司は真夜中の電話には慣れていた。
そして反射的にナイトテーブルの上に置かれた時計に目をやって時間を確認した。
それはニューヨークと東京の間の時差の関係から日本が午前1時過ぎなら向うは前日の午後12時過ぎで、ビジネスは日本時間に関係なく動いているからだ。
だが余程の事が無い限りこの時間にニューヨークから電話が掛かってくることはない。
それに掛かって来たのはプライベートな携帯電話で司が暮らすペントハウスの固定電話が転送されるこの番号を知る人間は限られている。
それなら余程の緊急事態かと頭に薄っすらともやがかかった状態で電話に出たが、耳に届く音はなく、間違い電話かと切ろうとしたその時だった。
「あのぉ…..もしもし?」
と声が聞え、安眠を妨害したのは姉でも秘書でもなくどこかの女だと分かった。
そしてその後、「あの、すみません。先日中華料理を注文した者なんですが…..」と話し始めたとき、司は苛立ちを声に表したが、その声は寝起きでしゃがれていて、低いと言われる声がさらに低さを増していた。
「誰だって?」
『あの、夜分遅くすみません。私は先日あなたに間違い電話をした者です。覚えていらっしゃいますか?あなたに中華料理を注文して一方的に喋って電話を切りました。それは番号をよく確かめなかった私が_』
「あんたが誰だか知らねぇが見知らぬ番号に電話してきてよくそんなに喋ることが出来るな。それも中華料理がどうのと真夜中に人の睡眠を邪魔して喋ることか?」
司は喋り続ける女の言葉を遮るように言葉を発したが、中華料理を注文して来た電話を覚えていた。あの時はあきらも一緒にいてそのことを喋った。
そして司の厳しい言葉に相手の女は黙った。だから司は迷惑な真夜中の電話を切ろうとした。
『すみません。そうですよね、こんな時間に突然電話をして非常識だと思います。でも訊いていただけませんか?決してこの時間に電話をしようと思ったんじゃないんです。たまたま電話を掛けてしまったと言った方が正しいんです』
と唐突に喋り始めたが、たまたま電話を掛けてしまったという言葉に、司は気が付くとこう言っていた。
「たまたまってことは掛けるつもりはなかったってことか?」
『え?はい。たまたまと言うか、ちょっとした操作のミスで電話が掛かってしまったんです。ですからもしお電話に出られたらお詫びを申し上げようと思ったんです。本当に申し訳ございませんでした』
司は間違い電話が掛かったとしても気に止めたことはなかった。
だが電話で中華料理を頼まれたことはなく、ましてや女からの一方的な電話などなく、今思えば笑い話だと思えた。確かあの時は豚肉とニラがどうの、と言っていたはずだ。
そしてこの女の声はどこかで訊いたことがあるような気がしていた。
確かあの時名前を名乗ったが覚えていなかった。
だが洞察力の鋭いと言われる男は早速その声を分析していたが、女は非常に真剣な様子で話しているのが感じられ、その時、頭に浮かんだのは牧野つくしというサメの研究を専門にしている准教授で、財団の研究助成事業に応募し書類選考をパスし面接に現れた女だ。
だが女はエレベーターに閉じ込められたと言い時間に遅刻をし、チャンスを逃したかと思われたが、エレベーターの故障は確かであり、女の面接は後日ということになったが、司に食い下がる女の姿が頭を過り、まさかと思ったが電話の相手の声はその女、牧野つくしに似ていて喋り方も似ていた。
それなら相手を確認したいという欲求が湧き上がり、ベッドから起き上がると頭から電話を遠ざけた。そしてスピーカー通話にして寝室を出ると執務室として使っている部屋へ行き、パソコンを立ち上げ電話を隣に置いた。そして財団のシステムにアクセスし、牧野つくしの情報を呼び出し、連絡先の電話番号を確認した。
するとそこにあるのは携帯電話の番号。
その番号は数日前ペントハウスに着信があった番号と同じ。
念のため調べるかと思うもそのままにしていたが、牧野つくしの掛けた電話は、司の携帯電話に転送され、その偶然に笑っていた。
そして個人情報として書かれているのは、結婚歴なし。子供なし。34歳。この情報を書いたのは誰なのか。そして34歳ということは司よりひとつ年下ということになるが、随分と若く見えた。
『あの?』
沈黙が続いていることに相手は戸惑いを隠せない様子で訊いてきた。
