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2021
05.30

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 101』話をUPしました。



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2021
05.27

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 100』話をUPしました。



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2021
05.24

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 99』話をUPしました。


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2021
05.22

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 98』話をUPしました。



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2021
05.17

金持ちの御曹司~赤裸々なほど愛して~<後編>

大人向けのお話になりますのでご注意下さい。
*********************










たいていの女は司を前にすると頬を染める。
直視されると落ち着きが無くなる。
だが牧野つくしという女は元SPというだけに、そういった態度を見せることは無くいつも落ち着いていた。
しかしこの瞬間、女は唇を舐めた。

「…..私にセックスの相手をしろと?」

「ああ。俺をこの家から出さないつもりなら、お前が俺を楽しませてくれ」

司の言葉に女は何と答えるのか。
すると女は背筋を伸ばし抑えた声ではっきりと言った。

「申し訳ございません。私はあなたの安全を守るためにここにいるのであって性的なサービスをするためではありません。ですからそういった問題は、ご自分で解決していただくしかないと思います」

「ふぅん…..そうか。自分で解決か。お前。その意味が分かって言ってんのか?」

ニヤニヤと意地悪な笑みを浮べた司は高級な靴を履いた足を一歩踏み出し女に近づいた。

「そ、それは…」

「それは….か?なあ。自分で解決するとしたらどうしたらいい?」

司は短く笑ってまた一歩踏み出した。
すると女はよろけて一歩後退し、ゴクリと唾を飲んだ。

「と、とにかく、そういった問題はご自身で解決して下さい。それ以上私には申し上げることは出来ません。それから今夜はもう遅いので早くお休み下さい」

と言うと女は司に背中を向け自分の部屋に戻りますと言ったが、いくら落ち着いた態度を取っても、内心は司とのコトを想像したはずだ。そうだ。どんなに冷静に振る舞おうとしても司に相手をしろと言われ慌てていた。それにどんなに優秀な元SPだとしても所詮女は女。だから司は少し生意気な女の中にある弱さを突いてやろうと思っただけで、元々抱く気などなかった。自分に纏わりつく女を厄介払いしたいがため、ただからかっただけだ。

だが暫く経って司の部屋の扉が微かに音をさせて開いた。
司は音には敏感だ。それに眠りが浅い。それは作家の職業病なようなもので、真夜中だろうが早朝だろうが頭の中に文章がひらめくと執筆することがあるからだ。
そして今夜も牧野つくしをからかった後、週刊誌へ連載中の話を書き終え、ちょうどベッドへ身体を横たえたところだった。
そんな司が薄暗い部屋の中でベッドに片肘を着いた姿勢で見たのは牧野つくし。
女は扉を閉めると司が寝ているベッドに近づいて来た。そしてベッドから少し離れた場所で立ち止まったが、身に付けているのは、いつも着ているチャコールグレーのスーツではなく上下黒の下着。そして黒いレースのガーターベルトとストッキングだけという出で立ちだ。

「道明寺さん。ご希望通り相手になります」

それは思いもしなかった展開で司は驚きの表情を浮かべた。
だがそれをすぐに隠した。
それにしても、女が地味な服装の下にセクシーな下着を着けているとは思いもしなかった。だが、それ以上に女の行動が意外だった。
だから訊いた。

「お前、本気か?」

「ええ、本気です」

迷いのないその言葉は、少し前に司の前で見せた女の態度とは違った。
どうやら女は司と同じで男女の愛について心得ているようだ。





***





司の巧みな口づけに女が口を開いた。
舌を滑り込ませて女を味わえば、身体はその先へ進むことを求めた。
今の司は牧野つくしが欲しいという思いしかなかった。
相手とひとつになりたいという貪欲な思いが身体の奥から湧き上がっていた。

司は裸になった女をベッドに横たえると感嘆の目で眺めた。
セクシーな下着もだが、まさか牧野つくしがこんなに官能的な身体をしているとは思わなかったからだ。
白い肌はシルクのような手触りがある。背は低くても、その体にぴったりの大きさの胸は司の手のひらに収まる大きさで、ウエストは司の両手で掴める細さだ。
そして小さな布に覆われていた場所は、きれいに処理がされていた。

司はその場所に指を這わせると奥へある泉に分け入ったが、そこはぐっしょりと濡れて、とろとろだった。
その奥深くに刺激を与えると女が叫び声を上げ司にしがみついたが、そこには熱い欲求が込められていた。

「たっぷり愛してやるよ」

司はそう言ったが、ふたりの間には愛などなく、ただ身体の欲求が満たされればそれでよかった。
それにセックスと愛情は別物であり女を征服することは楽しい。
だからまず司は指で女を征服した。
肉襞を押し分け侵入した中で指を曲げ、力を込めて押したり擦ったりを繰り返すと女は声を上げ身体をくねらせた。そして指を一定の速度で出し入れを始めると、さらに悩ましげな声が唇から漏れた。

