「私はあなたが何歳だろうと構いませんよ。こうして電話で話が出来るならそれで結構です。それに男性が女性に自分の年齢を言わせることは失礼になる。男性が女性より優れていると思うことも間違っている。それに肩書で態度が変わる人間もどうかと思いますよ。ですからあなたが何歳だろうと何者であろうと私は構いません。まあそれは逆も言えるということですが、私たちは週に一度電話で他愛もない話をする関係ですからこれ以上のことは互いに秘密にしておきましょう。その方が楽しいと思いますよ」
司は電話から伝わる緊張感を感じ取っていた。
牧野つくしは相手が誰だか分からない、匿名でと言われても何か知りたいと思ったようだ。
だから司の年齢を訊いてきたが、互いの匿名性を重んじることを初めに言った。
そしてそれを受け入れたのは、牧野つくしの方であり、嫌なら電話をしなければいい。選択権は女の方にあった。だから年齢以上のことは話すつもりはない。
それに司を危険な存在だと思えば電話をしてこなければ済むことだ。
そして司は自分からは電話をすることはないと言った。
このゲームのような会話の主導権はあくまでも牧野つくしにあると思わせることが重要なのだから。
男と女の間にある駆け引きを伴う恋愛ゲーム。
ただのセックスを別のものに変えようとする女は大勢いた。
手の内を見せることなく、いかに司を自分のものにするか。司の周りにいる女たちの殆どがそれをする。
愛という言葉が司の周りにあったことはなく、女たちの目に浮かぶのは、愛ではなく欲望。
そのことを知ったのは随分と若い頃の話だが、女の本性というものは、どの女と寝ても同じだった。
そして財団の面接に現れた少し変わった女の本性はどうなのか。
これからゆっくりと知ることになるはずだが、相手のプライバシーは詮索しないということを受け入れた牧野つくしが言葉を選びながら司に語り始めたのは女にとっては身近なことだった。
『あの。あなたは海の生物に興味がありますか?』
それが女の仕事のことだと分かるのは、司が女の仕事を知っているからだが、人は自分の興味がないことは喋りにくい。つまり殆どの人間は自分の経験を元に話をする。経験が無ければ語ることが出来ない真実というものが存在するからだ。
だから人と話をする時は、その会話の中に話し手の生活を垣間見ることが出来るが、牧野つくしの場合は、まさにソレだ。
そして学者先生の本領発揮とばかり話し始めれば、恐らくだがその表情はエレベーターの前まで司を追いかけていた時と同じはずだ。
つまり自分が夢中になっていることに向ける情熱に嘘はない。
「海の生物ですか?今はあまり行くことはありませんが海は好きです。それに元気な頃はよく出かけていました」
司は身体が丈夫ではないと言った手前控えめに言葉を口にしたが、実際彼は大型クルーザーを所有し、クルージングをするのが好きだった。
『そうですか。お元気だった頃は海にお出かけされていたんですね?海には危険な生物が住んでいますが、私はサメに興味があるんです。サメは世界中に540種ほどいるんですが、その中で人間を襲うサメはごく一部のサメでその数は5本の指で足りると言われるんですよ。だからそれ以外のサメはごく普通の海の生き物なんです』
牧野つくしの言葉には、はじめこそ緊張が感じられたが、司が巧に質問の言葉を挟めば、やがて打ち解けた口調で話はじめた。
そして、すみません。私ばかりが話してしまって。でもお話出来て楽しかったと言い電話を切った。
時刻は10時半。
二人の会話はサメの話で終わったが、牧野つくしは今まで司の周りにいた女たちとは違い、自分を売り込むことも自分を実際以上の人間に見せようともしなかった。
それよりも話すのはサメの事ばかり。まるでサメの講義を受けているような気にさせられたが、案外面白かった。
それにしてもサメの研究者なら、現実社会のそこかしこにも危険のマークがあることを知っていてもいいはずだがあの女は気付いていないのか?話す言葉の端々に、かなりの割合で個人的なことが含まれていたからだが、あの女はビジネスをするには向いてない。
そして人間を襲うサメはごく一部だと言ったが、その中に人間の男がいることを知っているのか興味があった。
司は肩を回して立ち上がると窓辺へ行った。
そして外を見たが、高層ビルから見下ろす視線の先に見える窓には明かりが灯っていた。つまり世の中にはまだ仕事をしている人間は大勢いるということだが、同じこの時間深い海の底のことを考えている女と司は近いうちに会う。
それは財団の研究助成事業での面接だが、果たしてこうして話をした男が司であることに気付くのか。電話の声はしゃがれた声を演出したが、そんなことをした自分が意外だった。

