司は上着を脱ぎ、ミネラルウォーターのボトルを開けソファに腰を降ろしていた。
テーブルの上にあった鳴り出した携帯電話を手に取り、暫くコールするのをそのままにしていたが、8回目のコール音が鳴ってから出たが丁度10時だった。
『….もしもし?』
「はい。もしもし」
と、司が応えると電話の向こうで息をつくのが分かる。
そして遠慮がちに言葉が継がれた。
『……あの今いいですか?』
「ええ。大丈夫です。この前電話をくれましたよね?出れなくてすみませんでした。あの時はシャワーを浴びていてあなたからの電話に気付きませんでした」
『え?あ、いえ…』
そう言った女は、言葉を発するのを躊躇っているのが感じられた。
週に一度電話で話をしようの提案にこれまで何度か話をした。だが今夜は一週間以上の時が流れていて、前回電話があった時シャワーを浴びていたと言ったのは嘘だ。そして牧野つくしは自分が電話をかけている相手が司だとは想像もしないだろう。だが他人になりすました訳ではないが、電話での司は病弱な男というイメージを与えていたが、その男と司が同じ人物だと知った時、どういった態度を取るだろうか。そう思いながら黙っている女に対し沈黙を破ったのは司の方だ。
「また電話をかけてこられるかと思いましたが、あなたはかけてこなかった。週に一度話をすると言うことでしたが、そう言えばかけ直すことが週に一度に含まれるかどうかを決めていませんでした。もしかするとあなたは私が電話に出る出ないに関わらず週に一度という回数を守ろうとしているということですか?」
『いえ。そうではなんですが…….』
電話をかけたが相手が出なかったとしても、それが週に一度に含まれると考えているなら、女は相当真面目ということになるが、果たしてどうなのか?だが今夜こうして電話をして来たということは、司と話がしたいということだが、何を話してくれるのか。先日女をパーティーに同伴することを秘書から告げられたが、今夜はその話がされるのか。裕福な男のパートナーとしてパーティーへ出ることを楽しそうに話すのか。それとも研究に5千万の寄付があったことを自慢げに話すのか。だが女は躊躇った様子で話を継ごうとはしなかった。
「かけにくかったということですか?もしかして私がわざと電話に出ないと思ったのではありませんか?迷惑だと思い始めたと考えたのではありませんか?」
引き取った言葉の先にある沈黙は、司の言葉の通りだということを示していたが、牧野つくしという女は、自分の思い込みが他人に簡単に知られてしまうことを気付いていないようだ。
「私はあなたと話がしたいと言いましたが、その思いは今も変わっていません」
その言葉に一端電波が途切れ、それからどこかホッとしたような声が返って来た。
『良かった。こんなことを言ったらあなたは迷惑かもしれませんが、あなたと話をしていると…..心が落ち着くというのか….会ったこともない見知らぬ人だというのに楽しいと感じています。でももしかするとあなたは私と話をするのはつまらない。楽しくないと感じているのではないかと思ったんです。だから電話に出なかったんじゃないかと思って電話をすることが出来なかったんです。乗り気がしないことを続けていただくのは申し訳ないと思ったからです。だから今日電話をしたのは、今後も電話をしてもいいのか訊こうと思ったんです』
司が牧野つくしに自分と電話で話をしないかと言い、そのことに乗ってこなければ、それで終わりにしていた。そしてそれは単なる偶然を利用し、どの女にもある男には見せない裏の顔を知りたいと思ったに過ぎなかった。
だが牧野つくしが了承した時点で絆されやすく騙されやすい人間であることには気付いていたが、些細なことも深く考える傾向があると知った。
あの日、司が電話に出なかったのは、車の中に電話を忘れたからであり、かかって来たことさえ知らなかったのだから、出る出ないを選択をすることすらなかった。だが牧野つくしにとっては、夜の10時に司が電話に出なかったことが、もしかすると嫌われたのでは、という思いが心の中で湧き上がり、それが5日間という時間をかけ何らかの姿に形を変えていたということが意外だった。
「そうでしたか。あなたは私があなたと話したくないと考えていると思っていましたか」
司はそう言って自分が考えていることを口にした。
「あなたは物事を深く考える。そうではありませんか?そのことが悪いとは言いませんが、時と場合によっては思考が行動を束縛することになる。それに私が知っている女性は他人のことを気遣うことをしない。あなたは気にし過ぎです」
司が口にした女というのは、彼の周りに集まってくる女たちのこと。
