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2018
10.19

理想の恋の見つけ方 5

「お願いします!早く出して下さい!2時に道明寺財団の方とお約束があるんです!」

つくしは閉じ込められたエレベーターの中で操作パネルに内臓されているマイクに向かって訴えていた。14時からの面接の約束に余裕で間に合う時間にこのビルに到着したが、あまり早く訪問するのは常識に外れている。だから自分で時間を調節し、丁度いいと思える時間に40階を目指した。それなのに上昇中のエレベーターが突然停止し、中に閉じ込められていた。

『お客様。お急ぎのところ大変申し訳ございません。只今保守点検作業員がそちらに向かっております。間もなく到着するはずですからもう少々お待ち下さい。それからご気分が悪いなど体調の変化がございましたら床に腰を降ろしてお待ち下さい。またお洋服等で身体をきつく締め付けるようなものがございましたら、少し緩めてご着用下さい』

操作パネルのスピーカーから聞こえてきた声は、決まりきったセリフを言っているにしても、あまり焦っていないように感じたのは気のせいか。
それは当然モニターしているであろう箱の中にいるのは、比較的若く体力がありそうに見える女性がひとりいるだけで、体調に急激な変化を起こすような高齢者は乗ってはいないからだ。

だが狭い箱の中で閉じ込められることは、年齢問わずどの人間にとっても精神的に恐ろしいはずだ。だが今のつくしはそれどころではなかった。
それなら何が恐ろしいのか。
それは面接開始時間に遅れ選考委員を待たせることで、悪い印象を与えてしまうことだ。

何しろ選考委員には分野を問わず高名な大学教授や、名誉教授の面々が名を連ねていて、気難しそうな人もいた。仮にエレベーターが止って中に閉じ込められたとしても、そうなったのは君の運が無かったからだ。人間は不測の事態に備えなければならない。そんなことを言われはしないかと思った。いや。だがそれはないはずだと頭を振った。それにいくらなんでもエレベーターに一人で閉じ込められた女が、アクション映画さながらに扉をこじ開け外に出るなど出来るはずがないのだから。

それでも時に頭のいい人間は訳の分からないことを言い出すことがある。
凡人には考えられないような行動を取ることもある。
特に研究熱心な学者は、物事に対して一直線ということが多い。事実つくしの研究室の副島教授がそうではないか。ある時、突然目の前の海に飛び込んだことがあった。
それはそこにエイがいたからだが、エイの長い尻尾にある棘には毒があり、刺されると死んでしまうこともあるが、何を思ったのか、そのエイを捕まえようとしたことがあった。

「牧野君。私が若い頃はよく海でエイと一緒に泳いだんだよ。だからつい懐かしくなってね。それにエイは唐揚げや煮付にして食べると意外と美味いんだよ。特にこのアカエイはね。但し、時間がたつとアンモニア臭くなるからそれが困るんだがね」

と言って笑った。
だが今は副島教授のことはどうでもいい。
今はなんとしても目の前に見えて来た研究助成金のために、ここから出ることを考えなければならなかった。

つくしは腕時計を見た。
2時まであと5分しかない。
マイクに向かって窮状を訴えてから少なくとも10分はたっているはずだ。

「あの!すみません。まだですか?お願いします。早くここから出して下さい。2時までに40階の道明寺財団まで行かなきゃいけないんです!」

だが返された言葉は、『もう少しだけお待ち下さい。只今係の者がそちらに向かっております』だった。






***






司は研究助成事業への申請者の一人との面接に臨むため、数名の選考委員と共に40階の財団の会議室にいた。
時計の針は2時15分を指していて、約束の時間をとっくに過ぎていても、相手が来ないということに苛立ちを感じていた。

テーブルの上には申請者である牧野つくしが提出した申請書類と論文の写しが置かれていて少しだが目を通した。
研究者は論文を書いてこそ研究者と言えるが、牧野つくしという女もいくつかの学術論文を仕上げていた。そして専門が深海ザメということに興味を惹かれた。だがいくら興味深い論文を書いていたとしても、時間が守れないようなだらしない人間に金を出そうとは思わなかった。
そして何の説明もないまま待つ時間だけが過ぎれば、相手に対する印象が悪くなるということをその女は知らないのか。大学の准教授という立場の女は、遅れるなら遅れるといった連絡をするという常識を持ち合わせていないのか。


「いったいどういうことだ。申請者はどこにいる?」

司は声を荒げ言った。

「た、大変申し訳ございません。大学の研究室の方へ連絡を取りましたが、牧野准教授は予定通り今日の面接に臨むため昼前には出掛けたということです」

司の傍に控えていた財団職員はまだ若い男性で声が震えていて、ポケットから取り出したハンカチで額を流れる汗を拭った。
それは今まで理事のひとりでありながら、顔を見せたことがなかった司がこの場所にいることに緊張しているからだ。

「その女の大学はどこにある?」

「は、はい。港区です」

「港区だと?隣の区だろうが。大学が港区の何処にあるか知らねぇが、とっくに大学を出たんなら着いていてもおかしくないはずだが?それで本人から連絡は?」

「いえ。それがまだ……。で、ですがもしかすると予測不可能な事態に巻き込まれている可能性もあります。たとえばですが交通事故に遭われたとか…..」

男性はそこまで言って司の眉間に皺が寄ったのを見た。すると差し出がましいことを申し上げましたと頭を下げた。

司はどんな理由があったとしても、時間が守れない人間は嫌いだった。
それはビジネスに於いてだけではなく、社会人として守るべきことであり、もしアクシデントに巻き込まれているとしても、息をしている限り何らかの方法で連絡があっても良さそうなものだ。だがその連絡さえ入れようとしない牧野という女の研究に金を出すことはないと決めると椅子から立ち上がった。そして会議室を出ようと扉へ向かった丁度その時だった。ひとりの女が扉を開けると慌てた様子で部屋の中へ飛び込んで来た。





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コメント
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dot 2018.10.19 06:00 | 編集
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dot 2018.10.19 06:32 | 編集
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dot 2018.10.19 07:25 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
エレベーター動かず!
つくしは時間通り来たはずなのに、何故こんなトラブルに巻き込まれてしまったんでしょう。
そして司は眉間に皺を寄せている状況。
どうやらふたりの初対面はあまりいい状況とは言えないようです。
つくしはこのピンチをどう切り抜けるのでしょう。
そして司はどんな態度を取るのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.20 20:37 | 編集
ま**ん様
おはようございます^^
やっとご対面となりますが、初っ端から逆境にいるつくし。
そうなんです。君んちのエレベーターのせいで遅刻したんです!
しかも、対処が遅い!(≧▽≦)
本当にどうなっているのでしょう。道明寺ビル!
焦って駆け込んで来たつくし。研究助成金を勝ち取るために頑張るしかありません!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.20 20:43 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
接点がないと思われた副社長と准教授のふたり。
いよいよです‼え?でもこの出会いはどうなんでしょうねぇ(笑)
助成金を勝ち取るため道明寺ビルまで来ましがたが、エレベーターの中に閉じ込められた女。
扉を開けた先には眉間に皺が寄った男がいますが、ふたりの間にはどんなやり取りが繰り広げられるのでしょうねぇ。
え?女の意地を見せてやれ!(笑)つくし、意地を見せてくれるのでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.20 20:53 | 編集
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