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2018
11.30

理想の恋の見つけ方 32

「それで先輩。秘書の方からのお電話って何だったんですか?」

「うん。それがパーティーのお供をお願いしますって」

学生部屋に戻ったつくしは桜子から興味津々の視線を浴びながら静かに答えたが、返ってきた言葉は悲鳴に近かった。

「えっ!?パーティー?ちょっと先輩それって秘書のお供じゃなくて道明寺副社長とパーティーに出席するってことですよね?嘘みたいな話ですけど、もしかしてそれって突然のデートの誘いじゃないですか?」

桜子は口を開かなければ制止した人形の美しさを感じさせる女性だが、今彼女の顔に浮かんでいる驚きの表情はスキャンダルを起こした芸能人に集中砲火を浴びせる芸能レポーターのような顔をしていた。

「あのね桜子。そんなことがあるはずないでしょ?それにもしデートの誘いだったとしても秘書を通してデートに誘うなんて訊いたことがないわよ」

「でも道明寺副社長のようにお忙しい方だとデートもスケジュールのひとつとして組み込まれているのかもしれませんよ?だから秘書に電話をかけさせたとか。もしかして道明寺副社長が5千万寄付することにしたのは、牧野先輩に恋をしたからとか?えっ?もしかしてそうなんですか?私が知らないところでふたりはいつの間にそういった関係になったんですか?」

芸能レポーターと化した桜子は手にマイクさえ持ってはいなかったが、つくしの倍の言葉を喋りまくる。そしてつくしの身に起こった疑惑を解明しようと躍起になっていた。

「それでどうなんですか?私の知らないところで何かあったんですか?もしかしてこの前ここに来られた時、部屋で何かあったんですか?」

「あのね桜子。これはデートじゃなくて仕事なの。大体どうして道明寺副社長と私が恋に落ちなきゃならないのよ?それにそんなこと絶対ないわよ。だってあの人は会社経営者で私は研究者よ?」

どう考えても道明寺副社長がつくしをデートに誘うなど絶対にないはずだ。
エレベーターが止ったことを訴えた時、冷酷な態度でつくしの話を訊こうとはしなかった人だ。だが多額の寄付をしてくれたことは感謝している。そしてつくしにブレーンになれと言ったその行動は会社の為だと思えるが、知的で自信家で華やかな場所にいる男性が地味な研究に時間を費やす大学准教授に興味を持つとは思えなかった。

「牧野先輩。人生に絶対はありません。人生は不確定要素が沢山あります。一寸先は闇という言葉がありますが、逆を言えば一つ間違えば……いえ。間違いじゃありません。見初められて玉の輿に乗ることもあります。それに恋に理由が必要ですか?恋はまさに突然雷に打たれたように身体中に電気が走ることもあります。一目惚れって言葉があるくらいですから、二人が出会った瞬間運命の歯車が回り始めたとか。つまり先輩の身に起きているのは、そういう事じゃないですか?」

いやそれは絶対にない。玉の輿に乗るとか、雷に打たれたとか電気が走るとかそういったことは一切ない。それにこれはビジネスのひとつでありデートなどではないとはっきりと言える。

「桜子よく訊いて。この話は社長から副社長の秘書に副社長の同伴者を私にって連絡があったの。社長は副社長のお母様で我が子を同伴者の出席が必要なパーティーに出席させるために私にその役目を果たして欲しいって言ってきたらしの」

つくしは西田から言われた話をそのまま桜子に言ったが、依然として芸能レポーターと化した桜子は冷静に論理的に言葉を返してきた。

「でもどうして先輩に?社長は先輩が副社長のブレーンになったことを知ってるってことですか?社長の道明寺楓と言えば鉄の女として有名です。社内のことは勿論ですが息子である副社長のこともご存知なんでしょうけど、どうして先輩にそんな役目を頼むことにしたんでしょうね?」

言われてみれば何故なのか秘書に訊く事はなかった。

「でもとにかく先輩は道明寺副社長とパーティーに出るってことですよね?あの道明寺司とですよ。それが束の間の夢だとしても私は先輩が男性とパーティーに出てくれることが嬉しいです。学問ばかりじゃなくて別の世界を見ることも人生には必要ですから。それにもしこれが一生に一度のことだとしても、一般的な男性じゃなくて一流と呼ばれる男性とパーティーに行けるなんて凄いことですから」

初めは勢いのあった桜子の言葉も徐々にトーンが下がってきていたが、つくしは桜子のその態度の裏にある気持ちに気付いていた。
気が強そうに見えるが優しい心の持ち主は、つくしが男性を付き合おうとしないことを気がかりにしている。だがそれはつくしの問題であり桜子の問題ではない。だからいい加減気に止めなくていいと言いたかった。だが三条桜子という女性はつくしが恋をして結婚しない限り自分もひとりでいると決めているかのようにつくしの事を気にかけていた。








***








西田が執務室で社長からの言葉を伝えたとき、司は書類に目を通していたが片眉を上げ秘書を見た。

「高森隆三の誕生パーティーに出席しろって?」

「はい。高森開発の持つ土地のひとつに社長は目をつけていらっしゃいます。古くからの商店が密集している場所ですが、全ての店が立ち退きに同意をしており、いずれ更地になります。高森開発の前身である高森不動産は、その土地で昔から商売をしていたこともありますが、多くの物件も所有しておりましたので立ち退かせることは簡単だったはずです。高森はその土地を貸し、そこに商業施設を建設して利益を得ることになるはずです。
しかし社長は、その土地を手に入れ我社で再開発をすることを望んでおられます。何しろ駅前の一等地でありながら、かなりの広さがあります。それにそういった土地が出回ることは滅多にありませんので」

交通の要衝として重要な役割を担っている駅前の再開発は、行政の認可が降りなければ頓挫する。だが楓なら問題なくやり遂げるはずだ。
そして欲しいという土地を手に入れるため、日本にいる副社長である司に尽力せよということだ。

「それからそちらのパーティーですが同伴者が必要です。その同伴者は牧野先生にお願いいたしました」

「牧野ってあの牧野つくしか?」

「はい。副社長があの方をブレーンにされたことは社長もご存知です。それに女性をブレーンに迎えたことが大変興味深いとおっしゃっておられました」

司は西田をジロリと睨んだが、秘書が母親に喋ったことは分かっていた。
そして息子が結婚することを望む母親は、牧野つくしの存在を知ると何を勘違いしたのかパーティーに同伴しろと言って来た。そして秘書は言われた通りのことをした。
つまり母親は大学准教授の女と我が子の関係を推し進めようとしている。
だが司は牧野つくしとどうこうなるつもりはない。ただ、どんな女も裏があると思っている。
だからそれを確かめたいのだ。
それでも、母親がそこまでするなら目論見に嵌まることはないが、乗っかってみるのも悪くはないと思った。
それに一緒にいる時間が長ければ長いほど、相手の本性が見えてくるのだから、5千万という寄付金の大きさに困惑し、堅物を気取っていた女の本性は一体どんなものなのか。それをパーティーで見極めることが出来るのが楽しみだ。





