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2018
12.06

理想の恋の見つけ方 37

木枯らし1号が吹き荒れ、寒さが厳しくなったことを実感する季節が来た。
晩秋ともなれば日暮れは早く辺りはすでに暗くなっていたが、道路沿いに白い壁が続いている横を黒い車が列をなし消えて行く場所は窓から煌々と明かりが漏れていた。
その場所には鉄筋コンクリートで出来た建物があり、床は大理石が使われ、柱はパルテノン神殿のようだと言われているが、かつてこの地に小さな店を構えていた不動産屋は、今は東証一部上場の一流企業と呼ばれるようになり、オーナー社長である高森隆三は今週63歳の誕生日を迎えていた。

そしてその誕生を祝い週末に催されるパーティーには、かなりの数の客が招かれていたが、その中で目を引くのは、道明寺ホールディングス副社長の道明寺司と彼がエスコートしている女性だ。

だが誰もその女性がどこの誰であるかを知らなかった。
そしてこのパーティーに彼が現れたことにも驚いていた。
何しろ高森開発は一部上場企業とは言え、所謂新興企業であり、今の社長が一代で築いた会社で代々の資産家ではない。つまり成金と言われる家柄で、そんな男に対しあからさまな差別はないものの、何代にも渡って事業を展開する企業の中には高森開発と同列に置かれることを嫌がる人間もいた。

だからそんな男の誕生パーティーに道明寺司が来るとは誰も思わなかったはずだ。それも女性をエスコートして来るということに、その女性が誰であるかの詮索が始まっていた。
だが司は女達の彼を見る視線を気にしてはいなかった。

そしてこのパーティーに出席しろと言ったのは、高森開発が持つ土地に目を付けた社長である母親で、パートナーとして牧野つくしを連れて行けと言ったのは、息子が自分のブレーンとして女を迎えたことに結婚の兆しを見たということだろう。だがそれは違うと言いたかった。司が牧野つくしをブレーンに加えたのは単なる好奇心からであり、どんな女も男に見せる顏はひとつではないということを牧野つくしで見たかったからだ。

ドレスをメープルに届けさせ、ヘアもメイクもメープルの美容室で手配していた秘書は、手際が良かった。司が迎えに行った時、肩にショールを掛けた女は、今夜はよろしくお願いいたしますと言い頭を下げた。
そしてこうして牧野つくしを伴いパーティーへ出席したが、光沢のある布地で作られたオフショルダーのミッドナイトブルーのイブニングドレスを纏った女は、白い胸元とすらりと伸びた首をしていた。
こういったドレスは着慣れないのか。それとも広さと豪華さをこれ見よがしに表現した邸宅の装飾に驚いているのか。司にエスコートされリムジンの後部座席から降りた時から緊張した面持ちでいたが、その時司は電話で話をした時のことを思い出していた。

それは彼のことを苦手だと言ったこと。
『仕事ですからお願いされた以上役目は果たすつもりです』と言ったこと。
そしてそんな女は司の腕に手添えを大きく息をついてあたりに眼をやっていた。

「あの道明寺副社長。今夜こうして私をパートナーとして同伴されることは、社長がそのように希望されたからとお伺いしました。でも私で良かったんでしょうか。私はこういったパーティーには出席したことがありません。あるとすれば学会の終わりに行われる懇親会程度です。所謂仲間内の親睦会です。どこの海域でどのようなサメが棲息しているかといったことが話題です。それに出席者の男性は背広で女性もよくてワンピースといった程度の服装です。こんなに華やかな会場でこんなドレスを着ることはありません。それにそこでは洒落た話はしません。ですから申し上げておきたいのですが、ここにいらっしゃる皆さんとどんな話をすればいいのか正直考えてしまいます」

殆どの女は司と一緒にパーティーに出ると言われれば選ばれたことに自惚れ喜ぶはずだ。
そして司の腕に添えられる手は彼の腕を離そうとはしないはずだ。だがともすれば外そうとする小さな手は気まずさを感じていた。だが仕事ですから、の言葉を言った手前それを反故することは出来ないようだ。

そしてここまでの牧野つくしの態度は、これまで司の周りにいた自信たっぷりに自分の容姿を見せる女達とは明らかに違っていた。車の中でも離れた場所に座り外を眺めていた。そしてこうしてエスコートをしていても、手を添えるだけで身体を押し付けることもなければ品を作ることもなく、ごく普通の立ち振る舞いをする女がそこにいた。
そして普段身に着けたことがないというドレスを着た姿は知的な光りのきらめきを感じさせた。だがその姿が本当なのか。ずる賢さを隠しているのではないか。この緊張した態度も今だけで、やがて本当の姿を現すのではないか。その表情と態度に嘘はないかと司は牧野つくしを見つめた。
だがパーティーはこれからだ。時間はいくらでもある。だから司は様子を見ることに決めた。


「牧野先生。そんなに深刻に考える必要はない。これはただの誕生パーティーだ。誰も小難しいことを考える人間はいませんよ。笑ってシャンパンを飲めばいい。それにあなたが私の傍にいる限り誰も迂闊なことは言わないはずだ」

司はそう言って自分の左腕に添えられた手に右手を乗せると女はギョッとしたように目を開いた。そして司の言葉とは裏腹に、ここにいる人間の大多数はパーティーもビジネスの場と同じと考えている。そして司も副社長として高森開発が持つ土地を手に入れることを任されたからここに来た。












「これはこれは道明寺様。ようこそお越し下さいました」

63歳にもなって誕生日パーティーを開くことを悪いとは言わないが、若い妻を伴った猪首のタキシード姿の男は上機嫌だった。

「それにしても道明寺様がこのようなみすぼらしいパーティーにおいで下さるとは夢にも思いませんでしたが、招待を受けて下さって本当にありがとうございます。私もですが妻も大変喜んでおります」

みすぼらしいと言ったがそれは謙遜のつもりか。
隣に立つ若い妻のデコルテには大粒のダイヤのネックレスが煌めきを放っていた。





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コメント
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dot 2018.12.06 06:25 | 編集
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dot 2018.12.06 06:33 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
牧野つくしの化けの皮は剥がれるのか。それともそんなものは無いのか。
そして高森真理子はつくしに何を思うのでしょうねぇ。

今年は木枯らし1号の条件に合う風は吹かなかったようですが、週末は一気に寒くなるようです。
そして本日雨の中。大切な行事に参加されたのですね?
寒かったと思いますがいかがでしたか?
そして本番はいつでしょう。楽しみですねぇ。楽しんできて下さいね!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.06 22:39 | 編集
童*様
高森夫妻に地獄をみせて...。
そして司のつくしに対する他の女と同じみたいな偏見を早くなんとか。
そうですねぇ。つくしは真面目で研究一筋。司が思うような女ではないのですが、何しろ今まで司の周りにいた女は金目当て。彼の身体が目当て。そんな女ばかりでしたから、その偏見を取り除くことは大変です(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.12.06 22:46 | 編集
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