それは高森真理子のように容姿に自信がある女たちだが、それらが優秀な形成外科医の手によって作られたものであることが殆どだ。そして一番高い値を付けた男にその身体を与え、どうにかして金持ちの男を捕まえようとする女は大勢いる。
それにどんなに品があるように装っても、化けの皮が剥がれれば本性を剥き出しにする女もいる。
だから5千万の寄付に困惑を隠さなかった女は珍しいと言え、電話だけの相手に嫌われているのではないかと考える女も珍しかった。
「それで。今夜はどんな話をしてくれるんですか?私はあなたの電話を楽しみにしていた。だからあなたの話を訊かせて下さい」
司は明るい調子で言って女の口から語られる言葉を待った。
『え?はい。それが…..あの….今度仕事でパーティーへ行くことになったんですが、そういった派手な行事は慣れないものでどうしたらいいかと思ってます』
「ほう。仕事でパーティーですか?」
『はい。私は地味なタイプです。華やかな場所は苦手です。でも仕事ですから出席しない訳にはいかなくて……それに同伴するお相手の方が……』
「相手の方がどうかしたんですか?」
司は牧野つくしが相手のことを言い淀んだことに何を考えているのか興味があった。
何しろ相手というのは司のことだ。その司に対してどう感じているのか。それをこれから口にすることになるが、今は第三者である男に向かって何を言うのか。金持ちだが大柄で嫌な男だとでも言うのか。司は女が口を開くのを待っていた。

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テーブルの上にあった鳴り出した携帯電話を手に取り、暫くコールするのをそのままにしていたが、8回目のコール音が鳴ってから出たが丁度10時だった。
『….もしもし?』
「はい。もしもし」
と、司が応えると電話の向こうで息をつくのが分かる。
そして遠慮がちに言葉が継がれた。
『……あの今いいですか?』
「ええ。大丈夫です。この前電話をくれましたよね?出れなくてすみませんでした。あの時はシャワーを浴びていてあなたからの電話に気付きませんでした」
『え?あ、いえ…』
そう言った女は、言葉を発するのを躊躇っているのが感じられた。
週に一度電話で話をしようの提案にこれまで何度か話をした。だが今夜は一週間以上の時が流れていて、前回電話があった時シャワーを浴びていたと言ったのは嘘だ。そして牧野つくしは自分が電話をかけている相手が司だとは想像もしないだろう。だが他人になりすました訳ではないが、電話での司は病弱な男というイメージを与えていたが、その男と司が同じ人物だと知った時、どういった態度を取るだろうか。そう思いながら黙っている女に対し沈黙を破ったのは司の方だ。
「また電話をかけてこられるかと思いましたが、あなたはかけてこなかった。週に一度話をすると言うことでしたが、そう言えばかけ直すことが週に一度に含まれるかどうかを決めていませんでした。もしかするとあなたは私が電話に出る出ないに関わらず週に一度という回数を守ろうとしているということですか?」
『いえ。そうではなんですが…….』
電話をかけたが相手が出なかったとしても、それが週に一度に含まれると考えているなら、女は相当真面目ということになるが、果たしてどうなのか?だが今夜こうして電話をして来たということは、司と話がしたいということだが、何を話してくれるのか。先日女をパーティーに同伴することを秘書から告げられたが、今夜はその話がされるのか。裕福な男のパートナーとしてパーティーへ出ることを楽しそうに話すのか。それとも研究に5千万の寄付があったことを自慢げに話すのか。だが女は躊躇った様子で話を継ごうとはしなかった。
「かけにくかったということですか?もしかして私がわざと電話に出ないと思ったのではありませんか?迷惑だと思い始めたと考えたのではありませんか?」
引き取った言葉の先にある沈黙は、司の言葉の通りだということを示していたが、牧野つくしという女は、自分の思い込みが他人に簡単に知られてしまうことを気付いていないようだ。
「私はあなたと話がしたいと言いましたが、その思いは今も変わっていません」
その言葉に一端電波が途切れ、それからどこかホッとしたような声が返って来た。
『良かった。こんなことを言ったらあなたは迷惑かもしれませんが、あなたと話をしていると…..心が落ち着くというのか….会ったこともない見知らぬ人だというのに楽しいと感じています。でももしかするとあなたは私と話をするのはつまらない。楽しくないと感じているのではないかと思ったんです。だから電話に出なかったんじゃないかと思って電話をすることが出来なかったんです。乗り気がしないことを続けていただくのは申し訳ないと思ったからです。だから今日電話をしたのは、今後も電話をしてもいいのか訊こうと思ったんです』