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2018
11.29

理想の恋の見つけ方 31

「お願いですか?」

『はい。早速で申し訳ございません。ただ牧野先生の都合もあると思いますが、是非お願いしたいことがございます』

5千万円の振込が完了したということは、桜子が口にしたように、つくしが貸し出されることが可能になったということになるが、まさかもう?といった思いと共に、つい先ほどまで海洋生態学が専門の人間に、世界的ビジネスマンがそうそう訊きたいことなどないはずだと根拠のない自信のようなものを持っていたが、どうやらその思いは外れたようだ。
そしてグルグルと頭の中で回転するクエスチョンマークは何を言われるのかと答えを求めていてその思いを口にした。

「あの。お願いとはいったい何でしょうか?」

さっそく深海の環境について訊きたいというのだろうか。
だとすればどの資料を持参すればいいかと考え始めたが、5千メートルの深海までレジ袋のようなプラスチックごみが見受けられ、貴重な深海の生態系に悪影響を与えている状況を説明するのがいいのか。それとも深海の底に眠るニッケルやコバルト、レアアースといったハイテク製品に欠かせない金属鉱物資源を自動機械で掬い取り、不要な堆積物を海底に放棄する採掘活動が海の生物に及ぼす影響について述べればいいのか。頭の中に浮かんだのはその二つだったが、海底資源の開発をするなら後者の方を求められるはずだと思い、それなら資料としては、あれとあれをと思ったが電話の向こうから返された言葉は違った。

『はい。大変急で申し訳ございません。来週の週末ですが牧野先生はお忙しいでしょうか?』

「は?来週の週末ですか?」

『はい。来週の週末ですがご予定はございますか?』

「いえ。別に何もありませんが」

『では大変恐れ入りますが、来週末は副社長にお付き合いをいただいてよろしいでしょうか?』

「あの。お付き合いとは一体何でしょうか?」

秘書が電話をしてくるということは、ビジネス絡みということだと理解していた。だから環境についてのビジネスフォーラムに同行しろとでも言われるのかと思った。だが次に語られたのは思いもよらないことだった。

『実は来週末ですが、あるパーティーへご招待を頂いております。そちらのパーティーに副社長の同伴者として出席していただきたいのです。こういったことをお願いすることは今までございませんでしたが、今回は事情がありどうしても同伴者が必要となり、牧野先生にお願いすることに致しました』

淡々として語られる言葉は決定事項のように言われノーとは言わせない雰囲気を感じさせた。だが何故つくしが道明寺司の同伴者としてパーティーに参加しなければならないのか。
道明寺司と言えば女性に不自由はしないはずだ。それなのに何故大学准教授の自分が道明寺副社長の同伴者に選ばれるのか。全くの他人同士と言っていいほど相手のことを知らないのに、どうしてそんなことを頼んで来るのか。

「あの。申し訳ございませんが、お話の意味がよく分からないのですが」

『ええ。分かっております。何故牧野先生が副社長の同伴者として求められたかということですね?ご存知かと思いますが副社長は女性から大変人気がございます。ですが副社長ご本人はそれほど女性に興味を持たれておりません。時に熱心な女性が必要以上に近づいて来ることがあります。それでも副社長は大変クールな方でそういった女性は相手にいたしません。しかし諦めない方もいらっしゃいます。今回牧野先生にお願いしたいのは、そういった女性からの盾になっていただきたいということです。いえ決して何かして欲しいというのではございません。ただ傍にいていただけるだけでいいのです』

「は、はあ……」

『つまり副社長の周りに集まって来られる女性はパーティーで何らかのきっかけを掴みたいと考えている方が殆どです。ビジネス的に申し上げれば短期的な利益ではなく、長期的なスパンでの利益を求められている。つまり結婚を目的として近づいてこられるということです』

つくしは副社長の私生活には興味がない。
だが秘書が言っている意味は理解出来た。
それに道明寺司がお金持ちでカッコいいと言われる人間であることは理解していた。
そして女性にモテるということも知っている。だがやはり何故自分がそんな男性が女性から身を守るための盾にならなければならないのか。今までもそんな場面はあったはずだ。それなのに何故今回に限りそういった存在が必要になるのか。

「あの。西田さん。お話は分かりました。でも私じゃなくてもそういった女性は他にいらっしゃると思うのですが?」

『牧野先生。そう思われますか?ですが副社長に興味を持たない女性を探す方が難しいのが実情です。お願いした女性が勘違いされては困るのです。ですが失礼ですが牧野先生は副社長には興味がない。そう思えるのです。だからこそあなたにお願いしたいのです』

大企業のトップに仕える秘書というのは、恐ろしいほど簡単に人の気持を見透かすことが出来るのだろうか。秘書が仕える人物は驚くほど整った顔とスタイルの良さを持つ。そしてその財力は桁外れでビジネスに関する手腕も認めよう。けれどつくしは秘書が言うように道明寺副社長には興味がない。だから勘違いをすることはないと言える。
だがだからと言って副社長の同伴者をつくしに頼むのはどうかと思う。それにパーティーと言えば華やかなものであり、学会で行われる参加者の交流が目的のレセプションとは趣きが違うはずだ。

学会のレセプション。所謂懇親会は、それまでの研究の成果を語り合い、親睦を深めることが目的だが、道明寺副社長が出席するパーティーともなれば会話も学術的なことなど一切ない華やかなものであり、深く暗い海の底の話などしないはずだ。それにそんな華やかな場所へ出席をしたことがない人間には無理だ。しゃれた会話など出来はしない。

『牧野先生。何もそんなに深く考える必要はございません。先生は今まで学会でのレセプションには参加されたはずです。その延長線上にあるものだとお考えいただければ大丈夫です。どのようなパーティーも応用が効きます。周りの方とごく普通にお話下されば結構ですので何もご心配はいりません』

そう言われても無理だ。
それは道明寺副社長のブレーンになること以上に無理だ。

「あの西田さん。私には荷が重すぎます。それに私は副社長のブレーンになることは承知いたしましたが、パーティーのお供は_」

『牧野先生。分かっております。これはお願いであり強制ではございません。ただご配慮いただければ大変助かるという事です』

秘書は決して威圧的な物言いはしない。
相手の気持ちを逆なでするようなことは言わない。
そして絶妙な言葉遣いとニュアンスで5千万円の重みを感じさせる。
人は返報性の原理により困った時に助けてもらえば恩義を感じ相手にお返しをしようと考えるが、秘書はその心理を巧みに突いてくる。それは頼まれれば嫌とは言えないつくしの性格まで知っているように思えた。

「あの。本当に傍にいるだけでいいんでしょうか?私は洒落たお喋りは出来ませんがそれでもいいんですか?」

『ええ。問題ありません。そこにいて下さるだけで結構です』

「それでこの件は副社長からのご依頼ということで_」

『いえ。この件は副社長ではありません。社長からのご依頼です。今まで副社長は同伴者が必要となるパーティーに出席されることはありませんでした。ですが今回は是非出席していただかなければならないのです。そしていくらご子息であっても社長の命令は絶対です。仕事上どうしても必要なパーティーなのです。ですからどなたかに同伴者を務めていただかなければならないのです。そこで牧野先生にお願いすることに致しました』

と、いうことは、副社長はまだ知らないということなのか。
つくしはその思いを口にした。

「あのでは副社長はこのことをご存知ないということでしょうか?」

『はい。そうです。ですがこれは仕事です。業務命令です』

いや。そういった問題ではないはずだ。
5千万という大金を寄付してくれた人の頼みなら訊かない訳にはいかないが、これは本人からの依頼ではなく、社長からの業務命令で秘書が動いたということだが、副社長本人が知った時、何を言うのか考えていないはずがない。

