『実は相手の方というのが…..すべての事情を話すのは難しいんですが、ええっと….その方は社会的地位の高い方で、いろいろと便宜を図って下さるんですが….』
牧野つくしは、司が互いのプライバシーに関わることに触れずにいようと言ったことから、言葉を選びながら、なんとか自分の具体的な職業に触れぬように話を進めようとしているが、司は女が彼のことをどう評するのかを訊きたかった。だから女が口にしたいと思っている言葉を言ってみた。それは多分そう思っているはずだという思いだが、女はなんと答えるのか。
「もしかして相手の男性は権力を笠に着て無理を言って来ているということですか?」
だがそれに対しての返事は司が思っていたのと違った。
『え?いえ….そういう訳ではないんですが….』
そう答えた女は、そこで再び考える口調で黙ってしまった。
「あなたはさっきから言葉に詰まってばかりですね?その人のことを評するのは難しいということですか?もしかしてその方が嫌いなのですか?」
司は先を促すように、そして女の頭の中を推し量るように、あなたはその人のことが嫌いなのではないかと訊いたが返事は先程と同じで彼が思っていたのとは全く別のものだった。
『いえ。嫌いということはないんです。ただ強烈な印象が残る人なんです。思いがけない出会いの仕方をしたということもありますが、私の周りにはいなかったタイプの人なんです。私の仕事は教育関係だと言いましたが、派手な職場ではありません。どちらかと言えば地味です。だからああいった男性に出会ったのは初めてで____』
度々言葉に詰まるのは、言葉を選んでいるということだが、その先は何を言おうとしているのか。少し間を置くと再び話し始めた。
『その方は大きな会社の偉い方で、頭が良くて影響力がある人なんです。何度かお話をしたんですが、自分の思ったことをはっきりと口にする人で厳しい方です。それは私が受けた印象なので男性のあなたからすればまた違った印象を受けるかもしれませんが、厳しい人だと思ったんです』
それは初めて司と出会った時のことを言っているのか。
あれは財団の研究助成事業の面接に遅れて来た時だったが、廊下でじっと女を見た時のことを思い出していた。
時間に遅れて来たことで席を立った司に向かってサメ並の脳だと言った。
そんな女を残し立ち去ろうとした司を追いかけて来た女は必死で食い下がり面接のチャンスを与えて欲しいと言った。
そして自分の研究について語る様子は興味のない人間が目の前であくびをしていたとしても、気にならないと言ういかにもといった学者タイプだ。
だがどんな女も裏がある。
男の社会的地位や容貌。金のあるなしで簡単に態度を変える。それが司の周りにいる女たちの姿であり当たり前の景色だった。
まだ若い頃、短い間だが付き合っていた女に訊いたことがあった。もし俺が道明寺の家を捨て何もかも捨てたらどうすると。すると女は言った。そんなこと出来るはずがないでしょ。司は生まれた時から道明寺の人間で、生まれた瞬間から道明寺の全てを受け継ぐことが決まってるのよ?それを捨てるなんて馬鹿よ。それに司は道明寺司だからいいのよ。だいたい今さら家を捨てるとか出来るはずがないでしょ?司はその美貌と財力とこの身体があるから道明寺司なの。
そう言われることは薄々分かってはいたが、どの女もひとりの例外なく同じことを考えているということに気付くのに時間はかからなかった。そして女がダイヤの指輪を欲しがる前にダイヤのブレスレットで別れを告げていた。
だがその時彼自身思ったことがある。自分は女に何を求めているのかということを。
そして女の言葉に自分のアイデンティティーは道明寺という家によって認識されているということを改めて知った。
そんな司が女という生き物に抱いているのは不信感だ。
誰も彼の心を知ろうとはしない。心よりも金であり肉体的なレベルという外見の素晴らしさばかりが求められていた。だから偶然知った牧野つくしという女も同じだと思った。だが第三者である男に対して語られる言葉は意外な言葉だった。
『正直なところ私はその方が苦手です。私の周りにはお金持ちの方はいらっしゃいません。だからそういった方が何を考えているのか分かるはずがないんです。でもその方が気まぐれでされたことでも私は助かりました。いえ。私の仕事が助けられました。だから感謝しています。それは嘘のない思いです。でもその方とパーティーに出席するということは私にとってかなり勇気のいることなんです。でも仕事ですからお願いされた以上役目は果たすつもりです』
司は彼の事を苦手だという女に初めて会った。
それに女性に拒否されたことはない。だが牧野つくしは司を拒否した訳ではない。ただ苦手だと言っただけだ。だが電話の男に対して話される言葉には、信頼という言葉が含まれているように感じられた。
それにしても何故見知らぬ電話の男に対して信頼を寄せることが出来るのか。
司は相手が誰だか知っている。だが女は相手が誰であるかを知らない。声の持ち主の顔は欠落しているはずだが、どんな顔なのか想像しているのか。
そしていつものように30分で電話は切られたが、意識の縁に残る声は話しを訊いてくれてありがとうございましたと言っていた。

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牧野つくしは、司が互いのプライバシーに関わることに触れずにいようと言ったことから、言葉を選びながら、なんとか自分の具体的な職業に触れぬように話を進めようとしているが、司は女が彼のことをどう評するのかを訊きたかった。だから女が口にしたいと思っている言葉を言ってみた。それは多分そう思っているはずだという思いだが、女はなんと答えるのか。
