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2018
10.26

理想の恋の見つけ方 9

「それで面接のごたごたで訊き忘れてましたけど、私が紹介した人。どうでした?」

つくしは今日予定無いですよね?と桜子に誘われ夕食に行くと感じのいいバーがあるからと言われ飲みに行ったが、ふたりは研究室では准教授と教授秘書だがそれ以外では友人だ。

つくしはワインと共に溜息を呑み込むと、海洋調査に出掛ける前、桜子から紹介され食事をした10歳年上の男性のことを考えた。
恋人がいない女に世話焼きの後輩が紹介してくれたのは、製薬会社に勤める男性。
だが10歳も年上となると相手は44歳。ジェネレーションギャップというものが感じられ、話が合わないのは勿論だが、真面目な会社員は堅物そのもので、一度食事をしただけなのに、私の両親にはいつ会ってくれますかと言い始めた。
だから申し訳ないのですが長い船旅に出ますので無理ですと言った。

「やっぱり駄目でしたか?」

「あのね桜子。やっぱり駄目でしたかじゃなくて、一度会っただけで両親に会ってくれってどういう了見なのよ?両親に会うってことは結婚を前提って意味よね?だからこれから船に乗るので無理ですって言ったわ」

「船に乗るって、たった2週間じゃないですか」

「それは口実だってば。それにあの人食事の間ずっと自分のことを話していて、口を挟むきっかけを探すのが大変だったのよ?それからやたらと髪の毛に触るから頭ばっかり目が行ったわよ」

つくしは髪の毛に触れながら延々と自分のことを話す男性を前にサラダを口に頬張り、ただひたすら食事を続け、相手がやっと言葉を切ったときには食事を終えていて、食後のコーヒーが早く出されないかと待っていた。そして今ではその男性の頭は思い出されるが顔は思い出すことが出来なかった。

「そうですか。やたらとお喋りで髪の毛を何度も触る。食事のマナーとしては最低ですね。ところで先輩の求める理想の恋ってどんな恋なんですか?今まで何人か紹介してきましたがどの人も駄目。まさかとは思いますが男性に興味がない訳じゃないですよね?」

「どんな恋って言われても…..別にないわよ。それに男性に興味がない訳じゃないけど恋なんて絶対しなきゃいけないものなの?」

やたらと世話を焼きたがる女の口調は追及するではないが、それに近いものがあり、つくしはため息をつきながら答えたが、返された言葉はムッとしていた。

「ええ。した方がいいに決まってるじゃないですか。先輩は恋をしないで人生を終わるつもりですか。一生独身で終わるつもりですか?いくら深海ザメが研究のテーマだからって同じ深海に棲むシーラカンスのように生きた化石でいて欲しくないんです。先輩には恋をして欲しいんです。でもそのためには男性と知り合わなきゃデートも出来ないし恋も出来ないじゃないですか。でも大学にいるのは学生か教授。随分年下か随分と年上。そんな環境じゃあ恋人なんて出来ませんからね」

桜子は、時々つくしにデートして下さいと言って男性を紹介してくる。
それは、つくしが学問一筋でデートをすることがないからだが、紹介される男性は何故かナルシスト気味な男性が多く自分をどうだとアピールするが、頻繁に髪の毛に触れていた男性も自分に自信がある男性だった。

そして、大学という狭い社会でよく言われるのは象牙の塔だ。
現実を踏まえることなく、研究室に閉じこもってひたすら自分の興味があることに没頭する。
そんな環境が世間を知らない。了見が狭い人間を生み出してしまうと言われているが、確かに学内で結婚している教授の相手は、研究室の教え子だったり、同じ研究仲間だったりするが、それは自分のやりたいことを良く分かってくれる人間にパート―ナーとして傍にいてもらうことが居心地がいいからだが、つくしはそんな風には思ってはいなかった。
もしどうしても結婚しなければいけないと言うなら、もっと広い世界にいる人と一緒にいたいと思うはずだ。
それに自分が別世界にいるとは思ってない。むしろ現実と対峙して生きていると思っていた。

「先輩は素敵です。頭はいいし、30過ぎても可愛らしい人です。たとえそんな保守的な恰好をしていてもね」

桜子は明かりを落としたバーの中を見回したが、それは黒いパンツスーツに真っ黒な髪の女に言った誉め言葉だ。
バーには数名のカップルがいて、女性の方はカラフルで露出が多い服を着ている者もいた。
そして桜子も秘書という仕事柄、比較的地味な装いではあるが、明るい色の服装を好んでいて、ズボンを履くことは滅多にない。だが反対につくしはスカートを履くことは殆どなく、履いたとしてもロングスカート以外履いたことがなかった。

「先輩。今はひとりでもいいと思っていても、将来年を取ればひとりでいることが寂しいと感じる時が来るかもしれません。勿論、それからパートナーを探してもいいと思います。でも家族が欲しい。子供が欲しい。赤ちゃんを産みたいと思ったら早い方がいいですよね?サメは交尾して受精をして子供を産むのが当たり前ですが、そうではない事例もあります。それは先輩もご存知ですよね?アメリカでは水族館で長い間飼われていたメスのサメがオスと交尾しなくても子供を産んだ例もあります。でも人間はそうはいきませんから」