『牧野先生。先生が何を考えていらっしゃるか十分伝わってまいります。ですが今回のことについて副社長は従うしかございません。ですから牧野先生に対して何か言われる。また何かあるといったご心配はございません。それではこの件はご了承いただけたということで宜しくお願いいたします』

秘書は礼儀正しく用件を伝えると電話を切った。
だからつくしも受話器を置くしかなかった。





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2018
11.28

理想の恋の見つけ方 30

「ところで司。パーティーでお前に声を掛けて来た品の無い人妻の夫は誰だ?」

真っ赤に塗られた唇と爪。そしてキツイ香水は鼻を突いた。

「高森開発の社長だ」

「高森か。頭が禿げた親父か?」

「ああ。新興企業だがここ10年の売上高はかなりのものだ。だが大手に比べりゃまだ小物のディベロッパーだ」

高森開発は業種としては不動産業で、不動産投資とリースを主な仕事としていた。
そして以前は高森不動産と言い中堅の不動産会社だったが名前を変え10年ほど前から急激に業績が伸びていた。だが10年前と言えば、アメリカの投資銀行が経営破綻したことがきっかけに世界的規模の金融危機が発生した年で、日本経済にも大きな影響があった頃だが、高森はその荒波を乗り越え大きくなっていたということになる。

「そうか。お前が言ってた派手な女は高森隆三の妻か。それなら俺も知ってるぜ。名前は….確か真理子….高森真理子だ。年はお前が言った通り俺らと変わんねぇな。派手な見た目だったそうだが確か女子大出の頭のいい女だぞ?けど大学時代から銀座でホステスのアルバイトをしていたらしい。そこで高森が見初めたそうだ。それから高森は大学を出た女を自分の秘書として会社に入れた。それからずっと愛人兼秘書として男の傍にいた女だ。つまりかれこれ10年は愛人をやってたことになる。だが4年くらい前か?長年連れ添った妻と離婚してその女を籍に入れたのは。それ以来溺愛しているそうだ」

と言ってあきらは一旦口を閉じ、グラスを口に運び喉を潤した。

「それからあの夫はちょっと変わった嗜好の持ち主だって噂がある。年を取った男が若い女を妻に迎えると満足させられない。だから女は他の男に走ることがあるが、どうやら高森はそれを容認しているようだ」

「フン。つまり夫公認の浮気をするって?」

その問いかけにあきらはニヤニヤしながら口を開いた。

「いや。公認どころか高森は妻の行為を観察するのが好きだってことだ。行為の最中の妻の姿に興奮するってやつだ。それにどうやらあの女も夫に見られることを望んでる。それから後で最中のことを夫に詳しく聞かせてやるらしい。だからあの女の相手をする男は見られてるってことだ。まあ相手をする男の中には観客がいることに興奮する奴がいてもおかしくない。そうなりゃ3人が満足することになるが、俺はそんな趣味はない。だからやっぱりその女、高森真理子は遠慮させてもらう。それにしてもまさか司に手を伸ばしてくるとはな。お前は人妻には興味がない。けど近づいて来たのは余程自分に自信があるってことか。まあお前の恐ろしさを知らねぇからそんなことが出来るんだろうが、身の程知らずってやつだな」

役に立たなくなった年老いた夫が若い妻を束縛せず自由にさせ、そこから自分も性的な満足を得ていたとしても、それは彼らの勝手で司には関係ない。必要以上に視界に入らなければ好きにすればいい。それに司は愛人という呼び名を妻という呼び名に変えただけの品の悪い女に興味はないのだからどうでもよかった。

「とにかくだ。別にお前が気を付けることはないが、高森真理子は10年も愛人をやってた女だ。だからかなりしたたかな女ってことだけは確かだ」

あきらはボーイにおかわりの合図をすると、ふたりの手元にあったグラスの中身はスコッチからバーボンへ変わり、その夜は飲み明かしたが共に酒の強さは昔と変わらなかった。







***







つくしは電話をかけたが出なかった人のことを考えていた。
それは相手が話しをしたくないから出なかったのではないかということ。
つくしは想像力が逞しい訳ではないが、考え始めると物事を悪い方へと傾ける傾向にある。
だから頭の中にあるのは、自分の話が面白くなかったことに相手はがっかりしたのではないかということ。
それに相手は自分からはつくしには電話をすることはないと言った。つまりそれは電話をかけるか、かけないかの選択の主導権がつくしにあるということ。だからもしつくしがこのまま電話をしなければ、始まったばかりのふたりの関係は終わるということになる。
いやだがふたりは会ったこともなければ会う予定もない。そして名前も知らないのだから関係など無いに等しい。だからこの関係を何と言えばいいのかと考えても、それに相応しい呼び方は思いつかなかった。


「….先輩?牧野先輩?もうっ!牧野先生お電話です!」

学生部屋の広いテーブルで学生たちがまとめたレポートに目を通そうとしていたつくしは、桜子の声に顔を上げた。

「え?何?」

「だから電話です。さっきから言ってるじゃないですか。電話です。そこで取りますか?それともご自分の部屋で取りますか?」

少し手を伸ばしたところにある電話機は緑色の保留のランプが点滅していて、つくしが受話器を取るのを待っていた。

「誰から?」

「道明寺副社長の秘書の方です。早く電話に出て下さい。それから5千万の振込ありがとうございましたと言って下さいね」

「うん。分かってる。それから電話だけど自分の部屋で取るから」

つくしは、そう答えて席を立ち自分の部屋へ向かった。
すぐ振込むと言われていた道明寺副社長からの個人的な寄付である5千万は、本当にすぐ振込まれていた。そのことにつくしが驚いたとしても、道明寺副社長にとって5千万は大した金額ではない。お金持ちの世界は庶民とは財布の大きさが違うのだとつくづく感じていた。そしてついさっきまで考えていた電話の男性のことを頭から振り払い受話器を取った。

「お待たせいたしました。牧野です。あの西田さん。早速お振込みをいただきありがとうございました。まだ直接副社長にはお礼を申し上げていませんが、本当にありがとうございますとお伝え下さい」

何故か寄付には付帯条項が付くことになったが、本当にありがたかった。だから心からお礼を言った。それにつくしは道明寺副社長のブレーンになることを引き受けたものの、自分がそれほど意見を求められるとは思っていない。よくよく考えてみれば海洋生態学が専門分野で、その中でも深海ザメを研究対象にしている女に求める分野は多くないはずだから。

『もちろんお伝えいたします。牧野先生が大変感謝しておられたと。それから牧野先生早速ですがお願いがございます』





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2018
11.26

金持ちの御曹司~多幸感~<後編>

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2018
11.25

金持ちの御曹司~多幸感~<前編> 

大人向けのお話です。
未成年者の方、またはそのようなお話が苦手な方はお控え下さい。
*******************************









冬が来た。
そして冬の装いの中で欠かせないのはコートだが黒い上質のカシミアのロングコートは羽織るだけで大人の雰囲気を醸し出す。
だが彼はとっくに大人で嘘みたいにカッコよくてずるい声を持つ男。
その声は低音の魅力を余すことなく感じさせるバリトンだが、引力が強すぎて訊いた人間は足元がふらつくと言われていた。
そして男は唯一無二の存在。全てに於いてスペシャルなひとりと言われるいい男。
そんな男の元を訪ねて来たのはかつて男の婚約者だった滋。だが今はすっかり男の親友であり、そして男の恋人の親友でもあった。そんな女が開口一番放った言葉に司は動揺した。



