司は電話を切ると牧野つくしの返事に思わず捕らえた獲物を弄ぶサメのような気分になった。
『あなたと話をしてみたいと思います』
その答えを予期していた訳ではないが、相手の顔は見えない。どんな素性か分からない。
そんな男の何が女の興味を惹いたのか。
女は二つのタイプに別れるというが、ひとつは危険だと思われることには近づかない。
もうひとつは、その逆であり危険なものに惹かれるというタイプ。
牧野つくしは後者には見えなかった。それなら何故見知らぬ男と電話で話をすることを選んだのか。
司は自分に好感を持たせ、牧野つくしの良心を掻き立てるため、数分間の会話のほとんどを彼が喋り、声はわざとしゃがれた声を出しはしたが、それが気に入った訳ではあるまい。
誰にでも気に入られそうな模範的なタイプの牧野つくし。
電話で話をすることで、そんな女の何が見えるのか。
1週間に一度の会話を交わすことで、どんな人間が現れるのか。
そしてサメを相手にしている女なら、自分を守ろうとする本能はあるはずだが、どちらにしても財団の面接で再び顔を合わせることになるが、その時が楽しみだった。
結婚歴なし。子供なし。34歳。
そう書いた紙をゴミ箱に放り捨てると寝室に戻った。
***
つくしは研究室でパソコンにデータを入力していた手を止めた。
誰もいない静かな部屋の中、考え事をするにはもってこいだ。そこで3日前電話で話をした男性のことを考えていた。
名前も知らない、どこの誰だか分からない男性と週に一度だけ電話で話をすることに同意した。
それにしても何故同意してしまったのか。
それは身体が丈夫ではない。外を出歩くこともあまりない。
人間関係を広げることがないと言われたことに同情したのだろうか。
いや違う。何故だか分からなかったが、どこか自分と似たところがあるような気がしたからだ。
つくしは大学院を卒業し、そのまま大学での研究生活に入ったが、振り返ってみればあれからずっと研究一筋だ。そして気づけば34歳。いつも化粧っ気のない顔をしていることから若く見られがちだが、鏡を見ればそこにいるのは年相応の女で、決して自分の年を忘れた訳ではなく、毎晩鏡を見れば改めて自分の年を認識させられていた。
そして桜子の言う通り学問一筋で、男性との付き合いといったものがなかった。
サメと結婚してる訳じゃあるまいし、そのエネルギーを少しは人間の男性にも向けて下さいと何度も言われ、生き方が真面目過ぎると言われた。
研究を離れて遊ぶ時間を作って下さいと言われたが、どうやって遊べばいいのか分からないと言うと、男性を紹介されるようになったが、どうもしっくりこなかった。
そして電話の声だけの男性の姿を想像したとき、在宅での仕事だと言ったことから、暗がりで育った植物のように細いといった印象を抱いた。
声は初めこそ怒ったような声だったが、途中から丁寧な口調に変わり、喋る言葉に品格が感じられ、知性を隠しているような気がしたが、普段人と接することが無いということから、あまり喋ることがないのか、ずっとしゃがれた声をしていた。
だが男性が話した内容をどこまで信じればいいのかわからなかった。
つくしはバカではない。世の中には虚偽があることも知っている。それに自分の知らない世界が幾つもあることも分かっているつもりだ。それでも男性が喋る言葉が嘘のない言葉に聞こえたのだ。
週に一度つくしから電話をする。
嫌なら掛ける必要はない。それにいつ掛けるとは決まってない。
選択権はつくしにあった。
嫌なら何もしなければいい。だが何もしなければこの出会いは終わる。
それにつくしは一度口にしたことは守るべきだと思っている。
だから今夜掛けるつもりでいたが、そんな中、つくしの携帯電話が鳴り出した。

