには道明寺司が恋の対象として存在しているのだと言ったようなものだ。
そしてその言葉が、司にとっては彼が和彦を前に願ったとおりの結果を示していた。
「え?ちょっと待って和彦君?あのね、誤解しないで私と道明寺副社長は_」
と、つくしがあせり気味に言いかけたところで、和彦はどこか納得したように言葉を継いだ。
「そうか….牧野さんには好きな人がいたんですね?それから牧野さん。僕のことは和彦じゃなくて名字で呼んだ方がいいような気がしますよ?」
言葉を充分慎重に選び口にしなければならないのは、相手がビジネスに於いて自分よりも秀でているからだが、それが私生活に於いても同じ人間がいるとすれば、それが目の前にいる男だと和彦は分かっているから言葉を止めた。
そして二人を交互に眺めた後でつくしに向かって「じゃあ先程の話はそういうことで」と言ってふたりの前から去った。

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ま**ん様
おはようございます^^
3人の関係がピリピリ。確かにそうですね。
和彦君の本性がまだ出きっていない気がしますか?
そして大事なことは恋に鈍感なのか。それとも慣れないのか。そんなつくしの心の変化ですね?
そうですねぇ。夜の電話の男性のこともありますからねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
3人の関係がピリピリ。確かにそうですね。
和彦君の本性がまだ出きっていない気がしますか?
そして大事なことは恋に鈍感なのか。それとも慣れないのか。そんなつくしの心の変化ですね?
そうですねぇ。夜の電話の男性のこともありますからねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.01.17 21:19 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
さて和彦君は自分の思いを伝えましたが、そこへ現れたのが司。
和彦と牧野つくしがふたりでいることが面白くない。もしかすると和彦の思いを受け入れたか?と思ったかもしれませんね?(笑)
それにしても和彦の前で自分とつくしがキスしたと話すとは!(笑)
司はつくしの心を掴むことがの出来るのでしょうかねぇ。ちょっと心配です。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
さて和彦君は自分の思いを伝えましたが、そこへ現れたのが司。
和彦と牧野つくしがふたりでいることが面白くない。もしかすると和彦の思いを受け入れたか?と思ったかもしれませんね?(笑)
それにしても和彦の前で自分とつくしがキスしたと話すとは!(笑)
司はつくしの心を掴むことがの出来るのでしょうかねぇ。ちょっと心配です。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.01.17 21:28 | 編集