「ねえ司。つくし何か悩みでもあるんじゃない?」

「……なんだよそれ?あいつ何か悩みがあるのか?何か悩んでんのか?」

「だからそれをあたしが訊いてるの。あの子最近食欲ないみたいだし、もしかして司と喧嘩でもしたのかと思って。もしそうならどうせ司が何かやったに決まってる。だから早く謝んなさいって言いに来た」

「あほか。俺と牧野の関係で喧嘩するはずねぇだろ?」

滋は司を責めたが彼には心当たりはなかった。
それに司には恋人が何か悩んでいるようには思えなかった。

「それにお前にだから言うが俺は牧野を心の底から愛してる。あいつの幸せが俺の幸せだっていうのにそんな俺があいつを傷つけるようなことをすると思うか?」

「そうよね…..あんたはつくしにゾッコンだもんね。だからたとえ喧嘩になったとしても、謝るのは司の方でその謝り方は尋常じゃないことは誰もが知ってる訳だし、それに喧嘩になるとしたら、あんたのしつこさに怒るくらいよね?いい加減寝させてくれってさ!」

と言って滋は笑ったが司にしてみれば恋人が何か悩んでいるとすれば、それは一大事だった。だから何をおいてもその悩みを解決してやりたいと思うのが当然だ。だが恋人はそういったことは彼に心配をかけると思い口に出すことはない。そして気付いた時には既に問題は解決していることが殆どで、どうして相談してくれなかったんだと言っても、もう済んだことだしいいじゃないと言って笑っていた。


だが気になる。
滋の口から愛しい人が悩んでいると訊けば気にならないはずはない。
だから悩みがあるなら打ち明けて欲しい。
だが面と向かって言ったところで話す女じゃない。
何しろ人に心配をかけること。迷惑をかけることを良しとしない女は自己解決型人間なのだから。だがかつて悩みを抱えた女は彼の前から姿を消したことがあった。
それはどこかの漁村の浜辺でトウモロコシを売るという行為に走ることになったが、今はもう冬で誰もいない海だ。誰かの歌じゃないがそんな場所でトウモロコシを売っても人は知らん顔してゆき過ぎていくはずだ。
いや。今のあいつは何か悩みがあるからといって昔みたいに逃げ出す女じゃない。
牧野つくしはそんな女じゃない。
だがその分余計心配だった。心に悩みを抱えた女というのは、たとえその様子を表に出さないとしても、知ってしまった以上見ていて辛いものがある。
彼女の悩みは司の悩みであり、彼女の悲しみは司の悲しみであり、彼女の前に不幸の種が蒔かれることがあってはならないからだ。と、なるとその悩みを訊き出すために何をすればいいかということになるがそれが問題だった。

「でもさぁ。つくしが占い師の所に行ったってのがねぇ。あの子は常に現実と対峙して生きて来た子だから占いを信じるような子じゃないでしょ。でも桜子が見たって言うの。それもよく当たるって有名な銀座の父の所らしいわ。銀座の父と言えば百発百中って言われるくらいよく当たる手相の占い師なの。でね、父って呼ばれてるけど若い人なの。となると女性に人気があるわけよ。ま、それは別として占い師の所に行くなんて、つくしはかなり真剣に悩んでるってことでしょ?それも親友のあたしにさえ言えないような悩みがあるってことよね?だからもしかして司と別れたいって思ってるとかね….そうなると当然あんたの親友でもあるあたしに相談できなくて占い師に相談したんじゃないかってそんなことを考えたわけよ。でもあんたたちが喧嘩もしてない。司の前では普通なら悩みは司のことじゃないってことよね?つくしが司と別れたいって思ってるってことじゃないってことよね?あたしはそのことを確かめたかったの。だってあんたたちが別れちゃったらあたしは辛いじゃない?あたしはふたりの親友なんだから」


滋は最後にあんたたちが別れるとかじゃなくて良かった。安心したと言って帰ったが司は少しも安心出来なかった。
だがかつてそんなことがあった。
過去にもそんなことがあった。
牧野が俺と別れたがっていると思ったことが。
しかしあれは誤解だった。勘違いしていた。
そうだ二度あることは三度あるじゃないが、これもきっとそういうことだ。
あいつが俺と別れたがってそれを占い師に相談に行ったなんてことは間違いだ。
三条桜子が見た牧野つくしというのは他人の空似で牧野つくしではない。
それに司は二日前に恋人と一緒に過ごしたが悩んでいる素振りなど全く感じられなかった。

だが滋の言葉の中に気になることがあった。
それは手相占いという言葉。
その占い師は銀座の父と言う男ということ。
そして若いということ。
つまりその占い師を訪ねたのが本当にあいつなら、その若い男が牧野つくしの手を握ったという事実が司の前にあった。

牧野の手を他の男が握った。
あの白く柔らかく可愛らしい手を自分以外の男が触れた。
そしてあいつも自分の手を他の若い男に握らせた。
今まで司以外の男の手に預けられたことがない手を他の男が触れることを許した。
そのことを想像すると心の中には激しい怒りの感情が沸き起こった。





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2018
11.24

理想の恋の見つけ方 29

店の前で車を降り、黒い大きな扉を通って中に入った。
広い玄関ホールは司が高校生の頃から変わっておらず、壁に巡らされたマホガニーは長い年月を経て色合いが深くなったように感じられ重厚さを増していた。
そして薄暗い店内もあの当時よりも色を深めた壁がそこにあった。

禁煙が叫ばれる昨今だが、バーは禁煙ではないことから、あきらは革張りのソファに腰を降ろし煙草に火を点け吸い込むと大きく息を吐いた。

「ゆっくり煙草が吸えるのはここだけだな。うちの会社も今じゃすっかり禁煙ビルになっちまって社内で吸えるのはガラスに囲まれた喫煙スペースだけだ。昔は部長連中もデスクでプカプカやってたのが嘘みてぇな話だ。けどまあ俺の部屋だけはなんとか吸えるが秘書はいい顔をしねえ。専務身体に悪いですから止めて下さい。せめて本数を減らすことを考えて下さいと煩せぇんだわ。まあ俺も本数を減らすことはマジで考えているけど、つい手が伸びちまう。つまり煙草を止めるってのは相当な根性が必要なことだけは確かだ。けど好きな女に止めてくれって言われたら止めれるかもしんねぇけど、そんな女は現れそうにない。もしかすると禁煙には一生縁がないかもしれねぇな」

あきらはそう言って美味そうに煙草を吸っていたが、司はSPから車内にお忘れでしたと携帯電話を渡された。それはタキシードのタイを緩めるとき、手から離れたものをそのまま置き忘れていたということだが、着信があることに気付いた。その番号は牧野つくしの携帯電話の番号。週に一度電話で話さないかといった相手は今夜も10時に電話をかけていた。

