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2019
01.07

理想の恋の見つけ方 54

それは一方的なキス。
いきなりキスされた女はソファに身体を押し付けられ固まったままの姿勢でいたが、その様子は司に従ったというのではなく、むしろ驚のあまり動けなかったといった状態だ。
それに気を良くした司は、女の口の中を探ろうと舌を挿し入れようとした。だがその行為に女は我に返ったように喉の奥で悲鳴をあげ、必死にもがいて彼の身体を押し返し腕の中から抜け出そうとしていたが、どんなに女が力を込めたとしても男に敵うはずもなく無駄だと言えた。

だがだからと言って会社の応接室で女を襲おうなど考えてもいない。
ただ、唇を重ねた瞬間、女の唇に残っていたコーヒーの味とは別の甘さに思わず理性の制御が外れたと言えた。
だから心ゆくまでその甘さを堪能したかった。女の口を大きく開かせ口腔内を味わいたかった。それは食べ物に飢えた人間が手に入れた甘い果実を夢中で貪り食う姿に似ていたかもしれない。

だがそうする司の口から逃れようとする女は、閉じ込められている司の腕の中で喉の奥から声をあげ、身体の自由を取り戻そうとしていたが身動きは取れなかった。
やがて長いキスを終えた司は唇を離し身体を離した。そして身体の自由を取り戻した女は、喉が詰まって言葉が出ないといった様子で呆然としていたが、我に返ると「どうしてこんなことを?」と小さな声で言った。

「どうして?俺は真っ逆さまに恋に落ちたと言ったよな?だからキスしたかったからキスをした」

悪びれもせず堂々とした態度で司は牧野つくしから返される言葉を待った。
それは自分に惚れたと言った男に対してどんな言葉を返すのかをだが、それは多分きっと過去に見たことがある女達の顔と似ていてもおかしくないと思えた。
つまりいくら誰かと付き合うつもりがないと言ったとしても、司のような男に惚れたと言われたことを自慢に思わない女はいないと思っていたからだ。
だがそこにあるのは、丸く見開かれた黒い瞳が困惑の色を浮かべているだけ。そして司を見る目は若林和彦とかかわった時の距離感と似ていると思えた。




「あの、道明寺副社長」と落ち着いた声が言ってソファから立ち上がると、ふわりと香りが漂った。
「お気持ちは嬉しいのですが、今の私は副社長に限らず誰かと付き合いたいという気がありません。ですからこのような事は二度としないで下さい。それからこんなことを申し上げれば失礼になるかもしれませんが、いただいたご寄付ですが私の研究に対してではなく何らかの意図をもってということでしたらお返ししなければなりません」

研究に対し支援をする代わりに付き合うように求める。つまり下心から寄付をした。
牧野つくしが言っているのはそのことだが、それとは違ったとしても、寄付を決めたのには確かに意図があった。
それは牧野つくしというサメの研究一筋の女も金持ちの男に靡くはずだという思いからだった。そして牧野つくしと寝ることがあれば、二度三度寝て別れた女と同じでどうでもいいことのはずだった。
だが今の司の心にあるのは、全く別の感情だ。
そして司の前に立つ女のその態度は臆することはなく、潔いとも言えるほど司を恋愛の対象は見ておらず、金づるとも見ていなかった。
富も権力も彼が持っているものは興味がない。いやそれ以前に司が袖にされること自体が初めてであり、人生で初めて自分が無意味なものとして片付けられようとしていることに気付いた。
そしてそれと同時に気付いたのは、何故牧野つくしはそんなにも男を拒絶するのかということだ。

過去の恋愛経験がそうさせたのか。だとすれば一体何があったのか。
そこのあるのは、かつての女性関係にはなかった相手のことをもっと知りたいという欲求。
だが牧野つくしという女については、いくら金があっても頑なな心の中を見通すことが出来るとは思えなかった。
だが司には週に一度だけ電話で話をする夜の男としての一面があった。
そこにいる男は、司だが司ではない別の男であり、その男に対しての牧野つくしの態度が今の司に対してとさして変わらないとしても、どこか違うところがあった。
それは、全くの赤の他人だから気を使わなくていい心の余裕というものだ。



