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2015
11.13

まだ見ぬ恋人25

翌朝シャワーをあび、髭をそり鏡の中の自分の顔を見ながら司は思った。
司の勘は当たっていた。
見かけは真面目一辺倒の堅苦しい女かもしれないが、牧野には情熱的な面が隠されていると思った。
南半球の太陽の暖かさと潮風とに心が解放されたのか、仕事では見せない牧野の表情を見ることが出来た。
高校時代の話しはさておき、好きな音楽の話しや食べ物の話しなどたわいのない話しをして過ごしていた。
牧野がコーヒーを飲んでいるあいだ、司は彼女を眺めながら思っていた。
これまでにないほど打ち解けた様子で話しをする牧野はいつもの慎重な言葉づかいや緊張感がとれ、瞳を輝かせ自然体で話しをしていた。
普段はいつもスーツをきちんと着こなしているが、昨日は可愛らしい花模様のワンピースにカーディガンを羽織った格好だった。
そして背筋をきちんと伸ばしたいつもの姿勢に比べればかなりゆったりとした姿勢で椅子に腰かけていた。
そんな牧野を見ながら、もし今こいつに触れたらこいつはどうするかと考えていた。
フライングしちまったけど、俺達は友達になったんだ。
まずは友達からのスタートってことで我慢するのもしかたがないよな。
それに昨日は俺のことをよく知ってもらうために連れ出したんだ。下手打ってまた上司と部下のような関係には戻りたくなかった。

レストランでの楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、やがて帰る時間となった。
決して昼食を食べるだけのためにジェットを飛ばして行ったわけではなかったが、それでもよかった。
もしあの時、牧野が欲しいなんて言ったら平手打ちをくわされるはめになったはずだ。
せっかく打ち解けてきたのにまた元の木阿弥だ。
浴室で吸うなって西田に言われてるけどよ、やっぱ俺は煙草がやめられそうにないな。
司は煙草の先に手をかざして火をつけると深く吸い込んで煙を吐き出していた。


つくしは司の部屋をノックして声をかけた。
「支社長、西田さんが今日の予定を確認したいって・・」
「 ああ 」
ドアを開けたつくしの目に飛び込んできたのは、上半身裸で鏡の前に立っている司の姿だった。
つくしはぎくりとして思わず目をそらした。
「ご、ごめんなさい。着替え中でしたね?」

結局学会関連の宿泊者の部屋が開くことはなく、東部から戻った西田と牧野は俺と同じスイートルームで部屋をシェアしている。
扉一枚を隔てとはいかないが、同じ部屋の中で相手の暮らしぶりが分かる程の距離感で宿泊していた。

実をいえば、つくしも司の存在を意識していた。
昨日は二人で食事をして戻って来た。
昼食だけのためにジェットを飛ばしてかの地へ赴いたとは思えなかったが、なにか感じたとしてもそこはつくしも敢えて気が付かないふりをした。
今考えてみれば平静を保っていられたのはきっと彼の別の一面が感じられたからだったのかもしれない。

それは高校時代のことに話しがおよんだ時だった。
あのときの目は獣が牙を剥く寸前のような鋭さだった。
あの狂気をはらんだような瞳は一瞬で消えたけど、今、目の前にいる司は思いつめたような目でつくしを見ていた。
そんなつくしの目の前には上半身裸の司の厚い胸板が現れていた。
シャワーを浴びて間もないのか癖のある黒髪はまだ少し濡れているようだった。
つくしはもはや何も考えられなくなったように顔を赤くしていた。
「ああ、悪いな牧野。西田には今行くからって言っといてくれよ」
司はクローゼットからプレスされた真っ白なワイシャツを取り出すと腕を通しはじめた。
「はい・・わ、わかりました」
司の魅力につくしはただ頷くしか出来なかった。
そんなつくしは慌てた様子で部屋を出ていこうとしていた。
「 牧野 」と呼ばれたつくしは振り返って司を見た。
「昨日は一緒に過ごせて楽しかった」と司はかすれた声で言った。
つくしはただ頷いた。
「いやじゃなかったか?俺と一緒に過ごして」と低い声でささやくように言った。
つくしは頷くしかなかった。
司はワイシャツのボタンを開けたままつくしの傍まで近寄ってきた。
つくしは目の前にある司の厚い胸板に魅せられたまま、ぼうっと見惚れていた。
「牧野?」
そう呼ばれつくしの背中にぞくぞくとしたものが走った。
「は、はい。と、とても楽しかったです」
彫刻みたい・・シックスパックに割れた腹筋っていうの?蝉のお腹みたい・・
つくしは次第に頭がぼうっとして何も考えられなくなっていた。
「なんだよ?俺の腹が蝉の腹みたいって?」
「え?」
つくしは咄嗟にしまったと思った。
「わ、わたし、なにか言いました?」つくしは冗談めかした口調で言った。
軽い調子で返事をしたのは、そうしなければこの場の雰囲気に危険なものを感じたから。
つくしはもはや司の肉体を観察している余裕はなかった。
だって彼の魅力に流されそうだったから。
「・・牧野」
司はそう言ってためらいがちにつくしの頬に手を伸ばした。
目の前に立つ司から石鹸と煙草が混ざったような香りがする。
つくしはゆっくりとその香りを吸い込んでいた。
司と目を合わせたつくしは恥ずかしそうにうつむいた。
「牧野・・」
司はそう言うとうつむいたつくしの華奢な顎に手を添えるとクイッと持ち上げた。
司は視線をつくしに合わせたままで彼女の背後に片手を伸ばすと開かれたままになっている扉を軽く押して閉めた。

射るような司の眼差しがやがて優しい眼差しに変わった。
司が触れてきたとき、彼についてつくしが感じていることが自分の顔に書いてあるだろうかと思った。
だって、つくしは彼に触れて欲しかったから。









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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.11.13 07:41 | 編集
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dot 2015.11.13 23:01 | 編集
た*き様
あはは・・。
そうでしたね。
うーん・・・困りましたね。
どうしましょう!
坊ちゃん、なんとかして!
と言うことで月曜にはお話が進展するようにしたいと思います。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.14 20:24 | 編集
H*様
蝉のお腹、触りたいですか?
こんな風に書くと本物の蝉に触りたいみたいになっちゃいますねぇ(笑)
司の筋肉だから触りたいんですよね?
同じく触れてみたいです!
きっと美しい肉体美なんでしょうねぇ・・(´艸`*)
いいなぁ。つくしは・・
私もいつもそう思います。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.14 20:32 | 編集
さと**ん様
まったりとした語りにドキドキして頂けましたか!
嬉しいです。
私もまったりと語りかけて欲しくて・・
言葉攻めって言うんでしょうか。
蝉の件ですが、仮面ラ**ーのお腹って書くよりは良いかと思いまして(笑)
あ、気がついていただけましたか。流行語大賞取るといいですね。
是非司くんにして頂きたいと思い、取り入れてみました。
えっ?あの一文私も気に入っています。
二人の立ち位置とか考えて腕が伸ばせるかな?とか扉は内開き設定でとか一応
実技指導しながら・・(笑)
いつも細かく読んで頂きありがとうございます。
続きですね?明日は別のお話になってしまいます。
暗めですが、ご興味があれば読んでみて下さい。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.14 20:48 | 編集
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