「なんだ?電話か?何かあったのか?」

「ああ。着信があった」

「そうか。かけ直さなくてもいいのか?」

「ああ。今はいい」

「仕事の電話なら遠慮するな。お前のところは何かと忙しいはずだ。俺に構わずかけてくれ」

「いや。仕事の電話じゃねえ」

そう答えた司は、あきらなら自分の行動をどう捉えるかという事を考えた。
それは単なる興味から始まった行動だが、司が自分の正体を秘密にして女と電話で話をしているということをどう思うかだ。

司には3人の幼馴染みがいるが、彼らも司と同じ金持ちの家に生まれた御曹司でそれぞれが個性豊かだ。そして4人は家庭環境が似ていたこともあり、いつも一緒にいた。
やがて成長した彼らはF4と呼ばれる学園の支配者となり自由気ままな学生生活を送ったが、あきらはその中でも常識的な部分を担っていた男だった。そして大人になった4人の信頼関係は今でも絶対だが、その中でもあきらになら牧野つくしの話をしてもいいと思った。
だが何故話そうと思ったのか。単なる話題のひとつとしてなのか。それともまた別のものなのか。そう思いながら司は口を開いた。

「お前覚えてるか?何時だったかお前と一緒にいた時、間違い電話がかかってきたのを」

あきらは少し考えていたが、
「ああ覚えてる。俺とお前が同じパーティーに出た日の帰りだ。確か中華料理屋と間違えて料理を注文してきた。そんな電話じゃなかったか?」
そう言ってボーイが運んできたグラスを口に運んだ。

「実はな。その電話だが今面白いことになってる」

そう言って司はあきらに事の経緯を話はじめた。













「なるほど。お前は相手の女のことを知っているが、女は電話の相手がお前だとは知らない。女に対して優位な立場にいるのはお前で、その女はたまたま財団の研究助成事業に応募して来た准教授で、助成対象からは漏れたが、お前が個人的に援助をする条件を付けて近くに置くことにした。その状況で電話と現実とで女の態度がどう変わるか観察することにした。声だけの男にどういった感情を抱くようになるのか興味を抱いたってことか。何しろ片方は身分も何も明かさない謎の男。電話なら何とでも言えるが犯罪者かもしれねぇし、変態かもしれねぇ。だがもう片方は大金持ちの男。女が受ける印象は違うはずだが、准教授の女は接する相手の身分で態度を変えるか知りたいってことか。女に二面性があるかどうか。それを知りたいってことだな」

あきらは司の話を面白いと思いながら、その考えは自分にもあると感じていた。
自分の周りにある全てを取っ払い世間的な評価や金。社会に於ける序列など関係なしに自分を見てくれる女がいるかということは、彼にとっても知りたいことだ。
だがそんな女には今まで出会ったことがなかった。だからあきらは後腐れのない人妻を相手にしていた。

「それにしてもお前が女に興味を持つってのは珍しいことだが、お前のその興味は好奇心ってことになるが、好奇心は自発的なもので周りから押し付けられるものじゃない。お前のその女に対する感情ってのは、お前が気付いていないだけで好奇心や興味以上のものがあるようにも思えるが違うか?つまり俺が言いたいのは、それは恋愛感情じゃねぇかってことだが俺もお前も恋愛という観念はない男だ。それは総二郎にも類にも言える。何しろ俺らは恋愛感情の有無に関係なくいつかは結婚することになる。だから俺たちは恋をしてこなかった。それに精神的な愛は俺らには必要ない。何しろ俺らの周りにいる女どもは愛や恋よりも金や名声や地位に価値を置いている女ばかりだからな。まあ端からそんな女が愛を与えてくれるはずもねえよな」

愛だの恋だのそんなものは幻想であり現実的ではない。
男も女も結婚するのは気の迷いであり結婚は契約のひとつでありビジネスの延長のようなものだとあきらも司も考えていた。
そしてあきらのその言葉はあきら自身に向けられた皮肉な思いだが、それは司に対しての皮肉でもあった。
だが司はその時牧野つくしの顔を思い浮かべていた。
女の顔の好みなど司には無かったが、思い浮かんだ顔が美人かと問われれば、そうではないことは明らかで、印象的な大きな黒い瞳を除けばどこにでもある平凡な顔だ。
そしてふと思ったのは、その顔が笑えばどうなるのかということ。
知的さを感じさせる顔が司に向かって笑えばどんな顔になるのか。

「司。お前が今何を考えているのか知らねぇが、お前が興味を抱いたその准教授。最初の間違い電話がなければ、お前もここまでしようとは思わなかった訳だろ?それならお前とその女は運命的な出会いをしたってことも考えられる。もしかするとその女がお前の運命の女かもしれねぇな」





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2018
11.23

理想の恋の見つけ方 28

『よう。今何してる?』

「今か?退屈なパーティーに出てるところだ。いや、退屈なパーティーに出てたところだ」

司は電話がかかって来たのを機にパーティー会場のホテルの大広間から廊下へ出ると駐車場に向かって歩き始めていた。

『そうか。その言い方だとパーティーからは抜け出したようだが、お前またパーティーか?それもお袋さんから出ろと言われたのか?』

「いや。違うそうじゃねえ。今夜はビジネス絡みだ」

『そうか。それでそのパーティーにはいい女がいたか?』

「いや。だがお前の好みかどうか分かんねえが人妻は大勢いた。唇も爪も真っ赤で猫みてえに喉を鳴らす女がいたが興味があるなら来いよ。何なら紹介してやってもいいぜ」

司は話ながら丁度目の前で開いた無人のエレベーターに乗り込むと地下3階のボタンを押し、階数を表示するパネルが点滅を繰り返す様子を見ていたが、ついさっきまで傍にいた女が付けていた香水の匂いが鼻に残っていた。

金持ちの夫がいながらそれに満足しない女達。
そして金持ちの夫を探すことが目的の女達。
ビジネス絡みのパーティーだろうが、女達にそんなことは関係ない。女達は利用できるチャンスは最大限利用して司に近づこうとする。だから司はパーティーが嫌いだ。そしてつい先日のパーティーに至っては母親が仕組んだと思える大勢の女が周りにいた。結婚する気がないという息子に業を煮やした母親の策略は分かりやすいものだったが、それでも必要以上に女が傍にいるとイライラした。


『いや。遠慮しとくわ。唇も爪も真っ赤な女は品がない。私は発情してますって言ってるようなもんだろ?つまりその手の女はヤルことしか頭にない。それに夫がいてその状態なら欲求不満も甚だしくてアバンチュールどころじゃねぇな。俺は女と付き合うなら嘘でもいいから恋を楽しみたい。それがかりそめの恋だとしてもだ。だから自分の欲求を発散させるだけが目的の女は遠慮させてもらう』

「フン。よく言うぜ。あきら、俺はお前が恋をしてるところを見たことがねえぞ。それからその女は俺らと年は変わんねえけど夫は軽く二回りは上だ。つまりそっちは役立たずの可能性もあるってことだ」

自分の親と言ってもおかしくはない年上の男と結婚すれば、そうなることは十分想定できる。年配の夫が激しく息を切らしながらコトに及んだとしても、若い妻を満足させることは出来ず欲求不満の妻は男を漁る。そんなことが常識として蔓延しているといっても過言ではないのが金持ちの世界でもある。だからそんな世界で不倫が横行しているのは当たり前だと言えばあたり前で、どこかの奥方とどこかの会社の若い部長がホテルの部屋から出て来たという話は珍しくない。そしてその逆もまた然りで有名な一部上場企業の会長が若い女とモナコのカジノにいたという話もあった。
とにかく司の世界での女は、したたかで計算高い女ばかりがいた。

