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2018
12.19

理想の恋の見つけ方 49

『はい』と電話に出た相手に「私です。今いいですか?」とつくしは言った。
そして1週間の間にあったことを話そうとしていた。
それは仕事で道明寺副社長のパートナーとしてパーティーに出席したことだが、前回の電話でパーティーに出席することについて話しをしていた。そして相手の男性について全ての事情を話すことは出来ないが、と前置きをして、その男性が社会的地位の高い人物で便宜を図ってくれるが厳しい人だという話をした。

だがこれから話すことは、その人のことではなく、少し困った状況にあることを話そうとしていた。それはかつて家庭教師をしていた6歳年下の男性から好意を持たれているということだ。
桜子は女性が6歳年上は世間ではよくある話しだと言ったが、つくしの知る限り周りそういった年の差のカップルはおらず、訊いたことがなかった。それに1、2歳の年の差ならまだしも、あまり一般的とは言えない歳の差はエキセントリック、つまり普通ではないと思われてもおかしくはなく、稀に聞く話として男性が一目惚れをした女性の実年齢を知って動揺し、たじろぐ姿が普通のはずだ。

だが若林和彦は、つくしとの年の差を知っていて思いを伝えて来た。
それを悪いとは言わないが彼の想いを受け入れることは出来なかった。
それにしても、いい返事を待っていると書かれたカードが添えられた淡い水色のマフラーは、あの頃愛用していた色と同じだった。

当時、服装と言えばシャツカラーで地味なパンツスタイルが多く冬のコートの色は黒色。愛用していた淡い水色のマフラーは、そんなコートに差し色として映え、和彦はそれを覚えていたということだ。だが今までそのことが頭の中にあったとすれば、相当長い間覚えていたことになるが、男子中学生の初恋というのはそういったものなのか。
弟の進とそういった話をしたことが無ければ、訊いたこともなかったが、思春期の少年にとって、つくし程年齢が離れた女性は眩しく印象深かったということだろう。

『どうかしましたか?』

「え?あ、ごめんなさい。電話なのに黙っているなんて」

『いえ。いいんです。それより何かありましたか?』

「ええ、まあ….」

と、つい言葉を濁してしまったが、電話の男性は、つくしよりもひとつ年上だと言ったが、それなら若林和彦と男性は7歳の年の差ということになるが、同じ男性として6歳年上の女性に対して何を思うか知りたいと思った。
だがそこでふと思った。つくしが夜の電話の男性について知っていることは年齢だけ。それも本当かどうか定かではなく、改めて思えば謎めいた存在だ。そして相手の言うことを疑えばきりがないのだが、電話の向こうにいる男性の声は信頼できる声をしていて、嘘をついているとは考えていなかった。

そしてつくしは先日パーティーであったことを話し始めた。
実は15年前に家庭教師をしていた6歳年下の男性と偶然出会い、その男性から好意を抱かれ付き合って欲しいと言われたという話を。
そしてまだその男性には話していないが付き合うつもりはないという話を。
しかし考えてみれば、実際に会った若林和彦よりも物理的に会ってもいない男性に自分の思いを打ち明けるというのもおかしな話だが、かえって何も知らない人だからこそ言えるということもある。
つまりそれは、和彦以上に電話の男性の方がつくしを惹きつけていて、例えその人の姿が見えなくても、一番近い存在は掌に乗る機械を通して繋がっている男性ということになる。


『そうですか。懐かしい人に出会ったが、その人はあなたに好意を抱いていると言った。それに対しあなたは彼の気持に応えることは出来ないということですね?』

「ええ。私には勿体ないような人だと思っています。それに教え子ですからとてもそんな気にはなれません」

『なるほど。かつての教え子は恋愛の対象には思えないということですか?』

「はい。とても優秀な少年でした。勉強熱心で頭のいい子でした。今もあの頃と同じような聡明さを感じさせる男性になっていました」

『そうですか。どうやらあなたのその話しぶりからすると、好青年のように思えますが、もしあなたが年齢差を気にしているならそれは杞憂かもしれませんよ?好きになれば6歳年上だろうと年齢は関係ないはずです。それにその人が何をしても可愛く見える。それが恋をする男だと思いますよ』

男性はそこで一旦言葉を切り、それから言葉を継いだ。

『その男性は6歳年下….つまり28歳と言えば結婚を考えていてもおかしくない。違いますか?付き合って欲しいと言われたということは、結婚を前提にではないでしょうか?』

「え?え….ええ。でも私はその方との結婚を考えていません。だからお付き合いすることはありません。つまりそのつもりもないのにお付き合いをして互いが傷つくことは出来れば避けたいと思っています。それにその方には私のように年上の女性よりも同じ年頃の女性の方がお似合いだと思います」








司は牧野つくしから打ち明け話を訊かされたが、それはパーティーで会った若林和彦のこと。そして帰りの車内で話をした時は結婚という言葉は出なかったが、若林和彦は牧野つくしと付き合うに際し将来を約束したようだ。
だが女の方は断ろうとしている。その理由は年上の女よりも同年代の女の方が似合うという理由。そしてその言葉は車内でも言っていた。
だがその言葉通り6歳年下だからという理由だけで断るとすれば、随分と勿体ない話だと思うが、他に何か理由があるのか。あるとすればその理由は何なのか。
互いが傷つくことは出来れば避けたいと言ったが、過去に男といざこざがあり懲りたのか?司とは別の意味で恋愛に失望を感じたのか。
それでも、若林建設の専務なら玉の輿と言えるはずだが、海洋生物学者で准教授の牧野つくしにとっては、そんな男は無意味な存在なのか。そんなことを思いながら訊いていたが、そこでふと思った。もしかして牧野つくしには結婚願望がないというのか?
そのことに気付くと、司は突然笑い出したい気持ちになっていた。最高に楽しい気分だった。
それは思いついたからだ。今まで牧野つくしという研究一筋の女にも裏表があることを、金がある男の前では態度が変わるはずだと。その事実を確かめるため、こうして電話の男の存在を作り出し牧野つくしの態度を見ていた。だがその策略は変えた方が楽しいことに気付いた。女が近づいて来るのを待つよりも、司が近づいて行けばいい。熱心に誘えばいい。自分に惚れさせればいい。そしてその時、牧野つくしはどうするかを見たいと思った。





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コメント
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dot 2018.12.19 08:14 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
過去に恋愛で何かあったのかと思った男。
桜子の発言にもありましたねぇ。
司はつくしに対し好奇心以上の感情を抱き始めたことに気付いているのか?
いいえ。恋という感情は知らないはずですから、気付いていません(笑)
女の扱いは知っていても、心の裡までは知らないでしょうねぇ。
対して和彦は初恋という感情を知っています。この差は大きいのでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.20 22:22 | 編集
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