ドレスと一緒に用意されていた高価な靴は、いつもつくしが履いている靴とは違い踵が高かった。だから長いドレスの裾に気を使いながら用を済ませ化粧室から出たが、そこに立っていたのは濃密過ぎる香水を纏った高森真理子だった。
つくしはその女性に向かって笑みを浮かべた。それは、こういった場所で会えばそうする以外なかったからだが、相手はニコリともせず口を開いた。
「あなたスタッフなんて嘘でしょ?本当は彼の恋人なんでしょ?」
「は?」
その言葉は、突然目の前に現れた女性は一体何を言っているのかといった思いがそのまま口を突いたのだが、高森真理子はつくしが何か言うよりも先に言葉を継いだ。
「だって道明寺司が大勢の人がいる前で、ましてやパーティーで本当のことを言うはずないもの。それに男は女と手を繋いでホテルに入っても友達ですって言うくらいですもの。それにプライバシーを重視する男がひと前でこの女は恋人ですなんて言うはずがないわ。でも私には分かるの。あなたが彼を見つめる目がそうだと言ってるわ」
高森真理子が言う、あなたが彼を見つめる目というのが、ついさっき壁に掲げられていた絵を見た時のことを言っているとすれば、あの時確かに二人は見つめ合っていた。
だがそれは単に目が合っただけで恋人に対する熱い思いではない。それにその後じっと見つめられその目を見返したが、それは圧倒されるような目力に目を逸らすことが出来なかっただけの話だ。
だから目の前に立ちはだかった女性は何か勘違いしているとしか言えないのだが、高森夫婦と挨拶を交わした時、妻の真理子がつくしに向けた視線は冷やかだった。
そしてその後で思い浮かんだのは、人妻であるこの邸の女主人は道明寺司のことが好きだということだ。
だが誰が誰を好きだろうとつくしには関係なかった。ここにいるのは頼まれただけで自分から好き好んで来たのではない。だからその思いが伝わるように口を開いた。
「あの奥様。何か勘違いされているのでは?私は副社長から紹介があった通り彼のスタッフのひとりで恋人では_」
「牧野つくしさん。あなた私のことをバカだと思ってるの?あなたは道明寺の社員ではないわ。ネット社会の世の中ですもの。調べれば出て来るものね。あなた大学で教えているそうね?牧野准教授。そんなあなたか彼のスタッフだなんておかしいでしょ?」
「あのそれは副社長のブレーン_」
「そのドレス。あなたの給料じゃ買えないわね?だって准教授の給料なんて知れてるもの。つまりそのドレスは彼からプレゼントされたものでしょ?道明寺司が女性にドレスを贈る。そんな話は今まで訊いたことがないわ。つまりそれだけ本気だってことかしら?」
つくしは高森真理子の解釈が、あらぬ方向へ向かう前に正したかった。しかし真理子がつくしに口を挟ませようとしないことが分かった。それは真理子がひと息つくように口を閉ざしたとしても、つくしが口を開こうとすると、またすぐに話し始めるからだ。
そしてその装いからも自己主張の強い女性であることが感じられた。
「でもいい気にならないことね。あなたは私たちの世界の人間ではないわ。だから知らないでしょうから教えてあげる。今まで彼の恋人で長く続いた人はいないわ。何度か寝たらおしまいよ。超一流の男は求める女も超一流じゃなきゃダメなの。今あなたが彼の恋人でいるのは目新しいからじゃないかしら?だって大学の先生なんて学問に囚われたつまらない人間でしょ?あらこんな言い方したら他の先生に悪いわね。でも大学教授なんて頭でっかちばかりですもの。言っとくけど私こう見えても大学を卒業しているの。だからバカじゃないわ」
そして真理子の口から語れた大学の名前は名の知れた女子大だった。
「それにしてもあなた34歳ですって?つまり道明寺司は私の年齢の女でも相手にするってことね?それなら同じ女でも私の方がスタイルもいいし美貌もあるわ。それに私は結婚しているから彼に結婚を迫ることもないし後腐れなく付き合うことが出来ると思うわ」
つくしは道明寺司の恋人ではなかったが、それを否定するよりも、目の前の女性の話をこれ以上訊きたくはなかった。結婚しているなら越えてはならない一線というものがあるはずだが、それを気に留めることがない女性の考えはつくしには理解できなかった。
