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2018
12.12

理想の恋の見つけ方 43

「牧野先生?こちらは?」

「あの…ええっと….こちらは_」

「これはどうも初めまして。道明寺副社長。私は若林建設の若林和彦と申します。今は父の下で経営の勉強をさせていただいている若輩者でございます」

二人の間に割って入った声の持ち主は、若林建設の若林と名乗った男に視線を向けたが、和彦の瞳が涼やかだとすると、司の瞳は冷やかさを湛えていた。
そして司は和彦が差し出した名刺に視線を落とし、受け取ると無造作にポケットに突っ込み、暫く無言で和彦の顔を見た。

「若林建設さんか。申し訳ない。私はこういった場所には名刺を持ち歩く習慣がないのでね」

司はそう言って視線を和彦から牧野つくしに移したが、女はこの状況にどうしたらいいのか分からない様子で司を見返していた。
そしてその様子に和彦は少しの間を置いて言った。

「いえ。構いません。道明寺副社長とお話出来るだけで光栄ですから。でも正直に申し上げればあなたの名刺を頂きたかったです。あなたの名刺ならたとえ10年経とうが20年経とうが価値がありますから」

一般的に古い名刺には価値がない。それは名刺の人間がいつまでもその名刺に書かれた部署にいるようでは、その人間には進歩がないということになる。つまり出世できない人間と判断される。
それにその人間がいつまでもその会社にいるのか、ということになるからだが、道明寺ホールディングス次期社長の司の名刺なら何年経とうがその名刺に敬意が払われることは間違いない。そしてその名刺を手にする人間がビジネスの世界にどれだけいるのか、と問われれば多いとは言えないこともあり、司の名刺を欲しがる人間は大勢いた。

「私の名刺なんぞ何の価値もありませんよ。それに名刺などただの紙に過ぎません。それより社長はお元気ですか?」

司は、若林和彦は知らなかったが、父親と次期社長と言われていた息子は知っていた。
だが何年か前、その男が亡くなったと訊いた覚えがあった。そしてたった今、別の息子である和彦が父親の跡を継ぐことを知ったが、その男が牧野つくしに何の用があるのか。

司は牧野つくしが化粧室から戻って来た時から彼女を見ていた。
そして男が声をかけ親しげに話し始めたことも知っていて、女がどんな態度を取るか見ていた。
こんなパーティーに出席したことがないと言った女は、若い男に声を掛けられると立ち止まり話し始めたが、司は声を掛けた男に見覚えはなかった。だが高森の誕生パーティーへ出席するということは、高森の知り合いか。業界の人間か。それとも銀行屋か株屋か。とにかくその男が何か言うたび驚いた顔から困った顔へとコロコロと表情を変え時に頬を染めるのを見ていた。

「はい。息災にしておりますが父をご存知ですか?」

「ええ。若林建設さんにはうちのインフラ事業部が手掛けた洋上風車の建設については大変お世話になりました。その時尽力して下さったのが社長であるお父上です。何しろ御社がお持ちの海洋独特の気象海象に関する知識や実績は他社にはありません。やはり長年海上土木に力を入れてきたマリコンさんだけのことはあると感心いたしました。スーパーゼネコンをサブに従えることが出来る技術力をお持ちだということは、素晴らしいことではありませんか?それに最近はアジアでの仕事も多いと訊きますので業績は右肩上がりでしょう」

実際若林建設は、アジアでのインフラ整備需要拡大に対応し、海上の埋め立てや地下鉄の建設など海外の仕事も多くこなしていた。

「おかげ様でと言いたいところですが建設業界にも淘汰の波があります。同じ波でも海の波を避けるのは、お誉めいただいた技術力で何とかなるものですが、このご時世経営となると正直大変なものがあります。父は毎年決算が近づくたびに胃が痛むと言っています。それでも会社を潰す訳にはいきませんからね。頑張りたいと思っております」

司は、そう言った和彦が牧野つくしの方へ視線を移したのを見た。
そして牧野つくしは、ふたりの男性が自分を見ていることに口を開こうとしたが、その前に和彦が口を開いた。

「もしかして牧野先生。ここへは道明寺副社長と一緒にお見えになられたんですか?」

「え?うん、そうなの。道明寺副社長には仕事でお世話になってるから….ええっと..」

「そうですか。さっきから何だか色々と言いにくそうでしたけど、まさかさっき僕が訊いたことに関係ありますか?」

和彦が訊いたこと。
それはつくしに恋人や好きな人がいるかという質問だ。そしてつくしは、その質問に首を横に振った。それはいないという意味だったが、和彦はそれなら自分と付き合って欲しいと告げたが、そこに現れたのが司だ。

「関係ないけど。若林君その話はここでは…..」

と、女の言葉を濁すような発言に司は和彦に訊いた。

「二人はお知り合いですか?」

「ええ。牧野先生は僕が中学生の頃の家庭教師だったんです。お恥ずかしい話ですが13歳の僕は週に一度牧野先生に会えるのを楽しみにしていました。今思えば男子中学生の家庭教師を女子大生が務めることはどうかと思いますが、僕は嬉しかったんです。それに牧野先生は僕の初恋の人なんです」

「ちょっと、和彦く…..じゃなくて若林君!何も道明寺副社長にそんなこと言わなくても_」

嬉々として答える和彦につくしが慌てて口を挟んだが、和彦は気に留めなかった。
むしろ話を訊いて欲しいと言葉を継いだ。

「いいじゃないですか。これは僕の気持であり牧野先生の気持じゃありません。さっきも言いましたよね?僕は率直な人間です。自分の気持を伝えることが悪いとは思いません」

和彦はそう言ってつくしに視線を落とし、それから再び司へとその視線を向けた。
殆どの人間は本能的に相手が自分にとって脅威か脅威でないかを感じることが出来る。
そして将来社長として会社を継ぐ和彦にもその本能があった。
そんな和彦の涼やかな瞳の奥に見えたのは強い意思を秘めた輝きであり、こうして語られる言葉は司に対しての牽制だ。

「それにしてもまさかここで先生に会えるとは思いもしませんでした。それにこれが偶然の出会いだとしても僕には運命のように感じられたんです」

それは宣言と思えるような力強い言葉で淀むことがない。
司もそこまで訊けば和彦が言いたいことは分かった。
かつての教え子である若林和彦は、牧野つくしのことが好きだということ。そして和彦の言葉に頬を赤らめた女の姿は、司が見たことがなかった牧野つくしの顔だ。つまり司が二人の前に現れる前、和彦は牧野つくしに今でも好きだと自分の気持を伝えたと言うことだ。

司にとって愛だの恋だのという言葉ほど無意味なものはなかった。
愛は存在せず自分の周りあったのは欲望だけであり、司の友人たちも愛や恋を語ることはない。
そして女は平気で嘘をつく。女は愛情ではなく金や地位で相手を見るが、牧野つくしは若林和彦に何を見ているのか。
そして若林和彦の牧野つくしに対する態度は愛なのか?
司は和彦が自分を見る眼に挑戦的な光りを見ていた。





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コメント
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dot 2018.12.12 06:15 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
若林くんの中では何かストーリーが出来上がっている!(≧▽≦)
確かにそうかもしれませんね?そして押せ押せの若林くんは独善的ということでしょうか?
でもねぇ。お金持ちで容姿に自信があると、そうなる確率が高いような気がします(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.12.14 21:54 | 編集
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