司の頭の中で形を作り始めたもの。
それは、牧野つくしという女は警戒心が薄いお人好しの女であることから、良心的な女であることが推測できた。
そしてエレベーターの前でクリッとした大きな目が司と合ったとき、女が過敏なほど司を意識しているのが分かったが、そんな女が現実で司と対峙するのではなく、声だけの男に対しどういった感情を抱くようになるのか知りたかった。
つまり司のことは何一つ知らない。
名前も職業も容姿も関係なく接する女がいるのかを牧野つくしで試してみたかった。
だが何故そんなことを思ったのか。
司の周りに女は大勢いるが、牧野つくしという名前のどこにでもいる平凡な容姿を持つ少し変わった女が面白そうだと思ったからだ。そんな女で退屈な日常にスパイスを加えたいと思ったからだ。
そして司はそれをたった今から始めるべく、自分に好感を持たせ、牧野つくしの良心を掻き立てることを始めることにした。
「実は私はあまり身体が丈夫ではありません。そんなこともあり仕事は在宅でも出来る仕事をしています。それから身体がそんな状態ですので外を出歩くことも多くはないのです。つまり知り合いと話す以外は、新しい人間関係を築くチャンスがありません。そんな私は今の人間関係以外の誰かと話したいと思うことがあるんです」
司はそこで一旦話を切った。
そして相手が何か言うのではないかと間を置いた。だ何も返されないことから言葉を継いだ。
「そこでお願いがあります。私と電話で話しをする時間を持っていただけませんか?とは言え、こんなことを言う男は気味が悪いと思うはずです。いきなり見知らぬ男から話し相手になって欲しいなどどう考えてもおかしいと思うはずです。ですが週に一度だけ。もしよろしければあなたの方から電話を掛けて頂けませんか?私は着信履歴からあなたの電話番号を知ってはいますが、決して私からは掛けません。あくまでもあなたのご厚意で話し相手になって下さればと思っていますがいかがでしょう?」
司は再び話を切り相手の様子を窺った。
だがやはり返される言葉はなく、小さな機械は沈黙していた。
「それからあなたは私が誰だか知りたいと思うはずです。もしあなたが私が誰であるか知りたいとおっしゃるならある程度お話します。ですが互いに知らない者同士で会話をすることも時は楽しいと思いませんか?見知らぬ他人同士だから話せるといったこともあるはずです。つまり出来れば匿名で会話をすることを許してもらいたい。それから私の仕事についてですが、法に触れるようないかがわしい仕事ではありません」
司はそこまで言って反応を待った。
普通の女なら司の言葉を信じることはなく即座に断るはずだ。だが沈黙が返されるということは考えているということになるが、牧野つくしは一体どんな言葉を返して来るのか。
『…….あの、電話だけですよね?週に一度電話でお話をするだけでいいんですよね?』
「ええ。電話だけです。会いましょうとは決して言いません。同じ列車に乗り、たままた隣同士に座った者が天気の話をするようなものだと思っていただければありがたい。人は相手が二度と会うことがない人間だからこそ話せることもある。それと同じです」
司は会話をしながらパソコンのキーボードを叩き、牧野つくしのことを検索していたが、深海ザメの研究をしている女についてヒットするのは、大学のホームページで公開されていること以外なかった。
そして個人的な情報で知っているのは、財団のデータファイルに書かれている結婚歴なし。子供なし。34歳ということだけだが、どんなことでも調べればすぐに分かる。
『あの....』
「はい。なんでしょう?」
『匿名でとおっしゃいましたよね?』
「ええ。互いに自分の個人的な情報は一切言わない。ただその日にあったことや天気についてでもいい。そういった話をする。そんなことでいいんです。そして話したいことがあれば話す。見知らぬ他人だから言える。そんな話をしませんか?とは言え私のことが信用できないと思うなら電話はしないで下さい。私が言えるのはあくまでもあなたのご厚意に甘えさせていただきたいということですから」
司は慎重に言葉を選んだあと口を閉ざし、牧野つくしが何と答えるか待ったが、自分の正体を秘密にして誰かと話をするということが確実に退屈しのぎになると思い始めた。
