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2018
11.30

理想の恋の見つけ方 32

「それで先輩。秘書の方からのお電話って何だったんですか?」

「うん。それがパーティーのお供をお願いしますって」

学生部屋に戻ったつくしは桜子から興味津々の視線を浴びながら静かに答えたが、返ってきた言葉は悲鳴に近かった。

「えっ!?パーティー?ちょっと先輩それって秘書のお供じゃなくて道明寺副社長とパーティーに出席するってことですよね?嘘みたいな話ですけど、もしかしてそれって突然のデートの誘いじゃないですか?」

桜子は口を開かなければ制止した人形の美しさを感じさせる女性だが、今彼女の顔に浮かんでいる驚きの表情はスキャンダルを起こした芸能人に集中砲火を浴びせる芸能レポーターのような顔をしていた。

「あのね桜子。そんなことがあるはずないでしょ?それにもしデートの誘いだったとしても秘書を通してデートに誘うなんて訊いたことがないわよ」

「でも道明寺副社長のようにお忙しい方だとデートもスケジュールのひとつとして組み込まれているのかもしれませんよ?だから秘書に電話をかけさせたとか。もしかして道明寺副社長が5千万寄付することにしたのは、牧野先輩に恋をしたからとか?えっ?もしかしてそうなんですか?私が知らないところでふたりはいつの間にそういった関係になったんですか?」

芸能レポーターと化した桜子は手にマイクさえ持ってはいなかったが、つくしの倍の言葉を喋りまくる。そしてつくしの身に起こった疑惑を解明しようと躍起になっていた。

「それでどうなんですか?私の知らないところで何かあったんですか?もしかしてこの前ここに来られた時、部屋で何かあったんですか?」

「あのね桜子。これはデートじゃなくて仕事なの。大体どうして道明寺副社長と私が恋に落ちなきゃならないのよ?それにそんなこと絶対ないわよ。だってあの人は会社経営者で私は研究者よ?」

どう考えても道明寺副社長がつくしをデートに誘うなど絶対にないはずだ。
エレベーターが止ったことを訴えた時、冷酷な態度でつくしの話を訊こうとはしなかった人だ。だが多額の寄付をしてくれたことは感謝している。そしてつくしにブレーンになれと言ったその行動は会社の為だと思えるが、知的で自信家で華やかな場所にいる男性が地味な研究に時間を費やす大学准教授に興味を持つとは思えなかった。

「牧野先輩。人生に絶対はありません。人生は不確定要素が沢山あります。一寸先は闇という言葉がありますが、逆を言えば一つ間違えば……いえ。間違いじゃありません。見初められて玉の輿に乗ることもあります。それに恋に理由が必要ですか?恋はまさに突然雷に打たれたように身体中に電気が走ることもあります。一目惚れって言葉があるくらいですから、二人が出会った瞬間運命の歯車が回り始めたとか。つまり先輩の身に起きているのは、そういう事じゃないですか?」

いやそれは絶対にない。玉の輿に乗るとか、雷に打たれたとか電気が走るとかそういったことは一切ない。それにこれはビジネスのひとつでありデートなどではないとはっきりと言える。

「桜子よく訊いて。この話は社長から副社長の秘書に副社長の同伴者を私にって連絡があったの。社長は副社長のお母様で我が子を同伴者の出席が必要なパーティーに出席させるために私にその役目を果たして欲しいって言ってきたらしの」

つくしは西田から言われた話をそのまま桜子に言ったが、依然として芸能レポーターと化した桜子は冷静に論理的に言葉を返してきた。

「でもどうして先輩に?社長は先輩が副社長のブレーンになったことを知ってるってことですか?社長の道明寺楓と言えば鉄の女として有名です。社内のことは勿論ですが息子である副社長のこともご存知なんでしょうけど、どうして先輩にそんな役目を頼むことにしたんでしょうね?」

