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2018
11.22

理想の恋の見つけ方 27

依然としてまだ慣れない携帯電話だったが、リダイヤルの機能だけはしっかりと覚えた。
それは週に1度話をしようと言われた男性に電話をかけるためだが、つくしにとって世間で言う便利な小道具も画面を操作して何かをすると言えば、電話をかけることと、メールをやり取りする以外使うことは殆どなかった。

それにマニュアルを読んで操作を覚えることが億劫だと感じていて、それに対し桜子は、
「そんなことじゃ時代から取り残されますよ」と言うが確かにそれは感じていた。
だから取り残されないように努力はしているが、携帯電話依存症になるよりマシだ。
何しろ最近の大学生はスマホ片手に講義を受ける者もいて、マナーモードにしていないことから、突然何かのメロディがけたたましく鳴り出すこともあった。
だから電源を切って欲しいのが本音だが、学生にそこまで強くは言えず、常識的に考えてせめて音が鳴らないようにしてから講義を受けて欲しいと願う。

そしてこれから電話をかけようとする人は、紳士的な態度で接してくれる。
その人のことは年齢以外何も知らないが悪い人には思えず、会話から思慮深い人間だと思っているが、もしかすると凶悪な逃亡中の殺人犯の可能性もあるが、まさかそんな人間が1週間に一度電話で話をしようなど言うはずがない。だから考えを飛躍させ過ぎるのもどうかと思うも、頭の片隅には、あまり自分のことを詳しく話すのもいかがなものかともいう思いもあった。

だがつくしは自分の仕事が教育関係だと話した。
それは貰えなかった助成金とは別に援助が受けられることが嬉しくてつい話してしまったが、教育関係と言えば職業は限られてくることから、おおよその見当は付けられているかもしれないと思うも、これ以上そのことに触れないでおこうと思っていた。

しかし電話の向こうにいる男性の言葉は的確で、自分の考えや意見を述べていた。それは分析的思考に優れた人間の言葉に思え、想像していた仕事は在宅でも可能だと言われるIT関連だと思ったが、ふと頭を過ったのは、その人も自分と同じ職業ではないかということだ。

そうだ。もしかすると電話の男性は学者ではないか。身体が弱くあまり出歩かないと言ったが、元気な頃はよく海に出掛けていたといった発言があった。だからずっと健康を害していた訳ではないということだ。多分今は療養中といったところで、家で仕事をしている。
自分の研究をまとめているといったところではないだろうか。

それにその人の喋り方には品格があり、知性を隠していると感じられたからだ。
そして新しい人間関係を築くチャンスがないと言ったが、それはつくしも同じだ。大学というところは、学問を学ぶ場所ではあり門は広く開けられてはいるが、人間関係は狭いと言ってもいいからだ。

そう思うと急にふたりには共通点があるように思え親近感が湧いた。だが匿名でのやり取りを望む相手に必要以上に自分の個人的な情報を与えないようにしなければいけない。
何しろつくしが知りたいと望んだ年齢を教え合った一点を除き、男性がそれ以上相手のことを知りたいと望まないなら決して押し付けることをしてはいけないと思った。

だがつくしが、その人に電話をかけようとするのは、その人の事が気になっているからだ。
そうでなければ、義務ではないのだから電話をかけることはないはずだ。
それに自分から電話をするのは、うっかりかけてしまった真夜中の電話を入れて三度あるが、はじめは話し相手になって欲しいと頼まれた電話で、それに対し自分から話をしてみたいと言ったとは言え止めようと思えば止めることは出来た。
けれど、二度三度と電話をかけたのは、その人と話すことを自分が望んでいるからだ。だが話すことは自分のことばかりで一方的な電話だとも言えるが、訊いて貰えることに心地よさを感じていた。そして自分のことを理解してくれているように感じた。

