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2018
10.25

理想の恋の見つけ方 8

「えっ!牧野先輩。道明寺副社長にサメ並の脳だって言ったんですか?!でもどうして道明寺副社長が先輩の面接に?だってそれ自体が凄いことですよ?でもそれって先輩の書かれた論文を読んで下さったってことですよね?それで副社長が深海ザメに興味を持たれたってことですよね?だからわざわざ時間を割いて面接にいらっしゃったってことでしょ?あの道明寺副社長が…..。ハァ~信じられない。本当に夢みたいなことですよ。それなのに私は先輩の言動が信じられません。先輩は言っていい事と悪い事はよく分かっているはずなのに、どうして道明寺副社長の脳がサメ並だなんてことを言ったんですか?もし道明寺副社長がその意味を知らなかったら誤魔化せたかもしれませんが、知ってたってことは誤魔化しようがないですからね。本当に最悪ですよ、最悪!もうなんてことをしてくれたんですか!」

つくしの所属する副島研究室の副島教授秘書でありつくしの高校の後輩の桜子は、研究室に戻って来たつくしに何があったのか訊くとガミガミと怒った。

「だ、だって仕方がないじゃない。エレベーターの故障で閉じ込められてたって言ってもなかなか信じてもらえなくて、おまけに人のことを上から目線で見下ろすように話すんだもの。そりゃあ相手は見上げるほど背が高いから上から見下ろされるのは仕方がないけど、話し方が偉そうなんだもの」

道明寺財団の理事に名を連ねている道明寺司は背が高く髪の毛が特徴的だった。
そんな男に鋭い視線で上から見下ろされ、嘘つき呼ばわりされ、まるで遅刻常習犯のように言われたことにカチンと来たが、それでもなんとか気持ちを抑えようとしていた。だが思わず口をついて出た言葉は脳がサメ並という言葉だった。
それは折しも面接に臨む前の日に桜子と道明寺司について話しをしたとき、あの男は経済界のサメだと言われ、凶暴性ではなく脳の大きさの方を思い浮べてしまったことが原因だ。

「あのね牧野先輩。いえ牧野准教授。道明寺副社長は偉そうなんじゃなくて、本当に偉い人なんです。あの会社の中で社長に次いで2番目に偉い人で社長の息子で次期社長になる人なんです。だから偉くて当然の人です。たとえ上から見下ろされようと、下から見上げられようと、ああいった人に対しては平身低頭でいるべきなんです。それが日本の会社組織に属する人間の当たり前なんです。そりゃあ先輩は他の教授に比べれば社会的常識はあると思いますよ。それでもこんな風になるんですから私が一緒について行けば良かったんですよね。何しろ携帯電話を忘れて行くから財団からまだ来てないと電話があっても連絡の取り様がないし、エレベーターの中に閉じ込められていたとしても財団に連絡する事も出来ませんし、これじゃあ副島教授と同じじゃないですか。いいえ。副島教授は暴言を吐きませんからまだマシです」

桜子はテーブルを挟み座っているつくしにコーヒーを出したが、その横に一緒に差し出されたのは、つくしがつい最近買い替えたばかりのスマホで、着信があったことを知らせる青色の点滅を繰り返しているが、その点滅は財団から牧野准教授がお見えになられませんと連絡を受けた桜子がつくしの携帯に電話をしたことを意味していた。

「ごめん。思わず言っちゃったのよ。ああ…本当にもう最悪よね?」

「本当に最悪です。これで道明寺財団からの研究助成金は露と消えましたね。もう少しで手が届きそうなところまで来ていたのに、それが先輩の不用意な発言で消えるなんて最悪どころか悪夢ですね、悪夢。よりにもよって経済界のサメにあなたバカですかって言ったんですから。でもどうして道明寺副社長だって気付かったんですか?先輩知ってるんですよね?道明寺副社長の顔」

「もちろん知ってるわよ。でも新聞やテレビで見るのと本物は違うのよ」

本物は違う。いくら新聞やテレビで見たことがあっても、それは動かない記事の写真であり、動いていたとしてもテレビのニュース映像で映る一瞬の姿だったりする訳で、初対面で名前も名乗らなければ分からなかったとしても仕方がないはずだ。
それによく言うではないか。隣に芸能人が立っていても全く気付かなかったということも。
だがよく見れば大学教授や財団職員とは違い成功者の装いだったはずだ。
纏う空気が違ったはずだ。だが約束の時間に遅れ、そのことを非難されて焦っていたつくしには、そんなことを気に止める精神的な余裕も時間もなかった。
そして脳がサメ並と言ったとき、表情に微かな変化があったが、目が細められ冷やかな視線と共に自分の脳がサメ並なら道明寺はとっくに潰れていると言われ、その時はじめて彼が道明寺司だと気付いた。

「あー。それにしても最悪です。最悪。本当に最悪です」

「桜子。そんなに最悪最悪言わないでよ。私だってまさかあんなことを言うとは自分でも思いもしなかったんだから」

「何言ってんですか!お金がないから買えないって言ってた新しい調査機器。助成金が出たら買いたいって言ってたのは誰ですか?それに研究に参加している学生のウエットスーツも新調出来るって喜んでましたよね?」

