「肝に銘じること。お酒は程々にすること」
つくしはニューヨークの二日目を迎えた。
仕事に出掛けた道明寺から言われたのは、この街を楽しめばいい。ただそれだけだった。
ひとりで出かけても、ひとりではない状況。つくしの周りには常に警護の人間がいる。
この街で暮らしていくなら、そんなことはあたり前だと言われているが、果たして慣れるだろうか?でもそんなことを気にしていては、この街では暮らせないことは充分理解しているつもりだ。
五月のニューヨークは気持ちいい。昔一度だけ来た時は寒い冬だったが、若かったあたしはコートも持たず来るという計画性の無い人間だった。だが大人になって色んな経験を積み重ねて、自分でも計画性のある人間になったと思っていた。
でも、やっぱり道明寺の事になると無計画な人間になってしまうようだった。
あたしのアイツに対する気持ちは例え何年経とうが、きっとこのままなんだろうと思う。
でも道明寺はいつもあんなに露骨にものを言うのだろうか?
曲がりなりにも夫婦になったあたし達。
あたしの事を忘れてしまったアイツは9年経ってパワーアップしていた。
全てにおいて凄い人間になっていた。
あたしの事だけ忘れ去ったアイツは母親と共にニューヨークに渡った。
日本での傍若無人さはそのままで、こっちの大学へ進学して行ったアイツ。
それでもやはりその環境が与えた影響は大きかったようで、数年のうちに大学での教育を終えると本社での仕事をこなしながら、大学院まで卒業して今に至る。
だてに英才教育を受けていた訳じゃないって分かった。
昔のアンタは日本語さえ不自由なくらいだったのに、今では何か国語も喋る男で、世界の道明寺司様だ。人はこうも変わることが出来るんだと納得させられた。
そんなアイツは・・・その大人の色気っていうのがもの凄くって、あたしはもうそんな男の毒気にやられっぱなしだ。言うまでもなくあたしには男性経験がない。
だけど、そんなことはアイツには関係ない。妻となった女を抱く権利がある。
でも、なんなのよ。今朝のあの態度は。
つくしは今朝の出来事を思い出し、思い出して顔が赤くなるのがわかった。
まだ時間がたってないせいか、記憶は鮮明で、見なくていいものまで見てしまったモノを忘れようとしていた。
ブンブンと頭を振っているあたしを通行人が奇妙なものでも見るようにして見ている。
ここはNY五番街だ。そんな怪しい人間がいたら通報されて、連行されてしまうかもしれない。
「つくしちゃーん!」
振り向かずともその声を間違えるはずもなく、私はこのニューヨークで花沢類に続き2人目の道明寺絡みの人間と出会う事となった。
「つくしちゃん、久し振り!」
五番街の路上で思いっきり抱き付かれたあたしは、その場に足を踏ん張るしかなかった。
「お姉さん!」
久し振りってこの前の結婚式で会ったばかりじゃないですか。
「つくしちゃん、司は?」
お姉さんはあたしの周囲に目を泳がせていた。
「アイツは会社に行きました」
「まったく司ったらつくしちゃんを一人ぼっちにするなんて・・私が行って説教してやるわ!」
「いいんです、お姉さん!」
あたしはお姉さんの手を掴むと、思わず出てしまった大きな声に我ながら驚いていた。
こうしてあたしの今日一日は、お姉さんに連れられて五番街でのショッピングに時間を費やした。お姉さんとこうして話をするのは、この前の結婚式以来、でもその前は9年前に遡る。
あのとき、お姉さんはあたしに申し訳ないと何度も何度もあやまってくれた。
道明寺があたしを忘れたことは、お姉さんのせいではない。だが、それまでの2人の経緯を知っていた一番の理解者だった人は、あたしの気持ちを慮ってくれた。
「つくしちゃん、今日は一日ありがとう」
そう言ってお姉さんは優しく抱きしめてくれた。
「こちらこそ、こんなに沢山の買い物・・」
「いいのよ!どうせ司が支払うんだから。このくらい大したことないわよ」
