「ありがとうございます」
そう礼を言って道明寺司からシャンパングラスを受け取ったが、こういう時はどんな話をすればいいのか。気の利いたお喋りは出来ないと言ったが、ホストである高森夫妻に紹介をされ、夫である高森隆三からゆっくりして下さいと言われたが、落ち着かない気分のままグラスを口へ運ぶと、道明寺副社長に挨拶をしたいと近づいて来た何人かの年配の夫婦と会話を交わしたが、その誰もが好意的だった。
だが高森の妻の視線は、世界的にモテると言われる男性のパートナーとして連れて来られた女はどう見てもその男性には似合わないと言っていた。
だがつくしは喜んで付いて来たのではない。スタッフとして紹介された通りこれは仕事の一環であり純然たるビジネスであり、つくしは彼の恋人ではない。だから不満があるならここにつくしを連れて来た道明寺副社長に言って欲しい。
それにしても何故その女性が自分に対し、そんな思いを抱いているのか疑問だった。
そして滅多に飲むことがないシャンパンを味わっていたが、口の中で滑らかに弾ける泡は今まで味わったことがないものだった。
だがそれをゆっくりと味わう余裕はなく、今の自分がどれだけ場違いな場所にいるのかということを肌で感じていた。
それは、大勢の女性から向けられる視線もだが、同じように向けられるのは大勢の男性からの視線。女性から向けられる視線はつくしに対する嫉妬なのか。そして男性から向けられるのは道明寺副社長に対する羨望なのか。とにかく道明寺司という人物が注目を集める男だということは理解していたが、ここまで注目を浴びるとは思いもしなかった。そして桜子が言った言葉を思い出していた。
私は廃止されましたが華族の出身です。階層や階級というのは目に見えないものですが、今でも確かにそこにあるんです。だから道明寺副社長のパートナーとしてパーティーに出席するなら女性からの冷たい視線は覚悟して下さい。それからああいった女性は野心的です。自分を中心に据えて物事を考えます。だから先輩がどんな立場であろうと、道明寺副社長と一緒にいるだけでライバルと見なされますから気を付けて下さいね。それから何か言われたとしても気にしないことが一番です。
それにしても道明寺副社長のタキシード姿はゴージャスなんでしょうね。先輩が羨ましいです。
だから高森真理子という女性のつくしに対する対抗意識的な態度は、桜子が言った冷たい視線のひとつだと思った。
だがそういった女性に何か言われたとしても今夜限りのことであり、二度と会うことはないのだから気にする必要はないはずだ。
だが考えてみれば高森真理子は人妻だ。つまりそれは__
「牧野先生。何か?」
「え?いえ別に。それにしても凄いお邸ですね?ただ…..なんと言えばいいか…近代建築のようでギリシャのようで….」
と、そこまで言ったところで言葉に詰まったのは、つい先ほどまでこの男性のことを考えていたこともあるが、ホストを敬うという礼儀を考えて邸を形容する言葉を探していたからだが、隣に立つ男ははっきりと言った。
「ちぐはぐだって言えばいい。ここはあの男の趣味だろうが様式を形容するならなんでもありって造りだ。あの男は不動産開発の仕事をしているがはっきり言ってセンスは悪い。品がない。それはあの女房を見たら分かるはずだ。この部屋に飾られている絵もあの女の趣味か。夫の趣味か。どちらの趣味でも構わないが金に飽かせて買った絵はこの部屋には似合ってない」
そう言われ視線の先の壁に掲げられた抽象的な2枚の油絵に眼をやった。
つくしは絵に詳しいとは言えなかったが、それでも言われる通りその絵はこの部屋に飾るには調和が取れているとは言えず、似合ってないの言葉に同調することが出来た。
「そうですね。確かにあの油絵を2枚並べて飾るのは派手だと思います。この部屋の雰囲気からすればもっと柔らかい感じの絵が似合うと思います」
パーティー会場の部屋の天井には大きなシャンデリアが輝いているが、壁は柔らかなパステルカラーをしていた。そこに原色で描かれた線や丸ばかりの抽象派の作品は何を表現しているのか理解出来なかったが、どう考えても調和が取れているとは言えなかった。
