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2018
11.24

理想の恋の見つけ方 29

店の前で車を降り、黒い大きな扉を通って中に入った。
広い玄関ホールは司が高校生の頃から変わっておらず、壁に巡らされたマホガニーは長い年月を経て色合いが深くなったように感じられ重厚さを増していた。
そして薄暗い店内もあの当時よりも色を深めた壁がそこにあった。

禁煙が叫ばれる昨今だが、バーは禁煙ではないことから、あきらは革張りのソファに腰を降ろし煙草に火を点け吸い込むと大きく息を吐いた。

「ゆっくり煙草が吸えるのはここだけだな。うちの会社も今じゃすっかり禁煙ビルになっちまって社内で吸えるのはガラスに囲まれた喫煙スペースだけだ。昔は部長連中もデスクでプカプカやってたのが嘘みてぇな話だ。けどまあ俺の部屋だけはなんとか吸えるが秘書はいい顔をしねえ。専務身体に悪いですから止めて下さい。せめて本数を減らすことを考えて下さいと煩せぇんだわ。まあ俺も本数を減らすことはマジで考えているけど、つい手が伸びちまう。つまり煙草を止めるってのは相当な根性が必要なことだけは確かだ。けど好きな女に止めてくれって言われたら止めれるかもしんねぇけど、そんな女は現れそうにない。もしかすると禁煙には一生縁がないかもしれねぇな」

あきらはそう言って美味そうに煙草を吸っていたが、司はSPから車内にお忘れでしたと携帯電話を渡された。それはタキシードのタイを緩めるとき、手から離れたものをそのまま置き忘れていたということだが、着信があることに気付いた。その番号は牧野つくしの携帯電話の番号。週に一度電話で話さないかといった相手は今夜も10時に電話をかけていた。

「なんだ?電話か?何かあったのか?」

「ああ。着信があった」

「そうか。かけ直さなくてもいいのか?」

「ああ。今はいい」

「仕事の電話なら遠慮するな。お前のところは何かと忙しいはずだ。俺に構わずかけてくれ」

「いや。仕事の電話じゃねえ」

そう答えた司は、あきらなら自分の行動をどう捉えるかという事を考えた。
それは単なる興味から始まった行動だが、司が自分の正体を秘密にして女と電話で話をしているということをどう思うかだ。

司には3人の幼馴染みがいるが、彼らも司と同じ金持ちの家に生まれた御曹司でそれぞれが個性豊かだ。そして4人は家庭環境が似ていたこともあり、いつも一緒にいた。
やがて成長した彼らはF4と呼ばれる学園の支配者となり自由気ままな学生生活を送ったが、あきらはその中でも常識的な部分を担っていた男だった。そして大人になった4人の信頼関係は今でも絶対だが、その中でもあきらになら牧野つくしの話をしてもいいと思った。
だが何故話そうと思ったのか。単なる話題のひとつとしてなのか。それともまた別のものなのか。そう思いながら司は口を開いた。

「お前覚えてるか?何時だったかお前と一緒にいた時、間違い電話がかかってきたのを」

あきらは少し考えていたが、
「ああ覚えてる。俺とお前が同じパーティーに出た日の帰りだ。確か中華料理屋と間違えて料理を注文してきた。そんな電話じゃなかったか?」
そう言ってボーイが運んできたグラスを口に運んだ。

「実はな。その電話だが今面白いことになってる」

そう言って司はあきらに事の経緯を話はじめた。













「なるほど。お前は相手の女のことを知っているが、女は電話の相手がお前だとは知らない。女に対して優位な立場にいるのはお前で、その女はたまたま財団の研究助成事業に応募して来た准教授で、助成対象からは漏れたが、お前が個人的に援助をする条件を付けて近くに置くことにした。その状況で電話と現実とで女の態度がどう変わるか観察することにした。声だけの男にどういった感情を抱くようになるのか興味を抱いたってことか。何しろ片方は身分も何も明かさない謎の男。電話なら何とでも言えるが犯罪者かもしれねぇし、変態かもしれねぇ。だがもう片方は大金持ちの男。女が受ける印象は違うはずだが、准教授の女は接する相手の身分で態度を変えるか知りたいってことか。女に二面性があるかどうか。それを知りたいってことだな」

あきらは司の話を面白いと思いながら、その考えは自分にもあると感じていた。
自分の周りにある全てを取っ払い世間的な評価や金。社会に於ける序列など関係なしに自分を見てくれる女がいるかということは、彼にとっても知りたいことだ。
だがそんな女には今まで出会ったことがなかった。だからあきらは後腐れのない人妻を相手にしていた。

「それにしてもお前が女に興味を持つってのは珍しいことだが、お前のその興味は好奇心ってことになるが、好奇心は自発的なもので周りから押し付けられるものじゃない。お前のその女に対する感情ってのは、お前が気付いていないだけで好奇心や興味以上のものがあるようにも思えるが違うか?つまり俺が言いたいのは、それは恋愛感情じゃねぇかってことだが俺もお前も恋愛という観念はない男だ。それは総二郎にも類にも言える。何しろ俺らは恋愛感情の有無に関係なくいつかは結婚することになる。だから俺たちは恋をしてこなかった。それに精神的な愛は俺らには必要ない。何しろ俺らの周りにいる女どもは愛や恋よりも金や名声や地位に価値を置いている女ばかりだからな。まあ端からそんな女が愛を与えてくれるはずもねえよな」

愛だの恋だのそんなものは幻想であり現実的ではない。
男も女も結婚するのは気の迷いであり結婚は契約のひとつでありビジネスの延長のようなものだとあきらも司も考えていた。
そしてあきらのその言葉はあきら自身に向けられた皮肉な思いだが、それは司に対しての皮肉でもあった。
だが司はその時牧野つくしの顔を思い浮かべていた。
女の顔の好みなど司には無かったが、思い浮かんだ顔が美人かと問われれば、そうではないことは明らかで、印象的な大きな黒い瞳を除けばどこにでもある平凡な顔だ。
そしてふと思ったのは、その顔が笑えばどうなるのかということ。
知的さを感じさせる顔が司に向かって笑えばどんな顔になるのか。

「司。お前が今何を考えているのか知らねぇが、お前が興味を抱いたその准教授。最初の間違い電話がなければ、お前もここまでしようとは思わなかった訳だろ?それならお前とその女は運命的な出会いをしたってことも考えられる。もしかするとその女がお前の運命の女かもしれねぇな」





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コメント
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dot 2018.11.24 08:46 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
F4の中で一番理性的なあきらにつくしのことを話した司。
そして司のことをよく知るあきらは、司の話から何かを感じ取ったようです。
そんなあきらも、つくしに興味を持ちました。
恋をしてこなかった男達にとって少し変わった女に思える牧野つくし。
彼女は司が電話に出なかったことを気にしているようですが、また電話をかけるのでしょうかねぇ。
学問に対しては積極的でも男性のこととなると苦手な女はどうするのでしょうね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.11.25 22:20 | 編集
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