「牧野先輩。いえ牧野准教授。道明寺財団からの助成金が受けられるかどうかでこの先のことが決まるとは言いませんが、それでも助成金があるとないとでは研究にも影響が出ます。それに相手は経済界のサメ。あの道明寺副社長が面接をされると言うんですから気合いを入れて下さいね。この先のサメの研究をオーガナイズ出来るのは自分だと思って頑張って下さいね」
そう言って送り出されたのは、午後12時。
前回と同じ14時につくしがいなければならないのは、道明寺ビルの40階にある道明寺財団の会議室だが、そのビルに向かって歩きながら思考を巡らせていた。
あの日。エレベーターに閉じ込められたのは35階。
助け出されるとその足で階段を40階まで駆け上がった。そして遅れたことを侘びたが、そのことに腹を立てた男にチャンスを放棄するのかと言われ、エレベーターが止ったと弁解すれば、それが遅刻のいい訳のように言われ話を訊こうとしない態度に、あなたの脳はサメの脳ほどの大きさしかないのかと言ってしまった。
そして失礼な言葉を発した相手が財団の理事であり、道明寺ホールディングスの副社長であることに気付いたのは、それからすぐだった。そして男は気を悪くしたが、さして気に留めてなかったということで事なきを得た。
と、なると今日は何があろうと遅刻をすることは出来なかった。
今日があの時の名誉挽回ではないが、研究の重要性を丁寧に説明するつもりだ。
そして財政的な支援を勝ち取るつもりだ。
それにしてもあの時、道明寺副社長にからかうような仕草をされたことは予想外だった。
だが今はそんなことは頭の片隅にもなく、むしろどちらかと言えば、3日前電話で話をした男性とのことが思い出されていた。
週に一度電話で話をすることにした男性。名前も何も知らないその男性に向かって、サメの話をしたが、興味深いといって話を訊いてくれた。
そんな風にサメに興味を持ってくれた男性は今までおらず、それに聞き上手だった。
それは人の話を聞き慣れていると感じる態度であり、頭ごなしに否定した道明寺副社長の態度とは全く異なるもで、両極端な男性がいるとすれば、この二人がそれにあたるような気がした。
ひとりは姿を見ることは出来ないが紳士的な態度を取る男性で、もうひとりは桜子に言わせれば偉そうな態度をとったとしても、それが当たり前だという男性。
しゃがれた声の男性は身体が弱く在宅で仕事をしていて、何の仕事が分からなかったが、忙しいということは感じられ、IT関係で黙々と仕事をするタイプではないかと思えた。
それに対し道明寺副社長は気に入らないことがあればすぐに眉間に皺が寄るといった人物。
そして近くにいる人間にあたるように思えた。
それが大企業の経営者によくあるタイプだと言われればそれまでだが、初対面の人間に対してのその態度は経営者としての人間の器が小さいように思えた。
つくしは自分にとってどちらの男性と一緒にいると、くつろぐことが出来るのかと考えた。
すると比べることもなくしゃがれた声の男性だと思った。
だがその人は声だけの男性であり会うことはないと言った人。名前も職業も姿も必要ないと言ったその人は、架空の人間だといってもいいのかもしれないが、それでも道明寺副社長のような現実の男性よりも接しやすいと思えた。そして桜子に、『道明寺副社長に会えるということは、とても贅沢なことですけど、牧野先輩にとってはどうでもいいことですよね』と呟かれたが、その言葉に含まれているのは、女子力が著しく欠如しているということであり、深海ザメの研究ばかりで人間の男性を相手にしてこなかった女の残念さを嘆いているのだと分かっていた。
だがサメの姿はカッコいい。
そしてそのカッコ良さを維持するための努力というものを彼らはしている。
それが経済界のサメと呼ばれる男に当てはまると言えば、多分そうなのだろう。
そして道明寺司という男をサメに例えた人間は、彼にサメが人を襲う映画のモデルになった白い死神と呼ばれるホホジロザメの姿を見たのかもしれない。
確かにエレベーターの前でのあの男の素早い行動は、何の威嚇もせず見境なく人を襲うホホジロザメが獲物を捕らえようとする姿に重ねることが出来た。
だが海の王者と呼ばれるホホジロザメは深海ザメではない為つくしの研究対象には入らない。
それにつくしはサメが好むようなエサではない。
道明寺副社長のような男性が相手にするのは、煌びやかな女性だ。間違っても深海にいるシーラカンスではない。それなら、と頭を過るのはやはりしゃがれた声をした人のことで、エレベーターの中で思わず笑みが浮かんだ。
だが今は目の前のサメに対峙する時だ。
そして今日のエレベーターは機嫌よく40階までつくしを運んでくれた。
開かれた扉の向こうに見える道明寺財団の受付の女性は、立ち上がるとお待ちしておりました、と言った。
「それでは牧野さん。どうぞこちらへ」
通されたのはあの時と同じ会議室で選考委員の顔ぶれも同じだったが、その中に理事のひとりである道明寺司もいて、手にしている紙に目を通していた。
そして顔を上げ視線をつくしに向けると意味ありげに片眉を上げた。