「いい声だ。だが俺はもっと声が訊きたい」

そう言った司は次にピンク色の胸の先端を舐めたり吸ったりして弄んだ。
そこから滑らかに張り詰めた腹の中心に舌を這わせたが、日に当たることの無いその場所は身体の他の場所よりも一段と白い。
そんな場所に鼻を擦り付け舌で舐めると身体の震えが伝わってきた。

司は震える女から目を離さずに細い足首を掴んだ。
そして女の両脚をMの字に開かせたが嫌とは言わなかった。

「口で男に愛されたことがあるか?」

秘められた部分が丸見えになったその姿は司の思い通りの姿勢。

「なあ。どうなんだ?」

意地悪く訊いた。

「な、無いわ」

どうやら女は司の相手をするという大胆な行動に出た割りには経験が少ないらしい。

「そうか。俺も普段なら女のココを舐めることはしない。だがお前のココは美しい。だから特別に舐めてやるよ」

その言葉に女の太腿に力が入ったのが分かった。
だが入口は白露が溢れていた。
だから司は顏を近づけると猫がミルクを舐めるように溢れた露を舐め上げた。

「ああっ!」

女が顏をのけ反らせ声を上げた。

「どうだ?気持いいか?」

司は言いながら何度も舐め上げる。その一方で甘い露が溢れ出て来る場所に指を出し入れした。

「疼いてんだろ?ここが」

その問いに女は答えない。だが身体は正直なもので幾度となくわなないていた。

「本当は指じゃないモノを挿れて欲しいんだろ?」

女は挿れて欲しいとは言わない。
だから司は膨張した突起を口に含むと強く吸い上げた。
すると女は「あああっ!」と悲鳴を上げ、ついさっきまでシーツを掴んでいた手が司の髪を掴み自分のそこへ強く押し付けると懇願を始めた。

「お願い…..お願い….」

「何が欲しいかちゃんと言え。言わないとわかんねえだろ?」

司は突起を強く吸い上げ指を出し入れすることを止めなかった。

「ああ…..お願い!ダメ!」

「何がダメなんだ?」

女の股の間でサディスティックに言うと、そこは更に潤った。
そして哀れっぽい声で「お願いだから….」と言われたところで司は女を苛めるのを止めた。
それは自分自身の欲望に突き動かされ我慢できなかったからだ。
だから女の華奢な腰を掴み、司を受け入れる姿勢を取らせると腰を突き出し一気に貫いた。
そして自分を解放するために腰を激しく動かし女の身体の奥に自らを吐き出すと、女の上に崩れ落ちた。





司は目が覚めたが身体に違和感があった。
それは腕が動かせないからだ。
そして足も動かせなかった。
どうやら自分はベッドに縛られている。そのことに気付いたとき部屋の扉が開いた。

「おはようございます道明寺さん。ご気分はいかがですか?とても良く眠っていたので心配したんですよ?だって縛っていても目が覚めないくらい深い眠りについていたんですもの。でもそれは私の責任です。だって私とキスしたことであなたは睡眠薬を口にすることになったんですもの。でも昨日は良かった。私たちこれで一生離れることはありませんよね?だって私たちの間には切っても切れない結びつきが出来たんですから」

司はチャコールグレーのスーツ姿の牧野つくしが冷たい微笑みを浮べ自分を見下ろしている姿を見ていた。

「お前まさか….お前が俺のストーカーなのか?」

「ええ。そのまさかです。私はあなたの大ファン。私はあなたのことをずっと見てきたわ。だからあなたの傍に居たかった。そんな私があなたのボディガードに選ばれたことは神様が私にくれたプレゼントだった。いいえ、違うわ。これは運命だったのよ。
そして昨日あなたは私を抱いた。そして私の中で果てた。今の私は妊娠しやすい時期なの。
だからきっと私のお腹の中にあなたの子供、いえ、私たちの赤ちゃんが出来たはずよ。そうよ、きっともう私のお腹の中で細胞分裂を始めてるわ。それから道明寺さん。私から逃げようと思わないでね?もし逃げるなら私はあなたを傷つけることになるから。でもそんなことはしたくはないの。だってあなたは私たちの赤ちゃんのパパですもの」

女は悦に入った表情で言ったが、その右手にはキラリと光るナイフが握られていた。






「支社長!支社長!」

「….西田….か?」

「はい。お目覚めですか?額に汗をかいていらっしゃるようですが大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫だ」

そう答えた司は西田が運んで来たコーヒーを口にした。












「牧野。お前、生理はもう来たか?」

「え?唐突に何よ?」

仕事を終えた司は、マンションを訪ねて来ていた恋人から怪訝な顏を向けられたが、それは赤裸々な質問をしたからだ。

「いや。ちょっと訊いてみただけだ」

と司は答えたが、夢に出て来た女が言ったように恋人との間に絶対に切れることのない絆が欲しかった。そして女が言ったように、その絆は二人の間に子供を作れば切れることがない。