そしてその問い掛けは、侘びをいれたことを司が受け入れてくれたかを確認していた。
「訊いていますよ。すいませんね。私も寝起きですからつい声を荒げてしまったが、あなたの謝罪は受け入れます」
司はそれまでの口調をガラリと変え、丁寧な言葉で返したが、その言葉に相手がホッとしている様子が感じられた。
『本当ですか?ありがとうございます。本当にすみませんでした。それにこんな真夜中に電話を掛けてしまって重ね重ね申し訳ございませんでした。それからあなたがいい人で良かったです。実を言うと、間違って掛けたこの番号は消去するように言われていて、その作業をしようとしたところでまた掛けてしまったんです』
と言って、慣れないスマホの画面をいじっていて掛けてしまったと言葉を継いだ。
「いいんだ。誰にも間違いはある」
と、言いながら司の目には牧野つくしが頭を下げる様子が浮かんだ。と同時に思ったのは、相手がどんな人間だか分かりもしないのに、よくもこうペラペラと電話で話しが出来るものだということ。そして牧野つくしは警戒心が薄いお人好しの人間だということを知ったが、そんな女の指がうっかり滑った先が司のペントハウスの電話番号だったということになる。
そして司はこうしてあの日の間違い電話の相手が誰だか知った。
だが牧野つくしは相手が司であることを知らないが、相手に対して悪い印象は抱いていない。
そしてエレベーターの前での出来事はちょっとした戯れだったが、自分の研究に熱心な女は失言を侘び面接のチャンスを逃したくないと必死で、牧野つくしは間違いなく司を意識していた。
それは司の見た目がそうさせたのか。それとも金がそうさせたのか。
そんな女の今は間違い電話を掛けたことに対しての謝罪の言葉を言いながら、いつ電話を切ればいいのかを迷っていたが、司の頭の中でひとつの計画が形を作り始めていた。
「ところでこうして間違い電話を詫びていただいたあなたに、こんなことを申し上げては不審に思われるかもしれませんが、今後もこうして電話で話をする機会を持ちませんか?」

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そして反射的にナイトテーブルの上に置かれた時計に目をやって時間を確認した。
それはニューヨークと東京の間の時差の関係から日本が午前1時過ぎなら向うは前日の午後12時過ぎで、ビジネスは日本時間に関係なく動いているからだ。
だが余程の事が無い限りこの時間にニューヨークから電話が掛かってくることはない。
それに掛かって来たのはプライベートな携帯電話で司が暮らすペントハウスの固定電話が転送されるこの番号を知る人間は限られている。
それなら余程の緊急事態かと頭に薄っすらともやがかかった状態で電話に出たが、耳に届く音はなく、間違い電話かと切ろうとしたその時だった。
「あのぉ…..もしもし?」
と声が聞え、安眠を妨害したのは姉でも秘書でもなくどこかの女だと分かった。
そしてその後、「あの、すみません。先日中華料理を注文した者なんですが…..」と話し始めたとき、司は苛立ちを声に表したが、その声は寝起きでしゃがれていて、低いと言われる声がさらに低さを増していた。
「誰だって?」
『あの、夜分遅くすみません。私は先日あなたに間違い電話をした者です。覚えていらっしゃいますか?あなたに中華料理を注文して一方的に喋って電話を切りました。それは番号をよく確かめなかった私が_』
「あんたが誰だか知らねぇが見知らぬ番号に電話してきてよくそんなに喋ることが出来るな。それも中華料理がどうのと真夜中に人の睡眠を邪魔して喋ることか?」
司は喋り続ける女の言葉を遮るように言葉を発したが、中華料理を注文して来た電話を覚えていた。あの時はあきらも一緒にいてそのことを喋った。
そして司の厳しい言葉に相手の女は黙った。だから司は迷惑な真夜中の電話を切ろうとした。
『すみません。そうですよね、こんな時間に突然電話をして非常識だと思います。でも訊いていただけませんか?決してこの時間に電話をしようと思ったんじゃないんです。たまたま電話を掛けてしまったと言った方が正しいんです』
と唐突に喋り始めたが、たまたま電話を掛けてしまったという言葉に、司は気が付くとこう言っていた。
「たまたまってことは掛けるつもりはなかったってことか?」