「お姉さん、あたし、この結婚のこと・・・」
「いいのよ、つくしちゃん。これでいいのよ、司にとっても、つくしちゃんにとっても」
アイツと同じ顔をして、アイツと同じ強い眼差しで話すお姉さんを見つめながらあたしは頷いてみるしかなかった。あたしを忘れた道明寺を忘れることができなくて、滋さんの立てた計画に乗ったあたし。どう考えても無謀なことだと思ったけど、チャンスにかけた。
一緒にいれば、いつか思い出してくれるのではないかと。
「あたし、道明寺の事を忘れようとしました。忘れたくて努力しました。もう二度とアイツの前に、道明寺に会う事は無いと思っていました。でも、忘れられない・・・きっと近くにいても、遠くにいても・・」
あたしは感情が顔に出てしまう性分がつくづく嫌になった。
9年もずっと思いを抱え込んでいたことが、顔に現れているはずだ。
「つくしちゃん・・」
「ご、ごめんなさいお姉さん。あたし、道明寺の事を幸せにしてやりたいんです。だからこんな茶番に乗りました。 あたしの事今は忘れていても、こうして傍にいれば、いつか思い出してくれるかもしれない、だからあいつを諦める事を止めました」
あたしはお姉さんだけには今の正直な気持ちを知って欲しかった。こうして話しをしたのも、高校時代と変わらぬ、あの時と同じ想いである事を知っていて欲しかったはずだ。それに今なら道明寺に対し、百パーセントの気持ちでぶつかっていけるはずだから。

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応援有難うございます。
つくしはニューヨークの二日目を迎えた。
仕事に出掛けた道明寺から言われたのは、この街を楽しめばいい。ただそれだけだった。
ひとりで出かけても、ひとりではない状況。つくしの周りには常に警護の人間がいる。
この街で暮らしていくなら、そんなことはあたり前だと言われているが、果たして慣れるだろうか?でもそんなことを気にしていては、この街では暮らせないことは充分理解しているつもりだ。
五月のニューヨークは気持ちいい。昔一度だけ来た時は寒い冬だったが、若かったあたしはコートも持たず来るという計画性の無い人間だった。だが大人になって色んな経験を積み重ねて、自分でも計画性のある人間になったと思っていた。
でも、やっぱり道明寺の事になると無計画な人間になってしまうようだった。
あたしのアイツに対する気持ちは例え何年経とうが、きっとこのままなんだろうと思う。
でも道明寺はいつもあんなに露骨にものを言うのだろうか?
曲がりなりにも夫婦になったあたし達。
あたしの事を忘れてしまったアイツは9年経ってパワーアップしていた。
全てにおいて凄い人間になっていた。
あたしの事だけ忘れ去ったアイツは母親と共にニューヨークに渡った。
日本での傍若無人さはそのままで、こっちの大学へ進学して行ったアイツ。
それでもやはりその環境が与えた影響は大きかったようで、数年のうちに大学での教育を終えると本社での仕事をこなしながら、大学院まで卒業して今に至る。
だてに英才教育を受けていた訳じゃないって分かった。
昔のアンタは日本語さえ不自由なくらいだったのに、今では何か国語も喋る男で、世界の道明寺司様だ。人はこうも変わることが出来るんだと納得させられた。
そんなアイツは・・・その大人の色気っていうのがもの凄くって、あたしはもうそんな男の毒気にやられっぱなしだ。言うまでもなくあたしには男性経験がない。
だけど、そんなことはアイツには関係ない。妻となった女を抱く権利がある。
でも、なんなのよ。今朝のあの態度は。
つくしは今朝の出来事を思い出し、思い出して顔が赤くなるのがわかった。
まだ時間がたってないせいか、記憶は鮮明で、見なくていいものまで見てしまったモノを忘れようとしていた。
ブンブンと頭を振っているあたしを通行人が奇妙なものでも見るようにして見ている。