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司は電話から伝わる緊張感を感じ取っていた。
牧野つくしは相手が誰だか分からない、匿名でと言われても何か知りたいと思ったようだ。
だから司の年齢を訊いてきたが、互いの匿名性を重んじることを初めに言った。
そしてそれを受け入れたのは、牧野つくしの方であり、嫌なら電話をしなければいい。選択権は女の方にあった。だから年齢以上のことは話すつもりはない。
それに司を危険な存在だと思えば電話をしてこなければ済むことだ。
そして司は自分からは電話をすることはないと言った。
このゲームのような会話の主導権はあくまでも牧野つくしにあると思わせることが重要なのだから。
男と女の間にある駆け引きを伴う恋愛ゲーム。
ただのセックスを別のものに変えようとする女は大勢いた。
手の内を見せることなく、いかに司を自分のものにするか。司の周りにいる女たちの殆どがそれをする。
愛という言葉が司の周りにあったことはなく、女たちの目に浮かぶのは、愛ではなく欲望。
そのことを知ったのは随分と若い頃の話だが、女の本性というものは、どの女と寝ても同じだった。
そして財団の面接に現れた少し変わった女の本性はどうなのか。
これからゆっくりと知ることになるはずだが、相手のプライバシーは詮索しないということを受け入れた牧野つくしが言葉を選びながら司に語り始めたのは女にとっては身近なことだった。
『あの。あなたは海の生物に興味がありますか?』
それが女の仕事のことだと分かるのは、司が女の仕事を知っているからだが、人は自分の興味がないことは喋りにくい。つまり殆どの人間は自分の経験を元に話をする。経験が無ければ語ることが出来ない真実というものが存在するからだ。
だから人と話をする時は、その会話の中に話し手の生活を垣間見ることが出来るが、牧野つくしの場合は、まさにソレだ。
そして学者先生の本領発揮とばかり話し始めれば、恐らくだがその表情はエレベーターの前まで司を追いかけていた時と同じはずだ。
つまり自分が夢中になっていることに向ける情熱に嘘はない。
「海の生物ですか?今はあまり行くことはありませんが海は好きです。それに元気な頃はよく出かけていました」
司は身体が丈夫ではないと言った手前控えめに言葉を口にしたが、実際彼は大型クルーザーを所有し、クルージングをするのが好きだった。
『そうですか。お元気だった頃は海にお出かけされていたんですね?海には危険な生物が住んでいますが、私はサメに興味があるんです。サメは世界中に540種ほどいるんですが、その中で人間を襲うサメはごく一部のサメでその数は5本の指で足りると言われるんですよ。だからそれ以外のサメはごく普通の海の生き物なんです』
牧野つくしの言葉には、はじめこそ緊張が感じられたが、司が巧に質問の言葉を挟めば、やがて打ち解けた口調で話はじめた。
そして、すみません。私ばかりが話してしまって。でもお話出来て楽しかったと言い電話を切った。
時刻は10時半。
二人の会話はサメの話で終わったが、牧野つくしは今まで司の周りにいた女たちとは違い、自分を売り込むことも自分を実際以上の人間に見せようともしなかった。
それよりも話すのはサメの事ばかり。まるでサメの講義を受けているような気にさせられたが、案外面白かった。
それにしてもサメの研究者なら、現実社会のそこかしこにも危険のマークがあることを知っていてもいいはずだがあの女は気付いていないのか?話す言葉の端々に、かなりの割合で個人的なことが含まれていたからだが、あの女はビジネスをするには向いてない。
そして人間を襲うサメはごく一部だと言ったが、その中に人間の男がいることを知っているのか興味があった。
司は肩を回して立ち上がると窓辺へ行った。
そして外を見たが、高層ビルから見下ろす視線の先に見える窓には明かりが灯っていた。つまり世の中にはまだ仕事をしている人間は大勢いるということだが、同じこの時間深い海の底のことを考えている女と司は近いうちに会う。
それは財団の研究助成事業での面接だが、果たしてこうして話をした男が司であることに気付くのか。電話の声はしゃがれた声を演出したが、そんなことをした自分が意外だった。

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司*****E様
おはようございます^^
つくしは秘密めいた男の言葉に戸惑いを感じながらも受け入れたようです。
そして話すことはサメの話!(笑)
電話でサメの講義を受ける男は、当然つくしのことを分析しています。
そしてつくしは電話の男にはいい印象を抱いているようですが、司にはそうでもありませんでした。
財団の研究助成事業の面接で会うことになりますが、司はどんな態度に出るのでしょうね。
そしてつくしは?
二度目の対面となるふたり。どんな対面になるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
つくしは秘密めいた男の言葉に戸惑いを感じながらも受け入れたようです。
そして話すことはサメの話!(笑)
電話でサメの講義を受ける男は、当然つくしのことを分析しています。
そしてつくしは電話の男にはいい印象を抱いているようですが、司にはそうでもありませんでした。
財団の研究助成事業の面接で会うことになりますが、司はどんな態度に出るのでしょうね。
そしてつくしは?
二度目の対面となるふたり。どんな対面になるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.11.01 22:36 | 編集

さ***ん様
サメの講義を受ける男!思いのほか楽しんでいたようです(笑)
わはは!(≧▽≦)話す方が払う電話代。携帯で30分。純粋に会話を楽しんでいる女は気にしていないような気がします。
サメの中で人を襲うサメは少ないんです。サメと名がついていても、のんびりしたサメもいます。
やらしー男(笑)
サメ司はシーラカンスをどうするつもりなのでしょう。
え?あのイカですか?同じ深海の仲間ですのでそのうち出てくるかもしれません(笑)
コメント有難うございました^^
サメの講義を受ける男!思いのほか楽しんでいたようです(笑)
わはは!(≧▽≦)話す方が払う電話代。携帯で30分。純粋に会話を楽しんでいる女は気にしていないような気がします。
サメの中で人を襲うサメは少ないんです。サメと名がついていても、のんびりしたサメもいます。
やらしー男(笑)
サメ司はシーラカンスをどうするつもりなのでしょう。
え?あのイカですか?同じ深海の仲間ですのでそのうち出てくるかもしれません(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.11.01 22:52 | 編集
