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2018
10.22

理想の恋の見つけ方 6

「お、遅れて申し訳ございません。ま、牧野です….牧野つくしです」

会議室を出ようとした司の前に飛び込んで来たのは、肩口で切り揃えられた黒髪に、黒々とした大きな瞳の黒いパンツスーツを着た小柄な女。
パッと見でそのスーツがどこにでもある吊るしであることは勿論だが、化粧も薄く唇の色も抑えられていて形容するならどこにでもいる平凡な容姿を持つ女。
そして司はその女と向かい合っていて、女の言葉は彼に向かって言われていた。

「エレベーターが35階で止ってしまって、救出されるまでに時間が掛かかり遅れてしまいました。本当にお待たせして大変申し訳ございませんでした」

司の前で頭を下げる女は肩で息をしながら言葉を継いだが、その言葉は本当なのか。
司は他人の言葉を簡単には信用しない。特に女の言葉はそうだ。
何しろ今まで何人もの女が彼の容姿や財産を目当てに近づいて来た。だから今彼の前にいて頭を下げた女の言っている言葉が真実かどうかを見極める必要がある。そんな思いから司は訊いた。

「あなたは今エレベーターが35階で止り、救出されるまでその中に閉じ込められていたといった趣旨の話をされた。そのことについてお伺いしたいことがあります。あなたは何時にエレベーターに乗ったんですか?余裕を持ってこちらに来るつもりは無かったということでしょうか?」

「え?」

と言って頭を上げたつくしは目の前にいる男性をまじまじと見つめた。
とりあえず遅れたことを謝らなければと扉を開けたすぐそこにいた男性に頭を下げたが、どこかで見たことがあるような気がしたが、分からなかった。だから思い出そうとしたが、見上げるほど背の高い男性の髪の毛は癖があるのか特徴的な髪型をしていた。鋭い眼光におもしろくなさそうにきゅっと結ばれた口許と、意志の強そうな顎のライン。
そして先ほどの口調とその態度は明らかに怒っているといった雰囲気があった。

「あなたとの約束の時間は2時だ。それなら少なくともその5分前には着いて受付けを済ませるべきだ。だからあなたは何時にエレベーターに乗ったんですか?もしかすると本当はあなたがこのビルに着いた時間はすでに2時を過ぎていて、たまたまエレベーターが故障したことをいいことにその遅れを誤魔化そうとしているのではないですか?それにいくらエレベーターが故障したとしても携帯電話は使えるはずだ。だから財団に電話すべきではないですか?現にうちの職員は時間になってもあなたが現れないことで、あなたの大学に連絡をした。そしてあなたは大学を出たと言われたところまでは確認が取れた。だが今あなたはこうして遅刻をしてここにいる。それも何の連絡を入れることもなくだ。これは社会人としてルール違反だと思いませんか?いや。社会人以前の問題だ。それに時間を守れない人間に助成金を出すことは金をドブに捨てるような気がする」

つくしはいきなり捲し立てられ、責めるように言われ困惑したが、こういった時こそ礼儀正しい言葉で返すことが重要だと思った。
そして携帯電話と言われ、その電話を大学に忘れて来たことに気付いたのは、彼女の自身財団に電話をしようと思って鞄に手を入れた時だった。
だから連絡をすることが出来なかった。それなら緊急連絡用マイクの向こう側にいる人に40階の財団に連絡をして欲しい。14時の約束の牧野つくしがエレベーターに閉じ込められていて遅れるということを伝えて欲しいと言った。だがどうやら伝わっていなかったということになるが、目の前の男性はつくしの言葉を簡単には信じるつもりがないように思えたが、それでも伝えなければ時間にルーズな女といった印象を与えてしまうことは確実だった。だからつくしはエレベーターの中での自分が取った行動を話はじめた。

「はい。もちろんこちらにお電話しようと思いました。ですが携帯電話を大学に忘れて来たことに気付いたんです。ですからご連絡することが出来ませんでした。
それから保守の方にこちらに向かっている牧野つくしがエレベーターの中に閉じ込められているということを伝えて欲しいとお願いしました。ですが、どうやら伝わっていなかったようです。それに私は遅刻などしておりません。実際エレベーターに乗ったのは….えっと、正確な時間は覚えていませんが、とにかく1時45分頃には35階にいました。いえ。35階でエレベーターに閉じ込められていたんです。防犯カメラがありますよね?それを見ていただければお分かりいただけると思います」

司は防犯カメラと言われ、確かにそうだと思ったが、そのことよりも何故か女の態度に気持ちが向いていた。真正面から司の顔を見つめ、しっかりと目を合わせ顎に力を入れ堂々と自分の意見を言う女は今までいなかった。そしてその黒い大きな瞳の奥には何かが燃え上がった様子が見て取れた。それが苛立ちなのか。それとも怒りなのか。
どちらにしても司が目の前に立つ女に感じたのは、どこか生意気な女ということだ。
だが同時に面白いと思った。なかなか手ごたえのある会話と物怖じしないその態度は聡明さから来るものであり、学者先生の世間を知らないことから来る態度ではないと見た。
そしてそんな女は理不尽な言いがかりをつけられたとばかり、時間に遅れたのはこのビルのエレベーターのせいだと言っていた。
だが確かに女の言う通り本当にエレベーターに閉じ込められていたとすれば、遅刻は女のせいではない。そしてそれをあからさまに強く言わないのは研究助成金を勝ち取るため、直接的な怒りを周りの誰かにぶつけることを抑えているということになる。
だが、こうしている間に財団の人間が本当に女がエレベーターの中に閉じ込められていたかを調べているはずだ。