いわゆる処女懐胎。
交尾しなくても子供を産むことを単偽生殖と言い、動物や植物の世界では別に珍しいことではない。だが人間にそれはない。だから将来子孫を残そうと思うなら男性との行為が不可欠になる。

「でも大丈夫ですよ。先輩は頭でっかちじゃありません。いつか先輩の良さを分かってくれる人が現れますから。それに私は先輩の人生を確認する義務がありますから」

桜子はそれ以上何も言わず手にしていたグラスの中身を飲み干した。









アルコールが今日一日過敏だった神経を鈍らせてくれた。
深夜マンションに戻ると、一日の疲れを取るため早く眠りたかった。
だから服を脱ぎ、シャワーを浴びるとベッドに横になった。
だが眠ろうとしたが何故か目が冴えた。

そしてその時、桜子に言われたことが思い出された。
それは中華の出前を頼んだとき、追加注文で掛けた2度目の電話がどこかへ繋がり、間違い電話をかけたことを知ったが、その番号に再び掛けないように削除をしろと言われたこと。
そうだ。思い立ったが吉日ではないが、今やらなければ忘れてしまうはずだ。
だからベッドから起き上がり、携帯電話を手にするとベッドの端に腰を降ろしたが画面は午前1時を示していた。
なんとか操作をしようとしたが、やはりマニュアルを見なければ不安だとマニュアルを手にベッドに戻り目的のページを開いた。
そしてぎこちなくだが発信履歴を呼び出し、あの日の午後9時前に掛けた番号を削除することにしたが、画面に現れたのは、『電話をかける』の文字だけだった。

「ええっと__削除するってどうやったらいいのよ?」

つくしは『電話をかける』以外の場所に触れたつもりだった。
だが一瞬にして画面は変わり、削除するどころかスマホは勝手に電話を掛け始めた。

「やだ、ちょっと待って!なんで電話を掛けるのよ…..やだもう!」

すぐに切ろうと思った。だがアタフタではないがスマホは慌てたつくしの手から滑り落ち床に落ちた。幸いにもカーペットの上であり、画面を上にした状態で破損はなさそうだった。
だが、スマホを取り上げたとき、掛けるつもりがなかった番号の相手が出たのが分かった。
いや。出たといいうより単に通話状態になったと言った方が正しいはずだ。
そして無音の状態がその場に流れた。
だがつくしはここでハッとした。
つい先日失礼にも中華料理の注文を一方的に喋ったことを謝らなければならないと思いスマホを耳に押し当てた。

「あのぉ…..もしもし?」

だが機械の向こうから返事は聞えず、やはり無音状態で時間が流れていた。

「あの、すみません。先日中華料理を注文した者なんですが…..」

と、つくしは、そこまで言って深い深呼吸をして言葉を継ごうとした。
すると少しして、『.....誰だって?』と声が聞こえた。





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コメント
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dot 2018.10.26 07:17 | 編集
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dot 2018.10.26 08:49 | 編集
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dot 2018.10.26 09:18 | 編集
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dot 2018.10.26 10:59 | 編集
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dot 2018.10.26 12:35 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
准教授と呼ばれる女は常識がない?(笑)
確かに真夜中に電話はねぇ。
でも掛けるつもりがなかったのに掛かってしまい、そしてちょっと慌てているようですよ。
そして電話に出たのは、あの人です!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.26 22:14 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
桜子が紹介してくれた男性は10歳年上。どうしてまたそんな年上の男性を?(笑)
学問一筋の先輩であり友人を心配する女は、自分が先にすれば?(笑)
桜子はしようと思えばいつでも出来る女ですが、つくしはそうではない。
そんな女を友人として心配しているようです。
そしてつくしはスマホの操作に困惑(笑)
消去するつもりの電話番号に繋がってしまいましたが、出たのはあの人です。
互いに気付くのでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.26 22:28 | 編集
ま**ん様
おはようございます^^
つくしに恋をして欲しいと相手を紹介する桜子。
しかし紹介した相手がねぇ(笑)
そして桜子の気持が通じたのか。それとも神様のきまぐれか。
スマホの暴走‼(≧▽≦)で司に繋がった!(笑)
真夜中の迷惑電話に出た相手はどんな態度を取るのでしょうね?
そしてお互い相手が分かるのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.26 22:33 | 編集
さ***ん様
真夜中の電話。それも消去するつもりの電話番号に掛ける女(笑)
つくしが食べ損ねた料理!美味しそうですよね?
庶民の料理で司は口にしたことはないでしょうねぇ。
桜子が紹介してくれた10歳年上の男性。どうしてあんな男性を紹介してくれたのでしょうねぇ。
もう少しいい男はいなかったのでしょうか?(笑)
シーラカンスを見つけると、そんなに貰えるんですか?いいですねぇ~。
おっちょこちょいなシーラカンス(笑)
「しあわせを呼ぶ魚」と経済界のサメ。同じ水槽で暮らすことは出来るのでしょうかねぇ(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.26 22:43 | 編集
イ**マ様
そうです(笑)
これは二人の運命なんです‼
経済界のサメはサメ研究者に捕獲されるのでしょうか。
それともシーラカンスと呼ばれる女はサメに食べられてしまうのでしょうか。
これは深海の恋かもしれません(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.26 22:46 | 編集
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