『え?はい。たまたまと言うか、ちょっとした操作のミスで電話が掛かってしまったんです。ですからもしお電話に出られたらお詫びを申し上げようと思ったんです。本当に申し訳ございませんでした』
司は間違い電話が掛かったとしても気に止めたことはなかった。
だが電話で中華料理を頼まれたことはなく、ましてや女からの一方的な電話などなく、今思えば笑い話だと思えた。確かあの時は豚肉とニラがどうの、と言っていたはずだ。
そしてこの女の声はどこかで訊いたことがあるような気がしていた。
確かあの時名前を名乗ったが覚えていなかった。
だが洞察力の鋭いと言われる男は早速その声を分析していたが、女は非常に真剣な様子で話しているのが感じられ、その時、頭に浮かんだのは牧野つくしというサメの研究を専門にしている准教授で、財団の研究助成事業に応募し書類選考をパスし面接に現れた女だ。
だが女はエレベーターに閉じ込められたと言い時間に遅刻をし、チャンスを逃したかと思われたが、エレベーターの故障は確かであり、女の面接は後日ということになったが、司に食い下がる女の姿が頭を過り、まさかと思ったが電話の相手の声はその女、牧野つくしに似ていて喋り方も似ていた。
それなら相手を確認したいという欲求が湧き上がり、ベッドから起き上がると頭から電話を遠ざけた。そしてスピーカー通話にして寝室を出ると執務室として使っている部屋へ行き、パソコンを立ち上げ電話を隣に置いた。そして財団のシステムにアクセスし、牧野つくしの情報を呼び出し、連絡先の電話番号を確認した。
するとそこにあるのは携帯電話の番号。
その番号は数日前ペントハウスに着信があった番号と同じ。
念のため調べるかと思うもそのままにしていたが、牧野つくしの掛けた電話は、司の携帯電話に転送され、その偶然に笑っていた。
そして個人情報として書かれているのは、結婚歴なし。子供なし。34歳。この情報を書いたのは誰なのか。そして34歳ということは司よりひとつ年下ということになるが、随分と若く見えた。
『あの?』
沈黙が続いていることに相手は戸惑いを隠せない様子で訊いてきた。
そしてその問い掛けは、侘びをいれたことを司が受け入れてくれたかを確認していた。
「訊いていますよ。すいませんね。私も寝起きですからつい声を荒げてしまったが、あなたの謝罪は受け入れます」
司はそれまでの口調をガラリと変え、丁寧な言葉で返したが、その言葉に相手がホッとしている様子が感じられた。
『本当ですか?ありがとうございます。本当にすみませんでした。それにこんな真夜中に電話を掛けてしまって重ね重ね申し訳ございませんでした。それからあなたがいい人で良かったです。実を言うと、間違って掛けたこの番号は消去するように言われていて、その作業をしようとしたところでまた掛けてしまったんです』
と言って、慣れないスマホの画面をいじっていて掛けてしまったと言葉を継いだ。
「いいんだ。誰にも間違いはある」
と、言いながら司の目には牧野つくしが頭を下げる様子が浮かんだ。と同時に思ったのは、相手がどんな人間だか分かりもしないのに、よくもこうペラペラと電話で話しが出来るものだということ。そして牧野つくしは警戒心が薄いお人好しの人間だということを知ったが、そんな女の指がうっかり滑った先が司のペントハウスの電話番号だったということになる。
そして司はこうしてあの日の間違い電話の相手が誰だか知った。
だが牧野つくしは相手が司であることを知らないが、相手に対して悪い印象は抱いていない。
そしてエレベーターの前での出来事はちょっとした戯れだったが、自分の研究に熱心な女は失言を侘び面接のチャンスを逃したくないと必死で、牧野つくしは間違いなく司を意識していた。
それは司の見た目がそうさせたのか。それとも金がそうさせたのか。
そんな女の今は間違い電話を掛けたことに対しての謝罪の言葉を言いながら、いつ電話を切ればいいのかを迷っていたが、司の頭の中でひとつの計画が形を作り始めていた。
「ところでこうして間違い電話を詫びていただいたあなたに、こんなことを申し上げては不審に思われるかもしれませんが、今後もこうして電話で話をする機会を持ちませんか?」

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つ***ぼ様
これからの二人がどうなるのか。
司は何か考えていることがあるようですね?