『なるほど。発情した猫の夫は役立たずで妻は熱い身体を持て余してるってことか。それでその女は身の程知らずにもお前にコナかけて来たって?どうせその女の夫ってのは成り上がりのオヤジで女も銀座上がりの女だろうが教育が出来てねぇな。金がものを言う世界でもそれなりに常識があるってことを知らねぇのか。それとも余程自分に自信があるってことか。そうなるとそんな女は益々始末に負えねぇな。さすがの俺もそんな女と関わりになることだけは避けたいもんだ』

「よく言うぜ。そんなんじゃマダムキラーの名前が泣くんじゃねえの?」

その言葉はあきらに向かってよく言われる台詞だが、言われる本人はそれをどう思っているのか。だが言われて悪い気がしないことは返された言葉で分かる。

『ぬかせ。俺にだって基準ってもんがある。人妻なら誰でもいいって訳にはいかねぇんだよ。それに俺は女の心の足りない部分を埋めてるつもりだ。だから身体の足りない部分を埋めてるだけじゃねぇんだよ。寂しい人妻の心と身体の両方を満足させるのが俺のスタイルだ』

あきらはそう言って笑ったが、確かにあきらには彼なりの基準があった。
それは互いに束縛し合わない。楽しい遊び相手として過ごせる女。どちらかが飽きれば速やかに別れることが出来る女であること。そんな彼の基準に合わない女は後々面倒なことに巻き込まれかねないから手を出さなかった。それに間違っても夫と別れるから結婚して欲しいという女と付き合おうとは思わなかった。そして仮にそんな気配を感じれば速やかに別れていた。
つまり女から自分の身を守ることについては長けていて、その点については司も同様で女たちがどうにかして司と結婚しようと罠を仕掛ける前に別れていた。

「それであきら。電話をかけて来たってことは何か用があるからじゃねえのか?」

『いや、特にねぇんだが暇なら飲まねぇかって誘おうと思っただけだが、お前どうする?』

「いいぜ。パーティーで出されたのは安物のシャンパンだ。口直しに飲みたいと思ってたところだ。それでどこだ?どこに行けばいい?」

『六本木のいつもの店だ』

あきらが口にした店とは会員制のバーだが、会員になる条件が厳しいことで有名であり、尚且つ会員になるためには3人以上の既存会員の紹介が必要だったが、司やあきらは高校生の頃からそのバーに出入りしていた。

「ああ分かった。これから向かう」

エレベーターが地下3階の駐車場に到着し扉が開いたとき、そこにはSPから連絡を受けた運転手が車を回しドアを開け待っていて司は後部座席に乗り込んだ。











つくしは午後10時に電話をかけたがスマホから聞こえるのは呼び出し音だけで4度目の電話に相手が出ることは無かった。
もしかするとトイレに行っているのかもしれない。それともお風呂に入っているのかもしれない。午後10時なら相手も都合がいいはずだと勝手に決めて電話をかけていたが、それはつくしの都合であり、相手にとっては都合の悪い時間なのかもしれない。
だがこうも考えた。
それはつくしからの電話に出たくないと電話に出ないことだ。

つくしはかけたくてかけ始めた電話だったが、話をしようと言った相手は、それほど心待ちにしているという程のものではないのかもしれない。見知らぬ他人同士が他愛もない会話をしないかと言われただけのこと。だから相手にすればただ暇潰しの相手を求めたに過ぎない。だがその相手の会話はつまらないと思ったのかもしれない。求めていたような相手ではなかったのかもしれない。だからわざと電話に出ないのではないか。
そんな思いが頭を過ると10回目の呼び出し音で電話を切っていた。





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2018
11.22

理想の恋の見つけ方 27

依然としてまだ慣れない携帯電話だったが、リダイヤルの機能だけはしっかりと覚えた。
それは週に1度話をしようと言われた男性に電話をかけるためだが、つくしにとって世間で言う便利な小道具も画面を操作して何かをすると言えば、電話をかけることと、メールをやり取りする以外使うことは殆どなかった。

それにマニュアルを読んで操作を覚えることが億劫だと感じていて、それに対し桜子は、
「そんなことじゃ時代から取り残されますよ」と言うが確かにそれは感じていた。
だから取り残されないように努力はしているが、携帯電話依存症になるよりマシだ。
何しろ最近の大学生はスマホ片手に講義を受ける者もいて、マナーモードにしていないことから、突然何かのメロディがけたたましく鳴り出すこともあった。
だから電源を切って欲しいのが本音だが、学生にそこまで強くは言えず、常識的に考えてせめて音が鳴らないようにしてから講義を受けて欲しいと願う。

そしてこれから電話をかけようとする人は、紳士的な態度で接してくれる。
その人のことは年齢以外何も知らないが悪い人には思えず、会話から思慮深い人間だと思っているが、もしかすると凶悪な逃亡中の殺人犯の可能性もあるが、まさかそんな人間が1週間に一度電話で話をしようなど言うはずがない。だから考えを飛躍させ過ぎるのもどうかと思うも、頭の片隅には、あまり自分のことを詳しく話すのもいかがなものかともいう思いもあった。

だがつくしは自分の仕事が教育関係だと話した。
それは貰えなかった助成金とは別に援助が受けられることが嬉しくてつい話してしまったが、教育関係と言えば職業は限られてくることから、おおよその見当は付けられているかもしれないと思うも、これ以上そのことに触れないでおこうと思っていた。

しかし電話の向こうにいる男性の言葉は的確で、自分の考えや意見を述べていた。それは分析的思考に優れた人間の言葉に思え、想像していた仕事は在宅でも可能だと言われるIT関連だと思ったが、ふと頭を過ったのは、その人も自分と同じ職業ではないかということだ。

そうだ。もしかすると電話の男性は学者ではないか。身体が弱くあまり出歩かないと言ったが、元気な頃はよく海に出掛けていたといった発言があった。だからずっと健康を害していた訳ではないということだ。多分今は療養中といったところで、家で仕事をしている。
自分の研究をまとめているといったところではないだろうか。

それにその人の喋り方には品格があり、知性を隠していると感じられたからだ。
そして新しい人間関係を築くチャンスがないと言ったが、それはつくしも同じだ。大学というところは、学問を学ぶ場所ではあり門は広く開けられてはいるが、人間関係は狭いと言ってもいいからだ。

そう思うと急にふたりには共通点があるように思え親近感が湧いた。だが匿名でのやり取りを望む相手に必要以上に自分の個人的な情報を与えないようにしなければいけない。
何しろつくしが知りたいと望んだ年齢を教え合った一点を除き、男性がそれ以上相手のことを知りたいと望まないなら決して押し付けることをしてはいけないと思った。

だがつくしが、その人に電話をかけようとするのは、その人の事が気になっているからだ。
そうでなければ、義務ではないのだから電話をかけることはないはずだ。
それに自分から電話をするのは、うっかりかけてしまった真夜中の電話を入れて三度あるが、はじめは話し相手になって欲しいと頼まれた電話で、それに対し自分から話をしてみたいと言ったとは言え止めようと思えば止めることは出来た。
けれど、二度三度と電話をかけたのは、その人と話すことを自分が望んでいるからだ。だが話すことは自分のことばかりで一方的な電話だとも言えるが、訊いて貰えることに心地よさを感じていた。そして自分のことを理解してくれているように感じた。