それにこの女性はつくしが道明寺司の恋人だと大きな誤解をしていて、これ以上おかしなことに巻き込まれ無理矢理深入りさせられる前にこの場所から退散しなければと思った。
「あの失礼して_」
「あら奥様。先日の画商のパーティーでお見かけした時のお召し物も素敵でしたけど、今夜も素敵なドレスですわ!」
つくしが言いかけたところで、真理子は急に話を変えた。それはつくしの背後にある化粧室の扉が開いたからだ。
そして現れた女性は黒いドレスを着た年配の女性だった。
その女性はつくしに向かってほほ笑み、それから真理子に向かって同じような笑みを返すと話し始めたが、そのおかげでつくしはその場から離れることが出来た。
「ああびっくりした。トイレの前で待ち伏せされるなんて女子高校生の喧嘩じゃあるまいしどうかしてるわ」
それにしても高森真理子に道明寺司の女性についての価値観について訊かされるとは思わなかった。それは、『今まで彼の恋人で長く続いた人はいないわ。何度か寝たらおしまいよ』という言葉が表すように道明寺副社長の恋愛のスパンは短いということだが、サメは交尾するときオスがメスに噛みつく形で交尾をする。それはメスの胸ビレなどにオスが噛みつき交接器を子宮内に入れるという行動を取るのだが、その行為はメスのサメに取っては命に係わる大変な作業であり、オスに噛まれて死んでしまう危険もある。
となると経済界のサメはどうなのか。
ふとそんなことを思ったが、つくしは人間のサメの交尾の形が何であろうと興味はない。
それよりも高森真理子は裕福な実業家を夫に持つ既婚女性だ。
それなのに堂々と他の男性と付き合いたいと言う。
つまりそれは夫を愛していないということなのか。真理子が高森隆三と夫婦でいる理由は愛ではないということか。
だが確かに世の中には裕福な夫を射止めるため色仕掛けを用いる女性もいる。そして道明寺司という男性は、そういった女性に狙われる立場にある。
だからそれを防ぐ意味もありパーティーでパートナーの存在が必要だということは十分理解出来る。
だがあの男性に盾になる女性が必要かと問われれば、必要ないと思われるが、それでも頼まれたのだから役目は果たさなければならなかった。
けれども、こうしてつくしがパートナーとして傍にいたとしても、高森真理子のようにパートナーの存在を気にしない女性は大勢いるはずだ。
と言うことは、このパーティーでは高森真理子以外にもそういった女性がいることは十分考えられる。つまりたった今トイレの前で待ち伏せされたような状況が再び起こらないとも限らないということになる。
「でもまさか他にもいるなんて思いたくないんだけど」
と、思わず悲観的な思いが口を突いたが、パーティーが開かれている部屋へ戻った時だった。
少し離れた所から名前を呼ばれ振り向いた。

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つくしはその女性に向かって笑みを浮かべた。それは、こういった場所で会えばそうする以外なかったからだが、相手はニコリともせず口を開いた。
「あなたスタッフなんて嘘でしょ?本当は彼の恋人なんでしょ?」
「は?」
その言葉は、突然目の前に現れた女性は一体何を言っているのかといった思いがそのまま口を突いたのだが、高森真理子はつくしが何か言うよりも先に言葉を継いだ。
「だって道明寺司が大勢の人がいる前で、ましてやパーティーで本当のことを言うはずないもの。それに男は女と手を繋いでホテルに入っても友達ですって言うくらいですもの。それにプライバシーを重視する男がひと前でこの女は恋人ですなんて言うはずがないわ。でも私には分かるの。あなたが彼を見つめる目がそうだと言ってるわ」
高森真理子が言う、あなたが彼を見つめる目というのが、ついさっき壁に掲げられていた絵を見た時のことを言っているとすれば、あの時確かに二人は見つめ合っていた。
だがそれは単に目が合っただけで恋人に対する熱い思いではない。それにその後じっと見つめられその目を見返したが、それは圧倒されるような目力に目を逸らすことが出来なかっただけの話だ。
