「ところで司。パーティーでお前に声を掛けて来た品の無い人妻の夫は誰だ?」
真っ赤に塗られた唇と爪。そしてキツイ香水は鼻を突いた。
「高森開発の社長だ」
「高森か。頭が禿げた親父か?」
「ああ。新興企業だがここ10年の売上高はかなりのものだ。だが大手に比べりゃまだ小物のディベロッパーだ」
高森開発は業種としては不動産業で、不動産投資とリースを主な仕事としていた。
そして以前は高森不動産と言い中堅の不動産会社だったが名前を変え10年ほど前から急激に業績が伸びていた。だが10年前と言えば、アメリカの投資銀行が経営破綻したことがきっかけに世界的規模の金融危機が発生した年で、日本経済にも大きな影響があった頃だが、高森はその荒波を乗り越え大きくなっていたということになる。
「そうか。お前が言ってた派手な女は高森隆三の妻か。それなら俺も知ってるぜ。名前は….確か真理子….高森真理子だ。年はお前が言った通り俺らと変わんねぇな。派手な見た目だったそうだが確か女子大出の頭のいい女だぞ?けど大学時代から銀座でホステスのアルバイトをしていたらしい。そこで高森が見初めたそうだ。それから高森は大学を出た女を自分の秘書として会社に入れた。それからずっと愛人兼秘書として男の傍にいた女だ。つまりかれこれ10年は愛人をやってたことになる。だが4年くらい前か?長年連れ添った妻と離婚してその女を籍に入れたのは。それ以来溺愛しているそうだ」
と言ってあきらは一旦口を閉じ、グラスを口に運び喉を潤した。
「それからあの夫はちょっと変わった嗜好の持ち主だって噂がある。年を取った男が若い女を妻に迎えると満足させられない。だから女は他の男に走ることがあるが、どうやら高森はそれを容認しているようだ」
「フン。つまり夫公認の浮気をするって?」
その問いかけにあきらはニヤニヤしながら口を開いた。
「いや。公認どころか高森は妻の行為を観察するのが好きだってことだ。行為の最中の妻の姿に興奮するってやつだ。それにどうやらあの女も夫に見られることを望んでる。それから後で最中のことを夫に詳しく聞かせてやるらしい。だからあの女の相手をする男は見られてるってことだ。まあ相手をする男の中には観客がいることに興奮する奴がいてもおかしくない。そうなりゃ3人が満足することになるが、俺はそんな趣味はない。だからやっぱりその女、高森真理子は遠慮させてもらう。それにしてもまさか司に手を伸ばしてくるとはな。お前は人妻には興味がない。けど近づいて来たのは余程自分に自信があるってことか。まあお前の恐ろしさを知らねぇからそんなことが出来るんだろうが、身の程知らずってやつだな」
役に立たなくなった年老いた夫が若い妻を束縛せず自由にさせ、そこから自分も性的な満足を得ていたとしても、それは彼らの勝手で司には関係ない。必要以上に視界に入らなければ好きにすればいい。それに司は愛人という呼び名を妻という呼び名に変えただけの品の悪い女に興味はないのだからどうでもよかった。
「とにかくだ。別にお前が気を付けることはないが、高森真理子は10年も愛人をやってた女だ。だからかなりしたたかな女ってことだけは確かだ」
あきらはボーイにおかわりの合図をすると、ふたりの手元にあったグラスの中身はスコッチからバーボンへ変わり、その夜は飲み明かしたが共に酒の強さは昔と変わらなかった。
***
つくしは電話をかけたが出なかった人のことを考えていた。
それは相手が話しをしたくないから出なかったのではないかということ。
つくしは想像力が逞しい訳ではないが、考え始めると物事を悪い方へと傾ける傾向にある。
だから頭の中にあるのは、自分の話が面白くなかったことに相手はがっかりしたのではないかということ。
それに相手は自分からはつくしには電話をすることはないと言った。つまりそれは電話をかけるか、かけないかの選択の主導権がつくしにあるということ。だからもしつくしがこのまま電話をしなければ、始まったばかりのふたりの関係は終わるということになる。
いやだがふたりは会ったこともなければ会う予定もない。そして名前も知らないのだから関係など無いに等しい。だからこの関係を何と言えばいいのかと考えても、それに相応しい呼び方は思いつかなかった。
「….先輩?牧野先輩?もうっ!牧野先生お電話です!」
学生部屋の広いテーブルで学生たちがまとめたレポートに目を通そうとしていたつくしは、桜子の声に顔を上げた。
「え?何?」
