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2018
12.10

理想の恋の見つけ方 41

「牧野先生?」

声をかけて来たのはタキシードを着た背の高い男性。
その顔立ちはハッとするほどキレイだったが見覚えがなかった。
それに上場企業の社長の誕生日パーティーに出席するような人間に知り合いはいなかった。
だが改めてその顔を見ればもしかすると、という思いが湧き上がった。だが違っていたらという思いから名前を口にすることは躊躇われた。

「牧野先生。ご無沙汰しております」

そして再び名前を呼ばれたとき、間違っていたとしても構わないという思いから名前を呼んでいた。

「まさか……若林君?和彦君なの?」

「はい。若林和彦です」

「本当に若林君なの?」

「そんなに何度も確かめなくても僕です。和彦ですよ、牧野先生」

「でもまさかこんなところで会うなんて….嘘みたい。すっかり大人になって」

「先生。あれから何年たったと思ってるんですか?僕も大人になりましたからそれなりに変わりましたよ。それにしても先生はあの頃と同じで全然変わってませんね?すぐに分かりました。つまりそれは若々しいってことですけどね」

歯切れのよい言葉を話す男性は笑みを浮かべていたが、その顔はどこか昔の面影を残していた。だが纏う雰囲気は変わってしまったが、若林和彦はつくしが19歳の大学生の頃1年間だけだがアルバイトで家庭教師として教えていた13歳の中学生だった。
そんな和彦は頭がよく、何人かの家庭教師がいたが、つくしはその中で理科を教えていた。
そして教育熱心な和彦の両親は勉強以外にもピアノも習わせていたと記憶しているが、あの時の少年に15年前と今が変わらないと言われることを喜んでいいのか複雑なところだが、素直にありがとうと礼を言った。

「でもどうしてここに?」

思わず言った言葉だったが、それはつくしにも言えるはずで、本来なら自分がここにいることは到底あり得ない話なのだが、そのことよりも15年近く前のことに道明寺副社長に同伴したパーティーで邂逅するとは思いもしなかった。
そしてあの頃は、どちらかと言えば大人しく線が細い静かな少年の和彦も、今はがっしりした体躯を持つ大人の男性に変貌していることに時の流れを感じていた。

「先生。これが今の僕です」

差し出された名刺には、『株式会社若林建設 専務取締役 若林和彦』と記されていた。
つくしがあの当時家庭教師として派遣されたのは、若林建設の社長の家で、初めて訪れた時は純和風の大きな邸宅に驚いたが、建設会社の社長の家と訊かされ納得したことがあった。
そして若林建設と言えば海洋土木を得意とする準大手ゼネコンのひとつで、埋め立てや海底工事などといった海洋関係の土木工事や建設を行う建設業者だが、そういった建設業者のことをmarine contractor(マリンコントラクター)略してマリコンと言うが、ゼネコンと言う呼び名に比べれば世間での認知度は低い。
だが若林建設はマリコンの中でも最大手と呼ばれることもだが、国内工事の4~6割は官公庁からのものであり業績は良かった。  
そして海洋土木を得意とすることから、港湾工事や護岸工事で名前を訊くことがあり、海が仕事場と言えるつくしにすれば耳慣れた企業だった。

「それから僕が今日ここを訪れたのは業界内の付き合いです。高森開発はディベロッパーで、うちは建設会社ですから得意不得意の分野は別として付き合いは大切にしなければいけませんからね。それから今の僕は父の後継者として経営を学ぶ立場にいます」

「え、でも….」

確か和彦には兄がひとりいて、その兄は和彦以上に大勢の家庭教師が付いていて優秀だと訊いていた。そして彼が家業を継ぐと思っていた。

「ああ、兄ですか?兄は4年前に交通事故で亡くなりました。ですから僕が父の跡を継ぐことになったんですよ。正直なところまさか僕がと思いましたが、これも運命なんでしょうね。大学を卒業して就職したのは銀行でしたが、親父にお前が跡を継ぐべきだって言われて銀行は辞めたんです」

と言って口にしたのは所謂メガバンクと呼ばれる銀行のひとつで、本店勤務だったということは、和彦は将来を約束された一握りのエリート銀行員と呼ばれる人間だったということになる。
それにしても4年前と言えば24歳。
兄が継ぐことが既定路線となっていた会社を、大学を卒業して2年足らずの自分が、そして銀行に就職したというなら、そういった学部を卒業していたはずで、そこから建設業である家業の後継者としての道を歩むということを運命だと受け入れることは簡単ではなかったはずだ。だが28歳の今は若き経営者としての風格が感じられた。

「そうだったの….大変だったわね。でも専務取締役でしょ?凄いわね?」

「いえ。全然凄くありませんよ。偉そうに専務取締役なんて肩書が付いてますけど、今の僕は親父の使い走りです。だから今夜も親父の代わりです。でも今夜は僕が来てよかったですよ。こうして牧野先生に会えたんですから」

和彦はそう言ってから声をひそめて言葉を継いだ。

「それから内緒ですが親父は高森社長の奥さんが苦手なんですよ。あの香水の匂いがね。でも僕もあの人は苦手です。香水だけの問題じゃないんですけどね?」

ついさっきまで高森真理子の傍にいたつくしは、和彦の言葉のニュアンスに言いたいことは理解していた。

「それよりも牧野先生こそどうしてここに?先生は大学で教える立場になられましたよね?あ、どうしてそれをって思っていますか?偶然ですが何かの記事で先生の名前をお見かけしたんです。海洋生物学者、牧野つくしって名前をね。その時思いました。あの時の牧野先生は学者になったんだってね。それにしても女性でサメの研究をしているとは珍しいですよね?それに今日のその装いにも驚きました。何しろ僕が知っていた先生は、いつも清楚な感じのシャツカラーを着てパンツスタイルでしたから今日は大人の牧野先生だって思いましたよ」

ミッドナイトブルーのロングドレスは確かにつくしのイメージではない。
そして和彦が言ったように、今でもあの頃と同じでシャツカラーにパンツスタイルがつくしの定番だ。

「それで先生はどうしてここに?」

「え?うん….仕事なの」

「仕事ですか?」

「うん。話せば色々とあってね….」

「そうですか。ビジネスですか......。僕も今は大人になりましたので、何か事情があるとしても詳しくは訊きません。その代わり教えて欲しいことがあります。先生、恋人はいますか?」





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コメント
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dot 2018.12.10 06:07 | 編集
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dot 2018.12.10 07:06 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
家庭教師をしていた時の教え子が現れびっくり。
普段象牙の塔に住まう人間が、塔から出た途端色々ありますねぇ(笑)
え?何やら波乱が起こりそうですか?(笑)司と高森真理子と若林和彦と。何か起こるのでしょうかねぇ(笑)

そうですねぇ....無理のない範囲で書ければと思っていますが、このようなお話を楽しんで下さってありがとうございます(低頭)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.10 21:24 | 編集
ふ*******マ様
なんだか、うふふですか?(´艸`*)
親しく話をする二人を見ている人間はどこかにいるのでしょうか?
若林くんの登場で何かが変わるのでしょうかねぇ。
そして高森真理子は.....。
このパーティーはつくしにとって鬼門なのか。それとも?
普段研究室に篭っている女が外へ出ると何かが起こるのでしょうか。
時に検索しながら...わ、すみませんお手数をお掛けしております。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.10 21:34 | 編集
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