だから目の前に立ちはだかった女性は何か勘違いしているとしか言えないのだが、高森夫婦と挨拶を交わした時、妻の真理子がつくしに向けた視線は冷やかだった。
そしてその後で思い浮かんだのは、人妻であるこの邸の女主人は道明寺司のことが好きだということだ。
だが誰が誰を好きだろうとつくしには関係なかった。ここにいるのは頼まれただけで自分から好き好んで来たのではない。だからその思いが伝わるように口を開いた。
「あの奥様。何か勘違いされているのでは?私は副社長から紹介があった通り彼のスタッフのひとりで恋人では_」
「牧野つくしさん。あなた私のことをバカだと思ってるの?あなたは道明寺の社員ではないわ。ネット社会の世の中ですもの。調べれば出て来るものね。あなた大学で教えているそうね?牧野准教授。そんなあなたか彼のスタッフだなんておかしいでしょ?」
「あのそれは副社長のブレーン_」
「そのドレス。あなたの給料じゃ買えないわね?だって准教授の給料なんて知れてるもの。つまりそのドレスは彼からプレゼントされたものでしょ?道明寺司が女性にドレスを贈る。そんな話は今まで訊いたことがないわ。つまりそれだけ本気だってことかしら?」
つくしは高森真理子の解釈が、あらぬ方向へ向かう前に正したかった。しかし真理子がつくしに口を挟ませようとしないことが分かった。それは真理子がひと息つくように口を閉ざしたとしても、つくしが口を開こうとすると、またすぐに話し始めるからだ。
そしてその装いからも自己主張の強い女性であることが感じられた。
「でもいい気にならないことね。あなたは私たちの世界の人間ではないわ。だから知らないでしょうから教えてあげる。今まで彼の恋人で長く続いた人はいないわ。何度か寝たらおしまいよ。超一流の男は求める女も超一流じゃなきゃダメなの。今あなたが彼の恋人でいるのは目新しいからじゃないかしら?だって大学の先生なんて学問に囚われたつまらない人間でしょ?あらこんな言い方したら他の先生に悪いわね。でも大学教授なんて頭でっかちばかりですもの。言っとくけど私こう見えても大学を卒業しているの。だからバカじゃないわ」
そして真理子の口から語れた大学の名前は名の知れた女子大だった。
「それにしてもあなた34歳ですって?つまり道明寺司は私の年齢の女でも相手にするってことね?それなら同じ女でも私の方がスタイルもいいし美貌もあるわ。それに私は結婚しているから彼に結婚を迫ることもないし後腐れなく付き合うことが出来ると思うわ」
つくしは道明寺司の恋人ではなかったが、それを否定するよりも、目の前の女性の話をこれ以上訊きたくはなかった。結婚しているなら越えてはならない一線というものがあるはずだが、それを気に留めることがない女性の考えはつくしには理解できなかった。
それにこの女性はつくしが道明寺司の恋人だと大きな誤解をしていて、これ以上おかしなことに巻き込まれ無理矢理深入りさせられる前にこの場所から退散しなければと思った。
「あの失礼して_」
「あら奥様。先日の画商のパーティーでお見かけした時のお召し物も素敵でしたけど、今夜も素敵なドレスですわ!」
つくしが言いかけたところで、真理子は急に話を変えた。それはつくしの背後にある化粧室の扉が開いたからだ。
そして現れた女性は黒いドレスを着た年配の女性だった。
その女性はつくしに向かってほほ笑み、それから真理子に向かって同じような笑みを返すと話し始めたが、そのおかげでつくしはその場から離れることが出来た。
「ああびっくりした。トイレの前で待ち伏せされるなんて女子高校生の喧嘩じゃあるまいしどうかしてるわ」
それにしても高森真理子に道明寺司の女性についての価値観について訊かされるとは思わなかった。それは、『今まで彼の恋人で長く続いた人はいないわ。何度か寝たらおしまいよ』という言葉が表すように道明寺副社長の恋愛のスパンは短いということだが、サメは交尾するときオスがメスに噛みつく形で交尾をする。それはメスの胸ビレなどにオスが噛みつき交接器を子宮内に入れるという行動を取るのだが、その行為はメスのサメに取っては命に係わる大変な作業であり、オスに噛まれて死んでしまう危険もある。