そうだった。
そんなことを桜子と話したが、それも今となっては捕らぬ狸の皮算用だったかもしれない。

「それで?」

「そ、それでって?」

「だからこれからどうなるんですか?道明寺副社長を侮辱したせいで道明寺財団の面接は本当に受けられなくなったんですか?先輩はその権利を放棄したんですか?」

「………」

「先輩!牧野准教授!黙ってないで言って下さい。道明寺副社長をバカだって侮辱しておいて帰りに受付に行ったんですよね?まさか_」

あの会話のあと、会議室を後にした道明寺司を追いかけ食い下がったことは言わなかった。
そしてそこで起きたこと、道明寺司にキスされそうになったことは勿論言わなかった。
そしてこの男はいったい何をしたいのかと思ったとき低い笑い声が聞え、からかわれたのだと分かった。
そしてその後つくしは自分がどうなるのかを訊くために覚悟を決め受付に行った。

「行ったわよ。たとえどんな状況だったとしても寄らない訳にはいかないでしょ?それに放棄出来る訳ないじゃない。だから恐る恐る行った受付で次の面接の日をいつにするかはまた追って連絡しますって言われてホッとしたわよ」

「本当ですか!ああよかった。先輩の話しを訊き始めた時点で、もうてっきりこの件は駄目になったと思ったんですがまだ望みはあるってことですね?ああ、よかった。本当に良かった。道明寺副社長は厳しい言葉を言われたようですけど、そこはやはり大人ですね。先輩の暴言もグッとお腹の中に収めてくれたってことですね?」

「多分ね……」

「なんですか。そのため息付きの多分って。道明寺副社長への暴言以外にも他にも何かあったんですか?」

「え?べ、別に何でもないわよ。と、とにかく面接の件はまた後日連絡をしますって言われたから連絡を待つわ」

「そうですね。今のこの状況はかろうじて首の皮一枚が繋がっている感じがしますけど、とにかく連絡待ちなんですね?それでその連絡はどこにあるんですか?ここですか?研究室ですか?」

「うんうん。私の携帯に連絡が入ることになってるの。だからこの電話は無くしたり、どこかに置き忘れることは絶対に出来ないわ」

つくしはそう言って、コーヒーの横に置かれていた電話をこんな所に置いていて、コーヒーが零れたら大変だと手に取った。

「そうですか….。私としては先輩がそうやって大事そうに電話を持っているよりも研究室に連絡をいただける方が余程安心感があります。何しろ先輩のその電話。最新型スマホ。ガラケーからいきなりそれですからまだ使い方がよく分かっていませんよね?電話に出るのも遅いですし、掛ける時も迷ってますよね?それに私思ったんですけど、先輩この前出前で中華頼んだけど届かなかったって言ってましたよね?あれもしかしたら番号間違えたんじゃないですか?リダイヤルで掛けなかったでしょ?リダイヤル機能分かります?」

桜子はつくしの沈黙に諦めの口調で言葉を継いだ。

「やっぱりね。そうだと思ってました。まだ慣れてないのは十分承知してます。先輩は中華料理屋に掛けたつもりだったんでしょうけど、どこか別の所へ電話をしたんですよ。だから料理が届かなかったんですよ。あの時電話は繋がったけど相手の人は何も言わなかったんですよね?多分びっくりしたと思いますけど、それ以上に先輩が慌てて喋ったから口を挟む間も無かったんでしょうね。いいですか先輩。早くその携帯電話に慣れて下さい。それからその間違えた番号。どこに繋がったか知りませんけど今後間違えて掛けないためにも消去して下さいね。今の世の中知らない番号に出ることもですけど、掛けた相手が誰だか分からないのも危険ですから」





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コメント
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dot 2018.10.25 06:03 | 編集
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dot 2018.10.25 07:09 | 編集
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dot 2018.10.25 15:15 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
桜子の容赦のない攻撃(笑)
そうなんです。桜子毒舌ですが言っていることは的確ですよねぇ(笑)
そんな桜子。つくしの話を訊いて、とりあえず助成金のチャンスはあると知りホッとしています。
そして間違い電話ですが、司の方はつくしの声を聞いています。
そしてその声が発したのは、豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せ。長いですねぇ(笑)
この二人は絶対に出会うことがない二人です。それでも運命は二人を会わせることにしたのでしょうねぇ。
どんな風に恋に落ちてくれるのでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.25 22:12 | 編集
ま**ん様
おはようございます^^
つくし准教授。秘書の桜子に大説教をいただく(笑)
仕方がないですよね?
>人間余裕は大切だ。
確かにそうですよねぇ。余裕がないと色々とヘマをすることになります。
え?(笑)事件の元凶は使い慣れないスマホ(笑)
機械物には慣れるまでが大変(笑)次に何が起こるか分かる気がしますか?
はい。アカシアも同じような経験が‼
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.25 22:15 | 編集
さ***ん様
教授秘書の桜子。相変らず弁が立ちます。
そしてこの桜子。教授にもガンガン言いますがそんな秘書を知っています(笑)
中華の注文。豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せ。長すぎますよね(笑)
そしてその注文が実は司に向かって言われたとは、つくしも桜子も知りません。
司のヤ○ザ風な「牧野先生」呼びに萌えた!(笑)
この司。やらしいもの言いをしますからねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.25 22:30 | 編集
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