だがもし電話の男性がつくしと同じような環境にいるなら、結局相も変わらず象牙の塔と呼ばれる狭い場所にいて、外の世界を知らないということになる。
桜子に言われた深海の岩場に棲み、大海を知らないシーラカンスということになる。
そして全く見ず知らずの人間と電話で話すだけの関係を持っていることを知れば、それはそれで何をやってるんですか。危険ですと言われることも分かっていた。
それでもその人と話をしたいと思うのが正直な気持ちだ。
だからつくしは画面に現れたその人の番号に手を触れた。








***








司は人だらけのパーティーにいた。
会場にはドレスを着た大勢の女がいて遠巻きに彼を見ていたが、司はそちらへ目を向けることはなかった。
代わりに彼の傍にいたのは、頭の禿げた男とその妻である派手な女。
その女が男より二回り以上若いのは誰が見てもすぐに分かる。確か年は司とさして変わらないはずだが、それだけ年の離れた男と結婚している女の目的が金以外にあるはずもなく、男も自己顕示欲を満たす手段としてそんな女をトロフィーワイフとして連れて歩く。
糟糠の妻を捨て若い女と結婚するというのは成り上がりの男にありがちであり、それが悪いとは言わないが、頭の禿げた男もそんな男のひとりだ。

そんな男の隣に立つ女の完璧に塗られた口紅は毒々しいほどの赤さで、その唇から司に向かって発せられるのは馴れ馴れしい言葉。決して触れはしないが、真っ赤に塗られた爪は司のタキシードの袖に触れたがっていた。

「ねえあなた。私たちはこうして道明寺様とお話が出来るけど、あちらのお嬢様方は近寄ることすら出来ないのね?可哀想ね。でも私たちは光栄ね?これもあなたのビジネスが大きくなったからね?」

知らぬは亭主ばかりなり、という言葉があるが、その女は年の離れた夫には満足していない欲求不満の人妻だ。あきらはその手の女を相手にするのが得意で時に危険なゲームをするが、果たしてこの女とはどうなのか。

だが今はそんな目の前の女のことよりも牧野つくしのことを考えていた。
会議を終えた後、秘書から牧野つくしの所属する研究室に五千万振込んだという報告を受けた。それは執務室に戻り書類に目を通している時だったが、その書類をデスクにポンと放り、袖付きの革の椅子に身体を預け、袖に肘をつき足首を膝に乗せた。その様子は秘書から見てもリラックスした姿であり、表情は手掛けていたビジネスが成功した時に見られる司らしい顔。
思い通りにならないことはないと言われる男のその姿には満足が現れていた。

だがこれはビジネスではない。
司はサメの研究に情熱を傾ける女が珍しいと感じ、周りにいなかったタイプの女の仕事ぶりが見てみたいということから寄付を決めた。
それに夜の電話のこともあった。夜の電話では相手が司であることは知らない女は、これから司のブレーンとして意見を求められることになるが、女には裏表があるのかないのか。
早速知ることになりそうだが、目の前の頭の禿げた男が飲み物を取りに行くと言い、その場を離れると女が話しかけてきた。

「ねえ道明寺様。今度主人のバースデーパーティーがありますの。よろしければ是非いらして下さらない?」

猫が喉を鳴らすようなかすれた声で、そう言いながら真っ赤な爪が司の腕に触れようとした。
だが司はその手を触れさせることはなかった。そして丁度その時ポケットの中の電話が鳴った。

「失礼。電話に出なければいけませんので」





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コメント
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dot 2018.11.22 06:03 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
頭のいいつくしは色々と考えますねぇ(笑)
電話の相手は同業者ではないかと思ったようです。
確かに声だけの相手だと色々と妄想は広がると思いますが、相手の話し方に知性を感じたというつくしでした。
見えないからこそアンテナを張り巡らすではないですが、分析しながらも自分の勘を働かせようとしたのでしょうね。
さて、その人に電話をかけようとしましたが果たして?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.11.22 23:34 | 編集
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