それは牧野つくしが、今話をしている相手が司だということを知らず、司の方は相手が誰であるかを知っているという優位性がそう感じさせるからで、司がサメなら牧野つくしは捕食される魚であり、今のこの状況はサメが捕らえようとしている獲物を弄んでいるようなもので、思わずひそやかな笑みが浮かんでいた。
『あの。私____』
「はい」
司ははい、と返事をしただけで、女が言いかけた言葉の続きを促すことはしなかったが、言葉を選ぼうとしていることは感じていた。
果たしてどういった言葉が返されるのか。そう思いながら大学のホームページの教員紹介欄で公開されている牧野つくしの顔を見ていたが、その顔は見る者に安心感を与える顏だと思った。そして薄化粧の顔はまだ学生だと言っても通る顔だ。つまり童顔だということだ。
と、その時、パソコンの隣に置かれている電話から声が聞えた。
『お電話させていただいていいですか?週に一度。あなたと話をしてみたいと思います』

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それは、牧野つくしという女は警戒心が薄いお人好しの女であることから、良心的な女であることが推測できた。
そしてエレベーターの前でクリッとした大きな目が司と合ったとき、女が過敏なほど司を意識しているのが分かったが、そんな女が現実で司と対峙するのではなく、声だけの男に対しどういった感情を抱くようになるのか知りたかった。
つまり司のことは何一つ知らない。
名前も職業も容姿も関係なく接する女がいるのかを牧野つくしで試してみたかった。
だが何故そんなことを思ったのか。
司の周りに女は大勢いるが、牧野つくしという名前のどこにでもいる平凡な容姿を持つ少し変わった女が面白そうだと思ったからだ。そんな女で退屈な日常にスパイスを加えたいと思ったからだ。
そして司はそれをたった今から始めるべく、自分に好感を持たせ、牧野つくしの良心を掻き立てることを始めることにした。
「実は私はあまり身体が丈夫ではありません。そんなこともあり仕事は在宅でも出来る仕事をしています。それから身体がそんな状態ですので外を出歩くことも多くはないのです。つまり知り合いと話す以外は、新しい人間関係を築くチャンスがありません。そんな私は今の人間関係以外の誰かと話したいと思うことがあるんです」
司はそこで一旦話を切った。
そして相手が何か言うのではないかと間を置いた。だ何も返されないことから言葉を継いだ。
「そこでお願いがあります。私と電話で話しをする時間を持っていただけませんか?とは言え、こんなことを言う男は気味が悪いと思うはずです。いきなり見知らぬ男から話し相手になって欲しいなどどう考えてもおかしいと思うはずです。ですが週に一度だけ。もしよろしければあなたの方から電話を掛けて頂けませんか?私は着信履歴からあなたの電話番号を知ってはいますが、決して私からは掛けません。あくまでもあなたのご厚意で話し相手になって下さればと思っていますがいかがでしょう?」
司は再び話を切り相手の様子を窺った。
だがやはり返される言葉はなく、小さな機械は沈黙していた。
「それからあなたは私が誰だか知りたいと思うはずです。もしあなたが私が誰であるか知りたいとおっしゃるならある程度お話します。ですが互いに知らない者同士で会話をすることも時は楽しいと思いませんか?見知らぬ他人同士だから話せるといったこともあるはずです。つまり出来れば匿名で会話をすることを許してもらいたい。それから私の仕事についてですが、法に触れるようないかがわしい仕事ではありません」
司はそこまで言って反応を待った。
普通の女なら司の言葉を信じることはなく即座に断るはずだ。だが沈黙が返されるということは考えているということになるが、牧野つくしは一体どんな言葉を返して来るのか。
『…….あの、電話だけですよね?週に一度電話でお話をするだけでいいんですよね?』
「ええ。電話だけです。会いましょうとは決して言いません。同じ列車に乗り、たままた隣同士に座った者が天気の話をするようなものだと思っていただければありがたい。人は相手が二度と会うことがない人間だからこそ話せることもある。それと同じです」