「そうか。牧野先生もそう思いますか。となると、牧野先生と私の絵の趣味は同じかもしれませんね」
そう言われたつくしは、その言葉に驚き視線を絵から隣に立つ男の顔に振り向けたが、そこにあったのは圧倒されるような目力で見つめる男の顔で眼が合った。
そしてタキシード姿の男性は桜子の言う通りでゴージャスだった。だからここにいる大勢の女性達がこの男性に眼を奪われるのだ。だが彼女たちが何を考えているにしても、つくしは道明寺司に興味はないのだから関係なかった。
それに道明寺司はつくしの手に負える男性ではないと思った。この男性と付き合う女性はパーティー慣れしたモデルのような体型を持ち駆け引きを楽しむタイプだ。間違っても地味な研究者ではない。
だがもし隣にいるのが電話の男性だったら自分はどうしているだろう。
声だけの男性は、つくしが仕事でパーティーに出席することを知っているが、どんな装いか想像しているだろうか。そして同伴する相手については苦手な男性だと言ったが、そのことを気にしてくれているだろうか。
つくしは、自分をじっと見つめる副社長の顔を見ながら何か言わなければと思いながらも言葉が出なかった。
だが考えているうちに、副社長に声をかけてくる人がいて、「あの。すみません。ちょっと化粧室に行ってきます」と、明るい声で断りを言って傍を離れた。

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そう礼を言って道明寺司からシャンパングラスを受け取ったが、こういう時はどんな話をすればいいのか。気の利いたお喋りは出来ないと言ったが、ホストである高森夫妻に紹介をされ、夫である高森隆三からゆっくりして下さいと言われたが、落ち着かない気分のままグラスを口へ運ぶと、道明寺副社長に挨拶をしたいと近づいて来た何人かの年配の夫婦と会話を交わしたが、その誰もが好意的だった。
だが高森の妻の視線は、世界的にモテると言われる男性のパートナーとして連れて来られた女はどう見てもその男性には似合わないと言っていた。
だがつくしは喜んで付いて来たのではない。スタッフとして紹介された通りこれは仕事の一環であり純然たるビジネスであり、つくしは彼の恋人ではない。だから不満があるならここにつくしを連れて来た道明寺副社長に言って欲しい。
それにしても何故その女性が自分に対し、そんな思いを抱いているのか疑問だった。
そして滅多に飲むことがないシャンパンを味わっていたが、口の中で滑らかに弾ける泡は今まで味わったことがないものだった。
だがそれをゆっくりと味わう余裕はなく、今の自分がどれだけ場違いな場所にいるのかということを肌で感じていた。
それは、大勢の女性から向けられる視線もだが、同じように向けられるのは大勢の男性からの視線。女性から向けられる視線はつくしに対する嫉妬なのか。そして男性から向けられるのは道明寺副社長に対する羨望なのか。とにかく道明寺司という人物が注目を集める男だということは理解していたが、ここまで注目を浴びるとは思いもしなかった。そして桜子が言った言葉を思い出していた。
私は廃止されましたが華族の出身です。階層や階級というのは目に見えないものですが、今でも確かにそこにあるんです。だから道明寺副社長のパートナーとしてパーティーに出席するなら女性からの冷たい視線は覚悟して下さい。それからああいった女性は野心的です。自分を中心に据えて物事を考えます。だから先輩がどんな立場であろうと、道明寺副社長と一緒にいるだけでライバルと見なされますから気を付けて下さいね。それから何か言われたとしても気にしないことが一番です。
それにしても道明寺副社長のタキシード姿はゴージャスなんでしょうね。先輩が羨ましいです。
だから高森真理子という女性のつくしに対する対抗意識的な態度は、桜子が言った冷たい視線のひとつだと思った。
だがそういった女性に何か言われたとしても今夜限りのことであり、二度と会うことはないのだから気にする必要はないはずだ。
だが考えてみれば高森真理子は人妻だ。つまりそれは__
「牧野先生。何か?」
