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2018
11.12

理想の恋の見つけ方 23

『5千万出そう』
その申し出は度肝を抜く金額としか言えなかった。
財団の助成金はひとりあたり1千万だが、その5倍の金額を個人的に出してくれると言う。
但し、そのことに対しての感謝気持ちの示し方として道明寺司のブレーンになることが求められた。

だがつくしは海洋生物学者であり、経済に詳しいとは言えない。
しかし求められるのは深海での開発行為が深海ザメに与える影響について。つまりそれは深海の環境についての助言でつくしの専門分野だ。とは言え、求められたとき助言をすることが寄付に対するお礼というのも、どうもおかしい気がした。だから何と答えていいか分からなかった。それに目標としていた助成金は1千万だ。だがそれをはるかに上回る金額を寄付してくれると言うが、その金額にも戸惑いがあった。

だが道明寺副社長のような立場になれば、5千万など大した金額ではないのかもしれない。
そう言えば、高級外車1台が5千万するという話を耳にしたことがあった。きっと副社長クラスになれば、そういった車に乗っているはずで、5千万などつくしが気にするほどの金額ではないのだろう。それでもやはり5千万という金額は、途方もない金額であることは間違いない。そしてその使い道を考えたこともないのだから、素直に受け取っていいものか悩まない訳にはいかなかった。


「あの。5千万とおっしゃいましたが、財団からの助成金はひとりあたり1千万ですよね?それをかなり上回る金額を寄付していただけることは大変有難い思いでいます。
色々とご期待をいただけていることは大変光栄です。ただその金額に関しては、予想外の金額です。私の一存で受け取るという訳には行きませんので教授の副島と相談させて下さい。それから私が道明寺副社長のブレーンになると言うのは_ええっと、その….」

小さな机を間に挟んではいるが、きっちりとネクタイを締めたスーツ姿の道明寺司に鋭い視線を向けられるのは、財団でのはじめての面接に臨もうとしたあの日と同じだ。
あの日、エレベーターに閉じ込められやっと救出されたと思えば、遅刻したことを責められ、挙句の果てに面接を反故にされ、立ち去る男を追いかけたが、逆に自分が追いつめられた動物のように壁際で鋭い視線を向けられた。そして今のこの状態は、状況は違えど、あの時と同じだ。

そしてその視線はクールで自信たっぷりな男の視線だ。
だからじっと見つめられ続けると、思わず言葉に詰まった。
だがここはつくしの大学で道明寺ビルではない。
それにここはエレベーターの前ではなく、つくしの研究室だ。
それなのに、何故こうも緊張しなければいけないのか。これではまるで蛇に睨まれたカエルだ。いや。相手は経済界のサメの異名を持つ男だからサメに睨まれたカエルになるのか?
だがカエルは海にはいない。それならサメが人間を襲う映画があったが、あの映画のようにサメに食べられてしまうのか。いや。まさか。どうして私がこの人に食べられなきゃならないのよ。そんな事を考えると頬が赤らむのを感じた。

「私の言葉に何か裏があると?」

「え?い、いえ。そういった訳ではないんですが」と口にしたが言葉に戸惑いは感じられたはずだ。それに目の前の男性が何を考えているのか分からなかった。だが一流の企業経営者と呼ばれる男性の脳内が分るはずもなく、サメの脳並などと言ったことは大きな間違いだったことは今では十分理解していた。

「牧野先生。そんなに悩む必要は無いはずだ。あなたは私から5千万の寄付を受け取ればいい。それに対しての礼は私のブレーンになること。だが何もそういった契約を結ぶ訳ではない。ただ私の疑問に答えてくれればいいだけだ」

「は、はぁ….」

つくしは正直言って困ったことになった。
なんと答えればいいかと言葉を探した。

「ところでウッズホールに行ったことは?」

「え?はい。一度ですが大学が休みになる夏休み期間中に訪れたことがあります」

海洋生物学者の間でウッズホールと言えば、アメリカ東海岸のマサチューセッツ州にあるアメリカ最古の海洋生物学の研究所であるウッズホール海洋生物学研究所のことだが、まさか道明寺副社長の口からその名前が出るとは思いもしなかった。

「私はハーバードビジネススクールで学んだが、同じ州内にあるあの施設のことは知っていた。もしかすると私たちは同じ州にいて同じ空気を吸っていた可能性もある」

確かにハーバードビジネススクールがあるボストンは同じマサチューセッツ州だが、ウッズホールは海辺の小さな街でかなり離れた場所にあり、同じ空気を吸っていたと言うには語弊があるような気がしたが、それは言わなかった。
それにしても、道明寺副社長のこの話はどこへ向かおうとしているのか。

「アメリカまで行くとなると交通費がかなりかかるはずだ。それに長期滞在となるとそれなりに金もかかる。准教授の給料はそれほど高くはないはずだが?5千万もあればこの研究室も随分と助かるはずだ」

道明寺司はバカではない。
サメ並の脳みその持ち主ではない。
ここに来るまでに、この研究室のことを調べていることが分かった。そして予算が苦しいこともだが、つくしのことも調べられていることが分かった。

来年の夏休み。出来ればウッズホールに行きたいと考えていたが、先立つものが不足していた。それに国内だけでなく海外の学会へも行くことも考えていた。だが財団からの助成金が夢と消えた今、道明寺副社長の5千万の寄付があればそれが叶うかもしれない。けれどやはり金額が大きすぎて自分だけでは決められなかった。それに寄付の礼として道明寺副社長のブレーンになるのは、どう考えても無理だ。

「あの道明寺副社長。今日はお忙しいなか、このような所まで足を運んでいただき、そのうえ大変有難いお話をお持ちいただきましたが、やはりこの件は副島と話をしてからお返事させていただきます」

つくしがそう言うと男は、「そうですか。ではいいお返事をお待ちしています」と言い、それ以上何も言わず立ち上った。

そしてつくしが部屋の扉を開けると、背後にいる男からこう言われた。

「金は邪魔にはならないはずだ。それを考えさせて欲しいとは、牧野先生は変わった人だ」




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コメント
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dot 2018.11.12 05:59 | 編集
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dot 2018.11.12 13:10 | 編集
司*****E様
おはようございます。
五千万あれば海外の学会にもウッズホールにも行ける。研究用の設備も備品も新しく出来る。
それなのに、つくしは司からの寄付金を受け取ることに躊躇いがあります。
司にしてみれば、そんなつくしの態度は不思議でしかありません。
え?桜子がこの事を知ったら?

「どうしてそこで躊躇うんですか?喜んでって言わなきゃ駄目じゃないですか!こんなことなら私も一緒に話を訊くべきでした!」と、言うことでしょう(笑)
さあ司が示した五千万の行方は?(笑)
コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.11.12 22:44 | 編集
コ**リ様
サメに睨まれたシーラカンス!(≧∇≦)
確かにつくしは深海の岩場にひっそりと棲息している生きた化石。だからこそ貴重でサメは興味を抱いたんですが、学問の世界に生きる女は自分がサメの興味を惹いたとは思いもしないはずです。
そして予想外の五千万という大金に戸惑いを隠せません。
副島教授は、この申し出に何と答えるのでしょう?
五千円なら迷うこともないですが、さすがに五千万ですからねぇ。
それにしても、つくしを変わった人だと言う司。
君もシーラカンスに興味を持つことで、変わった人間ですから!(笑)
コメント有難うございました。
アカシアdot 2018.11.12 22:58 | 編集
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