「もしかして相手の男性は権力を笠に着て無理を言って来ているということですか?」
だがそれに対しての返事は司が思っていたのと違った。
『え?いえ….そういう訳ではないんですが….』
そう答えた女は、そこで再び考える口調で黙ってしまった。
「あなたはさっきから言葉に詰まってばかりですね?その人のことを評するのは難しいということですか?もしかしてその方が嫌いなのですか?」
司は先を促すように、そして女の頭の中を推し量るように、あなたはその人のことが嫌いなのではないかと訊いたが返事は先程と同じで彼が思っていたのとは全く別のものだった。
『いえ。嫌いということはないんです。ただ強烈な印象が残る人なんです。思いがけない出会いの仕方をしたということもありますが、私の周りにはいなかったタイプの人なんです。私の仕事は教育関係だと言いましたが、派手な職場ではありません。どちらかと言えば地味です。だからああいった男性に出会ったのは初めてで____』
度々言葉に詰まるのは、言葉を選んでいるということだが、その先は何を言おうとしているのか。少し間を置くと再び話し始めた。
『その方は大きな会社の偉い方で、頭が良くて影響力がある人なんです。何度かお話をしたんですが、自分の思ったことをはっきりと口にする人で厳しい方です。それは私が受けた印象なので男性のあなたからすればまた違った印象を受けるかもしれませんが、厳しい人だと思ったんです』
それは初めて司と出会った時のことを言っているのか。
あれは財団の研究助成事業の面接に遅れて来た時だったが、廊下でじっと女を見た時のことを思い出していた。
時間に遅れて来たことで席を立った司に向かってサメ並の脳だと言った。
そんな女を残し立ち去ろうとした司を追いかけて来た女は必死で食い下がり面接のチャンスを与えて欲しいと言った。
そして自分の研究について語る様子は興味のない人間が目の前であくびをしていたとしても、気にならないと言ういかにもといった学者タイプだ。
だがどんな女も裏がある。
男の社会的地位や容貌。金のあるなしで簡単に態度を変える。それが司の周りにいる女たちの姿であり当たり前の景色だった。
まだ若い頃、短い間だが付き合っていた女に訊いたことがあった。もし俺が道明寺の家を捨て何もかも捨てたらどうすると。すると女は言った。そんなこと出来るはずがないでしょ。司は生まれた時から道明寺の人間で、生まれた瞬間から道明寺の全てを受け継ぐことが決まってるのよ?それを捨てるなんて馬鹿よ。それに司は道明寺司だからいいのよ。だいたい今さら家を捨てるとか出来るはずがないでしょ?司はその美貌と財力とこの身体があるから道明寺司なの。
そう言われることは薄々分かってはいたが、どの女もひとりの例外なく同じことを考えているということに気付くのに時間はかからなかった。そして女がダイヤの指輪を欲しがる前にダイヤのブレスレットで別れを告げていた。
だがその時彼自身思ったことがある。自分は女に何を求めているのかということを。
そして女の言葉に自分のアイデンティティーは道明寺という家によって認識されているということを改めて知った。
そんな司が女という生き物に抱いているのは不信感だ。
誰も彼の心を知ろうとはしない。心よりも金であり肉体的なレベルという外見の素晴らしさばかりが求められていた。だから偶然知った牧野つくしという女も同じだと思った。だが第三者である男に対して語られる言葉は意外な言葉だった。
『正直なところ私はその方が苦手です。私の周りにはお金持ちの方はいらっしゃいません。だからそういった方が何を考えているのか分かるはずがないんです。でもその方が気まぐれでされたことでも私は助かりました。いえ。私の仕事が助けられました。だから感謝しています。それは嘘のない思いです。でもその方とパーティーに出席するということは私にとってかなり勇気のいることなんです。でも仕事ですからお願いされた以上役目は果たすつもりです』
司は彼の事を苦手だという女に初めて会った。
それに女性に拒否されたことはない。だが牧野つくしは司を拒否した訳ではない。ただ苦手だと言っただけだ。だが電話の男に対して話される言葉には、信頼という言葉が含まれているように感じられた。
それにしても何故見知らぬ電話の男に対して信頼を寄せることが出来るのか。
司は相手が誰だか知っている。だが女は相手が誰であるかを知らない。声の持ち主の顔は欠落しているはずだが、どんな顔なのか想像しているのか。
そしていつものように30分で電話は切られたが、意識の縁に残る声は話しを訊いてくれてありがとうございましたと言っていた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
牧野つくしが話している男は自分のこと。
司は彼女の言葉に過去の女と彼女を比べているようですが、自分のことが苦手だと言われ何を思ったのでしょうね。
女は裏表があり嘘をつく生き物。金や地位といったもので自分を見ていると思う男のつくしに対する評価は.....
え?恋におちるのはどの時点なのか?う~ん(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
牧野つくしが話している男は自分のこと。
司は彼女の言葉に過去の女と彼女を比べているようですが、自分のことが苦手だと言われ何を思ったのでしょうね。
女は裏表があり嘘をつく生き物。金や地位といったもので自分を見ていると思う男のつくしに対する評価は.....
え?恋におちるのはどの時点なのか?う~ん(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.12.05 21:58 | 編集