「だから電話です。さっきから言ってるじゃないですか。電話です。そこで取りますか?それともご自分の部屋で取りますか?」
少し手を伸ばしたところにある電話機は緑色の保留のランプが点滅していて、つくしが受話器を取るのを待っていた。
「誰から?」
「道明寺副社長の秘書の方です。早く電話に出て下さい。それから5千万の振込ありがとうございましたと言って下さいね」
「うん。分かってる。それから電話だけど自分の部屋で取るから」
つくしは、そう答えて席を立ち自分の部屋へ向かった。
すぐ振込むと言われていた道明寺副社長からの個人的な寄付である5千万は、本当にすぐ振込まれていた。そのことにつくしが驚いたとしても、道明寺副社長にとって5千万は大した金額ではない。お金持ちの世界は庶民とは財布の大きさが違うのだとつくづく感じていた。そしてついさっきまで考えていた電話の男性のことを頭から振り払い受話器を取った。
「お待たせいたしました。牧野です。あの西田さん。早速お振込みをいただきありがとうございました。まだ直接副社長にはお礼を申し上げていませんが、本当にありがとうございますとお伝え下さい」
何故か寄付には付帯条項が付くことになったが、本当にありがたかった。だから心からお礼を言った。それにつくしは道明寺副社長のブレーンになることを引き受けたものの、自分がそれほど意見を求められるとは思っていない。よくよく考えてみれば海洋生態学が専門分野で、その中でも深海ザメを研究対象にしている女に求める分野は多くないはずだから。
『もちろんお伝えいたします。牧野先生が大変感謝しておられたと。それから牧野先生早速ですがお願いがございます』

にほんブログ村
真っ赤に塗られた唇と爪。そしてキツイ香水は鼻を突いた。
「高森開発の社長だ」
「高森か。頭が禿げた親父か?」
「ああ。新興企業だがここ10年の売上高はかなりのものだ。だが大手に比べりゃまだ小物のディベロッパーだ」
高森開発は業種としては不動産業で、不動産投資とリースを主な仕事としていた。
そして以前は高森不動産と言い中堅の不動産会社だったが名前を変え10年ほど前から急激に業績が伸びていた。だが10年前と言えば、アメリカの投資銀行が経営破綻したことがきっかけに世界的規模の金融危機が発生した年で、日本経済にも大きな影響があった頃だが、高森はその荒波を乗り越え大きくなっていたということになる。
「そうか。お前が言ってた派手な女は高森隆三の妻か。それなら俺も知ってるぜ。名前は….確か真理子….高森真理子だ。年はお前が言った通り俺らと変わんねぇな。派手な見た目だったそうだが確か女子大出の頭のいい女だぞ?けど大学時代から銀座でホステスのアルバイトをしていたらしい。そこで高森が見初めたそうだ。それから高森は大学を出た女を自分の秘書として会社に入れた。それからずっと愛人兼秘書として男の傍にいた女だ。つまりかれこれ10年は愛人をやってたことになる。だが4年くらい前か?長年連れ添った妻と離婚してその女を籍に入れたのは。それ以来溺愛しているそうだ」
と言ってあきらは一旦口を閉じ、グラスを口に運び喉を潤した。
「それからあの夫はちょっと変わった嗜好の持ち主だって噂がある。年を取った男が若い女を妻に迎えると満足させられない。だから女は他の男に走ることがあるが、どうやら高森はそれを容認しているようだ」
「フン。つまり夫公認の浮気をするって?」
その問いかけにあきらはニヤニヤしながら口を開いた。
「いや。公認どころか高森は妻の行為を観察するのが好きだってことだ。行為の最中の妻の姿に興奮するってやつだ。それにどうやらあの女も夫に見られることを望んでる。それから後で最中のことを夫に詳しく聞かせてやるらしい。だからあの女の相手をする男は見られてるってことだ。まあ相手をする男の中には観客がいることに興奮する奴がいてもおかしくない。そうなりゃ3人が満足することになるが、俺はそんな趣味はない。だからやっぱりその女、高森真理子は遠慮させてもらう。それにしてもまさか司に手を伸ばしてくるとはな。お前は人妻には興味がない。けど近づいて来たのは余程自分に自信があるってことか。まあお前の恐ろしさを知らねぇからそんなことが出来るんだろうが、身の程知らずってやつだな」
役に立たなくなった年老いた夫が若い妻を束縛せず自由にさせ、そこから自分も性的な満足を得ていたとしても、それは彼らの勝手で司には関係ない。必要以上に視界に入らなければ好きにすればいい。それに司は愛人という呼び名を妻という呼び名に変えただけの品の悪い女に興味はないのだからどうでもよかった。
