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2018
10.18

理想の恋の見つけ方 4

一張羅のスーツを着る。
一番いい靴を履く。
化粧をきちんとする。
いくら論文の出来が良かったとしても身なりも大切ですからね。
先輩は平均以上の知性の持ち主ですから、それなりの格好をすれば出来る女に見えるはずです。

だから黒のパンツスーツに黒の3センチヒールの靴。書類バッグもやはり黒だったが、つくしにとっては黒が一番落ち着く色であり、無難な色だから正式な場所へ出る時はいつも黒を着ていた。
そして桜子の言う出来る女とはビジネスウーマンという意味だが、道明寺ビルの中に一歩足を踏み入れた途端、ここは学生で溢れている大学とは違い、つくしのにわか仕立てのビジネスウーマンは周りの雰囲気に呑み込まれそうになっていた。

しかし研究室の将来が掛かった今、雰囲気に呑み込まれる訳にはいかなかった。
だが建て替えられてまだ間もない道明寺ビルの高い吹き抜けがある広いロビーの床は、顔が映るほど磨き上げられていて、高く細いヒールの靴を履いた女性がカツカツと音を響かせ颯爽と歩いて行く。そして高級スーツに身を包み、高そうなブリーフケースを持った男性がエレベーターから降りて来ると周りに目を向けることなくつくしのすぐ傍を駆け抜けた。
一流企業で働く人間は、誰もが多忙を極めているようで他人のことは気に止めはしない。
そんな場所の時の流れが大学と違っていて当然だが、その中で唯一気にしてくれる人がいるとすれば、受付のデスクに座る女性で、つくしはその女性の元へ足を向けた。


「あの。道明寺財団へ行きたいんですけど、どう行けばいいですか?」

「お約束ですか?」

「え?は、はい。14時にお約束をしている牧野と申します」

時間は余裕を持って来たが、初めて来るこの場所で迷子になる訳にはいかなかった。
だから魅力的な若い女性に、にっこりと微笑みを向けられ、そちらのエレベーターで40階までお上がり下さい。そちらが財団のフロアでございます。と言われ礼を言って示されたエレベーターに乗った。


操作盤の上にある階数表示が点滅しながら箱は上昇して行くが、つくしの他には誰もおらず、このエレベーターが止るフロアは限られていて、目的地の40階以外では、さらに上層の階だけに止まるようだ。
そして箱の上昇と共に胃の中では神経がピリピリと暴れ出したようで、胃酸が逆流しているような感じがした。

つくしは、時計にちらりと目をやった。
遅すぎず。早や過ぎない。アカデミックな世界にいる人間は常識に外れた所があると言われるが、つくしはそうではないと自負していた。そしてこのまま行けば、指定された時間の少し前に到着する予定だ。
それに多少胃が痛みを訴えたとしても、今日のこの面接で深海ザメの生態の研究の必要性を訴え、なんとしても研究助成金を勝ち取りたかった。
もしスポーツで絶対に負けられない試合があるとすれば、今日のこの面接も絶対に負けられない面接だった。いや。面接に勝も負けるもないのだが、一発真剣勝負なのはスポーツと同じで敗者復活戦はないのだから。
それに今のこの胃の痛みは一時のことで、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うではないか。
つくしは掌に「人」という字を書いて舐めた。

「大丈夫よ。胃の痛みなんて一過性のものよ。面接が始まれば治るわ」

つくしは自分に気合いを入れた。
そしてもう間もなく着くはずの40階で取るべき行動を頭の中でシュミレーションしていた。だがその時だった。エレベーターが静かに止まり、箱の中の明かりが一瞬だけ消え、そして再び灯ったが、あきらかにエレベーターは上昇するのを止めていた。

「…え?なに?エレベーター止まったの?嘘でしょ?ちょっと…冗談は止めてよ…なによこれ!ここのビルまだ新しいんでしょ?それなのにどうして止まるのよ!ちょっと!」

つくしは急いで操作パネルにある緊急連絡用ボタンを押した。

「あの!エレベーターが35階で止ったんですけど。何かあったんですか?すみません。すぐに動かして下さい。急いでるんです。40階に行かなきゃならないんです!」







***







司は昼食会を終え社に戻る車の中で、秘書から午後からのスケジュールが変更になったと訊かされた。

「それで?14時からの会議が中止になった代わりが財団の面接か?」

「はい。統括本部長がサハリンのガス田開発の件で急遽現地に向かうことになり、本日の会議は中止になりましたが、丁度その時間に財団の方で今年度の研究助成事業に申請があった研究者との面接がございます。その面接に副社長も出席するようにとニューヨークから連絡が入りました」

「ニューヨークから?」

「はい。理事長である社長から理事のひとりである副社長に出席するようにとのことです」

本来なら14時からはエネルギー事業部の会議に出席する予定だったが、統括本部長の出張で会議が中止になったとしても、他にもすることがあるはずだ。それに司は財団の理事として名前が出てはいるが、運営について一切関与していなかった。だから何故突然財団の事業に関することに出席しろと言ってきたのか。

「西田。俺が出席する理由はなんだ?それともアレか?将来ノーベル賞でも取るような研究者がいるのか?」

財団が助成して来た研究者の中にノーベル賞を貰った人間はいなかったが、財団としては、それを期待しているのは言うまでもない。

「さあ、どうでしょう。将来ノーベル賞を取るかどうかは未知数ですが研究分野を問わず若手の研究者を育てることは、今後の日本の為であり道明寺の為になる。それが副社長がお生まれになった年に財団を創設された亡きお父様のお考えでした。社長もそのお考えを副社長にも受け継いで欲しいと望んでいらっしゃいます。いずれにしても道明寺財団は道明寺財閥のひとつですから、将来副社長にも関与していただくことになります。ですから社長はこの機会に副社長にも最終面接に臨んでいただきたいとお考えなのです」

その答えは至極真っ当な答えに聞こえるが、本当にそれだけなのか。
社長である母親は、ビジネスに関して先見の明があることは否定できない。
それなら今年の申請者の中にビジネスに関する研究をしている人間がいるということになるが、もしそうなら会ってみたいという気があった。

「分かった。それで今日の面接には何人が来る?」

「はい。本日はおひとりです。牧野様とおっしゃる女性の方で海洋生態学を専門にご研究されていらっしゃいます」

「牧野?」

「はい。何か?」

「いや。つい最近そんな名前の女から電話が掛かって来たが、一方的に喋って切った」

「そうでしたか。あまり珍しいお名前ではありませんが、どちらにしても副社長には選考委員の方々とその方の面接に臨んでいただきます」






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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.10.18 06:12 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.10.18 12:17 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
准教授であるつくしは常識がないわけではないと思います。
しかし研究職で学生を相手にしていることから、浮世離れしたところはあるかもしれませんね?(笑)
そしていざ出陣とばかり道明寺ビルを訪れたつくし。
しかし、なんと、エレベーターに閉じ込められてしまいました。
面接の時間に間に合うのでしょうか?
間に合わなかったら研究費が失われてしまうのでしょうか?
ふたりはいつご対面するのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.10.18 22:20 | 編集
イ**マ様
サメだって豚肉だってニラだって、なんだって二人に絡ませていく!(≧▽≦)
大人ですから、これからもっと色々と絡まっていくかもしれません(笑)
そして二人の心も絡まってくれるといいのですが.....。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.10.18 22:29 | 編集
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