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2018
12.02

理想の恋の見つけ方 34

電話をかけたが相手が出なかった。
あの日から5日が過ぎ、大学からの帰りに顔なじみの中華料理店で豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せを頼んでいた。それは間違い電話をかけた男性に言った料理だが、それを食べながら電話をかけようか。かけまいか悩んでいた。

話したい相手が電話に出ない。
そんなことはごく普通にあることであり、気にすることではない。時間を置いてかけ直せばいいだけの話だ。だがその人に対しては気にしていた。
見知らぬ人に電話をする時はドキドキする。
だから心を静めて電話をするが、相手はただの見知らぬ人ではない。声だけの相手はつくしにとって話しやすい相手だったが、相手は話し相手としてのつくしをつまらない相手だと思っているのかもしれない。だから先日電話をかけた時、出なかったのではないかと考えていた。
そして二度と電話に出るつもりがなければ、出なかった口実を探す必要はない。
見知らぬ相手なのだから、そうすれば簡単に関係は終わる。だがこれが関係と言えるのかと言えば関係とは呼べないはずだ。

それなら人は相手のことをどれだけ知れば、関係と呼べる間柄になれるのか。学校や職場といった場所で出会えば、友人や同僚といった名称が付く。だが単なる間違い電話から始まる関係は、知り合いという関係になるのか。だが相手のことを殆ど知らないのだから知り合いというのもどこか違う。それなら電話友達と言えばいいのか。だがその関係も的確とは言えなかった。

間違い電話をかけた男性がつくしの生活の中に入り込んだのは1ヶ月前だ。
それまで見知らぬ人と電話で話をする関係を持ちたいなど考えもしなかった。しかし今では週に一度の電話を楽しみにしていた。だが今夜も電話をしなければ、そしてこのまま電話をしなければ、いずれその男性とのかかわりは終わる。何しろ男性は自分からはかけないと言っていたのだから、多分かけて来ることはないだろう。いや。かけることはしないはずだ。何故ならその男性の口ぶりは自分が口にした事は必ず守るといった雰囲気が感じられたからだ。



「牧野先生どうしたんだい?体調が悪いのかい?それとも何かあったのかい?」

「女将さん……」

「牧野先生はすぐ顔に出るから分かりやすいんだけど、そんなに考え事をしながら食事をしてたら味なんて分かんなくなるよ。ご飯も減ってないし、先生はいつもなら美味しそうに食べてくれるのに、今日はちっともそんな風には見えないよ。だから何かあったんじゃないかって心配してんのさ。どうしたの?何かあった?」

顔なじみの中華料理店の女将は、冷水ポットを手にしていたが、水を注ぎに来たついでというよりも、つくしの様子を心配して来てくれたということが見て取れた。

「いえ。特に何もないんですけど、そんな風に見えますか?」

「見えるわよ。牧野先生は考え事があると箸が止る。それにそのままじっとしてる。それこそ深海にいる魚のようにじっとして動かなくなっちまう。暗いから動き回ることを止めちまったって感じでさぁ。今の先生はそんな感じだよ」

言われてみれば確かにそうだったかもしれない。
ぼんやりと虚空を見つめるではないが、箸を手にしているが皿に盛られた料理を見つめているだけで、さして減ってはいなかった。

「まあね。分かるよ。大学の先生ともなれば、色々と考えることもあるよね?だけどご飯だけはちゃんと食べなきゃダメ。人間何をするにも基本は体力だから。だから考えごとがあるとしても食べることを忘れちゃ駄目だよ。ほらこれ食べて。サービスの杏仁豆腐」

冷水ポットとは反対の手から差し出されたのは、小さな白い器。

「あの女将さん、こんなことしていただかなくても_」

「いいのよ。何しろこの雨だし、もう9時だから、そんなにお客は来やしないよ。だから食べとくれ」

確かに雨のせいか。駅近くで便利がいいと言われる場所にある中華料理店にしては、客の入りは少なかった。

「ありがとうございます。じゃあ遠慮なくいただきますけど本当にいいんですか?」

「いいの、いいの。ちゃんと食べて寝る。栄養も睡眠もどっちも大切だからね。それに暖かいお風呂に入って早く寝る。そうすりゃ考え事もなんとかなるって思えるはずだよ。それにある程度能天気でいなきゃ仕事なんて出来ないからさ。あ、でも先生の場合は頭使わなきゃいけないから能天気でいられないわね?」

女将はそう言って厨房へ戻って行ったが、一度頭の中で回り始めた思考は、そう簡単には消えなかった。
何しろつくしは、物事を深く考え過ぎると言われることがある。だがそれは持って生まれた性分だから仕方がない。

そして食事を終え自宅に戻ったのは午後9時半を回っていた。
それから暫く電話をかけようか。かけまいか。手の中にある携帯電話を見つめていた。
つくしの方からかけなければ、相手はかけてこない一方的な夜の電話。
かけても出てもらえないのではないか。出たとしても素っ気ない対応をされるのではないか。悪いがもうかけて来るのは止めてくれないかと言われる。そう思いはじめると、かけるのを止めようと思った。
だがもしそうだとしても、こんな風にいつまでもそのことを気にしている自分が嫌だった。
だから怯む気持ちを抑え、ひと呼吸すると画面に指を触れたが、今の自分の気持はどこに向かおうとしているのか。呼び出し回数が増えるにつれ、やはり出てもらえないのではないかという思いが頭を過り、あともう1回だけ、いやあと2回鳴らして切ろうと思った。その時だった。呼び出し音が止った。





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コメント
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dot 2018.12.02 10:30 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
パーティーも気になるけど夜の電話の男性のことも気になる。
生理的に嫌だと思ったら電話をしたいとは思いません。それこそ、こちらからかけなければ終わる関係ですからね。
そして考えるよりもここでスッキリしようと決めました。
さて。司はそんな彼女にどう対応するのでしょうね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.02 22:33 | 編集
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