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2019
01.09

理想の恋の見つけ方 56

キスをしたのは何年振りだろう。
考えてみたこともなければ気にしたこともなかったが、ソファに背中を押し付けられた姿勢で突然唇が塞がれるという状況に身体が固まってしまった。そして唇の間から舌が挿し入れられそうになり慌てた。

昔と違って女性がひとりでいることが珍しくないこの時代。
結婚だけが人生の生きる道ではないと言われていて、つくしの周りにも30代で独身の女性はいる。現に友人であり教授の秘書の三条桜子はひとつ年下で独身だ。
だがそれなりの年になれば、会う人はみなつくしが結婚しているかどうかを確かめる。
それは左手の薬指を見れば分かることで、男女問わず無意識にそれを確認しているはずだ。
そしてひとりだということを知り思うのは、大学で教えることが出来るのは頭のいい女性であり、見合う男性がいないのだということだ。実際肩書を知った途端、誰もが一様に感心した表情を浮かべていた。だがつくしは自分の仕事を権威があるとは思わなかった。
深海ザメの研究は華々しい仕事ではなく、好きなことを追求していくことで今の立場についただけだ。
だから研究で一旗あげようといった野心的な思いはなく、ただ研究に没頭している地味な女だった。

それでも今より若い頃のつくは、本当の自分を知ってもらいたいと思うことがあった。
どこかに自分のことを必要としてくれる人がいると思ったことがあった。
それは頭の良さではなく、どこにでもいる普通の女性だということをだ。だがそれが無理だと知っている。
それでも日本一のキューピットだと言う三条桜子は、未だに自分を責めていることがありデートの相手を紹介したがる。
そして今は若林和彦がつくしに想いを寄せていることを知り、6歳の年の差は気にすることではないと言った。だが和彦の想いに応えることは出来なかった。そして断わらなければならないと思いながらまだ伝えることが出来ずにいた。

しかし、道明寺副社長から惚れたと言われたことに対しては反射的に断っていた。
だが断ったのは嫌いだからという理由ではなかった。何しろ嫌いの理由がなかったからだ。
だが断らなければ、さっきまで波打ち際にいたはずなのに、まるで離岸流にさらわれるようにあっという間に遠い沖へと流され、海の中でもみくちゃにされるような気がしたからだ。

それに道明寺司と言えば、道明寺財閥の後継者であり広い世界で生きてきた男性だ。
世界経済の中心にいる人物で、彼と挨拶をすることが出来るだけで凄いと言われている男性だ。つまりそれは住む世界も物事を考える次元も違い過ぎているということだが、あまりにも違い過ぎていて相手のことが分からなかった。そしてそれはポンと5千万の寄付をすることが物語っているように、現実の世界を見れば、企業経営者とサメの研究が専門の大学准教授とでは距離がありすぎだ。

そして同伴者として臨んだパーティーでは、周囲の視線を感じた。
タキシードに身を包んだ長身は堂々として真っ直ぐ前を向き、自信にあふれた歩き方は学問の世界では見たことがなかった。
端正な顔立ちは、冷静で理知的さを表していて気が置けなかった。仕事でなければ傍に立つことがない人物であり、ブレーンに指名されたことは道明寺副社長の気まぐれに近いものがあったはずだ。
だからつくしは自分に言った。そんな男性の言葉を信じるほど初心ではないと。
意識する必要はないのだと。浮ついた気持ちになってはいけないのだと。

だがこれから電話をする人となら、落ち着いた気持ちで話が出来る。
けれどその人は、顔は勿論のこと名前も何を職業としているのかも分からない男性の事だが、相手が誰であるか分からないことが今は話し相手としてベストだと思えた。
そしてこんな風に思えるのは、電話を通して聞こえる少ししゃがれた声に落ち着きを感じるからなのか。自分の感じたことや考えていることが素直に言えた。そしてどこかときめく気持ちというものがあった。

いつもの時間に携帯電話を手にすると、画面に表示されたその人の番号に触れ相手が出るのを待った。コール音が4回鳴った後、『もしもし』と電話に出た人は、やはりいつもと同じでしゃがれた声をしていた。

「もしもし?私です。今いいですか?」とつくしが言うと、
「ええ。構いませんよ」と言われた。





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コメント
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dot 2019.01.09 08:25 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ディープキスされたら意識しない方が無理(笑)
本当にこの男はすることが派手ですねぇ(笑)
そしてこれから話をするのは、見知らぬ他人のはずですが実は司です。
どんな会話が交わされるのでしょうね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.10 22:08 | 編集
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