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2018
11.11

理想の恋の見つけ方 22

「個人….教授ですか?」

「ああそうだ。個人教授だ」

「あの。おっしゃっている意味がよく分からないんですが?」

「何が分からないって?言葉通り取ってもらえばそれでいいんだが?」

「ですから言葉通りとおっしゃられても…道明寺副社長が求められている個人教授というのは_」



つくしがその先の言葉を言おうとしたとき、扉がノックされ桜子がトレイを手に現れた。
トレイには来客用のコーヒーカップとつくしのマグカップと、わざわざ買いに行ったという銀座の高級洋菓子店のクッキーが乗った皿が乗せられていた。

「お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞお召し上がりください」

つくしは視線を落とし桜子が机にカップを置く様子を見ながら個人教授の意味について思考を巡らせていたが、やはり目の前の男性が言った言葉の意味がよく分からなかった。
そして最後にクッキーの皿を置き終えた桜子は、お辞儀をすると部屋を出て扉を閉めた。
そしてつくしは、日本の経済界を動かす、いや世界の経済も動かすことが出来る男とふたりきりで狭い部屋にいて、湯気を上げる見慣れた自分のマグカップから、その向うに置かれたコーヒーカップに視線を移し、これは来客用に6客買い揃えたが、そのうちのひとつは自分の不注意で割ってしまったものだと思いつつ視線を上げ男の顔に視線を据えた。

「あの、個人教授とは個人的に教えを請いたいという意味ですよね?サメについて道明寺副社長は学びたいということですよね?」

「そうだ。そのくらいしてもらってもいいと思うが?」

それは一種の命令に聞こえ尊大に感じられた。
だが援助してもらえるなら、「そのくらいしてもらっても」、と言われる「それくらい」が、どれだけのことを指しているのか分からなかったが、特に問題ないように思えた。
そしてつくしが口を開く前に、「決して金を出すから口を出すというのではない。研究に対してどのように金が使われようが、どんな研究だろうが文句を言うつもりはない」と言ったが、その言葉は研究者にとってはホッと胸を撫で下ろす有難い言葉だ。
それにしても、その態度は以前感じた偉そうにという程のものではないが、やはりこの男性の態度は大学界隈で見かける人間にはない態度で、これがビジネス界のサメと言われる男の態度の一端なのかと感じていた。

それに道明寺副社長のようにビジネスの世界で生きる人間は、この世の全てが自分のものだと思うことが当たり前なのかもしれない。そうだ。何しろ凶暴なサメは高次捕食者であり、食物連鎖の頂点にいて敵はおらず、全ては自分のものだと考えているからこんな態度なのだ。

つまりこの男性のこの態度は、彼の立場がそうさせるのであり、個人的に知り合えばまた違った一面を知ることになるのだろう。だが個人教授というのは、言葉を変えれば専属の教師であり家庭教師という意味になるはずだが、道明寺副社長は家庭教師的なものを求めているということなのか?だがどちらにしても、援助に対しての感謝の気持として出来ることはすると言った以上望みを訊かない訳にはいかなかった。

「あの、それでその個人教授といいますか….それは一度だけということで理解してよろしんですよね?」

「いや。そうじゃない。違うな」

道明寺副社長はそう言って、コーヒーカップに手を伸ばしたが、その時つくしのお腹がグゥッと鳴った。

「私に遠慮せず食べればいい」

と言われたがクッキーに手をつけるつもりはなかった。
13時の約束までには昼食を済ませておくつもりでいたのだが、午前中講義に出ていて、その後学生たちと話をしているうちに食事をする時間が無くなった。
だから道明寺副社長の訪問の後で何か食べるつもりでいた。

それにしても、ただでさえ狭い研究室で黙っていても威圧感を感じさせる男性とふたりきりでコーヒーを飲んでいるこの状況はなんとも言えない緊張感があった。
そして自分の研究室でクッキーを勧められるというこの状況は、まるでもてなされているのは、つくしの方ではないかとさえ思えた。

つまり道明寺副社長という男は、それだけ自分の雰囲気というものを持っていて、その場の空気を自分の色に変えてしまうことが出来るということになるが、それはやはりサメが周りに緊張感をもたらすのと同じということだ。
そして個人教授は一度だけではないという意味を訊かなければならなかった。

「あの。それで個人教授というのは_」

「ああ。牧野先生には私の個人的なブレーンになってもらいたい」

「は?」

「私はあなたの研究のための援助をする。その感謝の印としてあなたは私の興味を満たしてもらいたい。私の会社は海底資源開発にも力を入れている。日本の国土面積は世界第60位だが領海、排他的経済水域は世界第6位の広さがある。そこには豊富なエネルギー資源や鉱物資源が眠っている。日本近海は深海ザメの貴重な生息域であると同時に資源が豊富な海でもある。そういったことから人間の開発行為が深海にまで及ぶことにより、深海ザメに人為的な影響が出ることも考えられる。このことは、あなたの研究にも関係しているはずだ。だからあなたは私が意見を求めたとき、それに対して答えてくれればいい。つまり今回私が援助しようと言うのは、あなたの私に対する助言に対してのコンサルティング料のようなものだ」

つくしは高速で頭をフル回転させながら目の前でコーヒーを飲む男性の言葉を考えていたが、昼食がまだのせいか回転が悪いような気がしていた。
道明寺副社長の個人的なブレーン?
海洋生物学者が経済界のサメのブレーン?
いったいこの男性は何を求め何を考えているのか?
それに一番肝心なことを訊かなければならないことに気付いた。

「あの道明寺副社長。ひとつお伺いいたします。あの個人的に援助して下さるということですが、一体幾ら_」

「幾ら必要だ?財団での自然科学研究に対しての助成金は3億。その3億を応募者の中から選ばれた30名で分ける。つまり一人あたり1千万ということになるが幾ら必要だ?」

つくしが受け取ることが出来なかった1千万の助成金。
それがあれば学生たちに新しいウエットスーツが用意できる。それに今よりも新しい生物顕微鏡を手に入れることが出来る。他にも色々と揃えたいものがあった。それに学会に参加するための交通費も必要だ。
だが幾ら必要かと問われても、目標としていたのは1千万なのだから、それで充分だ。
それに個人的な援助。つまり寄付は寄付者のお志で、としか言えないのが研究者の性というものだ。

「あの_」

「5千万でどうだ?私のブレーンになるなら5千万出そう」





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コメント
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dot 2018.11.11 10:00 | 編集
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dot 2018.11.11 12:27 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
寄付してくれる金額が5千万!さすが道明寺副社長です!
しかし、それに対して求めたお礼がブレーンになってくれ。
確かに海底の開発をすれば海の生態系に影響が出ることもあるでしょう。
しかし5千万を寄付として提示しながらのその依頼は、何かあるような気もします(笑)
そうですね。司にとっては駆け引きのひとつなのかもしれませんね。
そしてつくしは、何と答えるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.11.11 22:14 | 編集
コ**リ様
1千万の助成金だけでも凄いのに、司は5千万出してくれるそうです。
流石道明寺財閥の御曹司!まあ彼ほどの男になれば5千万は、はした金ですね(笑)
そして物凄く自然体の女は、自分が過去に割った来客用のカップのことを思い出してみたり、お腹が鳴ったりと忙しいですね(笑)
そんな女に5千万の寄付のお礼として個人的なブレーンになれとは!(笑)
さあ、つくしは何と返事をするのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.11.11 22:42 | 編集
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