司は会話をしながらパソコンのキーボードを叩き、牧野つくしのことを検索していたが、深海ザメの研究をしている女についてヒットするのは、大学のホームページで公開されていること以外なかった。
そして個人的な情報で知っているのは、財団のデータファイルに書かれている結婚歴なし。子供なし。34歳ということだけだが、どんなことでも調べればすぐに分かる。
『あの....』
「はい。なんでしょう?」
『匿名でとおっしゃいましたよね?』
「ええ。互いに自分の個人的な情報は一切言わない。ただその日にあったことや天気についてでもいい。そういった話をする。そんなことでいいんです。そして話したいことがあれば話す。見知らぬ他人だから言える。そんな話をしませんか?とは言え私のことが信用できないと思うなら電話はしないで下さい。私が言えるのはあくまでもあなたのご厚意に甘えさせていただきたいということですから」
司は慎重に言葉を選んだあと口を閉ざし、牧野つくしが何と答えるか待ったが、自分の正体を秘密にして誰かと話をするということが確実に退屈しのぎになると思い始めた。
それは牧野つくしが、今話をしている相手が司だということを知らず、司の方は相手が誰であるかを知っているという優位性がそう感じさせるからで、司がサメなら牧野つくしは捕食される魚であり、今のこの状況はサメが捕らえようとしている獲物を弄んでいるようなもので、思わずひそやかな笑みが浮かんでいた。
『あの。私____』
「はい」
司ははい、と返事をしただけで、女が言いかけた言葉の続きを促すことはしなかったが、言葉を選ぼうとしていることは感じていた。
果たしてどういった言葉が返されるのか。そう思いながら大学のホームページの教員紹介欄で公開されている牧野つくしの顔を見ていたが、その顔は見る者に安心感を与える顏だと思った。そして薄化粧の顔はまだ学生だと言っても通る顔だ。つまり童顔だということだ。
と、その時、パソコンの隣に置かれている電話から声が聞えた。
『お電話させていただいていいですか?週に一度。あなたと話をしてみたいと思います』

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司*****E様
おはようございます^^
司はつくしが過敏なほど自分を意識していると言いますが、それは司が感じていることと同じなのでしょうかねぇ(笑)
そしてつくしは週に一度の電話を了承しましたが、何か惹き付けられるものがあったのでしょうか?
司が身体の弱い人間を演じることが出来るのか(笑)
電話口で演技が出来るのでしょうか?お手並み拝見といきましょう(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
司はつくしが過敏なほど自分を意識していると言いますが、それは司が感じていることと同じなのでしょうかねぇ(笑)
そしてつくしは週に一度の電話を了承しましたが、何か惹き付けられるものがあったのでしょうか?
司が身体の弱い人間を演じることが出来るのか(笑)
電話口で演技が出来るのでしょうか?お手並み拝見といきましょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.29 22:52 | 編集

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さ***ん様
サメ司。
自分とは全く違う病弱な男設定(笑)
そんな男と週に一度電話で話をするなんて、気持ち悪いですよねぇ。
それなのにシーラカンス女はその話に乗りました。
もしかして学術的な興味があったのでしょうか?(笑)
志伊良巻子!(≧▽≦)笑った!
やはりつくしは学者先生です(笑)
コメント有難うございました^^
サメ司。
自分とは全く違う病弱な男設定(笑)
そんな男と週に一度電話で話をするなんて、気持ち悪いですよねぇ。
それなのにシーラカンス女はその話に乗りました。
もしかして学術的な興味があったのでしょうか?(笑)
志伊良巻子!(≧▽≦)笑った!
やはりつくしは学者先生です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.30 22:48 | 編集