「もう。変なこと訊かないでよね?生理は2週間前に終わりました。だからまた来たらびっくりするじゃない。月に2回も来たら大変よ。でも生理不順だと終わったと思ったらまたすぐ来たなんてこともあるのよね。幸い私はそうじゃないからいいけど。….….ところで知ってる?」

と言って恋人は司の前に一冊の本を差し出した。

「この作家。松蔭寺司って言うんだけどね。この人が書いた『時を戻そう』って本がベストセラーなんだって!だから買ってみたんだけど面白そうよ?何でも主人公が過去にタイムスリップするんだけどね、そこで自分の未来を変えるためにある人を探すって話なの。でもそのある人になかなか出会えなくて結局未来を変えることが出来ないまま現代に戻って来る話しなの。
ねえ。もし過去に戻れるとしたらあんたは何をする?」

司は過去に戻りたいとは思わなかった。
たとえ過去に戻れたとしても過去を変えたいとは思わなかった。
それは過去があるから今の自分があるからだ。
それに未来を知りたいとも思わない。
未来とは自分で切り開いていくものであり、まだ見ぬ世界が楽しみだからだ。
そして人は今を生きることが一番大切だ。

「ねえ。それにしても松蔭寺司ってあんたの名前に似てるわよね?それに道明寺も大袈裟な名前だけど松蔭寺って名前も大袈裟よね?」

と言って笑う恋人は夢に出て来た牧野つくしとは違って策を巡らすことはしない。
だが司は恋人に策を巡らされてもいいと思っている。
それに早くその大袈裟な名前になってくれることを望んでいる。
何しろ司は三度のメシより牧野つくしのことが好きなのだから。
その時ふと頭を過った女性が妊娠するというタイミング。
確かそれは次の生理が来る2週間前だ。
恋人は生理が終って2週間が経ったと言った。つまり生理不順ではない恋人は今が丁度妊娠しやすいと言われる時期だ。だから司は策を巡らせることにした。

「なあ。今夜。いいだろ?」

すると恋人は司の目をじっと見つめて言った。

「いいけど……ちゃんと着けてよね」




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2021
05.15

金持ちの御曹司~赤裸々なほど愛して~<中編>

司は若くして直木賞を受賞した人気作家だ。
ベストセラー作家だ。
だが彼の人気を支えているのは作品だけではない。それは彼が映画で主演を張れるほどの外見を持っているからだ。
つまり司は文学的才能とは別に女を惑わす外見を持つ作家としてテレビへの出演や雑誌に載ることが増えた。

そんな男だから司の近くにはストーカーと思われる女の存在がある。
そしてその女は何故か彼のスケジュールを知っていて、『道明寺さん。今日あなたはメイプルにいましたよね?あなたは中野さんと一緒にいましたね?』そんな手紙を送って来るようになった。ちなみにメイプルは道明寺家が経営するホテルで中野とは雑誌のカメラマンだ。

そして手紙には写真も添えられていて、司が自宅のマンションのベランダに立っている姿や、ホテルのロビーで担当編集者と一緒にコーヒーを飲んでいる姿が写っていた。
けれど当の本人は、そんな手紙や写真が送られてきても全く気にしていなかった。
だがやがて手紙の内容が一方的な思いや脅迫めいたものに変わると流石に周りも心配した。

『道明寺さん。どうして私の気持ちを受け止めてくれないのですか?あなたは私のことが嫌いになったの?でも私はあなたのことが忘れられないの。だから私から離れると言うのなら、私はあなたを殺して永遠に私だけのものにするわ』

だから出版社は司に警護を付けることを勧めた。
しかし司は警護を付けることを嫌がった。
だが万が一のことがあっては大変だと出版社はボディガードを付けた。

「よろしくお願いします。今日からあなたの警護を担当します。牧野つくしです」

ボディガードは女。
司は元SPだと言う自分の肩にも届かない小さな女が自分を守れるとは思わない。
だから、ボディガードなどいてもいなくても同じだと無視することにした。
何か言われても返事をしなかった。
だがある日。「道明寺さん。困ります。勝手に出歩かれては困ります」と夜遅く飲みに行こうとした司の前に立ち塞がった。

「なあ。おい。いい加減にしてくれ。出歩くなと言われても俺には自由に行動する権利がある。その権利をお前に止める権利はない。それにいつもいつも俺の後を付いて回るな。お前のようなチビに後ろを付いて回られると鬱陶しいんだ」

司にイライラとした態度でチビと言われた女は、その態度を気にすることなく平然と訴えた。

「道明寺さん。ですが私はあなたの安全を守るために雇われています。それにあなたは私の雇い主である出版社の方針に従うことを決めたんですよね?私をボディガードとして傍に置くことを認めたんですよね?それなら私の忠告を聞いて下さい。あなたはストーカーに命を狙われています。あなたは彼女にまともに取り合うつもりは無いのでしょうけど、彼女はいつもあなたのことを見ていると言っています。つまり他の人間のことは目に入っていません。そういった人間は目的のためには何をするか分かりません。だから危険なんです」