だがもし電話の男性がつくしと同じような環境にいるなら、結局相も変わらず象牙の塔と呼ばれる狭い場所にいて、外の世界を知らないということになる。
桜子に言われた深海の岩場に棲み、大海を知らないシーラカンスということになる。
そして全く見ず知らずの人間と電話で話すだけの関係を持っていることを知れば、それはそれで何をやってるんですか。危険ですと言われることも分かっていた。
それでもその人と話をしたいと思うのが正直な気持ちだ。
だからつくしは画面に現れたその人の番号に手を触れた。








***








司は人だらけのパーティーにいた。
会場にはドレスを着た大勢の女がいて遠巻きに彼を見ていたが、司はそちらへ目を向けることはなかった。
代わりに彼の傍にいたのは、頭の禿げた男とその妻である派手な女。
その女が男より二回り以上若いのは誰が見てもすぐに分かる。確か年は司とさして変わらないはずだが、それだけ年の離れた男と結婚している女の目的が金以外にあるはずもなく、男も自己顕示欲を満たす手段としてそんな女をトロフィーワイフとして連れて歩く。
糟糠の妻を捨て若い女と結婚するというのは成り上がりの男にありがちであり、それが悪いとは言わないが、頭の禿げた男もそんな男のひとりだ。

そんな男の隣に立つ女の完璧に塗られた口紅は毒々しいほどの赤さで、その唇から司に向かって発せられるのは馴れ馴れしい言葉。決して触れはしないが、真っ赤に塗られた爪は司のタキシードの袖に触れたがっていた。

「ねえあなた。私たちはこうして道明寺様とお話が出来るけど、あちらのお嬢様方は近寄ることすら出来ないのね?可哀想ね。でも私たちは光栄ね?これもあなたのビジネスが大きくなったからね?」

知らぬは亭主ばかりなり、という言葉があるが、その女は年の離れた夫には満足していない欲求不満の人妻だ。あきらはその手の女を相手にするのが得意で時に危険なゲームをするが、果たしてこの女とはどうなのか。

だが今はそんな目の前の女のことよりも牧野つくしのことを考えていた。
会議を終えた後、秘書から牧野つくしの所属する研究室に五千万振込んだという報告を受けた。それは執務室に戻り書類に目を通している時だったが、その書類をデスクにポンと放り、袖付きの革の椅子に身体を預け、袖に肘をつき足首を膝に乗せた。その様子は秘書から見てもリラックスした姿であり、表情は手掛けていたビジネスが成功した時に見られる司らしい顔。
思い通りにならないことはないと言われる男のその姿には満足が現れていた。

だがこれはビジネスではない。
司はサメの研究に情熱を傾ける女が珍しいと感じ、周りにいなかったタイプの女の仕事ぶりが見てみたいということから寄付を決めた。
それに夜の電話のこともあった。夜の電話では相手が司であることは知らない女は、これから司のブレーンとして意見を求められることになるが、女には裏表があるのかないのか。
早速知ることになりそうだが、目の前の頭の禿げた男が飲み物を取りに行くと言い、その場を離れると女が話しかけてきた。

「ねえ道明寺様。今度主人のバースデーパーティーがありますの。よろしければ是非いらして下さらない?」

猫が喉を鳴らすようなかすれた声で、そう言いながら真っ赤な爪が司の腕に触れようとした。
だが司はその手を触れさせることはなかった。そして丁度その時ポケットの中の電話が鳴った。

「失礼。電話に出なければいけませんので」





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2018
11.20

理想の恋の見つけ方 26

「そう。分かったわ。西田、これからも何かあれば連絡してちょうだい」

楓は電話を切ると向かい側の席に座る人物に微笑んだ。

「これであの子とあなたの教え子は会う理由が出来たわ」

「そうか。牧野君は返事をしたか。彼女は真面目でいい子だよ。だからきっと君も気に入るはずだ」

「どうかしらね。でもあなたがそう言うならそうなんでしょう。とにかくわたくしは、あの子が結婚してくれることが望みなの。でもあの子はその気がない。普通の女性じゃ駄目なのよ」

母親というのは子供のことならお見通しとばかりに言うが、楓は積極的に子育てに携わった母親ではない。それはビジネスが忙しかったからといった理由で済まされていたが、遅れて来たしっぺ返しとでも言おうか。我が子が結婚する意志がないと気付いたのは、息子が30代になってからだ。

女性と付き合いはするが、結婚はしないと言う我が子。
それが自分の育児放棄ともいえる状況が招いた結果だとしても、道明寺という家を守るためには我が子が結婚して子孫を残す必要があった。
そしてなんとかして息子を結婚させようとしたが、一筋縄ではいかないと言われる楓の性格を受け継いだと言われる我が子は、お膳立てされることを嫌っていた。
現につい最近も自分の代わりに出席しろと命じたパーティーには、息子に相応しい女性が出席していたが見向きもしなかった。


「君ねぇ。そんなことを言うが君の周りにいるお嬢さんたちは普通の女性じゃないだろ?有名企業の経営者を父親に持つ娘さんや昔からの旧家の娘さんといった女性ばかりじゃないか。そんな女性を捕まえて普通だなんて僕の世界から言わせてもらえば彼の周りには特別な女性しかいないように思えるんだがね?」

「それはあなたがそう思うだけで、司の目から見ればそうではないの。何しろあの子は、司はそんな女性には見向きもしないんですもの。でもだからと言って女性に興味がない訳じゃないの。ただ難しいのよ」

楓の息子は女性と付き合うが決してその先を考えようとはしない。
こうなると一体何が問題なのかと思うも、30をとっくに過ぎた息子の結婚に対する価値観など知り様がなかった。

「男も女も30も半ばになれば恋愛をするのは難しいということかな?」

「わたくしは別に恋愛をしろと言ってるんじゃありません。ただ結婚して欲しいだけ。でも犬や猫じゃあるまいし無理矢理結婚させることは出来ないわ。だからあなたに頼んだのよ。副島肇さん。大学教授のあなたなら誰か紹介してくれるはずだと思ったのよ。あの司が興味を持つような女性をね」

楓はそう言って笑みを浮かべ食後のコーヒーを口に運んだ。







楓は華族の家柄で東京生まれの東京育ちだが、病弱だった幼い頃、療養のため空気の綺麗な相模湾に面した葉山の別荘で暮らしていた事があった。その時、近所に住んでいたのが今は大学教授となった副島肇だ。あの頃は肇くん、楓ちゃんと呼び合っていた二人は家の近くにある小さな神社の境内で出会った。
楓は一人でそこにいて、境内に植えられていたイチョウの木から落ちた銀杏を拾っていたが、そこに現れたのが学校帰りの肇だった。
どんな話をしたのか。何がきっかけだったのか。今となっては記憶は曖昧だが、肇は銀杏を拾う楓の傍に来て一緒に拾いはじめた。それから毎日同じ時間にふたりは神社の境内で遊ぶようになった。