司が牧野つくしに自分と電話で話をしないかと言い、そのことに乗ってこなければ、それで終わりにしていた。そしてそれは単なる偶然を利用し、どの女にもある男には見せない裏の顔を知りたいと思ったに過ぎなかった。
だが牧野つくしが了承した時点で絆されやすく騙されやすい人間であることには気付いていたが、些細なことも深く考える傾向があると知った。
あの日、司が電話に出なかったのは、車の中に電話を忘れたからであり、かかって来たことさえ知らなかったのだから、出る出ないを選択をすることすらなかった。だが牧野つくしにとっては、夜の10時に司が電話に出なかったことが、もしかすると嫌われたのでは、という思いが心の中で湧き上がり、それが5日間という時間をかけ何らかの姿に形を変えていたということが意外だった。
「そうでしたか。あなたは私があなたと話したくないと考えていると思っていましたか」
司はそう言って自分が考えていることを口にした。
「あなたは物事を深く考える。そうではありませんか?そのことが悪いとは言いませんが、時と場合によっては思考が行動を束縛することになる。それに私が知っている女性は他人のことを気遣うことをしない。あなたは気にし過ぎです」
司が口にした女というのは、彼の周りに集まってくる女たちのこと。
それは高森真理子のように容姿に自信がある女たちだが、それらが優秀な形成外科医の手によって作られたものであることが殆どだ。そして一番高い値を付けた男にその身体を与え、どうにかして金持ちの男を捕まえようとする女は大勢いる。
それにどんなに品があるように装っても、化けの皮が剥がれれば本性を剥き出しにする女もいる。
だから5千万の寄付に困惑を隠さなかった女は珍しいと言え、電話だけの相手に嫌われているのではないかと考える女も珍しかった。
「それで。今夜はどんな話をしてくれるんですか?私はあなたの電話を楽しみにしていた。だからあなたの話を訊かせて下さい」
司は明るい調子で言って女の口から語られる言葉を待った。
『え?はい。それが…..あの….今度仕事でパーティーへ行くことになったんですが、そういった派手な行事は慣れないものでどうしたらいいかと思ってます』
「ほう。仕事でパーティーですか?」
『はい。私は地味なタイプです。華やかな場所は苦手です。でも仕事ですから出席しない訳にはいかなくて……それに同伴するお相手の方が……』
「相手の方がどうかしたんですか?」
司は牧野つくしが相手のことを言い淀んだことに何を考えているのか興味があった。
何しろ相手というのは司のことだ。その司に対してどう感じているのか。それをこれから口にすることになるが、今は第三者である男に向かって何を言うのか。金持ちだが大柄で嫌な男だとでも言うのか。司は女が口を開くのを待っていた。

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司*****E様
おはようございます^^
そうですねぇ。この司にドキドキとかワクワクという言葉は似合わないと思います。
それでも、つくしが相手の方が、で言葉を止めた先は気になります。
これから語られる言葉が司のつくしに対する何らかの判断材料になるのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
そうですねぇ。この司にドキドキとかワクワクという言葉は似合わないと思います。
それでも、つくしが相手の方が、で言葉を止めた先は気になります。
これから語られる言葉が司のつくしに対する何らかの判断材料になるのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.12.03 21:35 | 編集

と*****ン様
お久しぶりです!^^
お元気でしたか?こちらこそまたよろしくお願いします!
愛をじっくり育て上げる(≧▽≦)
早くラブラブになる二人が見たいですか?(笑)
えー。何やら色々とあるかもしれませんが、お付き合いいただけると幸いです。
コメント有難うございました^^
お久しぶりです!^^
お元気でしたか?こちらこそまたよろしくお願いします!
愛をじっくり育て上げる(≧▽≦)
早くラブラブになる二人が見たいですか?(笑)
えー。何やら色々とあるかもしれませんが、お付き合いいただけると幸いです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.12.03 21:43 | 編集