言われてみれば何故なのか秘書に訊く事はなかった。

「でもとにかく先輩は道明寺副社長とパーティーに出るってことですよね?あの道明寺司とですよ。それが束の間の夢だとしても私は先輩が男性とパーティーに出てくれることが嬉しいです。学問ばかりじゃなくて別の世界を見ることも人生には必要ですから。それにもしこれが一生に一度のことだとしても、一般的な男性じゃなくて一流と呼ばれる男性とパーティーに行けるなんて凄いことですから」

初めは勢いのあった桜子の言葉も徐々にトーンが下がってきていたが、つくしは桜子のその態度の裏にある気持ちに気付いていた。
気が強そうに見えるが優しい心の持ち主は、つくしが男性を付き合おうとしないことを気がかりにしている。だがそれはつくしの問題であり桜子の問題ではない。だからいい加減気に止めなくていいと言いたかった。だが三条桜子という女性はつくしが恋をして結婚しない限り自分もひとりでいると決めているかのようにつくしの事を気にかけていた。








***








西田が執務室で社長からの言葉を伝えたとき、司は書類に目を通していたが片眉を上げ秘書を見た。

「高森隆三の誕生パーティーに出席しろって?」

「はい。高森開発の持つ土地のひとつに社長は目をつけていらっしゃいます。古くからの商店が密集している場所ですが、全ての店が立ち退きに同意をしており、いずれ更地になります。高森開発の前身である高森不動産は、その土地で昔から商売をしていたこともありますが、多くの物件も所有しておりましたので立ち退かせることは簡単だったはずです。高森はその土地を貸し、そこに商業施設を建設して利益を得ることになるはずです。
しかし社長は、その土地を手に入れ我社で再開発をすることを望んでおられます。何しろ駅前の一等地でありながら、かなりの広さがあります。それにそういった土地が出回ることは滅多にありませんので」

交通の要衝として重要な役割を担っている駅前の再開発は、行政の認可が降りなければ頓挫する。だが楓なら問題なくやり遂げるはずだ。
そして欲しいという土地を手に入れるため、日本にいる副社長である司に尽力せよということだ。

「それからそちらのパーティーですが同伴者が必要です。その同伴者は牧野先生にお願いいたしました」

「牧野ってあの牧野つくしか?」

「はい。副社長があの方をブレーンにされたことは社長もご存知です。それに女性をブレーンに迎えたことが大変興味深いとおっしゃっておられました」

司は西田をジロリと睨んだが、秘書が母親に喋ったことは分かっていた。
そして息子が結婚することを望む母親は、牧野つくしの存在を知ると何を勘違いしたのかパーティーに同伴しろと言って来た。そして秘書は言われた通りのことをした。
つまり母親は大学准教授の女と我が子の関係を推し進めようとしている。
だが司は牧野つくしとどうこうなるつもりはない。ただ、どんな女も裏があると思っている。
だからそれを確かめたいのだ。
それでも、母親がそこまでするなら目論見に嵌まることはないが、乗っかってみるのも悪くはないと思った。
それに一緒にいる時間が長ければ長いほど、相手の本性が見えてくるのだから、5千万という寄付金の大きさに困惑し、堅物を気取っていた女の本性は一体どんなものなのか。それをパーティーで見極めることが出来るのが楽しみだ。





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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.11.30 08:27 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
桜子。姉より先に結婚は出来ない妹の心境(≧▽≦)確かに桜子はつくしのことになると何故か優しいんですよねぇ(笑)
そしてパーティーの同伴者としてつくしを連れて行くことになる男。
女には裏の顔があると思っている男はどうするのでしょうねぇ。
そして高森開発!なにやら怪しい雰囲気がしなくもない......

コメントが滞って申し訳ないです。月末だったり、これから迎える年末とで少し遅れる場合もあるかと思いますが、いつも楽しく読ませていただいております^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.12.01 20:32 | 編集
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