ここはNY五番街だ。そんな怪しい人間がいたら通報されて、連行されてしまうかもしれない。
「つくしちゃーん!」
振り向かずともその声を間違えるはずもなく、私はこのニューヨークで花沢類に続き2人目の道明寺絡みの人間と出会う事となった。
「つくしちゃん、久し振り!」
五番街の路上で思いっきり抱き付かれたあたしは、その場に足を踏ん張るしかなかった。
「お姉さん!」
久し振りってこの前の結婚式で会ったばかりじゃないですか。
「つくしちゃん、司は?」
お姉さんはあたしの周囲に目を泳がせていた。
「アイツは会社に行きました」
「まったく司ったらつくしちゃんを一人ぼっちにするなんて・・私が行って説教してやるわ!」
「いいんです、お姉さん!」
あたしはお姉さんの手を掴むと、思わず出てしまった大きな声に我ながら驚いていた。
こうしてあたしの今日一日は、お姉さんに連れられて五番街でのショッピングに時間を費やした。お姉さんとこうして話をするのは、この前の結婚式以来、でもその前は9年前に遡る。
あのとき、お姉さんはあたしに申し訳ないと何度も何度もあやまってくれた。
道明寺があたしを忘れたことは、お姉さんのせいではない。だが、それまでの2人の経緯を知っていた一番の理解者だった人は、あたしの気持ちを慮ってくれた。
「つくしちゃん、今日は一日ありがとう」
そう言ってお姉さんは優しく抱きしめてくれた。
「こちらこそ、こんなに沢山の買い物・・」
「いいのよ!どうせ司が支払うんだから。このくらい大したことないわよ」
「お姉さん、あたし、この結婚のこと・・・」
「いいのよ、つくしちゃん。これでいいのよ、司にとっても、つくしちゃんにとっても」
アイツと同じ顔をして、アイツと同じ強い眼差しで話すお姉さんを見つめながらあたしは頷いてみるしかなかった。あたしを忘れた道明寺を忘れることができなくて、滋さんの立てた計画に乗ったあたし。どう考えても無謀なことだと思ったけど、チャンスにかけた。
一緒にいれば、いつか思い出してくれるのではないかと。
「あたし、道明寺の事を忘れようとしました。忘れたくて努力しました。もう二度とアイツの前に、道明寺に会う事は無いと思っていました。でも、忘れられない・・・きっと近くにいても、遠くにいても・・」
あたしは感情が顔に出てしまう性分がつくづく嫌になった。
9年もずっと思いを抱え込んでいたことが、顔に現れているはずだ。
「つくしちゃん・・」
「ご、ごめんなさいお姉さん。あたし、道明寺の事を幸せにしてやりたいんです。だからこんな茶番に乗りました。 あたしの事今は忘れていても、こうして傍にいれば、いつか思い出してくれるかもしれない、だからあいつを諦める事を止めました」
あたしはお姉さんだけには今の正直な気持ちを知って欲しかった。こうして話しをしたのも、高校時代と変わらぬ、あの時と同じ想いである事を知っていて欲しかったはずだ。それに今なら道明寺に対し、百パーセントの気持ちでぶつかっていけるはずだから。

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コメント
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m**a様
ご訪問有難うございます。
司ですがニューヨークのビジネスシーンで活躍している男を
イメージしてみました。
つくしの記憶はありませんが今後の親密度合は・・・(笑)
楽しんで頂けるように頑張りますのでまたお時間のある時に
覗いてみて下さい。
ご訪問有難うございます。
司ですがニューヨークのビジネスシーンで活躍している男を
イメージしてみました。
つくしの記憶はありませんが今後の親密度合は・・・(笑)
楽しんで頂けるように頑張りますのでまたお時間のある時に
覗いてみて下さい。
アカシア
2015.08.10 21:04 | 編集