「え?いえ別に。それにしても凄いお邸ですね?ただ…..なんと言えばいいか…近代建築のようでギリシャのようで….」
と、そこまで言ったところで言葉に詰まったのは、つい先ほどまでこの男性のことを考えていたこともあるが、ホストを敬うという礼儀を考えて邸を形容する言葉を探していたからだが、隣に立つ男ははっきりと言った。
「ちぐはぐだって言えばいい。ここはあの男の趣味だろうが様式を形容するならなんでもありって造りだ。あの男は不動産開発の仕事をしているがはっきり言ってセンスは悪い。品がない。それはあの女房を見たら分かるはずだ。この部屋に飾られている絵もあの女の趣味か。夫の趣味か。どちらの趣味でも構わないが金に飽かせて買った絵はこの部屋には似合ってない」
そう言われ視線の先の壁に掲げられた抽象的な2枚の油絵に眼をやった。
つくしは絵に詳しいとは言えなかったが、それでも言われる通りその絵はこの部屋に飾るには調和が取れているとは言えず、似合ってないの言葉に同調することが出来た。
「そうですね。確かにあの油絵を2枚並べて飾るのは派手だと思います。この部屋の雰囲気からすればもっと柔らかい感じの絵が似合うと思います」
パーティー会場の部屋の天井には大きなシャンデリアが輝いているが、壁は柔らかなパステルカラーをしていた。そこに原色で描かれた線や丸ばかりの抽象派の作品は何を表現しているのか理解出来なかったが、どう考えても調和が取れているとは言えなかった。
「そうか。牧野先生もそう思いますか。となると、牧野先生と私の絵の趣味は同じかもしれませんね」
そう言われたつくしは、その言葉に驚き視線を絵から隣に立つ男の顔に振り向けたが、そこにあったのは圧倒されるような目力で見つめる男の顔で眼が合った。
そしてタキシード姿の男性は桜子の言う通りでゴージャスだった。だからここにいる大勢の女性達がこの男性に眼を奪われるのだ。だが彼女たちが何を考えているにしても、つくしは道明寺司に興味はないのだから関係なかった。
それに道明寺司はつくしの手に負える男性ではないと思った。この男性と付き合う女性はパーティー慣れしたモデルのような体型を持ち駆け引きを楽しむタイプだ。間違っても地味な研究者ではない。
だがもし隣にいるのが電話の男性だったら自分はどうしているだろう。
声だけの男性は、つくしが仕事でパーティーに出席することを知っているが、どんな装いか想像しているだろうか。そして同伴する相手については苦手な男性だと言ったが、そのことを気にしてくれているだろうか。
つくしは、自分をじっと見つめる副社長の顔を見ながら何か言わなければと思いながらも言葉が出なかった。
だが考えているうちに、副社長に声をかけてくる人がいて、「あの。すみません。ちょっと化粧室に行ってきます」と、明るい声で断りを言って傍を離れた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
高森真理子から感じられる視線は他の女性から感じられる視線とどこか違う。
そうでしょうねぇ(笑)そして一人になったつくしに誰か近づいて来る!?
それとも何事もないのか?
さて。いかがでしたか?
え?落ちてくるものを奪い合う?そしてその闘いには勝ったのでしょうか?(笑)
このつくしのように彼と眼が合ったとか?いや遠すぎますよね?(笑)
ぜひその興奮をお聞かせ下さい!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
高森真理子から感じられる視線は他の女性から感じられる視線とどこか違う。
そうでしょうねぇ(笑)そして一人になったつくしに誰か近づいて来る!?
それとも何事もないのか?
さて。いかがでしたか?
え?落ちてくるものを奪い合う?そしてその闘いには勝ったのでしょうか?(笑)
このつくしのように彼と眼が合ったとか?いや遠すぎますよね?(笑)
ぜひその興奮をお聞かせ下さい!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.12.08 21:08 | 編集