司の前に立ち塞がった女は、なんとか外出しようとしている男を止めようとしていた。

「それにもし飲みに行きたいなら、こんな真夜中ではなくもう少し早い時間にして下さい。それにご友人と飲みたいなら、そのご友人をご自宅に招いて下さい」

司はその言葉に思考を巡らせた。
そして暫く女を見つめると、「なるほど。誰かと飲みたいなら、その誰かをここに呼べばいいんだな?」と言って無邪気にほほ笑んで見せた。
すると女は「ええ。そうです。ご友人の方をこの家にお呼び下さい」と言った。
だから「分かった。飲みに行くのは止めた」と司が答えると、女は安堵した様子でホッとした表情を浮かべたが、それを見た司はニヤリと笑った。

「お前の要望を受け入れ飲みに行くのは止めたが、その代わり女を抱きたい。だが問題がある。それは今の俺に特定の女がいないことだ。だから相手を探す必要がある。つまり、そういった場所に行く必要がある。分かるよな?そういった場所だ。だがお前は外出するなと言う。それなら女をここに呼べばいいって言うんだろうが、俺はこの家に商売女を入れるつもりはない。だからお前の望み通り俺にここにいて欲しいなら、お前が俺の相手をすればいい。そうすればこの問題は解決するが、どうする?」



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2021
05.14

金持ちの御曹司~赤裸々なほど愛して~<前編>

「へえ…この女優結婚したのか。俺、昔、好きだったんだよな。彼女、司の誕生日パーティーに来たことがあったよな?ほれ、牧野がテーブルの上にひっくり返ってお袋さんに白い目で見られたあのパーティー。あのとき握手してもらったんだが懐かしいよな。あれから何年だ?」

あきらは最新の週刊誌に目を通していた。

「それで相手はどこの誰だ?どれどれ…………『お相手は一般人のSさん。友人の紹介で知り合った』か…..」

「おい。あきら。その記事を鵜呑みにするな。相手は一般人だと書いてあるとしても、その男はただの一般人じゃない」

「なんだ?総二郎お前、相手の男、知ってるのか?」

「ああ知ってるも何も昔のナンパ仲間だ。うちに茶菓子を収めてる和菓子屋の次男で独立して事業を始めた。今じゃ青年実業家だって言われてる」

「へえ。なるほどお前の昔のナンパ仲間か。それならそれなりの遊び人ってことか」

「まあな」

と答えた総二郎は、その頃の事を思い出したようにニヤッと笑った。

「それで?青年実業家ってどのくらい資産があるんだ?」

「資産か?資産は大したことはない。せいぜい180億程度で言うなれば庶民に毛が生えたようなモンだ」

「そうか180億程度なら、俺たちの足元にも及ばないってことで、やっぱ一般人だな」

「ああ。それにこいつら絶対に別れる。長くはないだろうよ」

「おい何でだ?まだふたりは結婚したばかりだぞ?」

「実はな。この男は女を束縛するタイプの男だ。相手の全てを知らなきゃ許せない男だ。
つまりこの男は猜疑心が強い。だから自分の女が今どこにいるか把握したいってことで、付き合ってる女の携帯に発信機を取り付けたことがある。そんな男だ」

「おい….マジか?」

「ああ、マジだ。この男はストーカーだったことがある。だから結婚して妻になった女は監視されて自由が無いだろうよ。そのことに気付いた女は、そんな男が嫌になって別れることになるってことだ。それにこれまでも男の束縛の強さに嫌気がさして別れた女は結構いた」

「なるほどな…….けどここにもそんな男に似た男がいるが、ま、ここにいる男は牧野の為ならたとえ火の中水の中って男で、相手を束縛するより相手に束縛されたがってる方だよな」

「そうだ。外見はどう見てもドSなのに内面はドMって変わった男だからな!」

と言って総二郎とあきらは笑った。


司は仕事をしていたが、総二郎とあきら会話を聞きながら思った。
それは芸能人が同じ芸能人以外と結婚するとき相手のことを一般人と表現するが、一般人の定義とはなんぞやということだ。
そう思う司は当然だが芸能人ではなく一般人だ。

だが総二郎は、
「司よ。お前は一般人じゃねえ。一般人ってのは、そうそうテレビに出ることはない。
けどお前はテレビは勿論のこと新聞や雑誌にも出ている。そういう人間を世間は一般人とは言わない。それに女たちはお前が載った雑誌を我先にと買う。それを見てキャーキャー言ってる。だからお前は一般人じゃねえ」と言った。

そしてあきらも、
「ああ。俺もそう思う。お前は一般人じゃねえ。高校時代お前の隠し撮り写真は高値で売れた。なんでも一枚一万って値が付いてたらしい。そんなお前は学園のアイドルとは違ったが、とにかくお前は俺たち4人の中で女どもに圧倒的な人気があったのは確かで、そこらへんの生徒じゃなかったことは確かだ」

