FC2ブログ
2018
10.31

理想の恋の見つけ方 13

「もしもし」

『はい』

「あの、私です。分かりますか?」

『ええ。わかりますよ。電話してきて下さったんですね』




夜の10時。
つくしは匿名で話をしようと言われた男性に電話をすると、相手は3度目の呼び出し音で出たが何故この時間に電話をすることにしたのか。それは多分だがこの時間なら余裕がある時間だと思われたからだ。

見知らぬ男性との語らい。
つくしにしてみれば勇気がいる行為だったが電話をすると言った以上しなければという思いと、喋る言葉に嘘がないと感じ、どこか孤独を感じさせる相手に興味がないとは言えなかった。

今夜電話をしようと決めた時点で何を話そうかと思っていたが、今日は道明寺財団から連絡があり一度は駄目になりかけた研究助成事業の面接を受ける日が決まった。
それが嬉しくて話題になると思ったが、互いに正体は言わないと決めている以上、そのことを直接的に話すことは出来ないことから言葉を選んでいた。

「ええっと、何から話せばいいのか」

そう言ったところで男性が口にした言葉を思い出していた。
それは同じ列車に乗り、隣に座った人間と他愛もない会話を交わす。
それは決して珍しいことではない。いつだったか出張帰り新幹線の中で咳が止まらなくなったことがあった。すると隣に座った女性から、これをどうぞ。と言って飴を貰ったことがあった。それは女性の親切心がつくしに向けられた瞬間で、大丈夫ですか?と問われ、どちらまでですか?といった会話から始まり相手が下車するまで話をしたことがあったが、それが袖振り合うも他生の縁という言葉で表されることであり、男性が求めているのは、そういったものだと分かっているが、なにしろ相手は男性で、ましてや顔が見えないとなると何を話していいのかやはり躊躇いがあった。

『何から話せばいいのかとおっしゃるなら、とりあえず今晩はではないですか?それから今日の天気の話でもしますか?いいお天気でしたね。もう秋の空ですがあなたはどんな一日を過ごされましたか?』

そう言われ、今日の空は青く澄み渡っていたことを思い出したが、相手も同じ空を見たのだと思えば、そのことを話題にするのが一番いいと思えた。

「そうですね。今日はいいお天気でした。少し前までは暑いと感じていましたが、もうすっかり秋ですね?それに空が高く感じられて夜になれば空気も涼しく感じられます。私は__仕事が少し特殊ですがいい一日でした」

つくしが一瞬言葉に詰まったのは、思わず自分の職業を言いそうになったからだが、偶然同じ列車に乗り合わせた者同士が自分の仕事がなんであるかを詳しく話すはずもなく、出かかった言葉をなんとか呑み込んでいた。

『充実した一日だったという事でしょうか?』

「はい。今日はとても充実した一日でした。あなたは?」

『私ですか?私は代わり映えがしない日でした。毎日同じことの繰り返しです。私の仕事は在宅で出来る仕事ですからデスクワークですが、いつも同じです。やらなければならない仕事は山のようにありますが、その仕事が出来るのは私しかいない。それをこなすといった日々を過ごしています』

「そうですか....」

つくしはそう答えたが、言葉に詰まりその先が続かなかった。
相手が何か喋ってくれればいいのにと思いながら、沈黙を埋めるため何か口にしなければと思うも、言葉に詰まるのは相手のことを知らないこともだが、訊いてはいけない。話してはいけないといった制約があるからだが、もし何か共通の話題があれば違うはずだと思った。

だが相手の年齢も分からなければ、どんな話を持ち出せばいいのか分からなかった。
それでも、男性のしゃがれた声が極端に年を取っているとは感じられず、同じ30代か40代ではないかと感じた。
それなら、と、乾いた喉の奥に張り付くようにしていた考えを口に出してみることにした。

「あの。私たちは自分のことを詳しく話す必要はないということでしたが、やはりある程度知らなければ話づらいと思います。ですからせめて年齢…たとえば、30代なのか。40代なのか。それくらいは教え合いませんか?」









司はその時間はまだ会社にいて革椅子に座り、転送されて来た女の電話をスピーカー通話で話しながらパソコンの画面をスクロールしていた。
女が電話をかけて来るかどうか半信半疑なところもあり、まさか本当にかけて来るとは思わなかった。

牧野つくしについて身元調査をした結果、住所や職業、いや職業はすでに知っていたが、色々なことが分かった。家族は両親と弟。父親はごく普通の会社員で母親は専業主婦で教育熱心。弟は会社員で結婚していた。

修士課程を修了し、ドクターコースへ進み最短年数で学位を取った女は若くして准教授になっただけに頭がいい。
だからなのか。世間で言われる常識からすれば、見知らぬ男と電話で親しげに会話を交わすことが危険だという概念が薄い。つまり牧野つくしを特徴づけているとも言える黒い大きな瞳には知性が感じられるが、男に対しての知性が欠如している研究肌の女ということになり、自分の専門以外は疎いということになる。
そしてそれが意味することは、どんくさく騙されやすいということだ。

「私の年齢ですか?」

司は牧野つくしが34歳であることを知っているが、女はそれを知らない。
それなら何歳と答えるのがいいのか。

「私は35歳です」

司はかなり年上を装うことも考えたが、35歳と自分の本当の年齢を答えた。
それに対しせめて年齢くらいは教え合おうと言った牧野つくしは何と答えるか。
女は平気で嘘をつく。
それに電話で喋るだけの相手にありのままの年齢を伝える女がいるとは考えていない。
見えないということは気楽さを感じさせるもので、ましてや会うつもりはないと言った相手に嘘をついても罪の意識など持ちはしないのだから。

『そうなんですか?私は34歳です。すみません若い女性ではありませんがそれでも私と話したいと思われますか?』

だから見知らぬ他人に嘘をつかない女がいるということは、ある意味で期待を裏切られた。





にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.10.31 07:05 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.10.31 10:10 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.10.31 15:29 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
つくしは相手のことも訊けないし、自分のことも詳しくは話せない。
私はこういう者で、あなたは誰ですかと言えればいいんですが、それを男は望まない。
考えてみれば難しい関係なんですよねぇ。
そして司にしてみれば、はじめから話すつもりもなければ、財団の理事としてつくしと面接をするんですから、話せるはずがないですよね?
それでも実年齢だけは教え合うことになった二人。
つくしが嘘をつくと思っていましたが、そうではありませんでした。
そんな女は司の周りにはいない。
そのことをどう思ったのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.31 21:30 | 編集
つ***ぼ様
司は偽りの他人を演じ、つくしはありのままの自分を司に示す。
この二人にとって週に一度の電話の関係というものは、何をもたらしてくれるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.10.31 21:36 | 編集
さ***ん様
芝居をする司のもの言いに鼻の奥がムズムズする!(笑)
両者年齢を詐称することはありませんでした。
しかし!司の所見では頭の良い研究肌の女は、専門外は疎くどんくさく騙されやすい!(≧▽≦)
シーラカンスは深海の岩場から浮上を始めましたが、大丈夫なんでしょうか?
そして病弱を気取るサメ司。
サメにも色々な種類がいますが、司はどのサメなのか。
引き締まった身体からすれば、外洋を高速で泳ぐサメには間違いないのですが、そんなサメとシーラカンスの出会いです!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.31 21:50 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top