「あの金は返してもらう必要はない」

「…..そうですか。ではそうさせて頂きます。それから道明寺副社長。先ほどもお話した通り今の私には誰かと付き合いたいといった気持ちがないんです。ですから、さっきのことは驚きましたけど本当にすみません。お気持ちに応えることは出来ません」

静かだが諦念の込められた言葉は、これ以上何かあれば寄付された金は返すというニュアンスが込められていることは、人の言葉の真偽を見定めることが当然の世界にいる人間なら誰でも感じることが出来たはずだ。
そして司は女の冷静な受け答えの裏に隠された何かを感じていたが、それは今まで持ったことがなかった牧野つくしに対しての直感と言えた。


牧野つくしは、「では失礼いたします」とだけ言って資料を残し頭を下げて応接室から出て行ったが、その姿は嵐が終息したといった感じに見えた。
だが司にとって牧野つくしとの間の恋の嵐はこれからだ。
そして廊下をエレベーターに向かって小走りの靴音が聞えたが、それはこの部屋で見せた態度とは異なり慌てているということ。つまり冷静さを装ってはいたが、明らかに動揺しているということだ。

それにしてもまさか自分がここまで牧野つくしという女に囚われるとは思いもしなかった。
だが自分の気持に気付いた以上躊躇うことはしなかった。それにひとりの女をふたりの男が奪い合うといったことにならない確信はあったが、それでも若林和彦が簡単に諦めるとは思えなかった。
だからキスをしたことが牧野つくしの意に反していたとしても、知ったことではない。
そして司には執拗さがあるのと同じで牧野つくしには強情さがあると知った。だから惚れた以上何が女の心に強情さを根付かせたのかを知る必要があった。





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コメント
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dot 2019.01.07 08:44 | 編集
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dot 2019.01.07 12:14 | 編集
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dot 2019.01.07 12:28 | 編集
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dot 2019.01.07 12:59 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
惚れた女が逃げれば追う。それが男。
この司もそのようですが、いくら司が惚れたと言っても、真面目なつくしはそれを簡単に受け入れるような女性ではありません。
ましてや相手は仕事上の関係者となった男性。
そしてどんな男性とも付き合うつもりはない発言。
真面目であるが故の頑なな性格の持ち主は、何故そんなことを言ったのでしょうね?
そして次に出て来るのは誰でしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.07 22:27 | 編集
ひ**り様
>『人生で初めて自分が無意味なものとして片付けられようとしていることに気付いた。』(≧▽≦)
そうなんです。司は今までこんな経験はしたことがありません。
だから司にとっては衝撃的な状況だと思います(笑)

わざわざご挨拶をいただき、ありがとうございます。
大したおもてなしは出来ませんが、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.07 22:39 | 編集
F***e様
明けましておめでとうございます^^
ご実家で冬休みを満喫中なんですね?ごゆっくりなさって下さいね。
やはり故郷はいいですよね。でも帰省する度に少しずつ風景が変わっているのを感じます。
そして見慣れていた景色も消えてしまうということを実感しました。
さてこちらの司。本領発揮となるでしょうか。
ライバルもいる。邪魔者もいる。そんな気配がありますが、つくしを自分へ靡かせることが出来るのでしょうか?
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.07 22:52 | 編集
イ**マ様
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします!^^
え?休憩時間の息抜きになってますか?ありがとうございますm(__)m
さて、夜の電話の男のカードを持つ司。
確かにズルいですよねぇ~。
そしてつくしはそんな状況からどんな風に恋に落ちるのか。
う~ん(笑)恋はふとしたことから落ちることもあれば、劇的な何かがそうさせることもあるんでしょうねぇ...。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.01.07 23:02 | 編集
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