となると経済界のサメはどうなのか。
ふとそんなことを思ったが、つくしは人間のサメの交尾の形が何であろうと興味はない。
それよりも高森真理子は裕福な実業家を夫に持つ既婚女性だ。
それなのに堂々と他の男性と付き合いたいと言う。
つまりそれは夫を愛していないということなのか。真理子が高森隆三と夫婦でいる理由は愛ではないということか。
だが確かに世の中には裕福な夫を射止めるため色仕掛けを用いる女性もいる。そして道明寺司という男性は、そういった女性に狙われる立場にある。
だからそれを防ぐ意味もありパーティーでパートナーの存在が必要だということは十分理解出来る。
だがあの男性に盾になる女性が必要かと問われれば、必要ないと思われるが、それでも頼まれたのだから役目は果たさなければならなかった。
けれども、こうしてつくしがパートナーとして傍にいたとしても、高森真理子のようにパートナーの存在を気にしない女性は大勢いるはずだ。
と言うことは、このパーティーでは高森真理子以外にもそういった女性がいることは十分考えられる。つまりたった今トイレの前で待ち伏せされたような状況が再び起こらないとも限らないということになる。
「でもまさか他にもいるなんて思いたくないんだけど」
と、思わず悲観的な思いが口を突いたが、パーティーが開かれている部屋へ戻った時だった。
少し離れた所から名前を呼ばれ振り向いた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
真理子。つくしの嘘を暴いてやったわ!といった感じですねぇ。
でも的外れなんですけどね(;^ω^)
そして次につくしに声をかけて来たのは誰?副島教授?あきら?
昨夜は少し不完全燃焼ですか?
いや、でもあれだけの会場で肉眼で顏が見えるとなると、かなり凄いのではないでしょうか?
かつてDVDで見たことがありますが、あれだけ会場が大きいと肉眼で見ることが出来るのは本当に凄いと思いますよ。
それにかなりの倍率ですよね?行けただけでも凄いと思います。
そして席割りにも色々とあるんですね?知りませんでした。
大好きな彼がこちらを見て手を振ってくれた!(≧▽≦)素敵!
人生の中で心が躍ることは、そう沢山ないと思いますが、彼に会えて心が潤いましたね?
コメントを読ませて頂いて感動と歓びが伝わってきました。
アカシアも今年某アーティストさんのライブに行きましたが、その方は彼らのような人気者ではないのですが、夢のような時間を経験させて頂きました。そして来年も行く予定です。
コメント最後までちゃんと届いていますよ。
レポートありがとうございました!(≧▽≦)
そしてコメント有難うございました^^
おはようございます^^
真理子。つくしの嘘を暴いてやったわ!といった感じですねぇ。
でも的外れなんですけどね(;^ω^)
そして次につくしに声をかけて来たのは誰?副島教授?あきら?
昨夜は少し不完全燃焼ですか?
いや、でもあれだけの会場で肉眼で顏が見えるとなると、かなり凄いのではないでしょうか?
かつてDVDで見たことがありますが、あれだけ会場が大きいと肉眼で見ることが出来るのは本当に凄いと思いますよ。
それにかなりの倍率ですよね?行けただけでも凄いと思います。
そして席割りにも色々とあるんですね?知りませんでした。
大好きな彼がこちらを見て手を振ってくれた!(≧▽≦)素敵!
人生の中で心が躍ることは、そう沢山ないと思いますが、彼に会えて心が潤いましたね?
コメントを読ませて頂いて感動と歓びが伝わってきました。
アカシアも今年某アーティストさんのライブに行きましたが、その方は彼らのような人気者ではないのですが、夢のような時間を経験させて頂きました。そして来年も行く予定です。
コメント最後までちゃんと届いていますよ。
レポートありがとうございました!(≧▽≦)
そしてコメント有難うございました^^
アカシア
2018.12.09 21:14 | 編集
