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2015
08.01

いつか見た風景 1

つくしは今、五月の明るい陽射しが降り注ぐ教会の中にいる。
身に纏ったドレスは分不相応なほど豪華なドレス。バージンロードの先には世界一の花婿と呼ばれる男が入口に背を向け立っている。そして婚礼の始まりを知らせるようにオルガンの音色が優しく響くなか、花嫁は白い絨毯の上に一歩を踏み出していた。花婿は一度も花嫁の方へと視線を向ける事もなく、花嫁がゆっくりと自分の隣に立つ様を待っている。


美しいと言う形容詞がこれ程似合う男が他にいるだろうか。
ウェーブのある黒髪、冷やかな感じの黒い瞳。彼は完璧な美貌の持ち主で、その立ち姿はルネッサンス時代の彫像の様でいて、その表情は仮面の様に決して微笑む事はなくても、余多の人々を引き付けて止まない。その怜悧さを表す鋭い瞳は、決して何事にも揺るぎはしない自身の姿を表している様で、つくしはそんな男から目を離す事が出来なかった。

この静寂の瞬間、花嫁は男が待つ祭壇へと歩みを進めていた。
幾重にも重ねられたベールはとても軽いはずなのに、まるで花嫁の本心を覆い隠す様に重く感じられる。そして花婿がそのベールを持ち上げた瞬間、目にするのは、牧野つくしだ。

つくしは今、男を騙して、そしてこんな茶番を演じようとしている。
男がつくしの顔にかかるベールを持ち上げた時、一瞬驚いた顔になったものの、すぐにその感情を封じ込めると何事も無かったように、ゆっくりとキスを落としていた。

それは甘い罰の様でいて、つくしの心は背徳にさいなまれていた。
何故、あたしはこんな所にいるのだろう。

今日はアイツ、道明寺司とあたしの親友である大河原滋さんとの結婚式だった。
そして、あたしは教会の扉が開かれるのを静かに待っていた。





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