その頃の司は女には全く興味がなかった。
しかし運命の出会いから、ひとりの女に俄然興味が湧いた。
そしてその女を全身全霊で愛することを決めると、それまでの生き方を変えた。
しかし女は簡単には司に振り向いてくれなかった。
だが今その女は司の恋人だ。最愛の人だ。




「じゃあ、俺たち帰るわ。司、仕事頑張れよ」

「邪魔したな。たまには牧野と茶会に来い」

あきらと総二郎は、司の執務室を喫茶店代わりにしている。
だからコーヒーを飲むと帰ったが、持ち込んだ週刊誌は置いて行った。
司はその週刊誌を手に取ると、ふたりが話していた記事を開き女優を見たが自分の恋人の方が断然美人だと思った。
そう思いながら目を閉じたが、いつの間にか深い眠りに落ちていった。




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2021
05.09

好きな人と幸せを <後編>

「社長さん。もしかして、つくしさんのこと好きなんじゃないですか?」

それは唐突な質問。
そして楽しそうな口ぶりで女の子は言った。

「何故そう思う?」

幸い店に他の客はいない。
だから女の子も躊躇うことなく訊いてきたようだ。

「私、謎めいた社長さんに興味を持ったって言いましたよね。でも正体を見破ることは出来なかった。だけど社長さんのつくしさんに対する気持ちは当たりだと思ってるんです。だって社長さん、ここにお茶を飲みに来るっていうより、つくしさん目当てに来てるんじゃないかって思えるくらいつくしさんのこと見つめてますよね?」

その声には明らかな好奇心が滲み出ていた。
それにしても、司の態度は二十歳前後の女の子に見破られるほど露骨だっただろうか。

「実は私、大学で心理学を勉強しているんです。だからニックネームを付けるのが癖なら人間観察は私の趣味なんです。そんな私の勘は社長さんが、つくしさんのことが好きだって言ってます。だって私が紅茶を運んで行っても顏を上げることも無ければ、ありがとうって言われたこともないんですよ?構ってくれるなって雰囲気を醸し出していて、ただひたすら無言で新聞を読んでいる。だけどつくしさんが運んで行くと読むのを止めてつくしさんを見る。その時の社長さんは目が優しくて明らかに口元が緩んでます」

大学で心理学を学んでいるというアルバイトの女の子は、冷やかすように言った。

「それからいつだったか鉢植えの交換に来た福田園芸の福田さんが、つくしさんと話していた時の社長さんの顏。ムッとしていました。つまり社長さんって謎めいた人だけど案外色々と顏に出る人だなあって思ったんですよ?」

店に置かれている常緑樹はリースで、福田園芸とはその常緑樹の鉢植えをリースしている会社だ。そこの福田何某と言う男が大きな鉢植えの交換に来たのだが、そのとき彼女はその男と親しそうに笑っていた。

「おまけに社長さんは福田さんが帰った後で植物には罪はないのに鉢植えを睨んでるように見えました」

司はポーカーフェイスと言われている。
だがその司がひとりの女性のことを考えたとき、自分では気づかないうちに心の裡が顏に出ていたのだろうか。

「それから社長さん。常連さんなのに私の名前の名前知らないでしょ?」

そう言うと女の子は、社長さんにとって私は透明人間で興味ないと思うけど、私の名前は平塚由里です。つくしさんには由里ちゃんって呼ばれてますと言ったが、司の記憶の中にその名前はひとかけらも無かった。
それに初めて名前を知った由里という女の子とは、これまで親しく口を訊いたことが無い。

「それで?つくしさんのこと、どうするんですか?社長さんつくしさんのことが好きなんですよね?」

司は若く屈託のないアルバイトの女の子から、自分の思いをさらりと口にされたことに動揺していた。

「それに男の人って好きな人がお見合いしてるって訊いたら止めに行くんじゃないですか?あ、あれは結婚式でしたっけ?私、古い映画も好きなので見たんですけど、昔のアメリカ映画で元恋人が結婚式を挙げているところに駆けつけて異議ありって叫んで式を妨害して花嫁を奪い去る映画。あの映画みたいなこと。しなくていいんですか?」

司もその映画は知っている。
それはダスティン・ホフマンが主演の『卒業』。
花嫁を結婚式の最中に、花婿から奪って逃げるシーンは余りにも有名だ。

「社長さん。つくしさんが居ないから言いますけど、つくしさんも社長さんのこと好きですよ。社長さんが暫くお店に来ないから病気じゃないかって心配していたことは言いましたよね?でもそれ以前でも社長さんがお店に来たら嬉しそうな顏をしてました。社長さんが来ると声が弾んでます。近くで見ている私だから分かるんです。だけど社長さんが高級外車から降りて来たことや、ボディガードに囲まれていたことを話してから、つくしさんは社長さんのこと本当に社長さんだと思っています。つくしさんの態度は表向きは変わっていませんけど、社長さんのことは手の届かない人だと思ってます。つまり立場が違うって言うのか。社長と喫茶店の女性店主じゃ身分が違うって言うのか。そんなことを気にしてるんだと思います。だから自分の気持ちを伝えることはしなかったんだと思います。でも社長さんは社長じゃなくてただの会社員ですものね?それならつくしさんも立場の違いを感じる必要ないですよね?」