にほんブログ村
そう言って送り出されたのは、午後12時。
前回と同じ14時につくしがいなければならないのは、道明寺ビルの40階にある道明寺財団の会議室だが、そのビルに向かって歩きながら思考を巡らせていた。
あの日。エレベーターに閉じ込められたのは35階。
助け出されるとその足で階段を40階まで駆け上がった。そして遅れたことを侘びたが、そのことに腹を立てた男にチャンスを放棄するのかと言われ、エレベーターが止ったと弁解すれば、それが遅刻のいい訳のように言われ話を訊こうとしない態度に、あなたの脳はサメの脳ほどの大きさしかないのかと言ってしまった。
そして失礼な言葉を発した相手が財団の理事であり、道明寺ホールディングスの副社長であることに気付いたのは、それからすぐだった。そして男は気を悪くしたが、さして気に留めてなかったということで事なきを得た。
と、なると今日は何があろうと遅刻をすることは出来なかった。
今日があの時の名誉挽回ではないが、研究の重要性を丁寧に説明するつもりだ。
そして財政的な支援を勝ち取るつもりだ。
それにしてもあの時、道明寺副社長にからかうような仕草をされたことは予想外だった。
だが今はそんなことは頭の片隅にもなく、むしろどちらかと言えば、3日前電話で話をした男性とのことが思い出されていた。
週に一度電話で話をすることにした男性。名前も何も知らないその男性に向かって、サメの話をしたが、興味深いといって話を訊いてくれた。
そんな風にサメに興味を持ってくれた男性は今までおらず、それに聞き上手だった。
それは人の話を聞き慣れていると感じる態度であり、頭ごなしに否定した道明寺副社長の態度とは全く異なるもで、両極端な男性がいるとすれば、この二人がそれにあたるような気がした。
ひとりは姿を見ることは出来ないが紳士的な態度を取る男性で、もうひとりは桜子に言わせれば偉そうな態度をとったとしても、それが当たり前だという男性。
しゃがれた声の男性は身体が弱く在宅で仕事をしていて、何の仕事が分からなかったが、忙しいということは感じられ、IT関係で黙々と仕事をするタイプではないかと思えた。
それに対し道明寺副社長は気に入らないことがあればすぐに眉間に皺が寄るといった人物。
そして近くにいる人間にあたるように思えた。
それが大企業の経営者によくあるタイプだと言われればそれまでだが、初対面の人間に対してのその態度は経営者としての人間の器が小さいように思えた。
つくしは自分にとってどちらの男性と一緒にいると、くつろぐことが出来るのかと考えた。
すると比べることもなくしゃがれた声の男性だと思った。
だがその人は声だけの男性であり会うことはないと言った人。名前も職業も姿も必要ないと言ったその人は、架空の人間だといってもいいのかもしれないが、それでも道明寺副社長のような現実の男性よりも接しやすいと思えた。そして桜子に、『道明寺副社長に会えるということは、とても贅沢なことですけど、牧野先輩にとってはどうでもいいことですよね』と呟かれたが、その言葉に含まれているのは、女子力が著しく欠如しているということであり、深海ザメの研究ばかりで人間の男性を相手にしてこなかった女の残念さを嘆いているのだと分かっていた。
だがサメの姿はカッコいい。
そしてそのカッコ良さを維持するための努力というものを彼らはしている。
それが経済界のサメと呼ばれる男に当てはまると言えば、多分そうなのだろう。
そして道明寺司という男をサメに例えた人間は、彼にサメが人を襲う映画のモデルになった白い死神と呼ばれるホホジロザメの姿を見たのかもしれない。
確かにエレベーターの前でのあの男の素早い行動は、何の威嚇もせず見境なく人を襲うホホジロザメが獲物を捕らえようとする姿に重ねることが出来た。
だが海の王者と呼ばれるホホジロザメは深海ザメではない為つくしの研究対象には入らない。
それにつくしはサメが好むようなエサではない。
道明寺副社長のような男性が相手にするのは、煌びやかな女性だ。間違っても深海にいるシーラカンスではない。それなら、と頭を過るのはやはりしゃがれた声をした人のことで、エレベーターの中で思わず笑みが浮かんだ。
だが今は目の前のサメに対峙する時だ。
そして今日のエレベーターは機嫌よく40階までつくしを運んでくれた。
開かれた扉の向こうに見える道明寺財団の受付の女性は、立ち上がるとお待ちしておりました、と言った。
「それでは牧野さん。どうぞこちらへ」
通されたのはあの時と同じ会議室で選考委員の顔ぶれも同じだったが、その中に理事のひとりである道明寺司もいて、手にしている紙に目を通していた。
そして顔を上げ視線をつくしに向けると意味ありげに片眉を上げた。

にほんブログ村
- 関連記事
-
- 理想の恋の見つけ方 16
- 理想の恋の見つけ方 15
- 理想の恋の見つけ方 14
スポンサーサイト
Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

司*****E様
おはようございます^^
副社長と電話の男を比べる。
そして声だけの男の方がいいと思える(笑)
会ったことがなければ、その姿は想像で補うことになりますが、声だけだと美化することもあるかもしれませんね?
さて今回の面接で上手くいかなければ助成金を得ることは出来ません。
絶対に成功させなければなりません。
そして司は彼女のことをどうするのでしょう?いや、どうしたいのでしょうね?(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
副社長と電話の男を比べる。
そして声だけの男の方がいいと思える(笑)
会ったことがなければ、その姿は想像で補うことになりますが、声だけだと美化することもあるかもしれませんね?
さて今回の面接で上手くいかなければ助成金を得ることは出来ません。
絶対に成功させなければなりません。
そして司は彼女のことをどうするのでしょう?いや、どうしたいのでしょうね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.11.03 22:09 | 編集