そして准教授のつくしは、天然なところがあるようです。
本人はそう思っていなくても、やはりそこは学者先生なのかもしれませんね?(笑)
コメント有難うございました^^
これからの二人がどうなるのか。
司は何か考えていることがあるようですね?
そして准教授のつくしは、天然なところがあるようです。
本人はそう思っていなくても、やはりそこは学者先生なのかもしれませんね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.27 22:35 | 編集

ま**ん様
おはようございます^^
何やら仕掛けることにした司。
ビジネスの勘が冴えている男は、つくしの声に聞き覚えがあると思った!
流石です(笑)
そして司はつくしに思わぬ言葉を言いました。いったい何を考えているのでしょうね?
やや天然のつくし(笑)自分ではそう思っていないところが、彼女ですね(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
何やら仕掛けることにした司。
ビジネスの勘が冴えている男は、つくしの声に聞き覚えがあると思った!
流石です(笑)
そして司はつくしに思わぬ言葉を言いました。いったい何を考えているのでしょうね?
やや天然のつくし(笑)自分ではそう思っていないところが、彼女ですね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.27 22:41 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
真夜中の電話に不機嫌になる。当然ですよね。
そして普段から低い声が、ますます低くなり凄みを増しています。
そんな声の男に謝る女は真面目なのか、天然なのか。
そして司は電話の相手が牧野つくしだと知りました。
司はつくしが自分を意識していると感じていますが、壁ドンされて意識しない方が無理ですよね?
司は素性を隠し、つくしと電話で繋がろうとしています。
何を考えているのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
真夜中の電話に不機嫌になる。当然ですよね。
そして普段から低い声が、ますます低くなり凄みを増しています。
そんな声の男に謝る女は真面目なのか、天然なのか。
そして司は電話の相手が牧野つくしだと知りました。
司はつくしが自分を意識していると感じていますが、壁ドンされて意識しない方が無理ですよね?
司は素性を隠し、つくしと電話で繋がろうとしています。
何を考えているのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.27 22:49 | 編集

さ***ん様
頭脳明晰の司のやらしさ(笑)
それにしてもサメの「第六感」は凄いですね。
そして経済界のサメは、お人好し古代魚シーラカンスをどうするつもりなのか。
何を計画しているのでしょう。
そしてつくしは天然なところがあるようです。
そこは自分がそう思っていなくても、やはり学者先生な部分があるということです。
今は「しんかい6500」!昔は「しんかい2000」でしたが、今は3倍以上深く潜ることが出来るんですから凄いですよね?
そんな深海探査艇でふたりの様子を見る!(≧▽≦)いいですねぇ。深海で何が繰り広げられるのでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
頭脳明晰の司のやらしさ(笑)
それにしてもサメの「第六感」は凄いですね。
そして経済界のサメは、お人好し古代魚シーラカンスをどうするつもりなのか。
何を計画しているのでしょう。
そしてつくしは天然なところがあるようです。
そこは自分がそう思っていなくても、やはり学者先生な部分があるということです。
今は「しんかい6500」!昔は「しんかい2000」でしたが、今は3倍以上深く潜ることが出来るんですから凄いですよね?
そんな深海探査艇でふたりの様子を見る!(≧▽≦)いいですねぇ。深海で何が繰り広げられるのでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.27 23:12 | 編集

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ま**ん様
おはようございます^^
回線が繋がりました!
週に一度、どんな話をするのでしょうねぇ。
司は他人を装うようですが、その姿は変わっていくのでしょうか。
サメが取り持つ縁(≧▽≦)さあ、どんな縁を結んでくれるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
回線が繋がりました!
週に一度、どんな話をするのでしょうねぇ。
司は他人を装うようですが、その姿は変わっていくのでしょうか。
サメが取り持つ縁(≧▽≦)さあ、どんな縁を結んでくれるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.10.29 22:34 | 編集