司はまさか彼女が自分に好意を寄せてくれているとは思いもしなかった。

「それにしても大人って回り道するのが好きですよね。好きなら好きだって言えばいいのに、変な躊躇いがあるんですよね?うんうん。違う。自分の気持ちに蓋をしちゃうって言うのかな?遠慮があるんですよね?それで?社長さん。つくしさんのこと。どうするんですか?私は学生でまだ経験はありませんが、お見合いって結婚を前提にするものですよね?
つくしさんがお見合いをすることを決めたのは、社長さんのこと諦めたからで、もし相手の人がつくしさんのことを気に入ったら話は早いってことですよね?」

彼女が諦めることなどひとつもない。
司も彼女のことが好きなのだから。
それに身分だの立場など関係ない。

そのとき、司の背後で店の扉が開いた。

「あ!つくしさん。お帰りなさい!」

「由里ちゃんただいま。ごめんね。遅くなって」

「うんうん。大丈夫です。社長さんが久し振りに来てくれたのでお話ししていたんです!」

司が振り返って見た彼女は、いつも店に立つ時のエプロン姿ではなくワンピース姿。
顏には、やはりいつもよりきれいに化粧が施され手には小さな鞄が握られていた。

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね?」

彼女にそう言われた司は口を開こうとした。
だが司の言葉は「由里ちゃん、お客様にその呼び方は失礼よ」と由里を窘める言葉にさえぎられた。
すると由里は「ごめんなさい」と言って「それでつくしさん。どうでしたか?」と言った。

「うん。楽しかったわよ?」

それを訊いた司は不愉快だった。
見合いが楽しかったとすれば、それは話が早いということになるからだ。

「へえ。そうですか。楽しかったんですか?行って良かったですね!」

「うん。楽しめたわ。本当に行って良かったわ」

司は楽しいが強調されるほど不快を覚える。

「牧野さん」

司は意を決したように彼女の名前を呼んだ。

「あなたは今日お見合いに行って来たそうですね?そしてそれが楽しかったと言う。ですが、そのお見合いの話はなかったことにしていただきたい」

「あの….いったい….」

「ですからそのお見合いは断っていただきたい」

司は当惑している彼女に言った。

「あの….」

「牧野さん。伯母様からのご紹介で断ることが難しいとしても断わって下さい」

「伯母からの紹介?おっしゃっている意味が分からないんですが?」

「牧野さん。あなたは今日伯母様からのご紹介の見合いに行った。
そしてその見合いが楽しかったと言う。しかし私はあなたのことが好きです。だからその見合いは無かったことにして下さい。そして私と結婚を前提に付き合って欲しい」

すると彼女は、「あの何か誤解していませんか?私、今日は伯母に会いに施設へ行ったんです。今日は施設で伯母や伯母と同じ月に生まれた皆さんの誕生会があってそれに参加して来たんです」と答えた。

彼女の伯母は一人暮らしが難しく施設にいる。
司はアルバイトの女子大生、平塚由里を見た。
すると由里は悪戯っぽい顏でチロッと舌を出し「表の掃除して来まーす!」と言って店の外に出た。

司は誰もいなくなった店内で意を決して彼女に言った。

「私の名前は道明寺司と言います。今はまだ社長ではなく副社長ですがいずれ社長になります。だが私の立場が何であろうが、あなたが誰であろうが、そんなことは私には関係ない。いや、私たちに関係ない。だから牧野つくしさん。改めて言います。私と結婚を前提に付き合って欲しい」
















「5年振りにここに来るけど、あれから何年になるのかしらね?」

「30年だ。あれから30年が経った」

「そう、もうそんなになるのね。時間が経つのは本当に早いわね?」

「ああ。そうだな。時間が経つのは早い」

ふたりが出会った喫茶店は今はもうない。
その代わり今そこにあるのは小さな花屋。
ふたりはニューヨークで暮らしていたことから、5年振りに参加した茶摘みの儀式の帰り、この場所に来た。
そして司はその店で花を買うと妻にプレゼントをした。

「奥さん。これまで支えてくれてありがとう。これからもよろしくな」

来年の1月に65歳を迎える司は春に定年を迎える。
だが単体で五千人、連結で九万人の従業員を抱える道明寺ホールディングスの社長である司に、役員の多くはまだ現役でいてくれと言う。
けれど司は来年春に社長を退き会長に就任することが決まっている。いや、正式には決まっていないが人生にひとつの区切りをつけることを決めた。