「それにしてもあなたがサメを研究する大学教授になっているとは思わなかったわ。だってあなたのお父様はお医者様だったんですもの」

副島肇の父親は葉山町で開業していた内科医で、楓も何度か診察してもらったことがあった。二人はそんな幼馴染みの間柄だが、楓が東京に戻り二人の間に距離が出来ると付き合いは無くなった。だがこうして再び顔を合わせることになったのは、偶然としか言えないのだが、楓が目を通していた雑誌に副島肇の記事が載っていたことから連絡を取った。そして学会に出席するためニューヨークを訪れた副島と楓は食事をしていた。

「そうかな?僕はあの頃から海の生き物には興味があったよ。何しろ目の前は相模湾だ。潮風に当たりながら育ったんだから当然だと言えば当然だと思うな。それから今の僕の専門はサメだが初めはサメに興味はなかった。僕が興味を持ったのはエイだったんだよ。何しろ海岸には時々大きなエイが打ちあがっていて、その姿が面白くて興味を持ったんだよ。それにエイもサメも同じ板鰓類(ばんさいるい)で_」

副島はそこで笑いながら話を止めた。

「いや、すまない。ついサメやエイのことになると力が入ってしまう。今はそれよりもあの二人がどうなるかが我々には気になるところだ。何しろ牧野君は恋愛には疎い。だがもういい歳だ。だから僕としてはそんな彼女に相応しい男性を紹介したいところだが難しいんだよ。僕の秘書は彼女の友人なんだが彼女でさえ苦労しているようだ。別に男性が嫌いといった風には見えないが難しいようだ。もしかすると頭がいいことが問題なのかと思うが、司君のような男性ならそんなことも気にならないだろう。それに彼にとっても今まで周りにはいなかったタイプの女性のはずだ。だから二人は互いに興味を持つはずだと思うんだが」

教育者である副島は、自分の愛弟子である女性にそのチャンスが与えられたと思っていた。
牧野つくしはサメに対しては研究熱心だが、男という生き物についてはそうでもない。
何故そうなのかは分からなかったが、これがサメ以外の生き物に興味の対象を広げるチャンスだと考えていた。
そして幼馴染みの楓の息子である道明寺司も自分の周りにいないタイプの女性だから興味を持つ。
それは珍しいからという好奇心から来るものなのか。
だが学びたいという思いのはじまりは興味と好奇心から来る。だから人間の場合どちらか片方がそう思えば、相手にも伝わるはずだ。ただ、その思いが相手に伝わるまでが時間がかかるならその時間を与えてやればいいはずだ。

「そうね。今まで周りにいなかったタイプの人間に対してどう反応するか。あの子に財団の面接に出るように言ったのはその為ですもの。残念ながらあなたの教え子は財団の助成金を受けることは出来なかったけど、それでもあの子は牧野さんに興味を持って自ら援助しようと言うのだからいい傾向だわ」

「そう思いたいね。財団の理事長である君がわざと彼女を助成対象から外したのでなければね」





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2018
11.19

理想の恋の見つけ方 25

つくしは、桜子の言葉を借りれば、「寄付の件ですが、ありがとうございます。謹んでお受けします」と道明寺副社長に言わなければならなかった。
と同時にそれが意味するのは、やはり桜子の言葉を借りれば、道明寺副社長に貸し出されるということだが、相手は経済界のサメと呼ばれる重要人物。財力はもちろん多方面への影響力も半端ないと言われていて、教授の副島も経済界と繋がりが出来ることは研究室にとってありがたい話だと言った。

そして「返事をいつまでも待たせることは失礼です。早く電話して下さい」と桜子に言われ、つくしは手にした名刺に書いてある番号に電話をしたが、その番号は秘書課に繋がり副社長の秘書の男性が出た。


『わたくし先日お電話でお話をさせていただきました西田と申します。牧野先生。大変申し訳ございません。只今副社長は会議に出ておりますが、話は承っております』

と言われ、本人は電話に出ることは出来ないと言われた。
だが考えてみれば相手は忙しい立場の人間だ。だから直接話が出来ないとしても仕方がないのだが、思えばそれで良かったのかもしれない。

初めの出会いが悪かったのか。
だがそのことが後を引いている訳ではない。物事に神経質になるタイプではないのだが、道明寺副社長のことを考えると胸の中にはモヤモヤとしたものがあった。だが秘書に話は承っていると言われれば、秘書と話せという意味だろうから、寄付の件はありがたく頂戴いたしますと答え、副社長の依頼も引き受けることに決めたと伝えた。

それにブレーンとは言え、つくしの場合は深海の環境について問われたら答える程度のものであり、企業の経済活動に大きな影響を与えるとは考えてはおらず、ましてやそう度々意見を求められるとも思えず、自分の仕事に関係のない事に対し意見を求められることもない。それに研究には口出しはしない。好きにしていいと言ったのだから、助言をするだけなら問題ないと自分に言い聞かせた。
そして教授の副島からこういった経験が今後のキャリアになると言われれば、そうかもしれないと前向きに捉えた。


『そうですか。ありがとうございます。それでは早速ですが、振込先を教えていただいてもよろしいでしょうか?後ほどわたくしの方から牧野先生のパソコンのメールアドレスにメールを送らせていただきますので、そちらのアドレス宛に口座の情報をお書きいただきご返信下さればすぐにお振込をいたします』

5千万円の寄付は桜子から教えられた大学の研究室名義の口座に振り込まれることになったが、すぐ振込むという秘書は5千万円がまるで5千円のような口ぶりだった。

『それからこちらのお金については副社長の個人的なお気持ちであり、節税対策ではございませんのでそのような書類についてのお気遣いは無用です』

と言われ、税金対策として寄付をすることがあると知ってはいたが、いったい幾らの年収なのかと思うも、いやそれ以前に道明寺副社長が税金がどうのといった事は気にしていないように思えた。
だが5千万と言えば相当な金額であることは間違いないのだが、寄付に伴い受け取ることが出来る大学からの書類や感謝状や名誉も不要だというのだから、道明寺副社長の方が余程変わった人だ。
そして秘書の口ぶりからしても、道明寺副社長にとって5千万は5千円と同等だと改めて感じた。

そして5千万が振り込まれたと同時に、つくしは図書館の本のように貸し出しOKということになる訳だが、貸し出し期間は殆どないと思いたい。それにあったとしても、ごく短期間で返却してもらいたい。そして何故か思うのは、自分はサメの餌にされようとしているのではないかということだ。いや。そうではなく生贄にされるのではないか。
いや違う。何をどう言えばいいのか分からなかったが、何故かサメの興味の対象として見られているような気がしていた。
けれどそんな風にほのめかされたかと言えば、それはなかったはずだ。それなのに何故サメの興味が自分にあると思ってしまったのか。
やはり最初が悪かったのだろうか。何しろ何事も最初が肝心なのだから。
あの時の印象が__


『__牧野先生?』

「あ、はい。すみません、今なんとおっしゃいましたか?」

つくしは慌てて諸々の思いを振り払い返事をした。

『はい。よろしくお願いいたしますと申し上げました』

「え?はい。こちらこそよろしくお願いいたします。それからご寄付の件。道明寺副社長に本当にありがとうございましたとお伝えください」

『かしこまりました。牧野先生が感謝申し上げていたとお伝え致します』












西田は一旦電話を切ると、再び受話器を取った。

「西田です。___はい。牧野様は受け取ることにお決めになられました」





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