司は腕時計に目を落とした。
時刻は2時半。そして司は背後に気配を感じ、そこに立つ男から紙を渡されそれを見ると片眉を上げた。

「牧野さん」

「は、はい」

「私とあなたがこうして話し始めて10分以上経過した。確かあなたの持ち時間は1時間。つまりあなたに与えられた時間は3時までのはずだ。その時間が半分過ぎだ。その時間で満足な面接が出来るとは思えない。今日は無かったことにしてもらいたい。つまりあなたは約束の時間に遅れたことで今回自分に与えられたチャンスを逃したということになる。非常に残念だが仕方がない。帰っていただいて結構です。それから財団から今後についての説明がありますから帰りに受付に寄って下さい」

司はそう言って目の前の扉に手を掛けた。

「ち、ちょっと待って下さい!ですから私は2時前にはエレベーターの中にいたんです。厳密に言えば1時55分にはエレベーターの中にいたんです。その時間は確実に言えます。そのとき時計を見たので確かなんです。だから遅れたのはこのビルのエレベーターのせいです。そのせいで遅れたからってチャンスを逃したって…そんなのおかしいじゃないですか!それにちゃんと調べて下さい。私はエレベーターの中に閉じ込められていたんです!」

男性はつくしの言葉に振り向いてこちらを見た。
そして目が合った。

「なによ….人の話をろくに訊こうとしないなんて!あなたサメ並の脳しかないんじゃない?」

その時、部屋の中で空気が大きく動いたのが感じられた。
それは会議室にいる選考委員が息を飲んだことによる動き。
サメ並の脳と言えばバカのたとえだと知っている人間の動揺だ。

つくしはそれまで非の打ちどころのない態度を取っていたつもりだった。
研究室の将来がかかっているとも言える財団からの助成金を受けるためには、完璧なまでの愛想よさを貫くつもりでいた。それなのに、エレベーターが動かなかったことでやりきれない思いに襲われていた。
そして扉の向こう側へ出て行こうとしている男につい言っていて、しまったと思った時には遅かった。
だが言われた相手がその意味を知らないのではないかと思ったが、表情が微かに変わったことからして、どうやらサメの脳のことを知らない訳ではないようだ。
つまりつくしは見上げるほど背の高い癖のある髪を持つ男性に対し暴言とも言える言葉を吐いてしまった。だが相手が誰なのか分からなかったが、どう考えても選考委員には見えなかった。それなら財団の運営に関わる人間ということになるが、もしそうなら大変なことをしてしまったはずだ。

「あの…..」

「そうですか。牧野准教授から見れば私の脳はサメ並ですか。それならそんな男と面接をするのは嫌でしょう。バカな男とは話す価値がないとお思いでしょうから。
それから帰りに受付に寄って下さいと言ったのは、あなたが確かにエレベーターに閉じ込められていたということが証明されたからです。あなたは時間通りこの場所を訪れようとしていた。ですから先程の言葉は日を改めて別の日を決めるという意味で申し上げましたが、どうやらあなたはそれを放棄されるようだ。それから申し上げておきますが私がサメ並の脳なら道明寺はとっくに潰れているはずだ」





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コメント
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dot 2018.10.22 06:14 | 編集
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dot 2018.10.22 07:19 | 編集
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dot 2018.10.22 09:20 | 編集
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dot 2018.10.22 18:36 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
印象最悪(笑)本当にねぇ。
一生懸命説明しましたが、司はなかなか信用しませんでした。
この司は少し意地悪なところがありますね?(笑)
そんな男にサメ並の脳だなんて言って….。司にはその意味が分からないとでも思ったのでしょうか。
さあつくし!助成金を勝ち取るため頑張れ(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.23 21:49 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
やっちまったな(≧▽≦)
相手は優秀だと言われる道明寺司です。
そんな男に向かってサメの脳はねぇ(笑)
そしてこの司は意地悪な男ですね?つくしを煽っているような気もします。
え?この際言いたいことを言って逃げてしまえ?
どうする?つくし?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.23 21:50 | 編集
ま**ん様
おはようございます^^
衝撃的な初対面(笑)
なかなか手厳しい道明寺司。
大企業を操る者としては、どんな理由があろうと遅刻して来た人間に厳しい。
確かに一分一秒を争うビジネスもあります。時は金なりと言いますから時間に厳しいのが当然なのかもしれませんが、ここは財団であり、そこまで言わなくてもねぇ(笑)
そして言われっぱなしのつくし。どう出るの?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.23 21:53 | 編集
さ***ん様
エレベーターに閉じ込められたのは、あんたの所のメンテナンスが悪いからよ!
と言いたいつくし。
しかし言えない。それは財団からの研究助成金が欲しいからですが、サメ並の脳と言われた男。意味を知っていました(笑)
サメは同じ海に暮らすイルカやクジラのような海棲哺乳類に比べれば頭が悪いと言われています。
イルカは大きな脳を持っていますが、サメは脊椎動物の中で体重と脳の重量比率が最も小さいため、バカのたとえとして使われています。しかし魚類の中では高度な頭脳を持つと言われているようです。
そしてサメには特徴的な能力があるとか。司がサメならその能力を使うことがあるのでしょうか。
それにしても思ったことを口にしてしまった女はどうするのでしょうね?^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.23 21:59 | 編集
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dot 2018.10.26 10:39 | 編集
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