そんな男が自分の人生を支えてくれた妻を伴いこの場所に来るのは、ふたりの思い出を大切にしているから。
司は喫茶店があったこの場所で彼女にプロポーズをした。
だが彼女は司との違いを強調して結婚出来ないと言った。だから司は彼女を説得するために喫茶店に通った。自分の姓は単なる記号であり、その記号がたまたま他の姓よりも世間に知られているだけであり、自分は好きな人と一緒にいることを望むただの男だと言った。
そして司は彼女にイエスと言ってもらえると、そこから先、彼女の気が変わらないうちに結婚した。

「こちらこそ、これからもよろしくお願いします。だって私。まだまだ長生きするつもりだから」
と言った妻に司は「ああ、長生きしろよ。俺より先に死ぬなよ」と言って笑った。





今は生きることが難しいと言われる時代。
いや。今だけではなく、どんなに時代が変わっても必ず言われるその言葉。
だが司は、こんな時代でも優しい世界を見つけることが出来た。
それは、共に生きてくれる人がいれば困難も笑い話に変えることが出来る。幸せな時間を過ごすことが出来るということ。
だが優しい世界は人それぞれだ。そして司にとって優しい世界は好きな人といる時間。
彼女がいればそれで充分。
そんな彼女は贈られた花束を抱いて言った。

「好きな人と一緒にいることが一番の幸せよ」

だから司も、「ああ。そうだな」と声に出して頷いた。




< 完 >*好きな人と幸せを*
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2021
05.06

好きな人と幸せを <中編>

「つくしさんですか?今日はお休みなんですよ」

司は久し振りに彼女に会えると思っていた。
前回この店を訪れた後、ニューヨークで問題が起きて日本を離れることが多くなり、その時間も長くなった。
そして2ヶ月ぶりに帰国した司は店を訪れたが、いつもカウンターの中にいるはずの彼女がいないことに落胆した。
そんな司にアルバイトの女の子は言った。

「社長さん」

司は、その呼びかけに、まだ社長ではないが、いずれそうなることが決まっている自分が何者か知られてしまったのかと思った。

「やだ、社長さんって言われて驚きました?私ニックネームを付ける癖があるんです。
だからお客さんには社長さんってニックネームを付けさせてもらいました」

自分が何者か知られてしまっているという思いは杞憂だった。
だが、どうして司に社長というニックネームを付けたのか興味があった。
だから訊いた。

「社長さんか…..でもどうして私が社長さんなんだ?」

すると女の子は内緒話をするように言った。

「実は私、お店の近くで社長さんが高級外車から降りて来るところを見たんです。
それも運転手付きの大きな黒い車。それに黒いスーツを着たボディガードのような人も一緒にいて…….だけど社長さんはいつものようにスーツじゃなくて。だから社長さんは起業家とか青年実業家って呼ばれる人なんじゃないかって思ったんです。だってそういった人たちってスーツ着てないことが多いでしょ?つまり社長さんは青年実業家の社長さんってことかな?私の見立て。当たってませんか?」

まさか自分の姿を見られていたとは思わなかったが、その状況に心当たりがあった。
いつもは店から遠く離れた場所で車を降りるのだが、その日は激しく雨が降っていた。
だから運転手が気を利かせて店に近い場所で車を止めた。

司は女の子が見立てた青年実業家とは違うが、それでも立場はそれに近い。
そして司は自分が何者であるかを知られたくはなかった。

「ああ、あの日のことか。あの日は友人の車でここまで送ってもらった。友人は会社を経営しているから、ああいった車に乗っている。だから社長は友人で私はただの会社員だ」

「なあんだ。そうなんですね。社長さんって普通の人だったんですね?でも良かった。
もしかするとヤバイ職業の人かもしれないって考えたこともあるんですよ?
だって運転手付きの黒い高級外車にボディガード風の男でしょ?つまり社長さんじゃなくて組長さんとか…..でも組長さんにしては若いし、なんとなくそんな雰囲気じゃないし、だから社長さんって呼ぶことにしたんですけど、私凄く興味を持っちゃいました。
だって社長さんってどこか謎めいてるし。でもつくしさんに言われたんです。ここに来るお客さんはくつろぎに来てるの。だから、お客さんのことを詮索しちゃダメだって。いくら常連さんでも自分から話さないことを訊いてはダメだって。でも少し前だけど、つくしさんと社長さん来ないですねって話していたんですよ。それにつくしさん。社長さんはもしかして病気じゃないかって心配していたんですよ」

これまで司が立場のある人物だと知った人間たちは、誰もが司に興味を抱いたが、どうやらアルバイトの女の子もそのようだ。だが司がただの会社員だと訊くと興味を失ったようだ。
そして女の子と雇い主である彼女は司のことを語り合っていたようだが、女の子が見た光景に彼女は何を思ったのか。だが彼女が司に何かを訊くことはなかった。

これまでは、何も訊かない彼女の態度が好ましかった。
だが彼女が何も訊かなかったのは、単に司に興味がないからだとすれば、それを喜ばしいとは言えなかった。けれど、女の子の話から彼女が顏を見せない司のことを心配していたことを知り嬉しいという気持が湧き上がった。
そして彼女が休んでいる理由が気になった。
もし病気なら見舞いたいという思いがあった。