「とにかくだ。別にお前が気を付けることはないが、高森真理子は10年も愛人をやってた女だ。だからかなりしたたかな女ってことだけは確かだ」
あきらはボーイにおかわりの合図をすると、ふたりの手元にあったグラスの中身はスコッチからバーボンへ変わり、その夜は飲み明かしたが共に酒の強さは昔と変わらなかった。
***
つくしは電話をかけたが出なかった人のことを考えていた。
それは相手が話しをしたくないから出なかったのではないかということ。
つくしは想像力が逞しい訳ではないが、考え始めると物事を悪い方へと傾ける傾向にある。
だから頭の中にあるのは、自分の話が面白くなかったことに相手はがっかりしたのではないかということ。
それに相手は自分からはつくしには電話をすることはないと言った。つまりそれは電話をかけるか、かけないかの選択の主導権がつくしにあるということ。だからもしつくしがこのまま電話をしなければ、始まったばかりのふたりの関係は終わるということになる。
いやだがふたりは会ったこともなければ会う予定もない。そして名前も知らないのだから関係など無いに等しい。だからこの関係を何と言えばいいのかと考えても、それに相応しい呼び方は思いつかなかった。
「….先輩?牧野先輩?もうっ!牧野先生お電話です!」
学生部屋の広いテーブルで学生たちがまとめたレポートに目を通そうとしていたつくしは、桜子の声に顔を上げた。
「え?何?」
「だから電話です。さっきから言ってるじゃないですか。電話です。そこで取りますか?それともご自分の部屋で取りますか?」
少し手を伸ばしたところにある電話機は緑色の保留のランプが点滅していて、つくしが受話器を取るのを待っていた。
「誰から?」
「道明寺副社長の秘書の方です。早く電話に出て下さい。それから5千万の振込ありがとうございましたと言って下さいね」
「うん。分かってる。それから電話だけど自分の部屋で取るから」
つくしは、そう答えて席を立ち自分の部屋へ向かった。
すぐ振込むと言われていた道明寺副社長からの個人的な寄付である5千万は、本当にすぐ振込まれていた。そのことにつくしが驚いたとしても、道明寺副社長にとって5千万は大した金額ではない。お金持ちの世界は庶民とは財布の大きさが違うのだとつくづく感じていた。そしてついさっきまで考えていた電話の男性のことを頭から振り払い受話器を取った。
「お待たせいたしました。牧野です。あの西田さん。早速お振込みをいただきありがとうございました。まだ直接副社長にはお礼を申し上げていませんが、本当にありがとうございますとお伝え下さい」
何故か寄付には付帯条項が付くことになったが、本当にありがたかった。だから心からお礼を言った。それにつくしは道明寺副社長のブレーンになることを引き受けたものの、自分がそれほど意見を求められるとは思っていない。よくよく考えてみれば海洋生態学が専門分野で、その中でも深海ザメを研究対象にしている女に求める分野は多くないはずだから。
『もちろんお伝えいたします。牧野先生が大変感謝しておられたと。それから牧野先生早速ですがお願いがございます』

にほんブログ村
- 関連記事
-
- 理想の恋の見つけ方 31
- 理想の恋の見つけ方 30
- 理想の恋の見つけ方 29
スポンサーサイト
Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

司*****E様
おはようございます^^
一癖ある女性が登場して来ましたが、今後も絡んでくるのでしょうかねぇ。
そしてつくしは、夜の電話の男性に再び電話をしなかったようですが、また日を改めるのでしょうか。
そしてかかって来た西田さんからの電話。お願いとは一体?
何を言われるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
一癖ある女性が登場して来ましたが、今後も絡んでくるのでしょうかねぇ。
そしてつくしは、夜の電話の男性に再び電話をしなかったようですが、また日を改めるのでしょうか。
そしてかかって来た西田さんからの電話。お願いとは一体?
何を言われるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.11.28 23:17 | 編集