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『あなたと話をしてみたいと思います』
その答えを予期していた訳ではないが、相手の顔は見えない。どんな素性か分からない。
そんな男の何が女の興味を惹いたのか。
女は二つのタイプに別れるというが、ひとつは危険だと思われることには近づかない。
もうひとつは、その逆であり危険なものに惹かれるというタイプ。
牧野つくしは後者には見えなかった。それなら何故見知らぬ男と電話で話をすることを選んだのか。
司は自分に好感を持たせ、牧野つくしの良心を掻き立てるため、数分間の会話のほとんどを彼が喋り、声はわざとしゃがれた声を出しはしたが、それが気に入った訳ではあるまい。
誰にでも気に入られそうな模範的なタイプの牧野つくし。
電話で話をすることで、そんな女の何が見えるのか。
1週間に一度の会話を交わすことで、どんな人間が現れるのか。
そしてサメを相手にしている女なら、自分を守ろうとする本能はあるはずだが、どちらにしても財団の面接で再び顔を合わせることになるが、その時が楽しみだった。
結婚歴なし。子供なし。34歳。
そう書いた紙をゴミ箱に放り捨てると寝室に戻った。
***
つくしは研究室でパソコンにデータを入力していた手を止めた。
誰もいない静かな部屋の中、考え事をするにはもってこいだ。そこで3日前電話で話をした男性のことを考えていた。
名前も知らない、どこの誰だか分からない男性と週に一度だけ電話で話をすることに同意した。
それにしても何故同意してしまったのか。
それは身体が丈夫ではない。外を出歩くこともあまりない。
人間関係を広げることがないと言われたことに同情したのだろうか。
いや違う。何故だか分からなかったが、どこか自分と似たところがあるような気がしたからだ。
つくしは大学院を卒業し、そのまま大学での研究生活に入ったが、振り返ってみればあれからずっと研究一筋だ。そして気づけば34歳。いつも化粧っ気のない顔をしていることから若く見られがちだが、鏡を見ればそこにいるのは年相応の女で、決して自分の年を忘れた訳ではなく、毎晩鏡を見れば改めて自分の年を認識させられていた。
そして桜子の言う通り学問一筋で、男性との付き合いといったものがなかった。
サメと結婚してる訳じゃあるまいし、そのエネルギーを少しは人間の男性にも向けて下さいと何度も言われ、生き方が真面目過ぎると言われた。
研究を離れて遊ぶ時間を作って下さいと言われたが、どうやって遊べばいいのか分からないと言うと、男性を紹介されるようになったが、どうもしっくりこなかった。
そして電話の声だけの男性の姿を想像したとき、在宅での仕事だと言ったことから、暗がりで育った植物のように細いといった印象を抱いた。
声は初めこそ怒ったような声だったが、途中から丁寧な口調に変わり、喋る言葉に品格が感じられ、知性を隠しているような気がしたが、普段人と接することが無いということから、あまり喋ることがないのか、ずっとしゃがれた声をしていた。
だが男性が話した内容をどこまで信じればいいのかわからなかった。
つくしはバカではない。世の中には虚偽があることも知っている。それに自分の知らない世界が幾つもあることも分かっているつもりだ。それでも男性が喋る言葉が嘘のない言葉に聞こえたのだ。
週に一度つくしから電話をする。
嫌なら掛ける必要はない。それにいつ掛けるとは決まってない。
選択権はつくしにあった。
嫌なら何もしなければいい。だが何もしなければこの出会いは終わる。
それにつくしは一度口にしたことは守るべきだと思っている。
だから今夜掛けるつもりでいたが、そんな中、つくしの携帯電話が鳴り出した。

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司*****E様
おはようございます^^
>獲物を見つけたサメのように興奮している!(≧▽≦)
はい。素性の知れない男と話をすることを了解した女に興味を持ちました。
つくしも警戒心が全くないという訳ではないのですが、研究者という人間はやはりどこか違うんです(笑)
余り外に出ないと訊き、細い人を想像したつくし。
ちょっと違いますが細いというか、しまった筋肉質な体つきですね。
とにかく声だけの相手。想像は膨らみます(笑)
さて、つくしは電話するのでしょうか。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
>獲物を見つけたサメのように興奮している!(≧▽≦)
はい。素性の知れない男と話をすることを了解した女に興味を持ちました。
つくしも警戒心が全くないという訳ではないのですが、研究者という人間はやはりどこか違うんです(笑)
余り外に出ないと訊き、細い人を想像したつくし。
ちょっと違いますが細いというか、しまった筋肉質な体つきですね。
とにかく声だけの相手。想像は膨らみます(笑)
さて、つくしは電話するのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.30 22:42 | 編集

さ***ん様
孤独な深海にいたから、それ以外の場所に行ってみよう。
生きた化石シーラカンスは冒険の旅に出ることに決めたのかもしれませんね?
ただ、自分がいつもいるはずの岩場から出るということは、それなりの危険もあるということです。
え?司のしゃがれた声はどうやって出したか?
寝起きで不機嫌だとそんな声なのかもしれませんね(笑)
コメント有難うございました^^
孤独な深海にいたから、それ以外の場所に行ってみよう。
生きた化石シーラカンスは冒険の旅に出ることに決めたのかもしれませんね?
ただ、自分がいつもいるはずの岩場から出るということは、それなりの危険もあるということです。
え?司のしゃがれた声はどうやって出したか?
寝起きで不機嫌だとそんな声なのかもしれませんね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.30 22:54 | 編集