「それで牧野さんはどこか具合でも悪いのか?」

司は、あっけらかんとした表情をしているアルバイトの女の子に訊いた。

「え?つくしさんは元気ですよ。お休みしているのは病気だからじゃありません。実はつくしさん今日お見合いなんですよ。伯母様、つまりここのオーナーの方ですけど、その方の紹介でお見合いすることになったんです」




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2021
05.04

好きな人と幸せを <前編>

夏も近づく八十八夜。野にも山にも若葉が茂る。
そんな歌が聞こえて来たが、それは茶摘みの光景を歌った歌で、新緑が美しいこの季節を歌っていた。
司の親友に茶道の家元の家に生まれた男がいる。
だからその男は毎年5月に弟子たちとセレモニーとしての茶摘みを行うが、司はその儀式に招かれたことがある。だが司は茶の葉を元にした飲み物より、豆を焙煎して挽いた粉末から、湯で成分を抽出した飲み物の方が好きだ。つまり毎朝飲むのも仕事の合間に飲むのもコーヒーだ。
だが葉っぱも美味いと思うようになった。
そしてそれはこの店から始まった。

「いらっしゃいませ!」

扉を開けた瞬間、元気な声が聞えた。

司は「やあ」と挨拶を返すといつもの窓際の席に腰を下ろした。
すると女性は、「いつものですか?」と訊いた。
だから司は、「ああ」と答えた。

日曜日の司は紅茶を淹れてくれる店にいた。
そこは1年前。春と夏の変わり目にあたるこの季節に足を踏み入れた喫茶店。
茶摘みセレモニー帰り、司の乗った車に故障が見つかり急遽修理が必要となった。
だから代わりの車が来るまで待つ場所として近くにあった小さなこの店に入った。
そして勧められたのは紅茶。

「うちはコーヒーより紅茶が専門なんです。丁度入ったばかりのダージリンのファーストフラッシュがあります。良かったらお飲みになりませんか?」

ダージリンには春夏秋と年3回の旬がある。ファーストフラッシュとはその年の一番初め、つまり春に摘まれたダージリンの新茶のことだが、茶摘みのセレモニーの帰り、車の故障でたまたま入った店で勧められたのが紅茶の新茶だということに、おかしな縁を感じた。
そして、普段コーヒーしか飲まない男が勧められるまま紅茶を口にしたが美味いと感じた。

この界隈は名の知れた高級住宅地。
だから客は、いかにも金持ちといった品のいい老夫婦や高級ブランドの洋服を着たカップル。
そしてオーナーは先祖代々この土地で暮らしてきたという老夫人。
だが今この店を切り盛りしているのは、独り暮らしが難しくなり施設に入ってしまった老夫人の姪と週に何度か来るというアルバイトの女子大生だ。

そして司がこの店に通うようになって1年が経つ。
だから店主の女性とは顔なじみであり、司はいわゆる常連だ。
だが司は常連ではあっても女性の名前が牧野つくしで35歳の司のひとつ年下だという以外は知らない。
そして名前も年齢も偶然耳にしたことであり司が訊いたのではない。
それでも初めて色々話したとき、彼女はキャラメルパフェが好きで、音楽はショパンが好きなことを知った。だからこの店で流れる音楽はクラシックだ。

だが本当はもっと彼女のことを知りたい。
キャラメルパフェ以外に好きな食べ物は?
音楽はクラシック以外訊かないのか?
恋人はいるのか?
だが何故そんなに彼女のことが知りたいのか。それは司が彼女に好意を抱いているから。
だが司が彼女の個人的なことを訊けば、自分のことも話さなくてはならなくなる。
だから訊かなかった。

司の名字は道明寺。
特徴的と言えるその名前を聞けば誰もが興味を持つ。そして態度を変える。何しろ道明寺と言えば、日本を代表する企業で知らぬ者はいなのだいから。そして司はそこの後継者だ。
だから司は名前を名乗ることで彼女の態度が変わるのを見たくなかった。
だがだからと言って偽名を名乗ることは自分を否定しているようで嫌だった。
だが若い頃はこの姓から逃れようとしたことがある。
そして、彼女が他の人間と同じような態度を取るという確信はないが、それでも自分におもねるようになるのではないかと思った。だから司は自分の個人的なことを話すことはなかった。




「お待たせしました」

彼女がいつもの紅茶を運んで来た。

「ありがとう」

「暫くお見えになられませんでしたね?」

「ええ。出張で海外に出ていたんです」

「そうでしたか。お仕事お忙しいんですね」

「貧乏暇なしです」

司は多くは語らず、余計なことは言わない。そして彼女も訊かない。
だから司は、このままでもいいと思っていた。
ここで彼女が淹れる紅茶を飲みながら、静かな時間を過ごすことが出来ればそれでいいと思っていた。
だがそうは行かなくなった。




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